27 / 47
虚しさの11月
1
しおりを挟む
本格的に色づいた木々を横目に、人々の服装は一枚羽織るそれになっていた。生徒たちも上着を着ないでいるのは、体育の授業終わりくらいだろう。
そう言っている間にどんどんと寒くなっていき、やがてコートの出番がやってくる。秋はどこへ行った――? という具合だ。
世間ではこの間まで、連日ハロウィンで賑わっていた。終わった途端に、あちらこちらでクリスマスの準備が始まっているのだから、なんとも忙しいものだ。
生徒たちは、またのんびりと過ごしている。中間テストも終わって、来月初めの期末テストまでは試験もないためだろう。彼もそうだった。
もう少し寒くなるまでは、変わらずこの桜の木が二人の時間を過ごす場所だ。今日も今日とて、彼はここへ来ている。
この時間は、私たちにとってかけがえのないもの――それを苦痛に思う日が来ようとは、つい先日まで考えもしなかった。
「でさ、その時――」
「レオくん」
放課後。いつものように話をする彼の隣で、私は沈鬱な表情を浮かべていた。
彼は、私の方など一切見ずに、ずっと話し続けている。ただただ、一方的に。だから、彼の話を遮った。これ以上、聞いていられなかったからだ。
一見、いつも通りの日常。桜の木の下で、二人並んで一緒に過ごす時間。
それなのに、ただ一つ――彼の様子だけが、おかしい。
どこか上の空のような、乾いた笑みを浮かべながら、ただただ話し続ける。その姿は、まるで私に何も話させまいとするかのように、隙をまったく与えてはくれない。
これは、会話じゃない。独り言だ。まるで、ここには私など存在しないかのような、独白。
だから、無理矢理に割り込んだ。この状況は、今日だけではない。ここ数日、ずっとそうだ。
隣にいるのに、壁がある。見えているのに、無視をされているかのよう――存在を、否定されているかのような、そんな感覚。
そう思うと、辛かった。だけど、もっとわからないのは、彼自身が苦しそうだということ。
私たちは、いったい何をしているの――?
「ねえ、楽しい?」
「……ごめん、面白くなかった? じゃあ、違う話をしよ――」
「――そうじゃない! ……そうじゃないから、もう、止めて……」
どうして、こうなったのだろうか――その答えの半分を、私は持っていた。
あの日からだ。私がお願いをした、その後からおかしい。過去を調べたいと言った。それが、どうやら彼を苛んでいる。
だが、彼は本心を隠している。言った通り、手伝ってくれているのだ。表面上は。
普段は、一緒に校舎内やこの学校の敷地内を歩き回り、記憶に引っ掛かるものがないか探したり、ヒントになるようなことがないか、二人でいろんな会話をして過ごした。そして休日には、彼が学外で何か手掛かりがないか探すと言ってくれた。自分からだ。
もう十年だ。簡単に見つかるわけはないと思っていたし、休みの日にまで拘束しているようで、申し訳ないとも思っていた。
けれど、最近だ。違和感が、確信に変わったのは。彼の行動が、フリだったことに気付いたのは。
彼の月曜日の口癖は、「ごめん、また何も見つけられなかった」になった。
最近は、開口一番にそれだ。それに、私の目を見ない。挙句の果てにすぐ話題を変え、ずっと一人で話し続けるという有様。
こんなことは、意味がない。不毛だ。このまま続けるというのか? そんなの拷問だ。
だから、止めた。彼が、いつまでもその拷問を続けようとするから。
生憎、私はマゾヒストではないのだ。御免こうむる。
だいたい、何故嘘を吐くのか。嫌なら、そう言えばいいのに。どうして、そうしない?
考えれば考えるほど、意味がわからない。いったい、何を考えているの?
私は、本気で過去を取り戻したいのに。それなのに、こうして彼に適当に扱われている。辛い思いをさせられて、前にも進めなくて。焦りばかりが込み上げた。
「もう、止めよう……これ以上、君の嘘を見ていられない」
「嘘?」
「しらばくれるの? 乗り気じゃないのに、無理に付き合ってもらいたくなんてないんですけど」
「……何のこと? 急に、何の話?」
白々しい。わかっているくせに――ふつふつと沸いたそれは、怒りだった。彼の態度もイライラしているもので、それが余計に私を苛立たせた。
「わからないの? へえ、そうなんだ」
「さっきから何。言いたいことがあるなら、はっきり言って?」
「はあ? だから、言っているでしょ」
「言ってない!」
「言った! 聞いてなかったんじゃないの? 嘘吐くのに必死でさ」
「誰が、いつ嘘を吐いたって?」
「ずっとよ。ずっとでしょう? 私が気付いていないとでも思っていたの?」
そして私は、感情のままにその言葉を吐き捨てた。
「最初から、嘘ばっかりのくせに!」
「――っ……」
「え……」
やっと彼と目が合ったというのに、私は後悔した。こんな顔をさせるつもりじゃなかったのに……。
「あ……」
しまったと思ったのは、彼の傷付いた顔を見たから。
気持ちが急激に冷えていったのは、頭の中にどうしてが溢れかえったから。
その場から動けなかったのは、彼が無言でそのまま自転車を漕いで帰ってしまったから。
「な、何よ……何なのよ!」
だってそうでしょ。私は間違ってない。君はずっと嘘ばっかり。
自分から擦り寄ってくるくせに、大事なところは擦り抜けていく。
掴めそうで、掴めない。
ワガママな本音ばかりをぶつけてきたかと思えば、急に聞き分けよく引き下がる。
「わからない……君が、わからないよ……」
こんなにも一緒にいるのに、知るのはわからないということばかり。
わかるのは、嘘を吐いているということだけ。
「いったい、何を考えているの?」
晴れ渡る空が、まるで私を責めているようだった。
そう言っている間にどんどんと寒くなっていき、やがてコートの出番がやってくる。秋はどこへ行った――? という具合だ。
世間ではこの間まで、連日ハロウィンで賑わっていた。終わった途端に、あちらこちらでクリスマスの準備が始まっているのだから、なんとも忙しいものだ。
生徒たちは、またのんびりと過ごしている。中間テストも終わって、来月初めの期末テストまでは試験もないためだろう。彼もそうだった。
もう少し寒くなるまでは、変わらずこの桜の木が二人の時間を過ごす場所だ。今日も今日とて、彼はここへ来ている。
この時間は、私たちにとってかけがえのないもの――それを苦痛に思う日が来ようとは、つい先日まで考えもしなかった。
「でさ、その時――」
「レオくん」
放課後。いつものように話をする彼の隣で、私は沈鬱な表情を浮かべていた。
彼は、私の方など一切見ずに、ずっと話し続けている。ただただ、一方的に。だから、彼の話を遮った。これ以上、聞いていられなかったからだ。
一見、いつも通りの日常。桜の木の下で、二人並んで一緒に過ごす時間。
それなのに、ただ一つ――彼の様子だけが、おかしい。
どこか上の空のような、乾いた笑みを浮かべながら、ただただ話し続ける。その姿は、まるで私に何も話させまいとするかのように、隙をまったく与えてはくれない。
これは、会話じゃない。独り言だ。まるで、ここには私など存在しないかのような、独白。
だから、無理矢理に割り込んだ。この状況は、今日だけではない。ここ数日、ずっとそうだ。
隣にいるのに、壁がある。見えているのに、無視をされているかのよう――存在を、否定されているかのような、そんな感覚。
そう思うと、辛かった。だけど、もっとわからないのは、彼自身が苦しそうだということ。
私たちは、いったい何をしているの――?
「ねえ、楽しい?」
「……ごめん、面白くなかった? じゃあ、違う話をしよ――」
「――そうじゃない! ……そうじゃないから、もう、止めて……」
どうして、こうなったのだろうか――その答えの半分を、私は持っていた。
あの日からだ。私がお願いをした、その後からおかしい。過去を調べたいと言った。それが、どうやら彼を苛んでいる。
だが、彼は本心を隠している。言った通り、手伝ってくれているのだ。表面上は。
普段は、一緒に校舎内やこの学校の敷地内を歩き回り、記憶に引っ掛かるものがないか探したり、ヒントになるようなことがないか、二人でいろんな会話をして過ごした。そして休日には、彼が学外で何か手掛かりがないか探すと言ってくれた。自分からだ。
もう十年だ。簡単に見つかるわけはないと思っていたし、休みの日にまで拘束しているようで、申し訳ないとも思っていた。
けれど、最近だ。違和感が、確信に変わったのは。彼の行動が、フリだったことに気付いたのは。
彼の月曜日の口癖は、「ごめん、また何も見つけられなかった」になった。
最近は、開口一番にそれだ。それに、私の目を見ない。挙句の果てにすぐ話題を変え、ずっと一人で話し続けるという有様。
こんなことは、意味がない。不毛だ。このまま続けるというのか? そんなの拷問だ。
だから、止めた。彼が、いつまでもその拷問を続けようとするから。
生憎、私はマゾヒストではないのだ。御免こうむる。
だいたい、何故嘘を吐くのか。嫌なら、そう言えばいいのに。どうして、そうしない?
考えれば考えるほど、意味がわからない。いったい、何を考えているの?
私は、本気で過去を取り戻したいのに。それなのに、こうして彼に適当に扱われている。辛い思いをさせられて、前にも進めなくて。焦りばかりが込み上げた。
「もう、止めよう……これ以上、君の嘘を見ていられない」
「嘘?」
「しらばくれるの? 乗り気じゃないのに、無理に付き合ってもらいたくなんてないんですけど」
「……何のこと? 急に、何の話?」
白々しい。わかっているくせに――ふつふつと沸いたそれは、怒りだった。彼の態度もイライラしているもので、それが余計に私を苛立たせた。
「わからないの? へえ、そうなんだ」
「さっきから何。言いたいことがあるなら、はっきり言って?」
「はあ? だから、言っているでしょ」
「言ってない!」
「言った! 聞いてなかったんじゃないの? 嘘吐くのに必死でさ」
「誰が、いつ嘘を吐いたって?」
「ずっとよ。ずっとでしょう? 私が気付いていないとでも思っていたの?」
そして私は、感情のままにその言葉を吐き捨てた。
「最初から、嘘ばっかりのくせに!」
「――っ……」
「え……」
やっと彼と目が合ったというのに、私は後悔した。こんな顔をさせるつもりじゃなかったのに……。
「あ……」
しまったと思ったのは、彼の傷付いた顔を見たから。
気持ちが急激に冷えていったのは、頭の中にどうしてが溢れかえったから。
その場から動けなかったのは、彼が無言でそのまま自転車を漕いで帰ってしまったから。
「な、何よ……何なのよ!」
だってそうでしょ。私は間違ってない。君はずっと嘘ばっかり。
自分から擦り寄ってくるくせに、大事なところは擦り抜けていく。
掴めそうで、掴めない。
ワガママな本音ばかりをぶつけてきたかと思えば、急に聞き分けよく引き下がる。
「わからない……君が、わからないよ……」
こんなにも一緒にいるのに、知るのはわからないということばかり。
わかるのは、嘘を吐いているということだけ。
「いったい、何を考えているの?」
晴れ渡る空が、まるで私を責めているようだった。
0
あなたにおすすめの小説
ハチミツ色の絵の具に溺れたい
桃本もも
青春
大学生になったばかりの梅若佐保には、ひとつだけ悔やんでも悔やみきれないことがあった。
高校で唯一仲良くしていた美術部の後輩、茜谷まほろが事故に遭うきっかけを作ってしまったことだ。
まほろは一命を取りとめたものの、意識不明がつづいている。
まほろがいない、無味乾燥な日々。
そんな佐保のもとに、入院しているはずのまほろが現れる。
「あたし、やりたいことがあって、先輩のところに来たんです」
意識だけの存在になったまほろとの、不思議なふたり暮らしがはじまる――
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる