ツギハギドール

広茂実理

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バラバラドール

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 夜が明けて目覚めると、雨が降っていた。予報では、昼前に晴れるとのこと。初は、天気が回復してから出かけることにした。
 現在、例の駅は通常業務を再開していた。早いもので、事件から三日が経っていた。
「かなでは……連れて行きたいけど、また雨が降るかもしれないしな……汚したくないし、置いていこう。ごめんね、かなで。待っててね。すぐ戻るから」
 部屋にそっとかなでを飾って、初は家を出る。すっかり雨雲の去った、昼過ぎの長閑のどかな街並みを横目に、現場を目指した。
「あんまり、降りたことなかったけど……この駅って、こんな風になってるんだ……」
 電車に乗り、数分。難なく着いた目的地のホームに、降り立つ。改札も出口も一ヶ所の小さな駅は、当たり前だが何の変哲もない。
「あれ? 来たこと、ないはずなんだけどな……」
 刹那、初は既視感に襲われていた。先程、降りたことがないと口にした言葉は、嘘ではないのに。
「ま、駅なんて、だいたい同じ造りだろうし。路線が一緒だから、似ているところもあるよね」
 少女は自身をそう納得させて、辺りを歩き始めた。
「んー、やっぱり、綺麗に掃除されてるなー」
 電車が去っていったばかりのホームは、人がまばらで。初は、ゆっくりと端から端まで歩いてみることにした。しかし、やはりというか、何というか。至って、何の変哲もない普通の駅である。何もおかしな点は、見受けられない。
 黒髪のドールが目撃された場所もわからないし、もちろん未だに転がっているということはないだろう。そもそも黒髪のドールは、ネット上にしか情報がなかった。デマの可能性もあるし、すぐに持ち主が見つかったのかもしれない。でなければ、そうそう駅にドールが転がっているなんてことはないのだから、こちらもテレビで話題の餌食になっているだろう。
 考え事をしていた初は、心ここに在らず。きょろきょろと余所見をしながら歩いていたため、危うく人にぶつかりそうになってしまった。慌てて、頭を下げる。
「す、すみません……!」
「えっ、あ、ああ……こちらこそ」
 どうやら、相手も余所見をしていたらしい。にこりと微笑み返されただけで、またどこかへ行ってしまった。
「すごく綺麗な顔の人だったな……男の人かな?」
 服装が男性もののそれだったのと、声が低めだったため、おそらく男の人なのだろうが、とても美人だった。
 優しそうな人だったなと見惚れながら、初は調査を再開する。
「ここら辺は、もう見たからな……向こう側にも行ってみようっと」
 初は、念のために反対側のホームやトイレ、階段など、駅の隅から隅を歩き回った。だが、その努力に見合う結果は、まったく得られなかった。
「まあ、そうだよね……そんな気はしてたよ……仕方ない。帰ろう……」
 やっぱり何もなかったかと、肩を落として、初は踵を返す。ホームで手持ち無沙汰に電車を待っていると、彼女はふいに知っている顔を見つけた。
「あれ……あの人……」
 向こうはこちらに気付いていないが、間違いない。高身長のクールな佇まい。ふわりとした茶髪が似合う、端正な面立ち。彼は、沖田つとむ。三つ上の、奏の兄だ。
「お兄さんだ……久々に見た……」
 小学校が一緒で、彼をよく見かけていた初だったが、中学、高校と進学するにつれ、行動時間がまったく異なるようになってからは、彼に会うことは滅多になかった。
「でも、何でここに?」
 初は首を傾げる。どうして彼が、ここにいるのだろうか。高校はまったく方向が違うし、そもそも今日は休日。とはいえ、この辺には遊び場になるような施設はない。友達の家でもあるのだろうか。
 少女が横目で不思議に思いながら見ていると、彼に近付く一人の男がいた。友人か後輩だろうか。低身長ながら、やけに綺麗な顔をしている。そこで初は気付いた。彼は、先程ぶつかりそうになった美人だ。
 だが青年は、初が見ていることにも気付かずに、彼のパーソナルスペースへ入った。初の元まで、会話が聞こえてくる。
「沖田、どうだったの? 収穫はあった?」
「あったように見えるか?」
「わかんないよ。沖田、顔に出ないから」
「……ないな。何もない」
「そっかー。まあ、簡単に出てくるわけないよね」
近藤こんどう、お前はどうだった?」
 孟が、友人らしき男へ目線だけを向ける。問われた青年は、ニッと含むように笑った。
「あったと思う?」
「思わないな」
「あははっ、当たりー。僕、沖田のそういうところ好きだよ」
「そうか」
「あ、もうすぐ電車来るみたいだね。これ以上は、いても変わらないだろうし、もう帰ろうか」
「ああ」
 電車が間もなく到着するというアナウンスに、初の思考も一旦途切れた。
「あの人、お兄さんの知り合いだったんだ。世間って狭いな。それにしても、あるとかないとか、収穫とか……何だろう? 何かを探しているのかな? ――って、詮索したところでってカンジだけど……」
 初は、多少彼らが気にはなったものの、知ったところでどうということはないと意識を逸らした。気があるわけでもないし、彼は少女にとって、ただの友達のお兄さんだ。奏本人ならともかく、彼がどこで誰といようが、関係なんてないし、どうでもいい。
 と、そこに電車がホームへ滑り込んできた。帰るとなると目的地は一緒だろうが、初にはここで彼らに話し掛ける義理もない。向こうはこちらのことなど覚えていないだろうし、連れがいる。いなくても、選択した行動に変わりはないけれど。
 初は、別の車両に乗り込む孟たちから意識を外して、口を開けた車内へ乗り込む。そうして、電車内の広告をひたすら眺めて過ごしたのだった。
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