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序章の色
第5話 食卓の色
しおりを挟むご都合主義とはこのことを言うのだろうか。いや、単純に作者のストーリー設定が甘々なのもしれない、駄菓子菓子! ご都合主義の何が悪い読者諸君! あなたたちはそぉ~んなに主人公がめちゃくちゃになって傷つく姿が見たいのか! あんたら何なの! ドSなの! 女王様なの! こっちの身にもなれやゴラァ!
「さあ、できましたよ!たくさんあるんでいっぱい食べてください!」
「はい!」
外はすっかり暗くなり、天井からぶら下げた電球らしきものが部屋を照らしている。
そして目の前にはテーブルの上に並んだたくさんの料理と目の前に座る美女が居て今まで体験したことのないようなムーディーな雰囲気になっている。
だが、まぁ、まずこんなに美人で今日泊まる場所をもらって、ましてや食事を恵んでくれる優しい人にここまで世話になってもらってなんだが、まず一言言わせて貰おう。
これは、はたして食べものなのだろうか?
「す、すみません。あの料理ですかこれ?」
「あっ、そうですよね!初めて見ますもんね、え~っとですねこれが....」
微笑みながら料理一つ一つを丁寧に説明してゆく目の前の美人。
いや説明の問題ではなく、俺がしているのはそれは本当に食えるもんなのかと聞いてるんですよ! だって普通スープが紫色になったりします? しかもなんか目の前に置いてある肉の塊から謎の液体が吹き出てるんですけど!
「という感じになります!」
「は、はあ」
すみません読者の皆様、深くお詫び申し上げます。やっぱりご都合主義なんかありませんでした。俺ここで美人の作った料理を食って死ぬ運命なんですね....
いや....でも、そういえば俺はここに来てまだ1日も経ってない、この世界ではこういう料理が普通なんだきっとそうだ!....よね?、おもむろに彼女はテーブルの上で手を組み。
「では、今日の生きる分の糧と初めて出会う方に感謝いたします」
「か、感謝いたします」
今のがどうやら日本でいう、『いただきます』ということなのか?
「さぁ、食べて、食べて」
「よ、よし」
まず一口、その紫色のスープから....うん。
人の食いもんじゃないっ!
「うっ! こ、この、うっぷ!スープぅ!何使ってるうっ!ですか?」
「え~とですね、・・・」
うん、そういえば聞いてもわからん!
とにかくなんかちょっと名前が禍々しいものがあったとだけ言っておこう、とにかく親父から『男は出されたものは黙って食う!』という教育を受けていたがこいつはひどい!
「あの、どうかしました?」
「あっ、いえその....ちょっとこの世界の食事が体に合わなくて....」
よ、よし!ナイスフォロー自分! いくらなんでも出してもらった料理に生命の危機を感じたからとは口が裂けても言えない。
「そ、そうですか・・・」
「あの....ここに台所はありますか?」
「えぇ、そこにありますけど....」
「ちょっと借りますね」
台所の場所は、食事をするリビングに備え付けになっている。日本でもよく見たスタイルだ。
「あの、何をするんですか?」
「いやあ、せっかく泊めてくださるのですからこっちも何かしないと」
と建前を掲げておこう。少なくともあの料理を完食させるのは不可能だ。
彼女はせっかく用意したのにと不満げな表情だったが、まあ少なからず俺の方が料理はうまい自信がある。親父が死んで3年間ずっと一人で自炊してきた経験が俺にはある。
「あの、ちなみに一人暮らしをしてきて何年目ですか?」
「そうですね....少なからず90年は経ってますよ」
「....」
すいません、エルフを見くびってました。
「それでは、今ここにある食材で僕の世界の料理を作りますね」
「はあ....」
うん、食材の見た目はだいたい地球のと同じだし、調味料も味見して確認したところ使えるものが多い。初めて自分の料理を食べてもらうにはこの料理しかないだろう。
40分後。
鍋いっぱい作った料理をテーブルに置く。
「できましたよ」
「なんですか、この料理は?」
「ニクジャガという料理です」
そう日本人だったら一度は食べたことがあるソウルフード! 肉じゃが! これを食べさせない上で地球は語れないだろう、この料理に何度救われたことか....
「味見はしたので大丈夫です、食べてみてください」
「はあ、では....わぁ!」
「どうですか?」
「お腹が痛くならないです!」
今までどういう食生活してきたんですか、90年間....
「すごくおいしいです!」
「喜んでもらってよかったですよ」
なんだろう、この微妙な気分は....判断基準が味よりも体調が悪くなるかならないかなんて....
なんだかんだ言って今日の晩餐は終わった。
残った料理はというと彼女が全部平らげてしまった、一体どうなってんだエルフの胃袋は....鍋一杯分はあったぞ。
「それでは、おやすみなさい」
「えぇ、絶対ないと思いますが、寝込みを襲わないでくださいね?」
「....そんな勇気ありません」
そう言って彼女は自室に向かった、そして自分も部屋に戻り床に置いといた剣を手に取り、それを引き抜く。そこには白い刀身とそこに掘られた文字がある。
鞘も見てみるが銀装飾に黒い木製の鞘、くすんだ石が7つある穴のうちの一つにはまっているだけの見た目からは少し珍しい剣ということだろうか。
「魔法ねえ....」
とにかく謎が多い剣だ、俺が捨てたのにもかかわらずついてきて腰に収まっていたこと、そして俺以外抜けないということ、そして....
「....スクートゥム」
ある言葉を唱えた瞬間、後ろのテーブルの上に置いてあった鞘が大きな音を立てて展開し、目の前で車のボンネット並みの盾になった。手に取ってみると見た目の割には軽い、だが丈夫そうだ。
「本当にあるんだな....」
この剣の文字は俺にしか読めないこと。
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