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四章 金曜日の貴族学舎
19 見栄張り馬車
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金曜日の早朝、二台の馬車がツェッペリン男爵家の野菜畑だらけのエントランス前の門に着いた。一台は街でよく見かける平民仕様のもの、もう一台は豪華で貴族街で見かける爵位旗をはためかせそうなものだ。僕は玄関でまだ僕の服を直しているレーンと一緒に見つめていた。
普通の馬車からリアンが降りてきて、御者の手を借りて降りてくる。僕はアズールとレーンを従えてリアンに歩み寄った。リアンは桃色の膝下までのドレスの端を摘んで、見送りの兄様と母様に挨拶をしてから、
「なんてお可愛いのでしょう」
と僕を見下ろした。
「はい、坊ちゃんは王都一可愛らしいのです」
すかさずレーンが答えた。
「こちらのクチュールはどなたが?」
「私です、リアンさん」
レーンのきっぱりとした口調に、リアンが目を輝かせた。多分金儲けの匂いを嗅ぎ取っているな。
僕の格好は僕としては少し恥ずかしい。袖なしハーフキャミに、丈の短いジャケット、ショートキュロットの背後からリボンレースのトレーンがくるぶしまでひらひらしている。太腿までのニーストッキングをリボンベルトで巻いていて、白いシューズは少し踵が高い。
「素晴らしいわ。ねえ、お父様」
馬を寄せて回転をしている大きめの馬車から降りて、にっこりと笑った。
「可憐さと気品さが同居していますな。では、うちのリュトをお願いします。ああ、アズールさんに昼食をお任せしてよろしかったのでしたな。調理道具は上に乗せてあります」
え、まじ?広すぎるだろ?
豪華ででかい馬車に、借りてきた犬のごとくリュトがとんでもなく震えている。足が縦に揺れていて、大きな馬車が揺れているのは気のせいだと思いたい。
「リュト、大丈夫だよ」
馬車が動き出し二頭立ての馬は綺麗に並足で伴奏しているからか、振動が気にならない。が、リュトの出す貧乏揺すりならぬ緊張揺すりだけが気にかかる。リュトの横にアズールが座り、僕の横にレーンが座り、僕の教科書なんかを抱えている。
アリシア王国の王都は貴族屋敷の塀囲いとその周りに商業の町ががある。そこまでが王都だ。工業と労働者の町から外れて領地を治める爵位領がある。僕らは貧乏だから貴族屋敷なんて王都にないから、こうして爵位領から馬車で王都に向かう。
ツェッペリン男爵領から二時間、森から町へ代わり、農耕地から工業地へそして王都の街へと変わっていき、王都の門に入る時に僕は少しだけ緊張した。
本当にアズールとレーンは魔水晶にはねつけられないのか、だって妖魔なんだ。でも難なくスルーしたということは、王都の守護の要である魔水晶のだからより、アズールとレーンの魔力の方が上ってことになる。大丈夫か、王都よ。
「はあ……」
アズールとレーンは静かに冷静で、リュトは緊張揺すりがますます酷くなるし馬車に乗ってからずっとリュトの座る椅子だけスプリングが揺れていた。さすが高級貴族馬車だ。
「それにしても、マギーは張り込みすぎだよ。これじゃあ、めちゃくちゃ目立っちゃうよ」
既に白目を剥き掛けていたリュトが我にかえって
「そうですよね!」
と叫んでから捲し立て始める。
「父ちゃん、『ノリン様に恥をかかせてはならん』って貴族式の馬車を手配しちゃうし、俺にはちゃんとしろっていつものキュロットじゃなくて長ズボンを用意してジャケットまであるんだよ!いつもキュロットとベストなんだからそれでいいじゃん!」
いや、お前と一緒に御用伺いするマートルとエギンは大人用の長ズボンを履いていたぞ。お前はすごく浮いていたからな。僕だって成人してるんだから長ズボンを履きたいよ。でも、アズールもレーンも母様ですら反対するんだよなあ。
商業町から王都の貴族御用達の店屋が並ぶ表参道は随分ときらきらしていて、オーガスタ時代の地図とは変わっている。
ああ、アーネストはちゃんと王様として治世をしていたのだなあなんてしみじみした。なのに、おかしくないか?アーネストの様子はーー
らしくない
アーネストらしくない。あいつは戦闘狂だが楽天家で、基本的に気のいい奴だ。小綺麗にしていたのは御付き侍従長で魔の森にもついてきた彼らのお陰らしいが、あんなよれよれのどうでもいいような貴族ジャケットを着るような奴じゃないだろ。
僕が唇を拳で押さえながら考え込んでいると、レーンが心配そうに手を添えてくる。
「坊ちゃん」
「あ……何でもないよ」
ダメだ、オーガスタ時代の記憶に引っ張られては。僕はノリン・ツェッペリン。アーネストとは初めて会うんだ。いや、二回目だけど。
王宮の屋根が見える。あれは王族物見台で、よくアーネストと空を見上げながら酒を飲んだ。貴族学舎門は正門では無く一番北の門になる。本来は裏口からリュトは入らなくてはならないが、貴族の僕を乗せているということで、王宮北門から入ることになる。
到着した王宮門から入り、学舎門をくぐりエントランスで下車を待つ。最初にアズールが降りて、本来一番初めに降りなくてはならないリュトに手を伸ばし姫抱っこして馬車から下ろし、レーンが馬車を降りると僕をエスコートして降ろす。
門扉当番の近衛兵は抱っこされているリュトとゆっくり降りた僕を何度も見直してから、曖昧に微笑み固まっていた。
小国アリシア王国では近衛隊は四隊ある。第一近衛隊は国王を守る王族の剣、第二近衛隊は王の家族を守る王族の盾、第三近衛隊は大規模で国境の警らを兼ねる王国の剣、第四近衛隊は国内の警らを兼ねる王国の盾で、今日はどうやら王族の盾らしいが、うん、知らない顔が多い。
近衛兵は馬車から降りてすぐ可愛らしく小首を傾げて礼をした僕に笑顔になり、リュトのことを不問にしてくれた。本来、こんな馬車に乗れる身分じゃないからな。
やれやれだよ。
普通の馬車からリアンが降りてきて、御者の手を借りて降りてくる。僕はアズールとレーンを従えてリアンに歩み寄った。リアンは桃色の膝下までのドレスの端を摘んで、見送りの兄様と母様に挨拶をしてから、
「なんてお可愛いのでしょう」
と僕を見下ろした。
「はい、坊ちゃんは王都一可愛らしいのです」
すかさずレーンが答えた。
「こちらのクチュールはどなたが?」
「私です、リアンさん」
レーンのきっぱりとした口調に、リアンが目を輝かせた。多分金儲けの匂いを嗅ぎ取っているな。
僕の格好は僕としては少し恥ずかしい。袖なしハーフキャミに、丈の短いジャケット、ショートキュロットの背後からリボンレースのトレーンがくるぶしまでひらひらしている。太腿までのニーストッキングをリボンベルトで巻いていて、白いシューズは少し踵が高い。
「素晴らしいわ。ねえ、お父様」
馬を寄せて回転をしている大きめの馬車から降りて、にっこりと笑った。
「可憐さと気品さが同居していますな。では、うちのリュトをお願いします。ああ、アズールさんに昼食をお任せしてよろしかったのでしたな。調理道具は上に乗せてあります」
え、まじ?広すぎるだろ?
豪華ででかい馬車に、借りてきた犬のごとくリュトがとんでもなく震えている。足が縦に揺れていて、大きな馬車が揺れているのは気のせいだと思いたい。
「リュト、大丈夫だよ」
馬車が動き出し二頭立ての馬は綺麗に並足で伴奏しているからか、振動が気にならない。が、リュトの出す貧乏揺すりならぬ緊張揺すりだけが気にかかる。リュトの横にアズールが座り、僕の横にレーンが座り、僕の教科書なんかを抱えている。
アリシア王国の王都は貴族屋敷の塀囲いとその周りに商業の町ががある。そこまでが王都だ。工業と労働者の町から外れて領地を治める爵位領がある。僕らは貧乏だから貴族屋敷なんて王都にないから、こうして爵位領から馬車で王都に向かう。
ツェッペリン男爵領から二時間、森から町へ代わり、農耕地から工業地へそして王都の街へと変わっていき、王都の門に入る時に僕は少しだけ緊張した。
本当にアズールとレーンは魔水晶にはねつけられないのか、だって妖魔なんだ。でも難なくスルーしたということは、王都の守護の要である魔水晶のだからより、アズールとレーンの魔力の方が上ってことになる。大丈夫か、王都よ。
「はあ……」
アズールとレーンは静かに冷静で、リュトは緊張揺すりがますます酷くなるし馬車に乗ってからずっとリュトの座る椅子だけスプリングが揺れていた。さすが高級貴族馬車だ。
「それにしても、マギーは張り込みすぎだよ。これじゃあ、めちゃくちゃ目立っちゃうよ」
既に白目を剥き掛けていたリュトが我にかえって
「そうですよね!」
と叫んでから捲し立て始める。
「父ちゃん、『ノリン様に恥をかかせてはならん』って貴族式の馬車を手配しちゃうし、俺にはちゃんとしろっていつものキュロットじゃなくて長ズボンを用意してジャケットまであるんだよ!いつもキュロットとベストなんだからそれでいいじゃん!」
いや、お前と一緒に御用伺いするマートルとエギンは大人用の長ズボンを履いていたぞ。お前はすごく浮いていたからな。僕だって成人してるんだから長ズボンを履きたいよ。でも、アズールもレーンも母様ですら反対するんだよなあ。
商業町から王都の貴族御用達の店屋が並ぶ表参道は随分ときらきらしていて、オーガスタ時代の地図とは変わっている。
ああ、アーネストはちゃんと王様として治世をしていたのだなあなんてしみじみした。なのに、おかしくないか?アーネストの様子はーー
らしくない
アーネストらしくない。あいつは戦闘狂だが楽天家で、基本的に気のいい奴だ。小綺麗にしていたのは御付き侍従長で魔の森にもついてきた彼らのお陰らしいが、あんなよれよれのどうでもいいような貴族ジャケットを着るような奴じゃないだろ。
僕が唇を拳で押さえながら考え込んでいると、レーンが心配そうに手を添えてくる。
「坊ちゃん」
「あ……何でもないよ」
ダメだ、オーガスタ時代の記憶に引っ張られては。僕はノリン・ツェッペリン。アーネストとは初めて会うんだ。いや、二回目だけど。
王宮の屋根が見える。あれは王族物見台で、よくアーネストと空を見上げながら酒を飲んだ。貴族学舎門は正門では無く一番北の門になる。本来は裏口からリュトは入らなくてはならないが、貴族の僕を乗せているということで、王宮北門から入ることになる。
到着した王宮門から入り、学舎門をくぐりエントランスで下車を待つ。最初にアズールが降りて、本来一番初めに降りなくてはならないリュトに手を伸ばし姫抱っこして馬車から下ろし、レーンが馬車を降りると僕をエスコートして降ろす。
門扉当番の近衛兵は抱っこされているリュトとゆっくり降りた僕を何度も見直してから、曖昧に微笑み固まっていた。
小国アリシア王国では近衛隊は四隊ある。第一近衛隊は国王を守る王族の剣、第二近衛隊は王の家族を守る王族の盾、第三近衛隊は大規模で国境の警らを兼ねる王国の剣、第四近衛隊は国内の警らを兼ねる王国の盾で、今日はどうやら王族の盾らしいが、うん、知らない顔が多い。
近衛兵は馬車から降りてすぐ可愛らしく小首を傾げて礼をした僕に笑顔になり、リュトのことを不問にしてくれた。本来、こんな馬車に乗れる身分じゃないからな。
やれやれだよ。
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