4 / 18
ホンネ。ー雪乃
しおりを挟む
墨森さんの視線から逃れるように、一心にレモンティーを飲んでいると、すぐにティーカップは空になる。仕方なく顔を上げると、墨森さんのカップもちょうど空になったようで、同時に顔を上げる。
「…………空、暗くなってきたわね」
見つめ合うのがなぜか恥ずかしくて話題を逸らすと、墨森さんは壁にかけた時計―ちなみにこれは私の私物―に目を向ける。
「18時半ぐらい…………混んでくる前に、お風呂、入って来ようかな」
そう言うと、クローゼットから寝巻き一式を取りだしてすたすたと部屋を出て行って、すぐに戻ってくる。
「………………忘れ物」
と、今度はクローゼットの中をガサゴソやって下着を取り出した。………………なんか、大人っぽいわね。…………思わず見てしまうと、
「………………恥ずかしい、あんまり、見ないで…………」
と言われて、慌てて目を逸らす。そして墨森さんは今度こそ、本当に部屋を出ていった。
…………ふぅ、緊張した。墨森さんが部屋を出ていくと、私は張り詰めていた気を緩ませる。………………人前じゃ凛としてるって言われるけど、ひとりの時ぐらいはこうやってだらーんとしたい。
それにしても………………墨森さんのこと、未だによく分からない。噂では研究マニアだとか、マッドサイエンティストだとか、裏で学園を支配しているだとか、色々言われてるらしいけど…………でも………………部屋で見せる、どこか優しそうな墨森さんを知っている私は、そんな噂を信じられない。
…………考えすぎかしらね。とりあえず落ち着く為に、もう一杯レモンティーを作ろうと給湯室に向かう。すると、流しの上に逆さになったティーカップが置いてあるのが見えて。ひっくり返すと黒猫のマークがこっちを向く。
…………そういえば、黒猫って墨森さんのイメージそのままね。どこか気高くて触れがたい。
……………これを使えば、あの子と同じ世界が見えるのかしら。
何かに突き動かされるように、私は黒猫のティーカップにお湯を注いでカップを温める。その間に戸棚から、彼女のアールグレイを取りだす。………………今までも彼女に追いつこうとして、ちょっぴり背伸びしてこっそり飲んでみたけど、何も変わらなかった。けど、彼女のカップでなら……。
お湯を捨ててティーバッグを入れ、彼女がやってたみたいにじっくりと蒸らす。そしてミルクと砂糖をいれて口を付けようと―――
「何、してるの………………?」
その声に恐る恐る後ろを振り返ると、墨森さんが訝しげに私のことを見ていた。
「…………それ、私のカップ。それに…………私のアールグレイ」
み、見られた。……………終わった。何も、かも。
足に力が入らなくなってその場にへたり込む。前がぼやけて、真っ暗になって、俯いて泣いていた。霞む前に目の前でオロオロする墨森さんが見えたけど、それを見る勇気もなく…………。
「ごめん、なさい………………私、会話も続かないし…………どうしたら墨森さんと仲良くなれるのかなって…………それで、同じものを飲めば、あなたと同じ世界が見れるって思って。でも………………墨森さんのカップを使っても…………全然美味しくないし、なかよくなれそうにないし………………」
初めて、彼女の前で本音を話した。だけど、その後の言葉は続かなくて。
ああ、だめだ。もう、…………
そのとき、急に「あの子」の香りに包まれて。戸惑う頭を恐る恐る上げると、私は彼女の腕の中にいた。
「…………ありがと。本音を話してくれて」
「墨森、さん………………」
「私も、あなたともっと話したい。仲良くなりたい。ずっとそう思ってた。けど………………わた…………いや、『ボク』は臆病だから。今までずっと、言い出せなかったんだ」
墨森さんが、優しく頭を撫でてくる。やめてよ………………そんなことされたら………………。
それからのことは、あまり覚えてない。けど…………私と「望乃夏」は、ここから始まった。
「…………空、暗くなってきたわね」
見つめ合うのがなぜか恥ずかしくて話題を逸らすと、墨森さんは壁にかけた時計―ちなみにこれは私の私物―に目を向ける。
「18時半ぐらい…………混んでくる前に、お風呂、入って来ようかな」
そう言うと、クローゼットから寝巻き一式を取りだしてすたすたと部屋を出て行って、すぐに戻ってくる。
「………………忘れ物」
と、今度はクローゼットの中をガサゴソやって下着を取り出した。………………なんか、大人っぽいわね。…………思わず見てしまうと、
「………………恥ずかしい、あんまり、見ないで…………」
と言われて、慌てて目を逸らす。そして墨森さんは今度こそ、本当に部屋を出ていった。
…………ふぅ、緊張した。墨森さんが部屋を出ていくと、私は張り詰めていた気を緩ませる。………………人前じゃ凛としてるって言われるけど、ひとりの時ぐらいはこうやってだらーんとしたい。
それにしても………………墨森さんのこと、未だによく分からない。噂では研究マニアだとか、マッドサイエンティストだとか、裏で学園を支配しているだとか、色々言われてるらしいけど…………でも………………部屋で見せる、どこか優しそうな墨森さんを知っている私は、そんな噂を信じられない。
…………考えすぎかしらね。とりあえず落ち着く為に、もう一杯レモンティーを作ろうと給湯室に向かう。すると、流しの上に逆さになったティーカップが置いてあるのが見えて。ひっくり返すと黒猫のマークがこっちを向く。
…………そういえば、黒猫って墨森さんのイメージそのままね。どこか気高くて触れがたい。
……………これを使えば、あの子と同じ世界が見えるのかしら。
何かに突き動かされるように、私は黒猫のティーカップにお湯を注いでカップを温める。その間に戸棚から、彼女のアールグレイを取りだす。………………今までも彼女に追いつこうとして、ちょっぴり背伸びしてこっそり飲んでみたけど、何も変わらなかった。けど、彼女のカップでなら……。
お湯を捨ててティーバッグを入れ、彼女がやってたみたいにじっくりと蒸らす。そしてミルクと砂糖をいれて口を付けようと―――
「何、してるの………………?」
その声に恐る恐る後ろを振り返ると、墨森さんが訝しげに私のことを見ていた。
「…………それ、私のカップ。それに…………私のアールグレイ」
み、見られた。……………終わった。何も、かも。
足に力が入らなくなってその場にへたり込む。前がぼやけて、真っ暗になって、俯いて泣いていた。霞む前に目の前でオロオロする墨森さんが見えたけど、それを見る勇気もなく…………。
「ごめん、なさい………………私、会話も続かないし…………どうしたら墨森さんと仲良くなれるのかなって…………それで、同じものを飲めば、あなたと同じ世界が見れるって思って。でも………………墨森さんのカップを使っても…………全然美味しくないし、なかよくなれそうにないし………………」
初めて、彼女の前で本音を話した。だけど、その後の言葉は続かなくて。
ああ、だめだ。もう、…………
そのとき、急に「あの子」の香りに包まれて。戸惑う頭を恐る恐る上げると、私は彼女の腕の中にいた。
「…………ありがと。本音を話してくれて」
「墨森、さん………………」
「私も、あなたともっと話したい。仲良くなりたい。ずっとそう思ってた。けど………………わた…………いや、『ボク』は臆病だから。今までずっと、言い出せなかったんだ」
墨森さんが、優しく頭を撫でてくる。やめてよ………………そんなことされたら………………。
それからのことは、あまり覚えてない。けど…………私と「望乃夏」は、ここから始まった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる