魔王様を拾ったのは

恵葉

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幽閉2

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幽閉二日目、朝の5時に起こされた。
着替えがないので、夜はスーツは脱いで、シースルーブラウスのみで寝ている。
なのにいきなりドアがバタンと開けられ、ベッドから引き摺りだされる。
慌てて毛布を身体に巻き付けるも、早くしろと怒鳴られ、容赦が無い。
しかも好き好んでこんな色気を全面的に出した格好で寝ていたわけではないのに、凄い嫌悪感丸出しの表情で見られました。
まるで汚いものでも見るような目で。

慌ててスカートを着て、ジャケットを羽織り、ジャケットのやたらと多いボタンを留めながら、騎士さまたちを追い掛けました。
今日も井戸で水を汲み、大きな木のバケツに入れ、必死で持ち上げ、運びました。
逃げ出すチャンスも無いし、そもそも逃げたら私が悪いって言っているようなものなので、大人しく言われるがまま。

心が折れそうになりながら、五階まで上がりました。
そもそも私がこの世界へ来たかったわけじゃないし、無理矢理連れてこられて、何で偽物だか魔族だか言われて、幽閉されなくちゃいけないの?
余りにも理不尽だよ…。
しかも汚いものを見るような目で見られて、朝だってあんな人権も無いような酷い扱いで起こされて…。
そんな事を考えながら、重いものを運んですっかり上がった息を整えておりました。

「飯だ…さっさと食べろ!」
今日も変わらずパンとスープだけです。
何だかもう食欲も無くなってきました。

騎士さまたちが居なくなると、また、私の守護龍が姿を現しました。
「あなた、名前は何て言うの?」
『名前?無いよ。ノエルが付けてよ。』
「付けて良いの?じゃあねぇ…ロン…。」
『待て待て待て!それ、龍にドラゴンって名付けるのと同じでしょ?!』
「じゃあロニーは?」
『…ロンで良いよ…。』
「それはそうと、あんまり美味しくないけど、パンとスープ、食べる?」
『ノエルは食べないのか?』
「朝からね…」
半泣きで朝から全裸に近い状態でベッドから引っ張り出された事を話しました。
『彼奴ら…どうしようもないな…。
でも心配するな!俺が付いてる!
ちょっと今から出掛けてくるけど、裁判前に戻れるか、分からないけど、とにかく大丈夫だから!
気をしっかり持てよ!』
そう言ってロンは消えました。

パンは…食べる気にならなくて、小さく千切って、ベランダの手すりに並べました。
そしてライティングデスクの椅子に座り、ボーッと見ていると、鳥がやってきました。
鳩より少し大きいくらいの、鷹でした。
鷹は私の顔をジッと見つめてきました。
やがて、部屋の中に入ってきました。
見ていると、ライティングデスクの上までやってきました。
何と!鷹が喋りました。
「何故いつまでもこんなところに居るのだ?」
「…え?喋った?」
「何故逃げない?」
「…今逃げたら、私が悪いって認めるようなものじゃない?」
「でも有罪にされたら無意味だろう?」
「…そうね…。考えてみるわ…。それであなたは誰なの?」
「誰だと思う?」
「…私には鷹に見えるけど…でも私の知っている鷹は人の言葉は喋らないし…分からないわ…。」
「…私は龍神に仕えるものだ…。」
そういうと、鷹は人の姿に変わりました。
長い明るい茶色の髪を後ろで束ね、目は鋭いオニキスのような黒、背が高く、異国風の服を着て…ってここはそもそも異国だわ…とても背の高い男性…。
「龍神に仕えるという事は、あの白龍のロンに仕えているの?」
「そうだ…。」
「ではロンに言われて、ここへ来たの?」
「それは違う…。私は数年前、好奇心からお前の居る世界へ行ってしまった。
そして怪我をして飛べなくなり、山で思案していたところ、お前の祖父に助けられた。
その時にお前にも一度、会っている…と言ってもお前はまだ子供だったがな。
白龍様は、自由に動き回る方なので、あの方がお前に加護を与えたのはまだ誰にも知られてはいなかった。
私はお前の気配を察知し、しかもそこには白龍様の気配も感じ、様子を見にやってきたのだ。」
「つまりは、ロンは自由に動き回るので、配下の皆様も、ロンの居場所とかそんなの知らないって事?」
「知らぬな…。」
「別にロンに言われたわけではなく、祖父に助けられたから様子を見に来てくれたと…そういう事?」
「だな…。」
「そうか…ありがとう…。でも私、逃げようにもそれほどの手段を持っていないんだよね…。
それに逃げた後、どうするのかというのもね…。ねぇ…あなたが祖父に助けられたとき、あっちの世界に居たという事よね?
どうやってあっちの世界へ行ったの?そしてどうやってこちらへ帰ってきたの?」
「…時々ゲートが開くんだ…。」
「え?!じゃあそのゲートが開くときに、ゲートを潜れば帰れる?」
「いや…ここ十数年、そのゲートは何故か開かなくなった…。」
「…そのゲートって、あちらの世界では、どの辺にあったの?」
「お前の祖父の家から、山を幾つか超えたところの山の頂上の穴の中だ…。」
「…多分、向こう側のゲート、壊れているかも…。十数年でしょ…山の頂上の穴の中でしょ?
それ…火山の噴火口だわ、多分…。十数年前、噴火した…。」
「…。じゃあもうお前の祖父に会いには行けないのか?」
「そうそう!怪我が治って、帰した後も、毎年その頃になると、来ていたんだってね…。
そうか、来なくなったのは、来られなくなったんだ…。
おじいちゃん…もう亡くなったよ…数年前に…だからもう会えないよ…。」
「…そうか…亡くなったのか…。犬はどうした?可愛がっていた犬が居ただろ?」
「あの子もおじいちゃんが亡くなる少し前に、病気で亡くなったよ…。」
「…そうか…。もう会えないのか…。それが分かっただけでもお前に会えて良かった…。」
そう言って再び鷹の姿に戻り、飛んで行ってしまった。

そうか…私は元の世界へ戻るのは困難なんだ…。

ん?その前に、あの鷹、私を置いて行っちゃったよ。
おじいちゃんに恩があるなら、私を助けてくれても良いのにねぇ。
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