運命なんて要らない

あこ

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番外編

★ エルランドばっかりずるい!:前編

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エルランドの秘密を知ったのは偶然だった。
ノアの優秀な従者エルランドがポロッと、珍しく、本当に珍しくこぼ失言したのだ。
「今日のノア様は
大切な主人の様子を見て輝くと言ったと取れるかもしれない言葉だが、この時ノアは熱で寝込んでいた。
どこに熱で寝込む主人を前に「輝いている」と言う従者がいるだろう。
これがノアが意地悪だったり性悪だったりして他者を蔑ろにする様な人間だったのであれば、寝込んでいてくれて嬉しいという意味でなにかそう、そういう気持ちで言ったかもしれない。
けれどノアはそんな人間ではないし、何よりエルランドはノアを心底大切にしている。
(エルランドはどうして輝いているなんて?)
疑問に思ったアーロンは『寝込んでいる主人を見て輝いているとはどう言う事だ』と、みたのだ。
そこで知った。
エルランドが精霊を輝きとして見る事が出来る人間であると。



その日からアーロンの行動がおかしくなった。
普段は王太子らしい姿でいるのだが、時折おかしな行動が目立つ様になってしまったのである。
──────一点を見つめてため息をつく。
どこかを見つめてため息をつく程度であれば「ノア様に会えないからお寂しいのでしょうか」とか「ノア様を思っていらっしゃるのかしら」とか、ノアに思いを馳せているんだろうなと思えた。これまでもそう言う姿がなかったわけではないから、そうだろうな──────いや、と彼らは思ったのだ。
ノアを思っている時の顔と、今問題になっている『一点を見つめてため息をつく』時の顔では明らかに違いがあるが、それでも人はなるべくいい方へいい方へと思いたいもの。
だから『一点を見つめてため息をつく』に関しては『ノアに思いを馳せている』と言う事にしていた。しかし
──────人をジッとみているかと思えば首を振る。
も加わるのと話が少し変わってきてしまった。
人を見た後にため息をつくのだ。
ため息をつかれた人間からすれば溜まったものではない。
だって考えてみてほしい。
この国の時期国王となる王太子からため息を頂戴するのだ。いったい自分は何をしてしまったんだろうか、と不安になってもおかしくないだろう。

──────殿下に何があったんだろう。

王城につめる人間は不安になった。
そしてその不安はアーロンの両親である国王と王妃にも伝わる。
ついに夕食の席でアーロンは聞かれ驚いた。
──────一点を見つめてため息をつく、人をジッとみているかと思えば首を振る。お前は何に悩んでいるんだ。
彼はそんな事をしている自覚がなかった。一切。
だから素直に謝罪し、気をつける様に言って終わりしようとしたが、両親はそうはいかない。
二人はついぞこの間、可愛い我が子でもあった長男を廃嫡し平民にしたのだ。
その皺寄せは全て、一気に、次男アーロンへと襲いかかった。
国王の王妃もアーロンにプレッシャーがかかっている事も、兄の事で何か出来なかったのかと後悔している事も、兄の事件があったからアーロンが自分自身に必要以上に「立派な王太子でいなければ」と課しているのも知っている。
として二人は、アーロン一人に全てを背負わせる気はない。もしこの件で悩んでいるのなら、何をおいても助けてやりたいと強く決意しているのだ。
二人からのジッと見つめる目に負け、アーロンはぽつりと言った。
「いえ、その……」
言いづらそうにしている様に両親の表情しかない二人の喉がゴクリ、と鳴る。
「ノアは……」
「ノ、ノアに?」
「ノアちゃんに、何か?」
恐る恐る聞いてくる両親にアーロンは顔を背け
「ノアは、その、精霊に愛されていると思わなければ納得出来ないほど、精霊から祝福を得ております……その、それが目視できたらいいな、と……」
聞いた二人はしばらく考え込んで、互いの顔を見合わせ
「え?アーロンは、ノアちゃんの精霊が見えたらいいなと思って、何かを見るたびがっかりしていたの?あれは見えるかどうか確認していたと言うの?」
母の言葉にアーロンは食い気味に
「ええ、そうです。確認出来るのではないか、と思わず見ておりました!だって、見てみたいのです!!キラキラ輝いているにと思うと」
輝いているに違いない、と言うアーロンに
(なぜ輝いていると思うんだろうか……)
と王は思う。王妃もだ。しかしアーロンは知っている。エルランドが「輝くのです」と言っていたのだから。
「輝いているノアが、みたい!きっとキラキラと輝くノアは愛らしいと思うのです!」
拳を握ってまで言う我が子に、両親は「はあ」とか「あぁ……」とかグッタリしたような、がっかりしたような、そんな表情で肩を落とす。
城の人間を不安にさせた我が子。蓋を開けてみれば“なんともまあ”だ。
(でもそうだ、思えば……)
殿であった時は、を言ったのも一度や二度ではなかったなと、父と母の顔の二人は顔を見合わせ微笑む。
その「そんな事を考えていたのか」と思う気持ちが二人を笑顔にさせていく。
自分に自分でプレッシャーをかけ、必要以上にやっていこうとする姿に不安を覚えていた“両親”は変わらない“我が子”でいてくれたのだと、城の人間には申し訳ないとも思いながらも、どうかそのままで──────自分のその“良い所”を失わずにいてほしいと思わずにいられない。
それが自分だけではなく、彼が愛するノアも助ける事にもつながるのだから。
そう、二人は信じているのだから。そして我が子には、我が子で居る時間をちゃんと持ってほしいと強く願っているのだ。
「まあ、それでも見えないと思うわよ。だってんですもの」
「そうだな。まあ、それは諦めたらどうだ?」
二人に言われてもアーロンは「諦めません」と真面目な顔で言ってみせた。

「という訳で、エルランド。僕はノアの輝きが見たい」

王太子妃教育への完全なる舵切りにより目を回すノアと共に王宮へと上がってきたエルランドは、別室にて控えているところをアーロンに“襲撃”され彼の自室へと拉致された。
「こればかりは努力でではございません」
「わかってる!でも見たい!」
「そう言われましても……私には如何ともし難い事でございますよ?」
「そう言ったって……ッ、ずっ、ずるいじゃないか!ずるいぞ!婚約者の僕が見れないのに……エルランドは見れるなんて。ずるいと思わないか!?」
「そう言われましても……」
ずるいを連呼され心底困った時眉を下げるエルランドに、アーロン悪いなとは思う。けれど知ってしまったら見たいのだ。
精霊が愛するノアを、精霊が照らす姿を。
睨むように「見れる方法はないのか」と視線で訴えてくるアーロンにエルランドはハタ、と思った。
「もしかしたら、ですが」
「なんだ!?」
飛び跳ねて座り直すアーロンに「そうならなくてもどうか嘆かないでください」と言い聞かせてから
「ノア様は非常に精霊に好かれております。ノア様を思う気持ちをノア様の周りにいる精霊に伝えたら、をしてくれるのでは?」
「そんな事あるわけ……ある?」
「ノア様は精霊に好かれているので、ノア様によく精霊が手を貸す事もございます。それほど愛されているのであれば、もしかしたら、という事も?」
「疑問形で聞くなよ!でも、そうか……よし、ノアに愛を伝えよう」
アーロンは威厳も何もかも置いていって、部屋を勢いよく飛び出した。

ここに連れてきたエルランドは置き去りだし、三人いた護衛騎士のうち二人はアーロンを慌てて追いかけるしで、どんなに優しく見積もっても“王太子殿下”とは思えない。
エルランドがノアの従者という事もあるだろうけれど、残った護衛騎士がそっと、少し申し訳なさそうに
「王太子殿下はこのところずっと、悩んでおいででしたので……」
と言ってエルランドに、元いた別室へ案内するかそれともノアのいる部屋に行くかと聞く。
エルランドは迷わずノアが勉強をしている部屋でと頼んだ。あのアーロンを思えば間違いなくそこへ向かっているだろうし、自分もそこへ行った方がいいような気がしての判断だ。
「トマス殿がこの時間、どこにいるかご存知ですか?トマス殿がいた方がアーロン王太子殿下をお止め出来ると思うので」
「ふふ、そうですね。王太子殿下のアレを見たら、その方がいいかもしれませんねえ。ではまずそちらへ向かいましょう」
ノアと共に幼少期から登城していたエルランドはこの護衛騎士とは“顔馴染み”。
アーロンが赤子の時からずっと守り続けている彼はアーロンにとって──歳は19は離れているが──兄の様な大切な騎士で、騎士も国王からの『あれがもし過ちを犯す様な事があれば、しっかりと正して欲しい』と言われているだけあって時には叱り時には宥め、今日に至るまでに護衛騎士と護衛対象以上のを築き上げた。
だから尚の事、エルランドを巻き込んだ行動に申し訳ないと思うのだろう。
「構いません。王太子殿下はノア様を愛しておりますから、私だけ知っている事があるというのは非常に、その、悔しいのでしょう」
「やはりノア様に関係する事で悩んでらしたんですね……。しかしエルランド殿だけが知っている事とは一体?」
流石に「自分が精霊を光として認識出来る」とは言えないのでエルランドは
「幼少期からおそばにおりますから、私にとっては当たり前のノア様でも、殿下にとっては『エルランドしか知らない』になってしまったようです」
「ああ!王太子殿下はノア様に夢中でございますからねえ。昔は私もノア様をお助けするたびに『嫉妬するからやめて!』と言われました」
「私はまだムスッとしたお顔で見つめられるだけでしたね。きっと幼い殿下は『ノアの従者だから仕方がない』と思ってそれにとどめてくださったのでしょう」
「そうかもしれませんね。しかし、いや、もう随分とを言われなくなったと不敬ながら寂しく思っておりましたが、エルランド殿の話を聞いてなるほど。殿下はどうやら言わないだけで、今も変わらすあのように思ってらっしゃるんでしょうねえ」
なるほどそうかもしれませんね、なんてのほほんと会話をする二人は暖かい日差しが窓越しに差し込む広い王城の廊下を歩く。
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