コンセプトバーのお兄さんと富豪くん

クリム

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最後は顔も見ないんだ

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 重い……タカのことを思ってしたのに、重いなんて。いつから思っていた。

 アパートの一階の扉を開けて、散らかった室内を見る。作り付けのバーカウンターには、買い揃えた酒が並ぶ。この部屋を選んだのは、卓だ。

「なんか……店みたいだな」

「タカ、気にいると思った」

 ジンやらバーボンやらを買い揃え、グラスはさすがにバカラとはいかないけど、いい値段のものだ。そこにシェイカーもある。部屋を借り、酒やグラスを買ったのは莱だ。卓の夢のために協力したかった。

 プロは諦めたけど、酒好きの莱のために腕を奮ってくれた。1番好きなのは、ボンベイ・サファイアのジントニック。

 莱はよろよろと歩くと、ボンベイ・サファイアのボトルキャップを開けて、口をつけて喉に流し込んだ。40度のアルコールが喉を焼くような気がした。

 重い……あれこれしたのが、重い。莱には夢がない。だから、夢を語る卓の横顔が好きだった。

 出会ったのは高校1年の夏くらい。

 廊下で見かけた隣のクラスの背の高い、前髪で目元を隠す卓が、ふざけ合う女子2人とぶつかった。

「うちら、体触られたんですけど、きもっ」

 手もポケットに入れていた卓を、なんとなく庇ったのがきっかけだった。

「そいつ。ポケットに手いれてんじゃん」

 女子も小柄な莱に対して、

「あっそ。まっすぐ歩けよ、インキャ」

くらいで、また、ふざけながら歩いていく。そんなやりとりがあって、数日後、パソコン打ち込みがしたくてコンピュータ室に行って再び会った。

 プログラムでゲームを作っていた卓と、ミディで音楽を作っていた莱は意気投合して、ゲームに音楽を載せリズムゲームを作り、高校のコンテストでいくつか賞を取った。3年間で卓の評価は変わっていった。

 そんな高1の冬、付き合ってって言われて嬉しかったんだよ。

 莱はテキーラを口にする。テキーラで作ってくれる、マルガリータが好きだった。

「タカ、好きだよぅ。重いって何?」

 卒業式の日、初めてセックスをしたのは、卓の部屋。遊びに行くと肛門性行以外、色々したけど、セックスは別物だった。ゴムを変えるなんて知らずに溢れちゃう精液とか、無知だった。その頃から早漏だったけど、それは大した問題じゃなくて、もう、好きがいっぱいだった。

 21歳くらいからウィスキーに興味を示した卓に、山崎モルトをバレンタインの日に渡した。手に入りにくいものだったが、何軒か店を巡った。2人でロックでちびりちびりと飲んだ最後の2センチほどの酒を煽る。

 まだ、酔えない。

「これも、重かったの?」

 部屋に転がる最初のビリヤードキューを手にした。放り投げると、別の酒瓶を手に持って飲む。全部飲み干して死にたいと思うくらい、辛い。

 社員旅行でビリヤードにハマった卓の誕生日にキューをプレゼントした。喜んでくれた。アパートも卓好みのもので埋めてみた。

 それがいけないのか。なぜ尽くしてはだめなのか。莱にはわからない。莱は父母が喜ぶように過ごしてきた。祖父母に可愛がってもらえるような言動をしてきた。全て無意識で。他意はない、莱にはそれが全てだから。それで良かったから。

「莱も、夢、もてよ」

 卓にそう言われたが、夢は卓がプロのビリヤードプレイヤーになるのを応援する夢がよかった。プレイヤーになるには金がいる。夜、ビリヤードバーに行き、仕事での残業が出来ない卓に、なけなし貯金の10万を渡す。引越し代なんかで貯金は消えていたが、なんとかかき集めた金だ。

「応援軍資金」

「ありがとう。絶対プロになるから」

 もう少し金がいるだろうなと思っていた頃、たまに飲みに行く『ジュエル』のヘルプをお願いされた。卓が毎晩いないから暇だったのもある。

 最初はカウンターの中でグラスを洗うくらいだったし、時々、ヘルプで横についたりもした。

 そんな時にアヤに出会った。アヤのいるガールズバーにビリヤードがあるのはその時に知ったが、卓は別のビリヤードバーを拠点にしていたから、気にしていなかった。

「仕事を派遣に切り替えて、ラスベガスで1か月くらい修行したい」

 久々2人でいる夜。マットレスベッドに2人で座って、ゲーム実況を見ていた時に、卓がボソリと告げた。プロになるなら、ビジュアルも大事だからと茶髪に染めてピアスを付けた卓には高校生の時に面影はない。ただ、無口なところは相変わらずだ。

「1人で?」

「うん。あっちに受け入れてくれるとこがあるから」

「スクールみたいなとこ?」

「ああ。でも、金がないから、無理だ」

「なんとかするよ、タカ」

「なんとかって、なんだよ」

「大丈夫だって」

 そのまま久々に、セックスをした。座っている卓の膝に乗せられて、背後から突き上げられながら、ずるずると卓がベッドに伸びると、引き摺られで莱も卓の身体を下敷きにするようにして、アナルでペニスを締めあげた。

「うっ……」

 卓のペニスがアナルから出てしまい、精液が莱の尻の周りに拭い付けられる。

「え」

「終わった。おやすみ」

「あ、うん」

 欲情したままの身体をシャワーで流して、1人でオナニーをして精液を垂れ流す。

 最近、エッチが少ない。夜遅くまでビリヤードの練習なら仕方ないが、寂しかった。

 だから、金融機関で借りてきた。すぐにいるだろうと消費者金融で借りた100万を卓に渡したら、100万円の現金を見て卓は泣き笑いのような表情だった。喜ばれていると思ったのに。

「その頃、すでにアヤちゃんとかあ」

 あ、頭が痛い気がする。……月曜日、祭日でよかった。頭痛薬を、手元にある酒で……。

 莱の手元にあった酒瓶は透明な四角い酒瓶だ。スピリタスのスクリュードライバーが好きだった。頭痛薬をボトルを煽った莱は、意識を失った。



 

 

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