貴方なんか大嫌いです。

雪戸紬糸

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ウェーブ

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「ほかの事務員にもいろいろ聞いた、辛かったな」
ひなのがふ、と顔をあげると、
「ヒアリングしたんだよ。心配するな」
心配そうにのぞき込む部長の顔。
いつものビシッとした表情じゃない。へなちょこみたい。
「ふふ」
「どうした」
「なんか部長が可愛くて」
「笑う元気があるんだな、ほっとした」
「部長の前でだけですよ」
部長はハンカチをポケットにしまいながら、
「近日中には、葵も杉野もびっくりするほど優しくなるだろうから、安心して会社にこいよ」
部長はそういうと、会議室を出ていった。
なんだろう、言葉足りずというかなんというか。

数日が立った。
本当に、杉野係長も葵さんもびっくりするほど優しくなった。
どういうわけなんだろう。

ひさしぶりにコンビニにでも行ってみようかな。
会って話したいし。
デートの誘いは恥ずかしくてできないし。
こんなの付き合ってるっていうのかな。

コンビニの近くまで足を運んだ。
二度見する。
どうやらベンチに、部長と女性がふたりで座っている。
髪にウェーブがかかった綺麗な人。
誰なんだろう。
あ。笑った。
缶コーヒー飲みながら、笑ってる。

そういえば、葵さんが、部長の事、遊び人だって言ってたっけ。


………

「その後、大丈夫か?」

ピコん、という音が鳴って、ラインが届いたのだと知ったのは、土曜の昼頃だった。

「大丈夫です」

素っ気ない返信だと自分でも思う。
こんなとき、どうしたらいいか。まったく見当がつかない。
問い詰めるのも、なんか嫌だし。
なにこの。もやもやしたイヤーな気持ち。

「そうか。日曜会えないか?」

会いたいけど。
会いたくない。
「ちょっと日曜は用事がありまして」
「どんな用事だ?」
「部長には関係ないです」
「関係ない?関係あるだろ」
「もういいです」
「なにがもういいなんだ?俺はまったくよくないが」
「べつに、私じゃなくても他にいるでしょ」
「ほか?」
「ですから。もういいんです。ほっといてください」
「なにか嫌なことでもあったのか」
「イヤなことはありましたけど、いいません」
「日曜、梨子田駅で11時待ってるから」
「行きませんよ」
「ああ、待ってる」

はあ。意思疎通が全くできてない。
明日…。
たしか、こういうのって。都合のいい女扱いされてる場合とかだって、どっかの記事で読んだことがある。

翌朝。
11時すぎ。
ひなのは、耐えきれず、梨子田駅に足を運んだ。
シャツに、ズボン。といった何の変哲もない服装で、部長は待っていた。
いろんな女性に声を掛けられながら、断り続けている。
12時になった。もうそろそろ。いこうかな。
金髪のウエーブのかかった髪の女性が、話しかける。
あ。あのときの。ウェーブって呼ぼうかな。
親し気だ。
ここからだと何を話しているか分からない。
あ。去った。
仕方ない。
「部長、私、こないって言いましたよね?」
「ああ待ったよ、楡埼。来ないかと思った」
嬉しそうに微笑む部長。ほだされたら駄目。
「帰ります。待たれたら困るんで来ましたけど、もう帰ります」
「どこに行きたい?」
「聞いてますか?帰るって言ったんです」
「じゃあなんで来た?」
「だから、待たれたら罪悪感でいっぱいになるじゃないですか」
「帰るなよ」
帰ろうとした手をぎゅ、と握られて、ひなのは声を飲んだ。
「いったいです、部長」
「あ。悪い」
ぱ、と手が離れた。
「別れます。もうこんなイヤな思いしたくない」
「イヤな思い?」
「遊び人だって言う噂、本当だったんですね」
「噂?噂を信じるのか?」
「だって、コンビニでだって、あのウェーブと一緒にいたじゃないですか!」
「ウェーブって、あのひとは、…」
「いいです、ききたくありません」
「決めつけて逆上するなよ、あれは相談にのってもらってただけだ」
「相談?なんで私にしてくれなかったんですか。そんなに私は頼りないですか!?」
「それは…」
「言えないんですね。さようなら」

イヤな気持ちで心がいっぱいになって溢れ出しそうだった。
部長をみていると、腹が立って仕方なくなる。
家に着くと、ばん、と家のドアをしめる。
涙があふれてとまらなかった。
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