おじさん錬金術師、金を錬成する。出奔する。

双葉珠洲

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2話。おじさん、出奔する。

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 酒の勢いで金を錬成してみたら出来てしまった。

 おじさん吃驚である。


 異世界からの転生者としては錬金術と言えば賢者の石とか不老不死とか物質の生成の印象が強く金の錬成は頭から抜けていた。
 錬金というのだからそれが本来の目的なはずなのだが、それは日本語でいえばの話か。
 それ以外の言語では言葉としては金に由来するものではなかったはず。
 と言っても三十数年以上前の記憶なので曖昧なのだが。
 まあ、それはこの際どうでもいいか。

 問題はこの世界の常識として卑金属から金の錬成が不可能であるとされていること。
 その中で特に熱心に研究していない凡庸な錬金術師である私が金の錬成を成功させてしまったこと。
 露見すればどうあがいても私の人生が良い方向には向かわない。
 最悪監禁されて金を生み出す道具にされる。
 人道的とかそういう話はどうせ通用しない。

 ならば秘匿すればいいだけの話だがそうもいかない。
 この世界の錬成はその痕跡が一定期間残り下手な術師はそれを消すことが出来ない。
 正しく言うと誤魔化しても天才たちには見抜かれてしまう。
 しかも天才たちは一度目にした錬成の術式を忘れない。
 その場で何が行われたかを把握できなくとも後に解明してしまう。
 そして天才たちは面白いものを隠すことが出来ない。

 つまり平凡なおじさん錬金術師である私に秘匿することはできないということ。

 研究所の実験室で錬成したのも不味い。
 実験室は共有の場なので誰でも入ることが出来る。
 天才たちは自前の実験室を持っており共有の場に出てくることは少ない。
 けれどあれたちは独自の嗅覚を持っているので侮れない。
 下手な錬金術師が行った違法研究を天才たちが発見したという話は珍しくない。
 私の錬成が気付かれないと考えるのは流石に楽観視がすぎるだろう。


 そんなわけで私は出奔することにした。


 おじさん34歳にしての冒険である。
 前世を含めれば半世紀以上生きて初めてのことである。

 今ある仕事を放り出すのはどうかと思ったのだけれど仕方がない。
 監禁されて金を生み出すだけの道具にされては叶わない。
 それに万年平のおじさんの仕事など代用が効く。
 最初のうちは困るかもしれないが私がいなくなって立ち行かなくなるなんてことはない。
 大体の錬金術師はそこまで不出来ではない、はず。

 最低限の礼節として退職届を記入して迷惑料として幾らかの金銭を残していく。
 ついでに住居の引き払いの手続きも行い同様に。
 夜中なので書類を作成して提出するという一方的な形になってしまうが仕方がない。

 書類作成が終われば身辺整理。
 自宅の荷物は家主には申し訳ないが処分してもらおう。
 それなりの値で換金できる物もあるはずなので納得してくれるはず。
 持ち出すのは当面の資金と旅の道具。
 出奔なので身分証などは置いていく。

 身支度を終えれば街の外へ。


 さて、冒険の始まりだ。

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