異世界騎士はじめました

クリム

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2章『楽園へ行こう』

19 ジューゴ、崖を下る

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 マクファーレンの話をした僕らは馬車を追いかけている。直進すれば白の楽園、左に曲がればマクファーレンの元隊長のガゼルたちが走る奈落峠で、白の幌馬車はかなりの前を走っていた。 

「やっぱ狭い!めっちゃ怖い!」

 僕も一度通ったことがある。恐る恐るの一回めはすごく時間をかけて登った。だって下崖で、底が見えないんだ。

 奈落峠はランクルの片方の車輪が出てしまいそうな幅で、それが自由都市から唯一東の地域と繋がる交通路だった。噴火の後のカルデラみたいな場所にある自由都市から東へは登り切る道は複数あるけれど楽園ファームへは、この奈落峠しかない。

「やば、やばいって……追いつけないよ」

 話しを聞いた後、ファナをマクファーレンとラーンスのところに置いていき、幌馬車を追いかけたが、道の細さに馬の方が早い……ような気がしてきた。

 ランクルがハンドルを持つ僕に反するように左側の壁に寄り始め、ジューゴが戻そうとくん……と重くなり、四つ輪の縁が壁に当たった。

「壁を走るつもり?ランクル。あの子達を助けたいの?」

 軽い振動が是と知らせてきて、僕は思い切りよくハンドルを切りながら、左のタイヤを壁に当てて重心を傾けながら加速しようとする。

「きゃ……っ」

「……きゃ?ファナ?」

 僕が慌てて後ろを振り返ると、ファナが二列目のシートからおずおずと顔を出した。

「私……ジューゴ様とっ……」

 斜めの車体をそのまま走らせつつ僕はファナに手を伸ばし、ファナが手を掴んだから手繰り寄せ片手で抱き上げると助手席に引き上げる。

「ファナ、どうして!」

 フードがぴょこんと飛び上がり、

「ごめんなさいっ……でもっ、もう、離れたくないのです!」

と泣きそうになっていたのを見て、僕はファナの頭をぽんぽんと撫でた。

 どうやらラーンスの目を盗んで、僕が騎士団支部長と話している隙にランクルに乗り込んだらしい。

 ランクルが扉を開けてファナを入れたらしい。つまりランクルはファナを気に入っているようだ……が、ここではそれが裏目に出ていた。

「手荒くなるよ、捕まっていて!」

 ファナが助手席で小さく丸くなると、一気にアクセルを噴かし、唸りを上げたランクルが二つ輪を壁につけ幌馬車と距離を縮める。そのまま平な道にバウンドしながら降りた。

 もう少しで追い付くと思った時、幌馬車から先程出会った女の人が大人型リムを伴ってゆっくりと出てくる。ランクルの前に立ちはだかったから、僕はブレーキを踏む。馬車は先に行ってしまった。

「ちゃんと停まったな。ふつー止まるかよ。轢き殺すよな、甘ちゃんめ。よお、さっき会った伏し目男」

 リムが光の矢を背後にまるで背光のように纏い、両手を広げている。手には小型のオートメカニカを持っていて、あれを使って光を出しているんだ。

「胸は隠したんだ、お姉さん」

「あたしの胸を見たんだ、命で購いな」

「見たくて見たんじゃありません」

 距離を開けようとしたが、無理なようだ。リムが手を閉じれば光の矢は一気に降り注ぐって感じだろう。さすがのランクルでも耐えられないかもしれない。

「お前のリムを降ろしな」

 盗賊といった風情の女の人が剣を抜くと、リムが両手を寄せ始めた。

「いやです」

「ファナ!」

 ファナが僕の腕に抱きつき、必死に首を横に振る。僕は非戦闘員だ。何も出来やしない。

 ファナの胸元が、また、輝き出した。

 もう何度目だろう……胸のリムの刻印がチカチカと光り、主を求めるのは。

 壊れたリムかもしれないが、ファナが求めるのは僕で、もう少し鍛えておけばよかったとか、『太陽の牙』の中で『牙』異名をもつダクラムが何でいないんだとか、色々と思う事があるが、今の僕には少しの飛び道具と、ランクルしかいない。

「ごめん……ファナ。死ぬかも……」

「はい、私はジューゴ様とどこまでも一緒です」

 僕はアクセルを全開にして、直角の壁にランクルを寄せ登りながら女の人を交わす作戦に出る。

 真横の壁をエンジン唸りを上げながら走り上がるランクルに驚く女の人とリムを尻目にした瞬間、上から降る異常な数の落石にランクルが奈落に転がり落ちた。

 幌馬車のずっと上のつづら折りの峠の上には、絵にして見せてくれたガゼルが落石指揮をしている。

 奈落に突き落とされ体重のあるランクルが一気に落ちていくが急に扉が開き、車体を震えるように僕とファナを空中に振り上げた。

「ランクル!」

 ランクルが扉を閉め暗黒に消えていくまでに時間はかからず、ぼくは気を失いかけていたファナを呼ぶ。ランクルが命懸けで守ろうとした命を、消すわけにはいかないでしょ。

 ファナの胸のリムが四方に輝き、まるで宇宙にいるようだ。

「ファナ…お、きてっ!」

 必死で手を伸ばすと下から突き上げるような風の中で朦朧としていたファナが、目を見張って泣きそうな表情をして手を伸ばす。その手を必死で掴み取り、全裸になってしまった小さな身体を抱き締めた。

「ーーっ!」

 風に逆らい長い金髪を散らしたファナの真っ青な虹彩が涙で潤み、僕の頭に抱きつき反対から僕の口にキスをする。

 驚いた僕の口の中でファナの小さな舌が揺れてちゅく……と吸われた。

 ファーストキスは済ませて死ぬんだ……。

 そんな風にぼんやり思いながら、光に包まれる。眩しくて目が開けられないほどの光。それが、僕と逆さまのファナをやんわりと包んだ。 
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