Dear my roommates

heil/黒鹿月

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ホンネ。ー雪乃

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 墨森さんの視線から逃れるように、一心にレモンティーを飲んでいると、すぐにティーカップは空になる。仕方なく顔を上げると、墨森さんのカップもちょうど空になったようで、同時に顔を上げる。
「…………空、暗くなってきたわね」
 見つめ合うのがなぜか恥ずかしくて話題を逸らすと、墨森さんは壁にかけた時計―ちなみにこれは私の私物―に目を向ける。
「18時半ぐらい…………混んでくる前に、お風呂、入って来ようかな」
 そう言うと、クローゼットから寝巻き一式を取りだしてすたすたと部屋を出て行って、すぐに戻ってくる。
「………………忘れ物」
 と、今度はクローゼットの中をガサゴソやって下着を取り出した。………………なんか、大人っぽいわね。…………思わず見てしまうと、
「………………恥ずかしい、あんまり、見ないで…………」
 と言われて、慌てて目を逸らす。そして墨森さんは今度こそ、本当に部屋を出ていった。

 …………ふぅ、緊張した。墨森さんが部屋を出ていくと、私は張り詰めていた気を緩ませる。………………人前じゃ凛としてるって言われるけど、ひとりの時ぐらいはこうやってだらーんとしたい。
 それにしても………………墨森さんのこと、未だによく分からない。噂では研究マニアだとか、マッドサイエンティストだとか、裏で学園を支配しているだとか、色々言われてるらしいけど…………でも………………部屋で見せる、どこか優しそうな墨森さんを知っている私は、そんな噂を信じられない。
 …………考えすぎかしらね。とりあえず落ち着く為に、もう一杯レモンティーを作ろうと給湯室に向かう。すると、流しの上に逆さになったティーカップが置いてあるのが見えて。ひっくり返すと黒猫のマークがこっちを向く。
 …………そういえば、黒猫って墨森さんのイメージそのままね。どこか気高くて触れがたい。
 ……………これを使えば、あの子と同じ世界が見えるのかしら。
 何かに突き動かされるように、私は黒猫のティーカップにお湯を注いでカップを温める。その間に戸棚から、彼女のアールグレイを取りだす。………………今までも彼女に追いつこうとして、ちょっぴり背伸びしてこっそり飲んでみたけど、何も変わらなかった。けど、彼女のカップでなら……。
 お湯を捨ててティーバッグを入れ、彼女がやってたみたいにじっくりと蒸らす。そしてミルクと砂糖をいれて口を付けようと―――
「何、してるの………………?」
 その声に恐る恐る後ろを振り返ると、墨森さんがいぶかしげに私のことを見ていた。
「…………それ、私のカップ。それに…………私のアールグレイ」
 み、見られた。……………終わった。何も、かも。
 足に力が入らなくなってその場にへたり込む。前がぼやけて、真っ暗になって、俯いて泣いていた。霞む前に目の前でオロオロする墨森さんが見えたけど、それを見る勇気もなく…………。
「ごめん、なさい………………私、会話も続かないし…………どうしたら墨森さんと仲良くなれるのかなって…………それで、同じものを飲めば、あなたと同じ世界が見れるって思って。でも………………墨森さんのカップを使っても…………全然美味しくないし、なかよくなれそうにないし………………」
 初めて、彼女の前で本音を話した。だけど、その後の言葉は続かなくて。
 ああ、だめだ。もう、…………
 そのとき、急に「あの子」の香りに包まれて。戸惑う頭を恐る恐る上げると、私は彼女の腕の中にいた。
「…………ありがと。本音を話してくれて」
「墨森、さん………………」
「私も、あなたともっと話したい。仲良くなりたい。ずっとそう思ってた。けど………………わた…………いや、『ボク』は臆病だから。今までずっと、言い出せなかったんだ」
 墨森さんが、優しく頭を撫でてくる。やめてよ………………そんなことされたら………………。


 それからのことは、あまり覚えてない。けど…………私と「望乃夏ののか」は、ここから始まった。
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