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引き裂きドール
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閑散とした住宅街でのひき逃げ事件を発端に、世間では先日の特急列車事故が再び話題に上がっていた。
ただの偶然か。模倣犯か。それとも、連続殺人事件か――
未だ捕まっていない、ひき逃げ犯。どちらも証拠が少なく、列車事故に至っては、再捜査が開始されていた。
その二件の事件を追っている中学生、初はというと、捜査に関してはドがつくほどの素人だった。推理小説は読まないし、サスペンスドラマどころか、クイズ番組もあまり見ない。基本的には、頭を使うような娯楽は楽しめない質だった。
それでも、大好きな人が面白いと言ったものは違う。彼女が好きなもの、楽しいと言ったものは別で、初にとっては特別だった。
どれだけ苦手なものでも、嫌いなことでも、彼女と同じものを感じるためならば、彼女と同じものを見るためならば、どんな苦労も厭わない。初は自ら進んで、むしろ喜んで享受する。彼女が好きなものだからという理由で、好きになることさえあったほどだ。
初は、単純だと言われても構わないと思っていた。チョロくて結構。人は、意外と単純にできている生き物だとすら演説し始めるだろう。
だけど、だからといって得意になるわけではなかった。得意と好きは違うのだ。
とはいえ、初は昔からの努力の賜物か――筆記試験の成績だけは、割と良かった。だけど、根暗なコミュ障には、誰も寄り付かない。頭が良いから人気者という方程式は、成立しなかった。
だけど、初はそれでも構わなかった。ちやほやされたくて、勉強を頑張っていたわけではないからだ。何故ならば、彼女には奏がいるから。だから、他の人なんてどうでも良かった。
初は、今回の事件が納得のいく終わりを迎えるまで、好きじゃない推理や調査を続けるだろうと考えていた。それは、奏のために。自身と奏の願いを、叶えるために。
だから、頑張れた。モチベーションを下げずにいられた。奏のためと思えば、初は何でもできる気がしていた。
それに、推理はパズルだと捉えていた。他人の気持ちや、どこかの誰かが望んだ答えを推し量らないといけないような、国語じゃない。必ず答えが決まっている数学みたいに、ピースを正しい位置に当てはめると、正解が出てくるものだと考えていた。初は、いつもの勉強をする要領で、この事件へ向かっていた。
だから今は、そのためのピースをすべて集めること。初には、これが先決だった。
「――出てる。黒髪ドールの目撃情報だ」
身長差から「でこぼこコンビ」と勝手に名付けた高校生二人組。そんな彼らの会話を元に、初はネットで情報収集を続けていた。
伊東親子のひき逃げ事件の現場で目撃されたという、黒髪のドール。やはり、切り揃えられた前髪に、制服姿だったようだ。
「同じだ……特急列車事故の時に目撃されたドールと、酷似した特徴――このドールを見つけられたら、犯人に繋がる……?」
少女は無意識に、顎に人差し指の曲げた第二関節を沿わせていた。彼女の目は画面を見つつも、意識は頭の中へトリップしている。
二つの事故は、初にとって事故でも自殺でもなかった。
証拠はない。それでも、少女は先の二件を他殺と睨んでいたのだ。
「そうじゃないと、現場に転がっていたドールの説明がつかない……」
二件がそれぞれ違う事件という可能性も、ゼロではなかった。だが、そうだとしても人為的な何かが作用しているに違いないと、初は踏んでいた。
「ドール連続殺人事件……」
ネット上では、一件目を「バラバラドール事件」、二件目を「引き裂きドール事件」とそれぞれ呼んでいた。そうして、その二件を総称する時は、「ドール連続殺人事件」という名が使われていた。
他の人もそうなのだろう。二件を、関連のある事件だと捉えている。いや、むしろ否定する方が難しい話だった。
「これ、本当かな……?」
初がネットサーフィンをしていると、新たなサイトに行きあった。初めて見るそれは、黒を基調としたデザインで、ゴシック系の装飾が施されている。オカルトチックだが、ごちゃごちゃしていないし、全体的にセンスがいい。きちんと纏まっていて、見やすい作りになっていた。無意識に吸い寄せられるような、見ている者を惹きつけるものがある。
初も例外なく、自然と指がクリックしていた。
「これは……」
そこには「ドール連続殺人事件」と称される二つの事件について、書かれていた。それも、どこよりも詳しく、新情報つきで……。
「まさか、これ……黒髪ドールの写真!」
今まで文字上でしか語られていなかった黒髪のドールが、ここにきて初めて可視化した。
そこには、大量生産品として作られた、市場でよく見るタイプのドールが佇む画像が掲載されていたのだ。
「これって……種類的に、かなでと同じ……? バラバラドールの女の子とも、一緒かも?」
プリンセスドールであるかなでと同じく、大きな瞳に、綺麗な肌。写真の子の前髪は程よい長さだが、これをもう少し長くしてから切り揃えたなら、噂のドールに近付くのではないだろうか。
制服だって、ドール用の服はたくさんあるし、器用な人ならば手作りすることもできるだろう。
初は、目当てのドールの雰囲気が掴めたことに、前進を感じた。
「それにしても、このサイト……どこよりも、よく作り込まれてる……」
見た目はもちろんだが、内容の充実がすごい。先程のドールといい、実際の現場写真といい、憶測や感想ばかりの他サイトと違って、事実とされている事柄が並んでいる。
考察もしっかりしていて、証拠や参考資料もとても役立つものばかりだった。
「探偵業でもしている人なのかな……警察が作った、囮サイトだったりして……」
警察が実際にそういうことをしているかは知らないが、情報を集めるために開示できるギリギリのデータを公開して、見る側の反応を見ているのかもしれないと初は考えた。
そこで犯人が引っかかって、たとえば書き込みした内容が当事者しか知らない内容で、そこから追跡が始まって――
「……なんて、そう上手くはいかないか。でも、もしくは――犯人そのものが、サイト主の可能性もある、か――」
自己顕示欲の強い人なら、何らかの形でアピールしたがるかもしれない。事故として処理されてしまった、バラバラドール事件。あれがもしも他殺ならば、事故として隠し通したい犯人なら、ドールという痕跡を残しはしないはずだ。それが、二件目を起こした上、同じく遺体に酷似したドールを現場に残している。それは、あれが事故ではないという、犯人側からの主張の現れとは考えられないだろうか。
「模倣犯という可能性を除けば、だけど……」
だけど、どうだろう……その場合、黒髪ドールが引っかかってくるのではないだろうか。制服姿の彼女の存在が、模倣犯説を希薄にしているのでは――?
「ああ、でも、そうでもないのかも……わたしにでも掴めた情報だもんね。他の人にも知ることができたはずだし、ありえなくはないか……」
中学生の少女にしては、良い線をいっていたかもしれないが、初は限界を迎えてしまった。頭がこんがらがってきてしまったのだ。
「あああもう……考えることばっかりだあああ」
頭を抱えて、情けない声を上げる初。そんなことをしたところで、何も解決などしない。無駄だということは、本人もわかっている。それでも、彼女は言わずにはいられなかった。
「……こんな時、奏ちゃんなら、何て言うのかな……」
ひとしきり唸った後で、初はぼそりと呟いた。もしも彼女が同じ立場にいたならば、どうするか――そこに焦点を当ててみることにしたのだ。
ようは、下がったモチベーションを、彼女をトレースすることで、初なりに上げようと考えたのだ。
「そうだな……一つ一つ、整理してみるといいかも。全部頭の中で考えるから、こんがらがる。一度、紙に書き出してみるとわかりやすくなるかも――」
心の中で「さすが奏ちゃん!」と称賛の嵐を送る中学生。やっぱり彼女は、言うことが違うな、なんてことまで思っている。
実際に思考しているのは初自身だが、やはりどこか違う。普段の自分なら選ばないようなことが候補に上がったことを、認識していた。
「早速やってみよう」
空想の彼女にお礼を言って、初はメモ用紙を取り出した。今のところわかっていることを、ずらっと書き出してみる。そうしてそれらを更に、どこで得た情報であるのかという点で、区分した。
「どうしても曖昧な情報が占めちゃうな……これを一つ一つ検証しつつ、新たな情報を探さないといけないのか……」
早くも挫けそうな少女の表情は、うんざりしたそれだ。それでも、そばで微笑んでいるかなでがいる限り、立ち直れた。
「そうだ。わたしのためじゃない。これは、奏ちゃんのためなんだから!」
そう自分を奮い立たせ、顔を上げる初。先程まで見ていたサイトが、視界に飛び込んできた。
「それにしても、こんなにもしっかりと現場の写真が撮られているなんて……サイト主は、よっぽどのマニアか、地元民かな?」
世間を賑わせているとはいえ、大物芸能人や政治家のスキャンダルに比べれば、霞んでしまうような、小さな町のニュースだ。わざわざ現場までやってきて、情報を集めて考察するサイトを作り上げるなんて、よっぽどではないだろうか。
それこそ、先程少女が思ったように警察関係者の捜査の一環か、こういう類のものが好きなマニアか。もしくは――
「わたしみたいに、何か目的を持って調べている人間か……」
当事者や直近の関係者で、この辺りに住んでいる人――そうだったなら、写真を撮ることくらい、造作もないだろう。
「たとえば、警察ではないけれど、同じようなことを考えている人がいて、情報を集めようとしているとしたら? もしくは、今わたしがしたみたいに、このサイト自体を、メモ帳代わりにしているとしたら?」
そこまで言って、初は言葉を区切った。過った考えを、口にする。
「その、どちらもを担っているとしたら――」
少女の脳裏に浮かぶのは、とある人たちの顔。事件現場に現れ、調査のようなことをしていた、地元民たち。関係者で、妙に事件に詳しく、いろいろと嗅ぎ回っている風だった、青年二人組――
「もしも、彼らがわたしと同じ目的だったら、協力関係を築けるんじゃないかな? 些細だけど、わたししか知らない情報もあるし。何よりわたしは、始まりの事件で現場にいた目撃者。警察やマスコミよりも、詳細に語ることができる。彼らにとって、無駄な情報にはならないはずだけど……」
だが、そうではなかったとしたら……?
「可能性としては、何があるだろう?」
初は思考を続ける。たとえば、そう――彼の隣で、いつもうろちょろしていた人の正体と、目的は何だ? ただの友人が、事件現場にのこのこついてくるものなのか? 暇潰し? それにしては、悪趣味だ。オカルト趣味でもあるのだろうか。純粋な友情心から、助けたい一心で――いや、悪口を言うつもりはないけれど、そんな風には見えなかった。微塵も感じられなかった。どちらかと言えば、楽しんでさえいた。性格上、誤解を受けやすいタイプという可能性も捨てきれないが、どうだろうか。
「趣味として、面白半分に嗅ぎ回っていた? それとも、警察関係者の知り合い? もしくは、あの人が犯人で、調査をしているお兄さんをそばで見張っている?」
最後の仮説が事実だとするならば、奏の兄が危険な立場にあることになる。だが、一介の女子中学生の証拠もないただの憶測で動くことは、できない。
「一応、警戒はしておこう……」
他には、何があるだろうかと初は考える。だが彼女には、これぐらいしか思いつかなかった。
「ともかく、今は何もわからない。近藤という人の真意もそうだし、友人と仮定してはいるけど、二人の関係性も謎だし」
だからこそ、そこを調べる必要があるだろう。
「サイト主である可能性だって、仮定にすぎないけど……」
孟は、奏の家族だから――そう信じ込むことも、やめた方がいいのかもしれないと、初は考えを改めることにした。
初と同じく、奏のために――そうは思いたいが、もしかしたら別の何かがあるのかもしれない。
いろいろと、もっと疑念を持って物事を見た方がいいのかもしれない。
事故にしろ何にしろ、実際に人が亡くなっているのだから――
「だけど、ここに書いてあることが、すべて正しかったとしたら……」
再び、サイトに目を向ける。あらゆる情報が踊っているが、信じるかどうかは初の判断にかかっていた。一つ一つ検証できれば良いのだろうが、少女一人の力では、時間が足りない。
それに彼女には、検証よりもやらないといけないことがあるため、そこにばかり時間を割いてはいられなかった。
「でも、急がば回れっていうし……本当に犯人が別にいるのならば、これ以上横取りされるのも癪だし……」
目的が同じであるならば、ターゲットも自然と一緒になってくる。このままだと、また後手に回って、指をくわえて見ているしかない――そんなことになりかねない。
「それはだめ。回避するために、調べ始めたんだから!」
では、やはり同時進行か。次なるターゲットに狙いを定めつつ、あの二人組のことを調査する。
「うまくできるかな……」
いや、と初は首を横に振る。気持ちで負けていたらだめだ。奏との崇高なる目的を達成させるためなんだから、弱気になっていてはいけないと、自身を鼓舞する。
「これは、できるかできないかじゃない。やるんだ。やるしかない」
絶対に、成功させてみせるんだ!
そう決意して、初はもう一度、画面に視線を落とす。
そうして、見えない敵を睨みつけた。
ただの偶然か。模倣犯か。それとも、連続殺人事件か――
未だ捕まっていない、ひき逃げ犯。どちらも証拠が少なく、列車事故に至っては、再捜査が開始されていた。
その二件の事件を追っている中学生、初はというと、捜査に関してはドがつくほどの素人だった。推理小説は読まないし、サスペンスドラマどころか、クイズ番組もあまり見ない。基本的には、頭を使うような娯楽は楽しめない質だった。
それでも、大好きな人が面白いと言ったものは違う。彼女が好きなもの、楽しいと言ったものは別で、初にとっては特別だった。
どれだけ苦手なものでも、嫌いなことでも、彼女と同じものを感じるためならば、彼女と同じものを見るためならば、どんな苦労も厭わない。初は自ら進んで、むしろ喜んで享受する。彼女が好きなものだからという理由で、好きになることさえあったほどだ。
初は、単純だと言われても構わないと思っていた。チョロくて結構。人は、意外と単純にできている生き物だとすら演説し始めるだろう。
だけど、だからといって得意になるわけではなかった。得意と好きは違うのだ。
とはいえ、初は昔からの努力の賜物か――筆記試験の成績だけは、割と良かった。だけど、根暗なコミュ障には、誰も寄り付かない。頭が良いから人気者という方程式は、成立しなかった。
だけど、初はそれでも構わなかった。ちやほやされたくて、勉強を頑張っていたわけではないからだ。何故ならば、彼女には奏がいるから。だから、他の人なんてどうでも良かった。
初は、今回の事件が納得のいく終わりを迎えるまで、好きじゃない推理や調査を続けるだろうと考えていた。それは、奏のために。自身と奏の願いを、叶えるために。
だから、頑張れた。モチベーションを下げずにいられた。奏のためと思えば、初は何でもできる気がしていた。
それに、推理はパズルだと捉えていた。他人の気持ちや、どこかの誰かが望んだ答えを推し量らないといけないような、国語じゃない。必ず答えが決まっている数学みたいに、ピースを正しい位置に当てはめると、正解が出てくるものだと考えていた。初は、いつもの勉強をする要領で、この事件へ向かっていた。
だから今は、そのためのピースをすべて集めること。初には、これが先決だった。
「――出てる。黒髪ドールの目撃情報だ」
身長差から「でこぼこコンビ」と勝手に名付けた高校生二人組。そんな彼らの会話を元に、初はネットで情報収集を続けていた。
伊東親子のひき逃げ事件の現場で目撃されたという、黒髪のドール。やはり、切り揃えられた前髪に、制服姿だったようだ。
「同じだ……特急列車事故の時に目撃されたドールと、酷似した特徴――このドールを見つけられたら、犯人に繋がる……?」
少女は無意識に、顎に人差し指の曲げた第二関節を沿わせていた。彼女の目は画面を見つつも、意識は頭の中へトリップしている。
二つの事故は、初にとって事故でも自殺でもなかった。
証拠はない。それでも、少女は先の二件を他殺と睨んでいたのだ。
「そうじゃないと、現場に転がっていたドールの説明がつかない……」
二件がそれぞれ違う事件という可能性も、ゼロではなかった。だが、そうだとしても人為的な何かが作用しているに違いないと、初は踏んでいた。
「ドール連続殺人事件……」
ネット上では、一件目を「バラバラドール事件」、二件目を「引き裂きドール事件」とそれぞれ呼んでいた。そうして、その二件を総称する時は、「ドール連続殺人事件」という名が使われていた。
他の人もそうなのだろう。二件を、関連のある事件だと捉えている。いや、むしろ否定する方が難しい話だった。
「これ、本当かな……?」
初がネットサーフィンをしていると、新たなサイトに行きあった。初めて見るそれは、黒を基調としたデザインで、ゴシック系の装飾が施されている。オカルトチックだが、ごちゃごちゃしていないし、全体的にセンスがいい。きちんと纏まっていて、見やすい作りになっていた。無意識に吸い寄せられるような、見ている者を惹きつけるものがある。
初も例外なく、自然と指がクリックしていた。
「これは……」
そこには「ドール連続殺人事件」と称される二つの事件について、書かれていた。それも、どこよりも詳しく、新情報つきで……。
「まさか、これ……黒髪ドールの写真!」
今まで文字上でしか語られていなかった黒髪のドールが、ここにきて初めて可視化した。
そこには、大量生産品として作られた、市場でよく見るタイプのドールが佇む画像が掲載されていたのだ。
「これって……種類的に、かなでと同じ……? バラバラドールの女の子とも、一緒かも?」
プリンセスドールであるかなでと同じく、大きな瞳に、綺麗な肌。写真の子の前髪は程よい長さだが、これをもう少し長くしてから切り揃えたなら、噂のドールに近付くのではないだろうか。
制服だって、ドール用の服はたくさんあるし、器用な人ならば手作りすることもできるだろう。
初は、目当てのドールの雰囲気が掴めたことに、前進を感じた。
「それにしても、このサイト……どこよりも、よく作り込まれてる……」
見た目はもちろんだが、内容の充実がすごい。先程のドールといい、実際の現場写真といい、憶測や感想ばかりの他サイトと違って、事実とされている事柄が並んでいる。
考察もしっかりしていて、証拠や参考資料もとても役立つものばかりだった。
「探偵業でもしている人なのかな……警察が作った、囮サイトだったりして……」
警察が実際にそういうことをしているかは知らないが、情報を集めるために開示できるギリギリのデータを公開して、見る側の反応を見ているのかもしれないと初は考えた。
そこで犯人が引っかかって、たとえば書き込みした内容が当事者しか知らない内容で、そこから追跡が始まって――
「……なんて、そう上手くはいかないか。でも、もしくは――犯人そのものが、サイト主の可能性もある、か――」
自己顕示欲の強い人なら、何らかの形でアピールしたがるかもしれない。事故として処理されてしまった、バラバラドール事件。あれがもしも他殺ならば、事故として隠し通したい犯人なら、ドールという痕跡を残しはしないはずだ。それが、二件目を起こした上、同じく遺体に酷似したドールを現場に残している。それは、あれが事故ではないという、犯人側からの主張の現れとは考えられないだろうか。
「模倣犯という可能性を除けば、だけど……」
だけど、どうだろう……その場合、黒髪ドールが引っかかってくるのではないだろうか。制服姿の彼女の存在が、模倣犯説を希薄にしているのでは――?
「ああ、でも、そうでもないのかも……わたしにでも掴めた情報だもんね。他の人にも知ることができたはずだし、ありえなくはないか……」
中学生の少女にしては、良い線をいっていたかもしれないが、初は限界を迎えてしまった。頭がこんがらがってきてしまったのだ。
「あああもう……考えることばっかりだあああ」
頭を抱えて、情けない声を上げる初。そんなことをしたところで、何も解決などしない。無駄だということは、本人もわかっている。それでも、彼女は言わずにはいられなかった。
「……こんな時、奏ちゃんなら、何て言うのかな……」
ひとしきり唸った後で、初はぼそりと呟いた。もしも彼女が同じ立場にいたならば、どうするか――そこに焦点を当ててみることにしたのだ。
ようは、下がったモチベーションを、彼女をトレースすることで、初なりに上げようと考えたのだ。
「そうだな……一つ一つ、整理してみるといいかも。全部頭の中で考えるから、こんがらがる。一度、紙に書き出してみるとわかりやすくなるかも――」
心の中で「さすが奏ちゃん!」と称賛の嵐を送る中学生。やっぱり彼女は、言うことが違うな、なんてことまで思っている。
実際に思考しているのは初自身だが、やはりどこか違う。普段の自分なら選ばないようなことが候補に上がったことを、認識していた。
「早速やってみよう」
空想の彼女にお礼を言って、初はメモ用紙を取り出した。今のところわかっていることを、ずらっと書き出してみる。そうしてそれらを更に、どこで得た情報であるのかという点で、区分した。
「どうしても曖昧な情報が占めちゃうな……これを一つ一つ検証しつつ、新たな情報を探さないといけないのか……」
早くも挫けそうな少女の表情は、うんざりしたそれだ。それでも、そばで微笑んでいるかなでがいる限り、立ち直れた。
「そうだ。わたしのためじゃない。これは、奏ちゃんのためなんだから!」
そう自分を奮い立たせ、顔を上げる初。先程まで見ていたサイトが、視界に飛び込んできた。
「それにしても、こんなにもしっかりと現場の写真が撮られているなんて……サイト主は、よっぽどのマニアか、地元民かな?」
世間を賑わせているとはいえ、大物芸能人や政治家のスキャンダルに比べれば、霞んでしまうような、小さな町のニュースだ。わざわざ現場までやってきて、情報を集めて考察するサイトを作り上げるなんて、よっぽどではないだろうか。
それこそ、先程少女が思ったように警察関係者の捜査の一環か、こういう類のものが好きなマニアか。もしくは――
「わたしみたいに、何か目的を持って調べている人間か……」
当事者や直近の関係者で、この辺りに住んでいる人――そうだったなら、写真を撮ることくらい、造作もないだろう。
「たとえば、警察ではないけれど、同じようなことを考えている人がいて、情報を集めようとしているとしたら? もしくは、今わたしがしたみたいに、このサイト自体を、メモ帳代わりにしているとしたら?」
そこまで言って、初は言葉を区切った。過った考えを、口にする。
「その、どちらもを担っているとしたら――」
少女の脳裏に浮かぶのは、とある人たちの顔。事件現場に現れ、調査のようなことをしていた、地元民たち。関係者で、妙に事件に詳しく、いろいろと嗅ぎ回っている風だった、青年二人組――
「もしも、彼らがわたしと同じ目的だったら、協力関係を築けるんじゃないかな? 些細だけど、わたししか知らない情報もあるし。何よりわたしは、始まりの事件で現場にいた目撃者。警察やマスコミよりも、詳細に語ることができる。彼らにとって、無駄な情報にはならないはずだけど……」
だが、そうではなかったとしたら……?
「可能性としては、何があるだろう?」
初は思考を続ける。たとえば、そう――彼の隣で、いつもうろちょろしていた人の正体と、目的は何だ? ただの友人が、事件現場にのこのこついてくるものなのか? 暇潰し? それにしては、悪趣味だ。オカルト趣味でもあるのだろうか。純粋な友情心から、助けたい一心で――いや、悪口を言うつもりはないけれど、そんな風には見えなかった。微塵も感じられなかった。どちらかと言えば、楽しんでさえいた。性格上、誤解を受けやすいタイプという可能性も捨てきれないが、どうだろうか。
「趣味として、面白半分に嗅ぎ回っていた? それとも、警察関係者の知り合い? もしくは、あの人が犯人で、調査をしているお兄さんをそばで見張っている?」
最後の仮説が事実だとするならば、奏の兄が危険な立場にあることになる。だが、一介の女子中学生の証拠もないただの憶測で動くことは、できない。
「一応、警戒はしておこう……」
他には、何があるだろうかと初は考える。だが彼女には、これぐらいしか思いつかなかった。
「ともかく、今は何もわからない。近藤という人の真意もそうだし、友人と仮定してはいるけど、二人の関係性も謎だし」
だからこそ、そこを調べる必要があるだろう。
「サイト主である可能性だって、仮定にすぎないけど……」
孟は、奏の家族だから――そう信じ込むことも、やめた方がいいのかもしれないと、初は考えを改めることにした。
初と同じく、奏のために――そうは思いたいが、もしかしたら別の何かがあるのかもしれない。
いろいろと、もっと疑念を持って物事を見た方がいいのかもしれない。
事故にしろ何にしろ、実際に人が亡くなっているのだから――
「だけど、ここに書いてあることが、すべて正しかったとしたら……」
再び、サイトに目を向ける。あらゆる情報が踊っているが、信じるかどうかは初の判断にかかっていた。一つ一つ検証できれば良いのだろうが、少女一人の力では、時間が足りない。
それに彼女には、検証よりもやらないといけないことがあるため、そこにばかり時間を割いてはいられなかった。
「でも、急がば回れっていうし……本当に犯人が別にいるのならば、これ以上横取りされるのも癪だし……」
目的が同じであるならば、ターゲットも自然と一緒になってくる。このままだと、また後手に回って、指をくわえて見ているしかない――そんなことになりかねない。
「それはだめ。回避するために、調べ始めたんだから!」
では、やはり同時進行か。次なるターゲットに狙いを定めつつ、あの二人組のことを調査する。
「うまくできるかな……」
いや、と初は首を横に振る。気持ちで負けていたらだめだ。奏との崇高なる目的を達成させるためなんだから、弱気になっていてはいけないと、自身を鼓舞する。
「これは、できるかできないかじゃない。やるんだ。やるしかない」
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