きみにふれたい

広茂実理

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悪戯の1月

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 しんと静まり返った、月が照らす校舎を眺めて、一人、音もなく地に降り立つ。きっちりと施錠された正門を正面に見据えながら、昼間のことを思い出していた。
 欲しかった記憶は、ほとんど思い出したのだと思う。それでも、私はここから出られそうもなかった。
 どうして学校なのか――それは、彼を見守るため。
 好きでもないこの場所だったのは、彼との接点が学校前の歩道と、あの公園しかなかったから。
 そして、私が彼と最期に会った場所だったから。
 無意識に願ったのは、何よりも切ない彼のことだった。
 こんな場所に自身を囚われてでも尚、私は何よりも彼を選んだ。
 それは居場所もなくて、生きる気力もなかった――そう思っていた私が重ねて縋った、小さな背中。
 守りたいと口にしながら、逃げていた。あの公園が、あの子との時間が、私の逃げ場所だった。
 あんな子どもに縋って、今度は大きくなった彼に? 私が彼に抱いているのは、本当に「愛しい」という想いなのだろうか。それとも、依存を恋愛感情だと錯覚しているのではないだろうか。
 それでも――と、私は見えない壁に手を添える。この先は、学校の敷地外。
 ここから出られないことに、変わりはない。どうやったって、私は出られない。存外、この存在は不便なのだと知った。
 私は、ここに残り続けるか、消えるかの二択しかないのだと、わかってしまった。
「あーあ……」
 不思議と涙は出なかった。
「これって、良かったのかな……」
 知らなければ、夢を見ていられたのに。
「まあ、仕方ない、よね……」
 知ったのは、どうにもならない現実。
「……」
 どうしてか、わかってしまったのだ。ここから出ることはできないと。
 諦めたとか、そういうことじゃない。説明を求められてしまうと困るのだが、おそらく私は相当な執念でここにいる。あの灯が消える瞬間に浮かんだ彼への気持ちが、私をここに留めているのだ。
 だから状況が変わったところで、私が何を望んだところで、ここから出ることは叶わない。
「これを知ったら、どうするのかな」
 本当は、手放してあげるべきだとわかっているのに。私たちは、どうしようもなく互いを必要としてしまった。もう解けないほどに絡みついて、何度も出会ってしまう。
 運命だなんて生易しいくらいに。むしろ、呪いのように。
 誰かに操られてでもいるかのように、踊らされる。
「そうだった方が、よっぽど良かったよ」
 マリオネットだったなら、こんなに思い悩むこともなかったのに。
 ドールのように、ただただそこにいるだけの存在であったなら、何も考えず微笑んでいられたのに。
「……いや、やめよう」
 もしそうだったなら、楽しかったことも嬉しかったことも感じられなかった。
 いつか、彼が言っていた。そんな想いを、なかったことにはしたくないと。
 そうだと思った。
 だから、困った。
「離すなんて、放すなんて……できそうにないよ……」
 呟いた言葉は、ただただ冷たい風に攫われていった。
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