きみにふれたい

広茂実理

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瞬きの9月

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 翌日、空は晴れ、風も穏やかな中。生徒たちは、いつものように登校してきていた。
 しかし、どれだけ待っても彼の姿だけが見当たらなくて。私の心だけが、台風のように落ち着かず、騒めいていた。
 彼を見逃したという可能性は、まあ、あるかもしれない。けれど、いつも欠かさず私のところへ来ていた彼が、今日に限って来ないなんて、そんなことがあるのだろうか。
 昨日の今日なだけに、まさかという思いが過る。帰りに、何かあったのかもしれない――もしそうなら、どうしよう。いや、どうもできないのだけれど……。だけど、そう思わずにはいられない。
 私は、確かめることもできない。思いを巡らせることしかできない。ここから出られないせいで、そばに行くこともできない。
「どうしよう……本当に、何かあったのだとしたら……そんなことになったら……」
 もう二度と、会えないかもしれない。だって、私だってこうして鳥籠の中。どうなるかなんて、わからない。そもそも、そんな想像――恐ろしすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
「……気持ち悪い」
 私は、木の幹に体を預けて目を閉じた。くらくらする頭で、やけに晴れ渡った空を見上げる。
 どうか、どうか神様。いるのならば、お願いです。彼を、奪わないで。私と違って、未来ある人でしょう? 悪戯なんてしないで。そんな運命、絶対に許さないから。
「お願い……」
 両手を握り締めて、願う。あんないい子が、幸せにならなくてどうするというのか。
「お願い、します……」
 願い、祈りながらも、もしもが頭の中でぐるぐる回る。私を襲って、苦しめる。
 それは一日中、私を苛み続けた。

「え、と……」
 なので、更にその翌日。私は、頬を膨らませることになった。
「ごめん……」
「……」
 私の目の前には、マスクをした彼の姿。彼は、あの台風の中で外に出たことが原因で、風邪をひいたのだった。
 イケメンが、マスクで更にイケメン度割り増し……しかも、ちょっと弱った顔が――じゃなくて!
「無茶をした挙句、風邪をひいて……君はバカだよ」
「ごめん……」
「本当にバカ…………良かった。怪我とか、してなくて……君に、何かあったんじゃないかって……私……ふっ、うう……」
「泣かないで……」
「誰のせいよ……」
「ごめん……」
 本当に良かった。ずっと怖かった。彼が、こちら側に来るようなことがあったら、どうしようかと思った。
 そうなったら、もう二度と会えないかもしれない。彼も言っていたが、それは怖いことだった。
「さくらさん、心配させてごめん……ありがとう」
「もう、無茶しない?」
「うん。約束する」
 生きていたら、ケータイなりなんなり、すぐに連絡を取って済んでいたようなことが、できない。そのことが、こんなにも悔しいだなんて思わなかった。ここから出られないことが辛いだなんて、こんなにも感じたことはない。
「風邪は平気?」
「うん。熱は下がったし、たまに咳が出るくらいだから、大丈夫」
「それなら良かった……ごめん。君だって辛かったのに、拗ねたりして」
「さくらさん……」
 彼が、私を抱き締める真似をする。
「会えなくて、寂しかった。それに、きっと心配させてるって思ったら、風邪ひいてることよりも、苦しいなって思った……歯痒いね、俺たち」
「うん……」
 この状況は、本当にどうにもできないのだろうか。私は、このままで本当に良いのだろうか。
 彼の腕の中、私はただただ目を閉じた。
 頭の中で考えていることが、後の私を苦しめることになるなんて、思いもしないで。
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