穢れによりて魔を祓う

ブリッジ林

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おまけ②

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 聖女ヒノエの部屋は狭い。
 狭くて寒々としているが、部屋いっぱいに彼女の匂いがして落ち着かない反面、妙に心が弾む。

 馬小屋よりも狭い部屋にはよく分からない物が並んでいる。
 布をかけた小さな机や、よく分からない箱状の物、箱状の物に至っては大小様々な物がいくつもある。
 一つひとつ説明をしてもらったが、自分の住む世界には無いが似たような用途の物がちらほら。

 冷蔵庫やらエアコンやらは自分の世界にもある。
 しかしパソコンやテレビは見た事が無いので興味津々になるのもしょうがないだろう。
 小さな机の中に足を入れれば温かく、もこもこした上着を借りて、映像を流すテレビを眺めるのは楽しかった。


「ヒノエさん、ヒノエさんレッドが、レッドが敵に!」

「レッドだってピンチになる事もあるよ」

「リーダーなのに! レッドが……!!」

「リーダーだって窮地に陥る事もあるよ」

「でもレッ、あっ、嘘だろ続きは!?」

「来週の日曜朝ですかね」

「来週って言うけどヒノエさんがこっちに居ないと時間進まないじゃないですか!!」

「そっちの世界が快適なんだよなぁ……」

 正義の味方のリーダーが窮地に陥ったところで映像が終わってしまい、続きを見たさにヒノエさんを見上げて非難する。
 2つの世界は同じ時間が流れているわけではないらしく、彼女の世界は彼女が居る時でないとまともに時間が進まないらしい。
 らしい、だ。 詳しいところは正直全く分かっていない。 
 まずこんな風に2つの世界を行き来するなんて事は歴史上でも無かった。

 ヒノエさんは俺の方の世界を気に入っているのか、滞在時間が長い。
 自由気ままに三食昼寝付きの自堕落フルコースだとか言っていたが、俺としては別に何の問題も感じていなかった。
 だが正義の味方の今後が気になるので、ずっと滞在されても困るなと言う気持ちはある。


「……ところでヒノエさん、何してるんですか?」

「あー? あー、鏡開きだったから」

「かがみびらき」

「王子も食う?」

 温かな机、こたつから這い出て小さなキッチンの前に立っているヒノエさんの傍らに移動する。
 ヒノエさんが混ぜている小鍋には、黒っぽい紫色の濁った液体がくつくつと煮られていて。

 食うかと聞かれたが食べ物の見た目をしていない。
 匂いは甘いが色が完全に毒だ。
 聖女が魔女のように毒を煮込んでるのか。 いや恐らく毒では無いんだろうけど。

 困惑しながら鍋を見下ろしていると、ヒノエさんが首をかしげる。
 かわいい。


「……なんですかこれ?」

「おしるこ」

「おしるこ」

「つぶあん苦手だからおしるこなんだよ」

「つぶあん」

「紫色の豆をな、煮込んで甘くしてあるんだよ」

「あ、豆由来なんですかこれ」

「皮付きのままが好きな人も居れば、皮が苦手な人も居るんだよ、私は苦手派」

「はあ、なるほど……毒か何かかと……」

「そっちじゃ台所で毒液煮込むのがポピュラーなの?」

「嫌な文化過ぎませんかそれは」

 どうやらこの紫の泥水めいた液体は、おしること言うちゃんとした甘いスープらしい。
 こっちの人間はよくこのビジュアルの物を口にしようと思ったな。

 ヒノエさんにそう告げると、日本人はもっとえげつないもん食ってるぞと半笑いで教えてくれた。
 そう言えば先日食べたすっぱいもずくと言う海藻もなかなかの見た目だった。
 どうやら日本人と言うのは何かとすごい物を食べているらしい。 こわい。

 鍋の火を弱めたヒノエさんが、丸い玉を潰したような白い何かを袋から出して、金属製の箱に入れている。
 かりかり、とつまみを調整すれば、低く唸るような音を立てながら箱の中が熱くなっていった。

 これは確かオーブントースター。
 小型でコンパクトな分離式のオーブンは便利そうなので、こちらでも採用したい。

 ちりちりとした熱を発するオーブントースターのガラスを眺めていると、徐々に中に仕舞われた白い物が蠢き出す。
 それを見ているのが楽しくて、腰を屈めたままじっと見つめてしまう。


「そういや王子」

「はい?」

「何でこっち来てんの?」

「勉強のためですね、あちらには無い文化や知識を取り入れて有効活用したいと言うのもありますし」

「まあこっちの発想は役に立つかもな、それとか」

「はい、オーブントースターはコンパクトで良いですね……電子レンジはちょっと難しいですけど……」

「電子レンジは正直私もよく分からん、再現出来んのかねそれ」

「まず電子レンジの電子ってなんですか?」

「なんかそういうやつだよ」

「なるほど」

 ヒノエさんもよく分かってないんだな。


「冷蔵庫とかは向こうにもあるんですけどね」

「原理は?」

「魔法をこう、こう」

「手をわちゃわちゃされても全然分からんけどファンタジックな原理なのは分かったわ」

「こっちは電力って言うのでほとんど賄ってるんですね……」

「ガスもあるよ」

「危なくないですか?」

「何にしろ使い方を間違えれば危ないもんだ」

「むう、それは確かに……」

 どんなものでも使い方を間違えれば危険か、それはその通りだ。
 だからこそ、向こうへ持ち帰る知識や発想も吟味しなければいけない。
 ヒノエさんはやっぱりかっこいいなぁ。

 視界に収めたままのオーブントースターの中で、白い物体がもこもこと、意思を持つように動く。
 まるで殻を破ろうとする雛が中に居るみたいで、オーブントースターは孵化器の役割でも果たすのだろうかと首を傾げる。

 ちん、と高い音を立ててオーブントースターの動きが止まった。
 ぱんぱんに膨らんだ卵っぽい何かは、表面がこんがりと狐色だ。 


「ん、焼けたか」

「ヒノエさん、これって何が孵るんですか?」

「え?」

「凄い動いてたんですけど」

「卵じゃなくて食べ物だよそれ」

「え」

「穀物由来の食べ物だよそれ」

 食べ物だった。


「…………食べ物なんですね」

「うんまあ、ちょっと気持ち悪い動きするもんな餅」

「意思を持ってるように見えました……」

「今度お好み焼きに鰹節かけてやるよ」

「おこのみやき」

「美味しいよ」

「食べます……」

 器に注がれたおしるこに、ぱんぱんに膨れた餅とやらを2つずつ入れる。
 それをこたつに並べてヒノエさんがこたつに入り、俺もその向かいへと入った。

 小さなこたつに二人分の脚を入れると、非常に窮屈だ。
 脚が触れ合うどころか、絡ませ合うような状態になってしまう。
 でも正直それがドキドキするし嬉しい。 ヒノエさんは邪魔そうにしているが、俺はすごくうれしい。 ドキドキする。
 だってヒノエさんの脚が俺の脚に乗ったり絡んだりしてるんだぞ。 ドキドキするだろ普通。

 ドキドキついでに思い出すが、あの約束は未だに果たされていないし、俺が必死にアプローチしたってヒノエさんは冷たくあしらうか半笑いで流してしまう。
 それもこれも、俺が物理的な童貞を捨てたのに魂に童貞を持ったままなのがいけない。
 でもしょうがないだろう、こちとら成人するまで童貞だったんだ上に、意識の無い状態で童貞を捨てた。 おかげで心は今でも童貞だ。
 王子で勇者が約束されていたものだから、ベッドの上でのあれそれを座学で学んでも心は追いつきはしない。
 簡単に言うと、俺は今まで恋愛なんかをする暇すら無かった。 つまりヒノエさんが初恋だ。

 そう、初恋。
 恐らくこれは初恋。

 俺がなぜどうしてヒノエさんに恋をしたのかは自分でもよく分からない。
 クソチョロだと自覚はしているが、俺のあらゆる初めてを散々に奪っていったヒノエさんに胸がキュッとしてしまったんだ。
 ストレスによるものだと思っていたがどうやら違うらしい。 いつどうやってストレス性の痛みが恋になったのかは俺にもわからない。

 でも、ヒノエさんがしょうがねえなあって笑う顔が好きだ。
 普段はすげないくせに、俺が泣いたりすると困ったように頭を撫でてくれるところも好き。
 俺がどんなにヘタレていても、何だかんだで見捨てず構ってくれるところも好き。
 あと意外と胸が大きいところも好き。
 ギュッてして貰うと抱き心地が良い。 やわらかい。

 だからこそ、あのがっかり極まりない脱童貞イベントをやり直すためにアプローチを繰り返してはいるのだが、俺には恋愛と言うスキルがまるで無い。
 ヒノエさんが相手となると恥ずかしくてどうしようもない。 でも好きだから頑張るんだけど未だに自分からは頬にキスしか出来ていない。
 せめて自分からもうちょっと積極的に何か出来たら良いのにな。 でもな。 ヒノエさんが相手だと恥ずかしいんだよな。

 試しに友人を相手に喋る練習をした事もあるが、その時は何の問題もなくすらすらと愛の言葉を吐き出せた。
 友人は気持ち悪いと一蹴してきたが、さっさと童貞捨てて遊んでる奴なので肩を殴って黙らせた。
 しかし同じ言葉をヒノエさんに言おうとしても、喉に詰まって出てこない。
 恥ずかしくて恥ずかしくて最初の一言以降が出てきそうにない。

 どうすればもっと男らしくなれるんだろう。
 ヒノエさんに信頼されるような、ときめいて貰えるような立派な男になりたい。

 ちら、とヒノエさんの顔を盗み見る。
 いつもと変わらない平静そのものの表情で、もちもちとおしるこの中の餅を食べている。
 頬が小動物みたいにもこもこ膨らんでいる。 かわいい。


「おしるこ冷めるぞ」

「あ、はい」

「箸持つの上手くなったよな王子」

「物覚え自体は良いんですよ俺」

 ふふんと胸を張りながら、お箸で餅をつつく。
 そう、俺は物覚えは良いんだ。 応用は苦手だけど。

 毒の泥水に見えるスープをすすってみると、甘くてまろやかな味わいが口に広がる。
 豆特有の風味と、独特の味わいは思っていたよりも優しくて舌に馴染む。

 ふやけた餅を口に運んでみると、弾力のある不思議な触感。
 スープの甘さをまとわせた、むにむにとよく伸びるそれを頬張りよく噛んで飲み込む。
 歯切れの悪さと弾力は、うっかりすると喉に詰まりそうだが、美味しい。


「どうだ王子、雑に作ったけど」

「おいひいです」

「そうかそうか」

「むぐ、んぐぐ、ぐ、……思ったより素朴な味ですね」

「豆と水と砂糖しか入ってないしな、砂糖控えめだし」

「なるほど……むぐむぐ……」

「喉詰めんなよー」

「んい」

「はは、飲み込んでから喋れ」

 まるで父親のようにヒノエさんは笑う。
 俺の親父はこんな風に笑った事なんて無いのに。

 珍しく父親が作った手料理を頬張っているような気分と、好きな女の人と二人きりでドキドキしている気分が同時に襲い来る。
 どう考えても同時に襲い来るようなものでは無いが、実際に襲ってきてるからしょうがない。

 それに、そんなどっしりしていて包容力のあるヒノエさんが好きだ。
 外見は小柄な女性だと言うのに、本当に男らしい。
 こちらの文化で言うところのパパみがある。
 と、当人に言うと流石に怒られたが。
 王子がパパみとか言うなとか、女に対してパパみは無いだろうとか、渋い顔で怒られるのもまたちょっと嬉しかったりする。 そういう性癖では決して無いが。


 おしるこを食べ終わったヒノエさんが、ごろんと横になる。
 物思いに耽っていた俺が慌てて少し冷めたおしるこを食べきる頃には、ヒノエさんはすうすうと寝息を立ててしまっていた。

 ごちそうさまでしたと静かに告げて、そっと二人分の器をキッチンで洗う。
 上下水道が完備されているのは素晴らしいなあ、向こうでももっと発展させよう。
 王子が皿洗いをするなとも言われたが、俺だってヒノエさんに何かをしたい。
 向こうじゃヒノエさんは救世の聖女だから何もしなくても良いが、俺はこっちでは勇者でも王子でもない。
 だからこちらで受けた恩はちゃんと返したいんだ。 まあそう言ったらヒノエさんが頭をわっしわっししてくれたのが嬉しかったんだけど。 

 もはや慣れた手付きで食器を洗い終わり、手を拭いてからヒノエさんを恐る恐る抱き上げる。
 こっちよりも、俺の世界の方が寝るには快適だろう。 こっちは少し寒い。

 ヒノエさんを抱えたままクローゼットの中に入り、服やら何やらの隙間を通って最奥にかけられた大きなカーテンを抜ける。
 さすがに開けっ放しは良くないと言う事で、転移門ゲートには急遽カーテンをかける事にした。
 なのでヒノエさんはたまにカーテンの向こう側に上半身を突っ込んで、ワイファイとやらを受信している事がある。 ワイファイの説明はまだ聞いてない。

 聖女の間に戻った俺は、ベッドにヒノエさんを下ろす。
 小柄だが羽のように軽いと言うわけでもない、この現実感のある重みが好きだ。

 横たわる身体に掛布をかぶせて、ベッドに腰掛けてすやすやと眠る妙齢の女性を見下ろす。
 際立った美人と言うわけではない。 愛嬌のあるタイプでも無い。
 童顔で少しだけ目付きが悪い、不遜な彼女もこうして眠っていると、どことなくあどけない少女のように感じられる。
 普段はパパみのある不思議と頼れる女性だと言うのに寝てる時は少女っぽく感じる。 お得感が強すぎる。

 まあ顔とかどうでも良いんだけど。 かわいいし。
 ヒノエさんは俺にとってはかっこよくてかわいいからそれで良い。
 どこがと問われてもそんなものは知らん。 ぜんぶ。 だからそれで良いんだ。


 まさか俺がこんな事になるなんてなぁ、と少し笑ってしまう。
 聞き流してきた彼女持ちや妻帯者の惚気の理由が今なら分かる。 相手が何をしてても好きに着地する。 こわい。

 手を伸ばして前髪を横へと流してやり、白い頬をこわごわと指先で撫でる。
 ほっぺやわらかい。 すき。 元から高くはないと自覚してる知能指数が急降下する。
 ヒノエさんと出会ってからと言うもの、周囲から向けられる視線は以前にも増して残念なものを見る目になっているが、そんな事はどうでも良い。
 どうせあいつら最初から残念な王子として俺を見てきたんだ、今更残念さが増したって大差無いだろ。

 ぷにぷに、と頬を指でつつく。
 そう言えば、俺の脱童貞イベントは逆のポジションだったな。
 眠った俺にヒノエさんが頑張ってくれた、哀しい情けないどうしようもないイベントだった。 来年は国を挙げて盛大に祝われるある意味呪われた日でもある。
 とは思うが、まさか泣き疲れて眠ってる間に済むと思ってなかったが、今思うとありがたかったかもしれない。 
 我ながら、このヘタレ倒している自分の様子だといつまで経っても勇者になれなかった気がする。
 だからこそ、さっさと勇者を生み出したヒノエさんは本当に救世の聖女だ。
 ヘタレてる俺を問答無用で勇者にしてくれたんだから、ヒノエさんには頭が上がらない。
 そのお礼をちゃんとしたいな。 未だに三食昼寝付きの生活で十分だとお礼らしいお礼を受け取ってはくれないし。

 何かお返しをしたい。
 お返しを。

 あっお返し。


「……ちょっとくらい、良いよな……?」

 むく、と首をもたげるいたずら心。
 脱童貞のお返しに、ちょっとくらい何かしてみても許されるのではないか。
 ヒノエさんの寝顔をまじまじと見つめてから、周囲に誰も居ない事を確認する。
 もちろんメイドは隣室に控えているため部屋には俺とヒノエさん以外は居らず、俺は再びヒノエさんを見下ろして喉を鳴らす。
 別にそんないかがわしい事をするつもりはない。 ただちょっと、ちょっとだけ。

 眠るヒノエさんに横から覆いかぶさるように、顔を近付ける。
 そして、頬に唇を押し付けた。


「…………」

 あれ。

「…………?」

 思ったより、恥ずかしくない。
 前にした時は恥ずかしくて爆発しそうだったのに、今はそんなに恥ずかしさを感じない。
 おかしいな、と首を傾げてもう一度頬にキスをするも、やっぱりいたたまれなくてのたうち回りそうな羞恥心は沸き起こらない。
 もしかしてヒノエさんに見られながらするのが恥ずかしいんだろうか。 ふにふにとヒノエさんの唇を指先でつつきながら考える。
 いやそれはそれで俺のヘタレ度が異常な気もするが、それでも羞恥心に殺されずに何かを出来るのは良い事のはずだ。
 ちゅ、と唇に唇を重ねてみれば、さすがにちょっと恥ずかしいが、それよりも謎の多幸感が俺を包む。
 ついばむみたいに何度も唇を重ねてみても全身を覆う多幸感が増すだけだ。 聖女は危険薬物か何かか。

 そうなると、どこまですれば俺が恥ずかしさに死なずに済むのかが気になる。
 しかし寝てる婦女子に対してこれ以上の狼藉が許されるのだろうか。
 いやきっとヒノエさんは許してくれるけど。 『何してんだ王子』と半眼で俺を見上げるだけだと思う。
 その目もちょっとドキドキするけど俺は別にちょっとヤバげな性癖の持ち主ではない。 最近言語野がヒノエさんに毒されてきた気がする。

 ちら、とヒノエさんの身体を見て、掛布をめくる。
 だらしのない事に、聖女のためにと設えられた白い寝間着を着たまま一日を過ごすので、今現在も昨日も一昨日も白いワンピース型の寝間着を着ている。
 その柔らかな布地を押し上げる2つの膨らみは、重力に従って柔らかく横へ少し流れているが、それでもしっかりと主張していた。 どうやら向こうで言うところのノーブラ状態らしい。
 起きていないかと顔へ視線をやり、すやすやと寝息を立てている事を確認してから再び胸へと視線を戻す。

 そして恐る恐る手を伸ばし、膨らみに手を乗せた。
 手のひらに伝わるふわふわした柔らかな脂肪。
 ぎこちない動きで、横へ流れる膨らみを元の形に戻すように、下から両手で支える。
 相変わらず意外と大きい胸が本来の存在感を発揮させ、俺の手と目に熱を含んだ情報を叩き込む。
 やわやわ、ふにふに、指先を動かせば手から全身へと伝わる多幸感。 何だこの多幸感は。
 手に広がる柔らかさも、俺の手によって形を変える姿も、目がくらむほどの多幸感を与えてくる。

 やっぱりヒノエさんは危険薬物なのではないか、と懸念しながらふにふにと優しく胸を揉む。 手が止まりそうにない。 
 座学では乱暴に揉めば痛いだけだと言われていた、人によるだろうが確かこう、根本から優しく絞るように。
 ふにふに、きゅむきゅむ、ふにふに、きゅむきゅむ。 両手で柔らかさを満喫する。
 ヒノエさんの顔を盗み見ると、変わらず寝息を立てているため、痛みは感じていないらしい。
 少し安堵していると、乳房の先端にうっすらと小さな突起が自己主張を始めていた。
 それが妙に気恥ずかしくて、それでいて妙に満足感があって。 どうしよう俺がちょっと興奮してきた。 

 胸を支えていた親指をずらし、先端を指の腹ですりすりと撫でる。 
 ぴくんとヒノエさんの身体が震えると、胸がふるっと揺れた。
 指の側面で弾くようにして撫でていると、見て分かるように先端は反応して膨らむ。
 あっどうしよう。 どうしようドキドキしてきた。 俺の手でヒノエさんの身体が反応してるのすごいうれしい。
 どうしようつまんでみて良いのかな。 でもさすがに起きちゃうかな。 いやでも主張してるの見るとつまみたくなる。
 ちょっとだけ、ちょっとだけだから、と自分に言い訳とも言い聞かせともつかない言葉を繰り返しながら、出来るだけ優しくそれをつまむ。

 まだ柔らかいが、それでも芯のあるような感触。
 くにくにと確かめるように指を動かしていると、そこは徐々に固くなる。
 そっと指をどけてみれば、すっかりぴんと立ち上がったそれが布を押し上げていた。
 どうしよう、どうしようこれ。 普通に興奮してきた。 もう何かすごいもっと揉みたい。
 指先で引っ掻いてみるとヒノエさんの身体がぴくんと震える。 もう一度引っ掻くとまた震える。 痛そうな様子は無いので、これもしかしてちゃんと気持ち良い感じになってくれてるんだろうか。
 人って寝てても気持ち良くなるんだな、と思ったけど俺も寝ながら普通に勃起してたみたいだし寝てても気持ち良くなるんだろう。 生き証人だったよ俺。
 ああでも、これちょっと、嬉しいわこれ。 多幸感と興奮がひどい事になってきた。 興奮剤でもあるのかこの危険薬物。

 手のひらで乳房の柔らかさを感じながら、指先でやや強めにその先端をつまむ。
 すっかり固くなったそれをこりこり抓ったり捻ったりしていると、ヒノエさんの身体が少しこわばる。


(どうしよう……さっきからどうしようしか出てこない……)

「ん……」

「!?」

 ヒノエさんの口から小さな呻きが洩れて、俺はビクッと肩を跳ねさせて顔を上げる。
 仰向けに寝転がり、シーツを握っているヒノエさんは、まだ寝ているらしい。
 えっじゃあ今のは何だ、アレか、アレか。 あのあれ、あの、声がこう、アレか。
 どうしよう。 何度目のどうしようだこれ。 分からないけどゾクゾクしてきた。

 きゅう、とつまむ指に力を込める。
 するとヒノエさんは唇の隙間から吐息を洩らす。
 そのままぐりぐりと抓ってみる。
 ヒノエさんの口から熱っぽい掠れた呻きが洩れる。

 どうしよう────。

 どうしようもクソも無い。 次第に内腿をすり合わせるように身じろぐ様を見ておいて、ここで止めるわけにもいかない。
 悩ましげな熱のこもった吐息がゾクゾクする。 手の中で熱くなる胸の感触にドキドキする。
 ずっと続けていては腫れてしまいそうだが、それでも手を止める事が出来ない。
 少しの間そうやって胸への刺激を続けてから、ぎゅう、と強く先端を抓り上げた。
 びくん、と小柄な身体が跳ねてから、強張っていた身体が徐々に弛緩する。

 あっこれ、ちょっとイ、あの、アレだ。
 うわ。 どうしよ。
 俺の股間で元気いっぱいになってる俺をどうしよう。

 寝てる好きな人の胸を散々弄り倒して甘イキさせるとか王子とか勇者とか関係なく最低だ。
 最低だけどまだ冷静になる時間じゃない。 俺はさっきから下の方から微かに聞こえていた粘着質な音に気付いていた。
 もはや冷静な判断なぞ出来ようはずもない非童貞の童貞は、ためらいがちに掛布をどけて、ヒノエさんの寝間着の裾を持ち上げる。
 細くも太くもない脚が見えるが、そのまま更に持ち上げる。 白い下着に包まれたそこがあらわになると、もどかしそうに閉じられている脚に手をかけて開かせた。
 薄っすらと湿っているそこを指先でつついて、撫でて。 上から指を滑り込ませる。
 すべすべした手触りから柔らかな割れ目に辿り着き、そこに指先を埋めるようにして更に進めると、指を熱くぬめる感触が包んだ。
 その粘液と粘膜を確かめるみたいに撫でてから、つぷ、と中指の先を狭い孔へと差し込む。 外から触れるよりもずっと熱い柔らかく窮屈な内壁に、俺は口に溜まった唾液を飲み下す。

 すごい、座学で学んだ通りだ。
 初実技ががっかり極まっていたから座学なんか何の役にも立たねえと思ってたが、ちゃんと役に立つんだアレ。
 ちゃんと濡れるんだ、ちゃんと学んだ通りにすれば円滑なベッド事情が出来るんだ。 すごい。
 あと何ですべすべなんだろう。 いや肌質ではなくて、何で生えてないんだろう。 ヒノエさん無毛なんだけど何で。
 よくわかんないけどすごい。 すごいけど俺の股間もすごい事になってきた。 痛い。

 もはや恥やら照れよりも、熱の上りきった頭には理性はほとんど無いように感じられる。
 熱くぼんやりとした思考の中で、ただ目の前の好きな人の身体を痛み無く蹂躙する方法しか考えられない。
 打てば響くように俺の手によって反応するヒノエさんは、いつものような妙に逞しくてどことなく不遜な聖女では無かった。
 無抵抗に横たわり、俺から与えられる感覚に夢の中で震える一人の女。 その姿が普段のヒノエさんから乖離していて、どうしようもなく興奮する。
 どうやら俺は変態だったらしい。 王子なのに。

 中へ差し込んだ指を動かせば、くちくちと粘着質な音がする。
 更に奥へと進めてみても、さしたる抵抗もなく指はずぶずぶと肉に包まれてゆく。
 痛いほど締め付けると言うわけではないが窮屈で、指の動き一つに対してその内壁は蠢き締め付けてくる。
 肉の隙間を広げるように内壁を撫で回し、柔らかくなってきた辺りで指を増やして上側の内壁を曲げた指で押し上げる。 びくんと跳ねる身体と、んう、と洩れる声が心地いい。 俺は聖女の身体を甘ったるく蹂躙しているんだと思うと、妙な優越感がこみ上げてくる。
 だからその優越感のままに、手首を動かして浅い肉の壁を抉った。
 大きく開かれた脚の間から、ぐちぐちと粘膜の掻き混ぜられる音がする。

 シーツを蹴るつま先がかわいい。 引きつる内腿や蠢く薄い腹がかわいい。 呼吸により大きく動く胸が、眉根を寄せて頬を赤く染める寝顔がかわいい。
 ヒノエさんはかわいい。 今はかっこよくはない、ただかわいい。
 薄く開かれた口、その下唇を舐めてから重ねる。 ちゅっちゅちゅっちゅと執拗に唇を食んでいても、肉を抉る動きは止めない。
 次第に水っぽい音は大きくなり、開かれていた脚を閉じようと力が込められる。 唇を解放して顔を離し、脚を押さえながら手の動きを早めた。
 先程よりも強く締め付け、ひくつきながら痙攣するみたいに指を咥え込んでいる。 その内壁の動きからして、そろそろの筈だ。 そう教わった。

 そう、そろそろ。 と肉壁を強く引っ掻くと、ヒノエさんの身体が大きく跳ねた。
 同時に、ぱしゃっと温かな体液が中から溢れ出したところで、俺は指を引き抜く。
 びちゃびちゃになった手と、色のない液体によって染みを作るシーツ。
 ちゃんと教わった通りに出来るものだな、とやり遂げた気持ちになった。

 あー。
 何度目のどうしよう。

 荒く息をするヒノエさんの顔は真っ赤になっていて、それでも閉じられた瞼が開くことはない。
 濡れた肌着を脱がせてしまうと、ぬるつく液体を零しながらひくひくと震えているそこが見える。
 そして俺の股間にはもはや普通に痛い状態にまで腫れ上がった俺の俺。

 最低だよな俺。
 好きな人の寝込みを襲って、好き勝手して。
 それでも俺は確信しているんだ。
 俺がどんなに馬鹿な事をしても、情けない最低な事をしても、ヒノエさんは俺を見捨てない。
 ヒノエさんは絶対に俺を嫌わない、失望しても俺を見捨てない。 馬鹿かお前はと呆れた顔で叱ってくれる。
 何だったら『ついにやったのかよ、やるじゃん』と褒めてくれそうですらある。

 だから俺はヒノエさんの脚の間に移動して、下履きをまとめて下ろして、もうほんの少しの刺激でも暴発してしまいそうなそれをあてがってしまう。
 しっかりほぐれて熱くぬめる柔らかな肉の間に、情けないほどに固くなったそれを、ゆっくりと押し込んだ。
 ぬちぬちと浅いところを軽く往復してから、奥へ奥へと押し込む。窮屈な肉をかき分けて押し込まれたそれに、熱くて柔らかくてぎゅうぎゅうと締め付ける感触がまとわりついて腰が抜けそうになる。
 下半身から腰へ上る圧倒的な快感は思っていたよりも強く、それでいて包み込むような温かな安心感が俺の頭を溶かしていく。
 ああこれは、これは、ちょっとやばい。 ゾクゾクとした心地好さが背中を走って、思考を塗りつぶしてゆく。
 腰が抜けそうだけど、あっと言う間に暴発してしまいそうだけど、もっと欲しい。
 ゆっくり事を運ぼうとしていたにもかかわらず、自然と腰の動きが早まる。 粘膜と粘液ともうよくわからないぬめった水音が繋がるそこからぐちゃぐちゃになって聞こえてくる。

 ベッドに突いていた手で、ヒノエさんの身体を抱え込む。 シーツを握りしめて、突き上げる度に衝撃によって口から声が洩れている。
 さらさらの黒髪の感触を感じながら、かき抱いた小さな身体を揺さぶる。 布越しに感じる柔らかなそれが、たまらなく心地好い。
 ぎゅう、とヒノエさんの脚が俺の身体を挟み込む。 恐らく無意識の事なんだろうけど、それが嬉しくて、胸の奥が締め付けられて。


「ッヒノエ、さ、ヒノエさん……ッ!!」

「っ……は、……ッ!」

「すみま、っせ、俺、……っ俺、も……ごめんなさい……ごめんなさい……ッ!!」

「ッ……!!」

 いともたやすく上り詰めてしまった俺は、ヒノエさんの身体を開放すると、腰を掴んで一番奥を強く抉った。
 そしてそのまま、どぷどぷと勢い良く暴発、もとい流し込む。 同時にヒノエさんの喉から引きつれた悲鳴ともつかない声がこぼれて、俺から全て搾り取るように体内が強く締め付けてくる。
 ぎゅううう、と搾り上げていたそこが、ひくつきながら徐々に弛緩すると、俺は乱れた息を整えながらヒノエさんの中から力の抜けたそれを引きずり出す。
 ずる、と中から抜くと、白い精液がこぽこぽ溢れ出してシーツを汚す。


「はー……はー…………すみません……ヒノエさん……」

 一回出したからか、少し冷静になった頭が口から謝罪を押し出す。
 ほんと何してんだろ俺。 寝込み襲って中出しとか最低どころじゃないぞ。

 早く避妊薬と、あと身体をちゃんと綺麗にしないと。
 ああでもすごい、すごかった。 すごいすごかった。
 何だこの充足感は。 多幸感と充足感って絶対に危険薬物だよ。

「ほんと……すみません……ごめんなさい……」

「すげーな……」

「え」

 え?


「準備するとちゃんと気持ち良くなるもんだな」

「え、ぁ、ひの、え? え??」

「いやイケるもんなんだな、二重の意味で」

「ひ、え、ちょ待、え??」

 え??

「起き、ぇ、起き? て? え??」

「起きてたよ」

「い、いつ、いつか、え、いつから?」

「『ちょっとくらい良いよな』から」

「最初じゃないですかぁ!!!?」

 うそだろ。


「うんまあ、別に熟睡してなかったしな」

「言って下さいよ!! 言って下さいよ!!! 起きてるなら!!!!」

「放置したらどうなるか気になったもんだからつい、いやー姫初めにはちょっと遅いけど頑張ったな王子」

「も、ちょ、……やだもう……やだ…………やだ……」

「寝込みセックスした本人が何で落ち込んでんのか全然わかんねえな」

「だって、も……だってぇ……もうやだ……ごめんなさい……ゆるしてください……」

「いや怒ってないけど」

 やっぱり怒らない。


「いやーでもびっくりしたわ、内臓抉っても痛くないのな」

「内……あっもしかして、前に言ってた内臓って……」

「そうそう、あの時まったくもって気持ち良くなかったわ、作業だったし」

「…………気持ち良く、なれました……?」

「うん」

「…………」

「どうした王子、にやけてるぞ」

「すみません……」

「いや良いけど……」

「……ヒノエさん、あの……俺あの……責任とか、取りますから……」

「慰謝料とか?」

「えっいや、あの、慰謝料のが良いです……?」

「何でも良いけど、責任取りたいのこっちだし」

「あ……じゃあ、その…………俺と……その……」

「王子」

「はい?」

「キスしてみろ」

「え」

 ほれ、と身体を起こしたヒノエさんが目を閉じて顎をしゃくる。
 突然言われて驚いたが、言われた通りに顔を近づけてみる。

 が。


「…………」

「……」

「………………」

「しろよ」

 出来ない。

 首から上が熱い。
 恥ずかしい。
 全然出来ない。

 えっどうした、あれだけの事をしておいて何で出来ないんだ。
 何でめちゃくちゃ恥ずかしいんだ。 何でだよ出来るだろ。 しただろ。
 いやでも出来ない、目の前がにじんで歪む。 動けそうにない。


「出来るようになったら考えてやるよ」

「…………はひ……」

 予想通りだったらしく、ヒノエさんは眉を寄せて笑う。
 俺は悔しいとかそう言う感情すら湧いてこず、ただただ情けなさにベッドに突っ伏した。

 そんな俺の頭をわしわしと撫でてくれるヒノエさんは、もうかわいい状態ではなく、いつものヒノエさんに戻っていて。
 情けなさにまた涙がにじみ出る俺は、それでも、また寝てる間に練習しようと心に決めた。


 なおその後、後始末と避妊薬を与えにきたメイドによって、ろくでもない俺の情報が拡散されたのは言うまでもなかった。


おしまい。


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