きみにふれたい

広茂実理

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気付きの10月

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 色づく葉が、風に揺れる。オレンジがかった赤色の葉を見ながら、いつもの枝の上。私は、文化祭のことを思い出していた。
 過ぎ去って、もう一週間。だというのに、未だにどうしてか気に掛かる。それが何故なのかは、わからない。不思議と気になって、気付けばいつも思い出している。
 文化祭の印象は変わった。ただの学校の行事だと思っていたものが、彼と一緒にいることで楽しいものだと感じた。だけれどそれだけで、こんなに気掛かりにはならない。
 そう……文化祭というよりは、思い出すのは決まってあの劇だ。演劇部のものも良かったけれど、そうじゃない。あの、雪白姫――
 よく見る話ではなく、原作を調べ上げて書かれたであろうあの話は、黒いのは髪ではなく瞳となっていた。主役は、ブロンドのウイッグをつけていたのだ。
 その話もどこかで聞いたような、既視感があって――あの、何度も殺されかけているのにそれを受け入れる……そんな状況に、私は記憶にかかる靄があと少しでクリアになりそうな、そんな――
「さくらさん、お待たせ」
「……もうそんな時間? じゃあ行こうか」
 呼ばれて思考を中断した。テスト前ということもあり、私たちはまた図書室へと向かう。
 彼は、冬服の上着を片手に持っていた。まだ暑いだろうが、衣替えの時期だ。朝は少し冷えるし、ベストやセーターを着ている子も最近増えた。
「文化祭が終わったばっかりなのにテストって、ありえない」
 文句を言いつつも、こうやって真面目に取り組むあたり、性格が出ていると思う。いつものように、静かな席でノートと問題集を広げている彼の近くで、そんな様子をただただ眺めながら、時折出る質問に二人でああでもない、こうでもないと頭を捻るのだ。
「あー、ちょっと休憩」
 んーと伸びをして、立ち上がる。ずっと座っていたので、体を動かすのだろう。そんな様子を横目に、私は考えていたことを口にした。
「あ、のさ……お願いがあるんだけど」
「え? 何? さくらさんからお願い事なんて、珍しい」
 尻尾があったら、きっとブンブンと振られているに違いない。まったく、そう嬉々として聞かないでほしいものなのだが……私は、閉じかけた口を開いた。
「手伝ってほしいの……過去を、調べたくて」
「え?」
 思ってもいなかったのだろう。打って変わった表情が、素っ頓狂な声を出していた。
「現状を、変えたくて」
「げん、じょう? どうしてまた、急に……」
「急じゃないよ」
 十年前も、どうにかできないか探った。その時は諦めたけれど、夏休みも、台風の時も、ここから出られたらって考えた。そして文化祭――既視感の拭えない感情が、心に芽生えた。
 記憶が戻ったら、後悔するだろうか。でも、そこに鍵があるような気がしてならない。
「自分のことを、知りたいと思う……それと、君にも、もっと私を知ってほしいと、思うから」
「さくらさん……」
 彼は、どこか考えるような素振りを見せたかと思うと、真剣な顔でまっすぐ私の目を見つめた。
「記憶を失くすって、経験ないからわからないけど、きっと地に足がつかないような不安があるんじゃないかと思う。でも、失ってしまうくらいの何かがあったのかもしれないよ。覚えていることが苦痛で、忘れることで自分を守っているのかもしれない……どんな記憶が待っているかわからないよ。それでも後悔しない?」
「怖いよ。このままの方が、幸せかもしれない。知らない方がいいこともあるだろうけどさ、後悔するかもしれなくてもさ、それでも立ち止まっている方が、何もしない方が、後悔すると思ったから。君と出逢わなかったら、ただの置いていかれた幽霊のままだった。だけど、今は違う。知りたい。もう足元だけを見つめるのは、やめたいの。未来もないから見据えられない。過去もないから振り返ることもできない。そんな今を、ただただ見つめ続けることを、私は変えたい」
「さくらさん……」
 言葉を失った彼の瞳を、ただただ見つめる。ねえ、その迷いに揺れる色は何? 今、何を考えているの? 何を映しているの? 目が、合わないよ……。
「わかった。さくらさんの願い、一緒に叶えよう」
「……うん。ありがとう」
 私は言えなかった。ただ、心の中で呟いた。どうして、わかったなんて嘘を吐いたの? ――と。
 この時聞いていたら、どうなっていたのだろう。そう遠くない未来で、私は思うのだった。
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