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牢屋と思い出

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トラバス家は代々この南の辺境の地を守る役割を担ってきた由緒正しい一族である。それゆえ、トラバス家の屋敷には戦争が起こったときに備えて様々なものが用意されている。大きな牢屋もその一つである。普段滅多に使わないそれは、現在、珍しく使われている。
トラバス家領主のランド・トラバスの婚約者が猫の姿になっている際に、誘拐・監禁した実行犯とそれを指示したアメリア・アメリー嬢である。まさか久しぶりに使った原因が戦争捕虜の捕縛ではなく婚約者の誘拐・監禁の犯人の捕縛とは………………………。

ランド・トラバスはアメリア・アメリー嬢の父親であるギリム・アメリー侯爵を連れて、アメリア嬢のいるトラバス家の牢屋に案内していた。

「……………(懐かしいな)」

先代が生きていた頃は、セオが秘密基地を作るんだとか言い出してよくあちこち連れ回された挙げ句、この全くといって使っていないこの牢屋に秘密基地を作ってしまった。

その秘密基地には当時セオが好きだったおもちゃや小さな椅子と机、食べ物や宝物を置いたりしていて、基本的には見ているだけの俺にも何か置けだなんて言うから、困っていたら…………。

““セオっ!!””

メリアとクライドが仁王立ちして鬼の形相でこちらを見ていたから二人で硬直したな。

説教されるセオ。いつも連れ回されているだけだとバレているからか、怒られることなくそのまま放置されている俺。
最後は先代がセオへの説教を終わらせて………。
いつも部屋まで送ってくれて、そのとき毎回こう言われた。

“今日は楽しかったか?”

そして毎回俺はこう言っていた。

“わからない”

そんな俺の頭を優しく撫でながら言うんだ。

“そうかそうか”

それはもう楽しげにな。あの頃素直じゃなかったからありのままの気持ちを言えなかった。でも、先代には言わずともばれていたように思う。
俺が“わからない”って言う度、楽しそうに頭を優しく撫でていたから。

………そういえば、ここにあったはずの落書きなくなっているな。

セオが秘密基地ってでかでか書いていたが、微妙にスペルが間違っていたから、その箇所だけばつ印つけて直しておいたやつ。

きっと、クライドあたりが消したんだろうな。あれを見てあんなスペルミスするなんて………ってカンカンに怒っていたからな、くくっ。途中から論点がずれるのもお約束というやつだった。

今、考えてみれば俺自身が気付かなかっただけで俺は恵まれていたんだと思う。しかし、それを気付かせてくれたのは、俺に心から笑うことを教えてくれたあの日出会った女の子だ。今も昔も彼女は変わることなく、俺を笑顔にさせてくれるんだ。
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