異世界探求者の色探し

西木 草成

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第1章 赤の色

第24話 温泉の色

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 さて、王都騎士団の訓練を終え全身の筋肉痛と大量の引っかき傷とともにギルドに帰ってきた。

「す、すみません・・・ただいま戻りました・・・」

「おかえりなさ・・・ショウさん・・・どうしたんですか?」

「ちょっと調子に乗ってしまって・・・」

「そういえば、メルちゃんにお昼をもたせたんですけど、ちゃんと会えましたか?」

「えぇ・・・ちゃんと会えて・・・調子乗ってすみませんでした・・・」

「?」

 そういえば、ギルドにメルトさんの姿が見えないが怒って帰ってしまったのか?

「いえ、メルちゃんはちょっと嬉しそうでしたけど定時で帰っちゃいましたよ?」

「あぁ・・・そうなんですか」

「それはそうと、ショウさんももう帰りませんか?私も今日忙しくてお腹空いちゃって」

 すでに外は薄暗く、ふと窓の外を見れば家に帰る人も多い、そして帰る人の中には王都騎士団の人々も混じっていておそらく訓練終わりに一杯やるつもりなんだろう。

「もう仕事はほとんどありませんし、あとはガルシアさんに任せちゃいましょう」

「そうですか、なら帰りましょうか」

 まぁ、少しはあの不真面目な彼にはいい薬になるだろう。

「それに今日は特別なものを用意してるんです♡」

「と、特別な、物?」

 いや待て待て、なんかハートマークが見えるんですけどっ、てか書いてあるんですけどっ、なんだ特別なものってっ!

「これですっ!」

「・・・ん?」

 そう言われて見せられたのは拳ほどの大きさの原色の濃い青色と赤色の石だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「これはですねー、魔石というものです」

「魔石?」

 これはあれか、某パズルゲームでモンスター召喚に必要なアイテムだったり、某フォルテッシモゲームの魔物召喚に必要なアイテムとかの類っすか?

「魔石は主に地中深くにあるもので、魔力をたくさん蓄えている珍しい石なんですよ」

「ほぉ~・・・でも地中深くにあるのにどうやって採るんですか?」

「稀に地上に出てくるのもありますし、それに魔石鉱山に行けば採れますね」

 そんな話をしながら家路を歩く、月に照らされている彼女の表情はとても嬉しそうだ、にしてもそんなペンキ塗りたくったような石っころを何に使うんだ?

「これでですねー、お風呂が作れるんです!」

「お風呂?」

「まぁ、楽しみにしてくださいよっ!」

「はぁ~」

 この世界に来てからの入浴はどうしているのかというと、まぁよくあるネタで温めたお湯を使って体を布で拭うなどというのがあるが実はそうでもない。

 この町の中心に行くと源泉の湧き出る温泉があるのだ、そこでこの町の人々は風呂に浸かるのだが、それがあまり利用状況が良くない。

 その理由としてまず設備がボロい、湯量もそこそこあり地球の風呂屋に比べたらとても広いのだが何しろ脱衣所は掘建小屋でポロリや覗きどころの騒ぎではない、当然女性客などの足は遠のくのであって、そしてもう一つの理由として。

「あそこの温泉、何か住み着いているんですよねー・・・」

「あぁー・・・」

 そう、もう一つの理由として、そこの温泉には何かが住み着いているようで、そこで行方不明になった冒険者が数多くいるとか、現に俺とガルシアで初めて温泉に入った時には何かが足に当たったとガルシアが大騒ぎしここら辺一帯を焼き払うと言い出して暴れたのでもう二度とそこの温泉には入らないと心に決めたのである。

 ちなみに一回の入浴料は銅貨二枚とおよそ200円ほどで大変ぼったくりである。
 
 それで結局入浴手段が消え、たらいにお湯をためてタオルで体を拭うという事態になるのである・・・あれ、結局ネタ通りじゃね?

「そういえばショウさんの住んでいた場所には『コウシュウヨクジョウ』というところがあるんですよね?」

「えぇありますよ、よく覚えてますね」

 公衆浴場は日本の文化のように思えるが、某入浴タイムスリップ系漫画にあるように古代ローマにも公衆浴場は存在し数多くの遺跡が残されてる、その中にあるカラカラ浴場という公衆浴場は浴場以外にプールや図書室、果ては闘技場までといったもはやテーマパークのような設備だったとか。

「ショウさんはその『コウシュウヨクジョウ』というところに入ったことがるんですか?」

「えぇ、ありますよ」

「やっぱり、楽しいところでしたか?」

「う~ん・・・まぁ人によりけりですよね、でも僕は楽しいところだとは思ってましたよ」

「そうですか・・・」

 そんな他愛もな会話をしていくうちに林を抜け、開けたところに行くとそこにポツンとある家がリーフェさんの家だ、今まで家の外観などは触れなかったが、例えるならば大草原の小さな家というのがあっているのではないだろうか、見渡す限り草原だし、これといって目立つものなくただあるとすれば街にまで行くのに通る林くらいだろうか。

 スイスの民家みたいに木造で、全体的に優しい雰囲気があり、玄関に飾られたランプに魔力を少し流せば優しい光が出迎えてゆく、そんな優しい家だ。

「それで、その魔石をどう使うんですか?」

 家の中に入り、途中で買った食材や荷物及び装備を部屋に片付けた後、テーブルの上に置かれた魔石を眺めながらリーフェさんに問いかける。

「それじゃあ、早速裏庭に行きますか」

「?」

 そう言われて案内された裏庭だが、前述の通り、見渡す限り原っぱで庭というよりはもはや土地である、当然ながら温泉があるわけもなく、それを作るための穴もなくどうやって温泉を作るのかなどと頭にクエスチョンマークの花を咲かせていると。

『風の名の下、その尊厳をこの地に示せ、プレシオン』

 後ろから何かを唱えられたと思ったら、右腕に緑色のオーラをまとわせて地面突き出すリーフェさんの姿がある、そして突き出した右腕の先に視線を移すと。

 ググググググッッッ!

 ものすごい音を立てて淡い緑色の光を帯びた空気の球体の塊が地面に圧力をかけて地面にものすごい音を立ててめり込み始め、深さはちょうど俺の太ももあたり、約80センチあたりになった頃にその現象は止まった。

「フゥ~、まぁこんなものですかね」

「すごいですねリーフェさん」

「いえいえっ、これくらい緑色使いならみんなできますよっ!」

 そう言って手を顔の前で横に振る姿はどこか照れているような感じがする、それがいいっ!

「次にこれを使います」

「この青い魔石ですか?」

「はい、これは主に水に関係する魔力なので、純粋に水が出るようなイメージで魔力を通すとその通りになるんですよ」

 要するにだ、本人の魔力の色に関係なく、その魔石の中にある魔力の色を使うことでその魔術のイメージさえすればその魔力の色を使えるというわけだ。

「これをこの穴の中心に置いてきてもらえますか?」

「えぇ、いいですよ」

 そうリーフェさんに言われて穴の中に入るが、穴の壁は土を圧縮したかのように頑丈で仮に水を貯めても土に滲み出ることはないだろうと思う。

 そして青色の魔石を穴の中心に置いて出ようとするが。

「あっ、ショウさんはそこにいてもらって、その魔石に触れてもらえますか?」

「?、別に構いませんけど」
 
 そう言われるがままに魔石に触れてはみるものの特に何の変化は起きず、触りごごちは磨かれた宝石みたいにツルツルしていて、少しひんやりとしているというだけなんだが・・・

「触ったら魔力を魔石に流すようにして、頭の中に水が地面から湧くようなイメージを持ってこう唱えてください、『其の色は青、我が力にその片鱗を与え給え、スクリーベレ』」

「はい・・・え~っと『其の色は青、我が力にその片鱗を与え給え、スクリーベレ』」

 そう唱えた瞬間、触れていた魔石が淡く光ったと思ったら目の前で某人造ロボット漫画の第5使◯ばりの変形を見せ、そしてそのままドリル状になって地面に吸い込まれるようにして消えてしまった。

「え、え~とリーフェさん?これって成功ですk」

「ショウさんっ、早く上がってきてくださいっ!」

 リーフェさんが急かすように言うものだから急いで穴から出ると、先ほどラミ◯ルが消えた場所から水が湧き・・・いやこれ吹き出てね?

 いやいや確かに俺は水が湧き出るようにイメージしてたし、呪文みたいなもんだって初めてやってみたけど別に間違えなかったと思うし、魔力だってちゃんと・・・

 あっ

「あのぉ・・・すみませんリーフェさん?」

「ふぇっ!な、なんでしょう、ショウさん?」

「魔力の量って・・・どうすればよかったんですか?」

「ふ、普通は魔石にも魔力が多く含まれているのでそれほど必要はないのですが・・・もしかしてショウさん、何も考えずにやっちゃいました?」

「・・・やっちゃましたぁっ!すみませんでしたぁっ!」

 いやだってそんな話聞かせれてないしぃっ!てか初めてだしぃっ!人間誰だって初めての時なんか失敗はするじゃぁんっ!これ本当どうすんのっ!間欠泉並みの勢いなんだけどっ!

 すでに、大きな水柱となって吹き出している水量は温泉や風呂なんてレベルの問題ではなく、もはや災害レベルの勢いで水かさが増しシリーフェさんの作った穴に収まるわけもなく外にだだ漏れとなりこのままでは洪水が起きる、そう思った瞬間である。

『大気の天秤よ、風の名の下にその力を霧散せよ、カディーテッ!』

 リーフェさん呪文を唱え、緑色のオーラを纏わした両手を交差して振り払った瞬間、目の前で高々と上がっていた水柱に緑色の竜巻に覆われ水柱をことごとく細くし、一気に霧状になって消えてしまった。

「・・・フゥ~、これで大丈夫だとは思いますが、ショウさんっ!」

「は、はいぃっ!」

「私が説明してなかったのも悪いですけど、ショウさんは無色で魔力濃度無限の持ち主なんですから少し加減してあげないとそのうち事故を起こしちゃいますよっ!」

「すみません、これから気をつけます」

「本当に気をつけてくださいね・・・、もう一つの魔石は私がやるのでショウさんは割光石を三つ割ってきてください」

「はい、本当にすみませんでした」

 久しぶりにリーフェさんに怒られてしまったが、とにかく一大事にならなくてよかったと思う、そして俺は割光石を取りに家の中に入る。

 さて、割光石とは何かというとその名の通り、見た目はそこらへんに転がっているこぶし大ほどの石だが、ハンマーやそこらへんの地面に叩きつけて割ると、割った断面が光り出しやがて全体が明るく光るという魔術光の使えない屋外での唯一の光源である。
 
 光量自体は裸電球となんら変わりがないのだが、問題は割光石の大きさによって光っている時間に差ができることと、長時間使用していると熱を持ち始め火事を起こす危険性があることから、ギルドの決まりごとで森の中での割光石の使用は専用の容器に入れて持ち歩くことを義務付けられている、ちなみに容器はランプみたいな形をしている。

「フゥ・・・ハッ!」

 パカランッ!

 現在その割光石をパレットソードで一刀両断しているが自分の技量に一つ不満がある、それは斬りつけた際、斬った対象も一緒に飛んで行ってしまうことである、達人と呼ばれる剣豪は斬った対象は飛ばずにその場にとどまり一刀両断することができる、それは対象を斬った衝撃が無駄なく流れることで起きる現象であり、俺の親父はそれができたため密かに決めている目標でもある。

「さてこれをランプに入れてと・・・」

 手にしたランプは6個、片手に3個ずつ持って先ほどの裏庭に行くと図でに準備を終えたリーフェさんが額の汗をぬぐっていた。

「あっ、ショウさん、ありがとうございます、この穴の周りに4つほど置いていただけますか?」

「えぇ、大丈夫ですけど・・・リーフェさん大丈夫ですか?」

「・・・あぁ、大丈夫ですよ気にしないでください、久しぶりにあんな連続して魔術を使ったものですから」

「・・・すみません、無理をさせてしまって・・・」

 俺が相当沈んだ表情をしていたのだろう、リーフェさんも少しバツが悪い顔をしてると思ったがそれもつかの間、少し考えた後ハッとした表情でこちらを見るがその表情はいたずらっ子の表情だった。

「それではショウさん、魔術を使いすぎて疲れてしまった私にお風呂あがり合う、美味しい~ぃものを作ってくれたら許してあげなくもありませんよぉ?」

「・・・是非、作らせてください」

「楽しみにしてますねっ!」

 さて困ったことになった、この世界にない電化製品の一つに冷蔵庫がある。基本買った食料はその日のうちに食べてしまうか、日持ちがしやすいようにするための加工のだが基本うちには腹ペコエルフが控えているため少々多めに買った食料もすぐに消えるから別に保存に困ったことはないが、この家のエンゲル係数を測ったらとんでもないことになりそうだな。

 とにかく風呂上りに食べたいものと言ったら何か冷たいものだろう、だが前述通りこの世界に冷蔵庫は存在しない、さてどうしようものか・・・

「それではショウさん、お湯が良い温度になったので準備をしてください♪」

「はい・・・」

 少し重い足取りで、家の中へと向かい部屋から替えの服とタオルを取り出す、そして部屋を出て裏庭へと向かうと、完全に明るくなった割光石の明かりが闇の中に幻想的なひかり、ひかりに照らせれゆらゆらと湯気の立つ温泉、まさに理想的な温泉がそこに存在した。

「おぉ・・・それでは失礼して・・・」

 すでに服は家の裏で脱いで、入浴できる準備は整っている、後は足を湯の中に入れればパーフェクトゥッ!

「クッ・・・ハァ~」

 ・・・素晴らしい、湯の温度は少々熱めだが疲れた体にじわじわと広がるこの感覚は最高に気持ちいい、そして外にある上半身に夏の終わりと秋の始まりの風が吹き抜けそれがまたとても心地いい。

「おぉ~、星ってこんなに出てるものなんだなぁ・・・」

 ふと上を見れば、満天の星が夜空を覆い尽くしている、『まさに手に届きそうな』という表現をする詩人がいるが、まさに今それを体験するとは思わなかった、とにかく灯りの多い都会では決して見ることができない光景が目の前にある。

「お湯加減はどうですか?ショウさん」

「ん?いやぁ、最高ですよ」

「フフッ、それは良かったです」

 ふと後ろでリーフェさんが話しかける、ここに美人がいて混浴してくれたらという妄想をちょうどしていたところで少し気恥ずかしい。

「それでは私も失礼して・・・」

「そうですよね、すみません変な妄想をして失礼ですよ・・・うん?今なんて言っ・・・!」

 チャプン

 俺の背中の方でそんな音がする、いや待て待てっ!今絶対後ろを振り向くなっ、こんなのは俺の妄想にすぎんっ、あのリーフェさんが俺と混浴だとっ、HAHAッ俺の脳みそよバカも大概にしたまえ、とうとう聴覚機能もイカれちまったか。

「ショウさん・・・どうかしました?」

「いっ、いえっ・・・リーフェさんもしかして・・・今お湯に入ってます?」

「えっ、はい」

 ・・・まさにロボットの如くといったほうがいいだろう、錆び付いた首を懸命に後ろに回し後ろに視線をやることに全身全霊をかける。

「・・・ッ!」

「ショウさん顔が赤いですよ、もしかしてのぼせちゃいましたかぁ?」

 いや、これはある意味のぼせているだろう、普段は長い鮮やかな緑色の髪は頭の上で団子となり、とても216歳とは思えない白くきめ細やかな肌がほんのり赤く染まり、決してボリュームがあるわけではないがそれでもしっかりと女性らしさを強調する部位が水面下でもはっきりとわかり、そして下は・・・って!

「リッ、リッ、リッ、リーフェ=アルステインさんっ、タオルはどうしたんですかっ!」

「どうしたんですかって・・・タオルを湯船に持ってくるのはマナー違反ですよ?」
 
 ついついフルネームで呼んでしまったが、いやいや確かに湯船にタオルを持ち込むのはマナー違反だ、現に俺も持ち込んではいない旧日本スタイルでタオルは頭の上にあるだがっ!

「なんで男の人と一緒に入っているんですかっ!」

「だって、一緒に入った方が効率がいいじゃないですか、それにたまには人と一緒に入ってお話をするのも楽しいですし・・・まさかショウさんっ、私の体を見て興奮しちゃったんですかっ、あぁ・・・そんな家主に手を出すような変態さんだったなんて・・・」

「出しませんよっ!」

 そう言いながら頬を染め、胸の前で手を交差させる姿を見た俺は鼻の奥から何かが流れ出すのを必死にこらえるために空を見上げ耐えるしのぶ、こんなの反則だ・・・、親父っ、俺は今最高に幸せダァッ!

「・・・ショウさん、この町を出て行っちゃうんですか?」

「・・・ふぁっ、そんなふぁなしふぁれから?」

「ラルクさんから聞きましたよ、テントを張っている時にそんな話をしたって・・・」

「・・・そうですね」

 今まで上を見ていたが、少し真剣な話になったので顔を落とすがリーフェさんの表情は少しくらい。

「冒険者の拠点移動なんてよくあることです、ギルド職員としてそれをどうこういう問題ではないです、ですがその・・・寂しいと言うか、悲しいと言うか・・・こんな感情になったのは久しぶりで・・・」

「・・・」

「ショウさんがこれからどのような道を行くかはショウさん自身の問題ですし、私はそれを後押しするのが仕事です、でも何でこんな・・・」

「リーフェさん・・・」

「・・・フフッ、すみませんしんみりさせてしまって・・・」

「俺は・・・」

「・・・少し昔話をしてもいいですか?・・・」

「・・・はい」

 冷たい夜風が濡れた肌を冷やす、そしてポツリポツリとリーフェは語りだす。 
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