葉桜

たこ爺

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第一三話 空に咲く花

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「総員、傾注!」
「本日は、数え七度目の出撃である。
今回は沖縄にいる友軍支援のため、陸海軍が総力をあげてこの作戦を行う。司令部からの情報では、特別攻撃隊義烈隊までもが参加するうえ、温存予定の通常攻撃隊すら出すそうだ。
この期待に応え、各員のより一層の奮戦を期待するとともに貴殿らの幸運を祈る。
以上、解散!」

酒を一煽りし、盃を割った後は急いで機内に乗り込み席につく。

「それでは、いくぞ」

やがて機体から唸り声が上がり、飛行場の草たちが機体の腹を撫でていく。
そのうち地面が少しずつ遠くなっていく

武井さんに少し無理をいって尾部機銃の窓から外を眺めた。
二度と見られなくなるであろう陸をしかと目に焼き付けるために



― 一時間半後 第三十八任務部隊 ―



警告音が鳴り響く
奴等が、来たのだ。

「直掩戦闘機隊は即時発艦せよ、敵機はジズモを抱えたベティーとその護衛機!機動部隊に敵機を近づけさせるな!」
『キール発艦せよ』
「キール機発艦します。」

その言葉を発すると、機体は勢いよく空母から射出され、空へと舞いあがる。

世界は紺碧に染まり斑に白い雲が漂う。
そんな何の変哲もない平和な常夏の空。
ただ、そこには戦の香りが充満していた。


― とある空 ―

「間もなく敵の防空圏内に入る。義烈隊によって陸からの増援はないじゃろうが、敵機には十分注意しとくれ。」

「わかりました……っ!上空に敵機多数」
「太陽の方からも来ます!」

「噂をすればかの、悪いが鈴木さん。桜花には乗っとてくれんか、飛べる所までは飛ぶが、いつ切り離すことになるかわからんでな。」

「分かりました。危なかったらすぐに切り離して離脱してください。」

「んなことできるかいな。あんなもん昨日見せられたら最期の一刻まで踏ん張るのが陸攻乗りの意地やで。なあ」

「もちろんですよ、さあ、お客さんはゆっくり待っといてくださいな。」
「ありがとうございます。皆さん……」

『無線封鎖解除、敵機を全力で叩き落せ!陸攻隊に指一本触れさせるな!』





空を敵機が埋め尽くしている。一〇〇を超えるであろう敵戦闘機隊。此方は陸攻隊含めてせいぜい八〇、比べ物にもならない物量差だ。
ただ、我々はここを突破する。鈴木には指一本触れさせない。


目の前には八〇ほどの機影が見える。此方は一〇〇以上しかも鈍重なボマーなんて含まない純粋な戦闘機隊の数、奴等が敵うわけがない。なのに奴らは突っ込んでくる。
増槽を投げ捨て俺たちめがけて突っ込んでくる。
狂ってやがる


空には発砲音が、爆発音が、発動機の音が響き渡る。風を切り、敵を薙ぎ払い。互いが互いのものを護るために戦う。そこに正義なぞない。あるのはただ、燃え盛り散っていく機体のみ。


縦旋回をから方向舵使い急旋回敵の真上に着き、引き金を引く。
銃弾は敵に吸い込まれていき、爆発四散する。
これで四機目、あと何機いるんだ?クソッ。数が多すぎる。残弾はあと七粍が七〇発、二〇粍が五発、やれてあと一機……いや、二機だ。
……よし、次は右だ


「左後方より敵機!」
「雲の方へ逃げる。機銃手は手を止めるんじゃないぞ。」
「敵がぴったり張り付いて来る!うぐぅ……」
「松村!くっ……しまったエンジンに火が」

「だれか、だれか弾を!」
「こちら田中機だれか、援護を!」
「もういいです、切り離してください!身軽になるんです!」

「何を言うとる。これであんたが失敗したら何のためにワシらはここに来たんじゃ。あんたを切り離すのは敵が見えてからじゃ!んぐぅ、左からも吹いてしもた」

「切り離せ!」
「はっはは。まだ、まだ飛べるぞ。おんぼろのくせにたいしたもんじゃ」



あぶねっぇ
敵弾をバレルロールで回避する。
これも何回目だろうか?ちょこまかと回避しつつこっちの照準が合いそうになったら撃ってきやがる。大した腕だ。
奴等にまだこれだけ優秀なパイロットが残っていたとは。

もったいない、だが、ここまでだ……
『キール!五時の方向敵機だ!』

なにっ!
振り向いた時瞳に映ったのはこちらへ突っ込んでくるジークの姿だった。
直撃コース避けられない!

「NooOO!!!」
『クソ、キールがやられた。』
『敵が一機、戦闘機迎撃網を超えたぞ!』

少し遡って

『こちら田中機、だれか、だれか援護を!』
田中機!?鈴木が乗っている機じゃないか!
どこだ、今助けに…ッ!
目に入ったのは遥か前方で敵に追いかけられている一機の陸攻機の姿だった。右エンジンが出火しており、いつ撃墜されてもおかしくない。
そんな中雲を使って必死に敵を振りほどこうとしていた。
ここからじゃ……間に合わない……
クソッ!

すまない鈴木、約束は、守れそうにない……
あきらめかけたその時だった

一機の零戦が敵へめがけて突っ込んでいく。あれは……小隊長の機体だ。しかし、小隊長も残弾はもうないはず……まさか!

「小隊長、まってください。小隊長!!」



ああ、これでもう清とは会えませんね。
すみません清。帰れそうにありません、元に空を飛ぶ姿を見せれそうにありません……
全く、家族との約束を何一つ果たせていないダメな親父ですね……ですが、彼との約束はきちんと果たせそうです。

『小隊長、まってください。小隊長!』
「ありがとう。」

その時、空に一輪の花が咲いた。それは決して美しいものではなく。血と、炎が作り出した戦の花であった。
何も生まず、何者の心も穏やかにしないけれど美しい花だった。


「後方の敵機を味方が体当たりで墜としてくれた!
これで、道は開かれたぞ!エンジンの出力を抑えるんじゃ。機動部隊が見えるまで持たせるぞ」

「見えた。前方に敵艦隊!」
「よくやった!いきまっせ鈴木さん。」
「ありがとう、すまない、本当にありがとう……」

切り離されたことを確認し、桜花に火を入れロケットで一気に加速する。
そして最後に振り返って見えたのは、
燃え盛る機体の中で、笑っている田中さんの姿だった。


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用語解説
ジスモ……桜花
ベティ―……一式陸上攻撃機

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