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第3章・琥珀の獅子が護りしものは

獅子の寝床

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そこは温かかった。
誰かの・・・リズムで上下する、やけに肌触りのよい、お高めな感じのする敷き布団。寝慣れたパウロのモノじゃない、穏やかで心地よいリズムが眠りに誘う……。


ミコトはゆっくりと眼を覚ます。

全身がやけに重い。いや痛い。
やっぱり重い。何かが乗っかっている。

腹の上に、ややつるりとして柔らかい物体が、巻き付くように乗っかっているのだ。ちょうどパウロの腕位の太さのモノが、宥めるようにミコトの腹を撫でている。
あまりの心地よさに、ミコトも己の小さい手で撫で返した。敷き布団・・・・が小さく笑った気がした。

だんだん目の焦点があってくる。

そこは広くて天井が高い洞窟だった。
遠くに日の光が見える。


寝心地のよい敷き布団は。

巨大なライオンだった。


ミコトはあまりの驚きで。がばり、と身を起こした。身を走る激痛に、無言のまま身悶えた。

するり、とマンティコアが立ち上がった。
器用に、ぽいっとミコトを背に投げ上げる。

どうやら、洞窟の奥に用事があるようだ。


奥には小さな滝と池があった。
湧水のようだ。水も澄んでいる。
池はマンティコア専用の浴槽らしい。ミコトの方を見て、顎をしゃくる。
服を脱げ、と。そして池に入れ、と。

指示されたように、モゾモゾと服を脱ぎながらミコトは思い出す。昔、読んだ絵本を。
『客にお願いばかりして、最後に客をたべてしまうレストラン』の話を。

……不吉。……何故、いま、思い出す……


ゆうゆうと、マンティコアが池に寝そべった。ざばり。と、池が波立つ。しっぽがペチペチと池の表面を叩き、ミコトに水滴を跳ばす。早く入れ、と催促しているようだ。

「ひゃあ!つめたい!」
ミコトも池に手を突っ込んで、マンティコアにやり返す。マンティコアの顔にも水飛沫はかかったが、気にする様子もない。

マンティコアは、その大きな前足でミコトを掬い上げると。彼女の怪我の確認をし始めた。

玩具のようにミコトをひっくり返したり。
両前足で器用にミコトの体を高く掲げて、バタバタ動くミコトの小さな両足を興味深く眺めまわした。

マンティコアがミコトを舐めたのは、頭と背中の二ヶ所。他は大したことはないらしい。
舐められた箇所はどちらも、ミコトからは見えない場所だった。だがマンティコアの様子から、そんな大怪我ではないのだろうと予測した。ミコトは"血"魔法『快癒』をこっそり自分にかけた。マンティコアを驚かせないように。

満足した様子のマンティコアは、池にミコトを浸けると。また顎をしゃくる。
今度はさしずめ、服を着ろ。だな。
立ち上がったマンティコアは、身震いをして水滴を払うと。洞窟を立ち去ってしまった。

ささっと、池の水で身を清める。
着ていた服は、少量ではあるが血と土で汚れていた。池の水で簡単に洗う。汚れが落ちたかどうか微妙だが、気持ちの問題だ。
濡れた体に、湿った服は厄介だ。


ミコトはつい思った。
乾けばいいな、と。

ミコトは考えた。
便利な魔法があったな、と。


asciutto カワカス!」

風魔法と炎魔法の合成魔法『温風』が、
ミコトの体を優しく包んだ。
いい感じに服も体も乾いていく。

うん。パウロ達にもコレかけてやろう。
驚く二人の顔を思い浮かべ、わくわくした。


無事に着替え終えるのを見計らったかのように、マンティコアは現れた。また、ぽいっとミコトを背にのせると、先ほどの寝床に連れていかれた。

そこには。先ほどはなかった、果物のついた枝が何本か生えていた。よく見ると、むしってきた枝をそのまま地面に刺したらしい。

そこで思い出す。
血塗れ獅子マンティコアって、肉食だもんね。この枝、私の為に採ってきてくれたんだ。

ほっこりすると共に、ミコトは悩んだ。
ー  私。マンティコアを討伐できるんだろうか………?




   
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