きみにふれたい

広茂実理

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爽やかな5月

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「これは?」
「今日、遠足だったんだ」
「そういえば、昨日言っていたね」
 言いながら、目の前に差し出されたケータイの画面を見る。
 とても天気の良い日。一年生の、校外学習という名の遠足行事の日の夕方。彼はいつもの笑みを浮かべて、何枚もの写真を見せてくれていた。
「ここかー、懐かしい。そうそう、一年はここだったね。私も行ったなー」
 画面へ表示される画像に、当時の記憶が蘇る。とはいえ、その場所に行ったということぐらいしかない思い出なのだけれど。
「へえ……ってことは、十年前から場所が一緒ってこと?」
「そうだね」
「そっか。じゃあ、さくらさんと同じ思い出ができたわけだ」
「はいはい。……あれ? そういえば、何でここにいるの? 確かこういう日は解散して、もう帰っていいはずじゃ……」
 わざわざ来なくて良い学校内に、体操服姿の一年生が一人。もちろん彼の同級生は、誰一人として見当たらない。
 それにしても、ジャージがよく似合う。運動系の部活に入っていないことが、残念なくらいに。……って、あー……どうやら、聞かなくてもいいことを聞いてしまったみたいだ。ずいと、彼が私への距離を縮めてくる。
「聞きたいの? さくらさんってば、俺に言わせるんだ?」
 楽しそうな、意地の悪い顔をして。彼はケータイを下げて、私の顔を覗き込んだ。
「いい。もうわかったから、言わなくていいよ」
「えー? つれないなあ。あ、照れてるの? 顔、赤いよ」
「……怒るよ」
「良いよ。さくらさんの怒った顔、見てみたい」
 この野郎。軽く睨んでやっても喜びやがって。こういうのは無視に限るとばかりに、私は背を向けた。
「あ、拗ねちゃった。ね、さくらさん。ごめん。からかわないから、こっち向いて」
 良い声で、甘えたように言うのはズルいと思います。
「あーあ、もう……っ……くぁ……」
 あ、欠伸を噛み殺している……ズルいズルい。めちゃくちゃ可愛い。朝が早かったんだろうな。疲れているのに、わざわざ私のところに来てくれたんだ。
 そう、私が思わぬところで心を鷲掴みにされていると、見られていることに気付いた彼が、恥ずかしそうに顔を赤らめた。え? ここで照れるの? いつも、恥ずかしいことを平気で口にしているくせに。何それ。その顔はダメでしょ! 反則!
 私が、大ダメージを受けた心臓を守るように手で押さえていると、彼は目を逸らしながら、後ろ髪をぽりぽりと掻いていた。
「ズルいなあ……」
 どっちがズルいんだか。ぼそりと呟くと、手を下ろした彼が一歩近付いた。
「さくらさんって、サディスト?」
「は?」
 心外だった。というか、突然なんてことを言うんだこの子は。
「だって割とさ、俺が恥ずかしい思いをしている時の反応が一番いいから、そういう趣味なのかなって。俺がいろいろ言っても、反応薄いじゃん」
「そんなことない、と、思うけど……」
 言われたのは初めてですし、自覚もございませんが?
「良いよ。さくらさんが望むなら、俺、頑張るから」
 言いながら、顔を赤らめて健気に振る舞ってみせる彼。年下をイジメて、イケナイことをしているみたい――って、こらこら何を頑張るんだ、何を。
「そんなこと言って……私をからかうんじゃないの!」
「ふふ、ドキドキした?」
 楽しそうだな、おい。
「んー、さくらさんを振り向かせるの、難しいなあ……ゲームなら、そろそろ好感度マックスのはずなのに。やっぱりイベントかな」
 いったい、何を言っているんだか。
「ということで、さくらさん。明日は、放課後に図書室で待ち合わせだよ」
 どういうことで?
「図書室?」
「そ。試験前だから」
「ああ……」
 そういえば、勉強がどうとか言っていたっけ。
「俺、待ってるから」
 ったく、強引なんだから。そりゃあ、どうせ暇だけどさ。
「忘れないでね」
「わかった。ちゃんと行く」
「絶対だよ。じゃあ、約束」
「え?」
 小指を差し出してくる彼に瞬間、戸惑う。いったい、どういうつもりなのだろうかと彼の顔をチラリと窺うが、何も言わずに不遜な笑顔を向けられるだけだった。仕方がないので、私はそろそろと小指を立ててみる。
 と、触れそうなところで、まるで絡めているかのように小指が重なった。どうしてだろう。触れられるわけがないのに、なんだか温かい――そんな気がして、何故だか胸の辺りにまでその熱が移ったみたいに、ふわりとしたものがいつまでも私の心を温めていた。
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