2 / 12
2話。おじさん、出奔する。
しおりを挟む
酒の勢いで金を錬成してみたら出来てしまった。
おじさん吃驚である。
異世界からの転生者としては錬金術と言えば賢者の石とか不老不死とか物質の生成の印象が強く金の錬成は頭から抜けていた。
錬金というのだからそれが本来の目的なはずなのだが、それは日本語でいえばの話か。
それ以外の言語では言葉としては金に由来するものではなかったはず。
と言っても三十数年以上前の記憶なので曖昧なのだが。
まあ、それはこの際どうでもいいか。
問題はこの世界の常識として卑金属から金の錬成が不可能であるとされていること。
その中で特に熱心に研究していない凡庸な錬金術師である私が金の錬成を成功させてしまったこと。
露見すればどうあがいても私の人生が良い方向には向かわない。
最悪監禁されて金を生み出す道具にされる。
人道的とかそういう話はどうせ通用しない。
ならば秘匿すればいいだけの話だがそうもいかない。
この世界の錬成はその痕跡が一定期間残り下手な術師はそれを消すことが出来ない。
正しく言うと誤魔化しても天才たちには見抜かれてしまう。
しかも天才たちは一度目にした錬成の術式を忘れない。
その場で何が行われたかを把握できなくとも後に解明してしまう。
そして天才たちは面白いものを隠すことが出来ない。
つまり平凡なおじさん錬金術師である私に秘匿することはできないということ。
研究所の実験室で錬成したのも不味い。
実験室は共有の場なので誰でも入ることが出来る。
天才たちは自前の実験室を持っており共有の場に出てくることは少ない。
けれどあれたちは独自の嗅覚を持っているので侮れない。
下手な錬金術師が行った違法研究を天才たちが発見したという話は珍しくない。
私の錬成が気付かれないと考えるのは流石に楽観視がすぎるだろう。
そんなわけで私は出奔することにした。
おじさん34歳にしての冒険である。
前世を含めれば半世紀以上生きて初めてのことである。
今ある仕事を放り出すのはどうかと思ったのだけれど仕方がない。
監禁されて金を生み出すだけの道具にされては叶わない。
それに万年平のおじさんの仕事など代用が効く。
最初のうちは困るかもしれないが私がいなくなって立ち行かなくなるなんてことはない。
大体の錬金術師はそこまで不出来ではない、はず。
最低限の礼節として退職届を記入して迷惑料として幾らかの金銭を残していく。
ついでに住居の引き払いの手続きも行い同様に。
夜中なので書類を作成して提出するという一方的な形になってしまうが仕方がない。
書類作成が終われば身辺整理。
自宅の荷物は家主には申し訳ないが処分してもらおう。
それなりの値で換金できる物もあるはずなので納得してくれるはず。
持ち出すのは当面の資金と旅の道具。
出奔なので身分証などは置いていく。
身支度を終えれば街の外へ。
さて、冒険の始まりだ。
おじさん吃驚である。
異世界からの転生者としては錬金術と言えば賢者の石とか不老不死とか物質の生成の印象が強く金の錬成は頭から抜けていた。
錬金というのだからそれが本来の目的なはずなのだが、それは日本語でいえばの話か。
それ以外の言語では言葉としては金に由来するものではなかったはず。
と言っても三十数年以上前の記憶なので曖昧なのだが。
まあ、それはこの際どうでもいいか。
問題はこの世界の常識として卑金属から金の錬成が不可能であるとされていること。
その中で特に熱心に研究していない凡庸な錬金術師である私が金の錬成を成功させてしまったこと。
露見すればどうあがいても私の人生が良い方向には向かわない。
最悪監禁されて金を生み出す道具にされる。
人道的とかそういう話はどうせ通用しない。
ならば秘匿すればいいだけの話だがそうもいかない。
この世界の錬成はその痕跡が一定期間残り下手な術師はそれを消すことが出来ない。
正しく言うと誤魔化しても天才たちには見抜かれてしまう。
しかも天才たちは一度目にした錬成の術式を忘れない。
その場で何が行われたかを把握できなくとも後に解明してしまう。
そして天才たちは面白いものを隠すことが出来ない。
つまり平凡なおじさん錬金術師である私に秘匿することはできないということ。
研究所の実験室で錬成したのも不味い。
実験室は共有の場なので誰でも入ることが出来る。
天才たちは自前の実験室を持っており共有の場に出てくることは少ない。
けれどあれたちは独自の嗅覚を持っているので侮れない。
下手な錬金術師が行った違法研究を天才たちが発見したという話は珍しくない。
私の錬成が気付かれないと考えるのは流石に楽観視がすぎるだろう。
そんなわけで私は出奔することにした。
おじさん34歳にしての冒険である。
前世を含めれば半世紀以上生きて初めてのことである。
今ある仕事を放り出すのはどうかと思ったのだけれど仕方がない。
監禁されて金を生み出すだけの道具にされては叶わない。
それに万年平のおじさんの仕事など代用が効く。
最初のうちは困るかもしれないが私がいなくなって立ち行かなくなるなんてことはない。
大体の錬金術師はそこまで不出来ではない、はず。
最低限の礼節として退職届を記入して迷惑料として幾らかの金銭を残していく。
ついでに住居の引き払いの手続きも行い同様に。
夜中なので書類を作成して提出するという一方的な形になってしまうが仕方がない。
書類作成が終われば身辺整理。
自宅の荷物は家主には申し訳ないが処分してもらおう。
それなりの値で換金できる物もあるはずなので納得してくれるはず。
持ち出すのは当面の資金と旅の道具。
出奔なので身分証などは置いていく。
身支度を終えれば街の外へ。
さて、冒険の始まりだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる