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一. アッシュの章
6. 魔女のお茶会
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「今月の魔女のお茶会を始めます」
丸く細長いテーブルの上に水晶玉が一つ。輪を描くように4つの影が座す。
天井には小さな灯を抱くカンテラが、ゆらゆらと揺れる。
「各自、報告を」
「こちらは問題無し。多少の人手不足はありますが、みなよく働いてくれています。出荷も問題ありません。そろそろ備蓄倉庫に補強が必要な頃かと」
「分かった。さっそく取り掛かろう。明日より人員を配置する」
「はい」
「こちらも特に変わった様子はありません」
「例のものは出来たか?」
「は。ここに」
影の一つが動く。
コトリとテーブルに置かれた小瓶。
「時間がなく、また対象もおりません故、使う時が本番です」
「構わぬ。場当たりできる余裕はないのだ」
「では、私の番だね。外の物価が上がっているようだ、《中央の街》に人が集まっているらしい。軍でも作ろうかって勢いさ。物の価値も同時に高くなってる。私らの作物はいい値段で売れてるよ」
「して、ここには」
「まあ、眼中にもないだろうね。中央は目下、王都の事で頭がいっぱいさ」
「長、町と云えばローベ夫婦の息子の件ですが」
「うむ。子は三歳になったか」
「は。あの御方が二週間後に連れ帰って参ります。すでに町を出立し、渓谷近くの村に滞在しているとの事」
「それは良き話」
「長様、もう一つ良い話が」
長、と呼ばれた影が頭を上げる。
僅かなカンテラの光が顔を映し出す。が、判別するにはまだ光は足らない。
「フードの旅人が言うには、自分のほかに渓谷を渡る二つの人物を見かけたとか」
他の3人がどよめいた。
旅人が来ている事はすでに全員が知っている。
影達が驚いたのは、その言葉の成す意味である。
「それは誠か」
「はい。フードの旅人は身軽だった故に一足先にこの村へ着いたそうで、遠目から男女二人だったと。女の方は旅慣れしておらず、時間がかかっているのだろうと言っておりました」
「それはなんという…」
「神の助けじゃ」
「間に合った!!」
口々に賛美の詞。心なしか、最初よりも明るくなった雰囲気。
「して、そのフードの旅人は」
「捨て置け」
ピシャリと言い放つ。
「その者があの聖職者どもの知り合いだろうと構わぬ。村を嗅ぎ回ろうとも、腹を探られて痛いものは何も無い。堂々としておれば良い」
「は」
「はい」
「しかし、速やかに辞していただこう。我らに恵みを与える真の客人をお招きするに、彼のものは邪魔だ」
「わかりました。もてなしの準備に入ります」
「こちらも。村人達に申し伝えましょう。いつ来られてもいいように万全の態勢を」
「では私は男共に伝達を」
「食堂に行くならば伝えよ。宴の準備をと。腕によりをかけ、存分にもてなすが良いと」
「は」
「ついでにアッシュに言っておいてくれ。外界へ降りるのは、次はお前の番だ、と」
「はい。こちらも手配いたしましょう」
「うむ。では他に申し伝える事はないか」
影達は黙る。肯定の証。この集会に余計な言葉は必要無い。
「では解散。全てはカミサマの御心のままに」
『御心のままに……』
カンテラの微かな光が、唐突にふっと消えた。
丸く細長いテーブルの上に水晶玉が一つ。輪を描くように4つの影が座す。
天井には小さな灯を抱くカンテラが、ゆらゆらと揺れる。
「各自、報告を」
「こちらは問題無し。多少の人手不足はありますが、みなよく働いてくれています。出荷も問題ありません。そろそろ備蓄倉庫に補強が必要な頃かと」
「分かった。さっそく取り掛かろう。明日より人員を配置する」
「はい」
「こちらも特に変わった様子はありません」
「例のものは出来たか?」
「は。ここに」
影の一つが動く。
コトリとテーブルに置かれた小瓶。
「時間がなく、また対象もおりません故、使う時が本番です」
「構わぬ。場当たりできる余裕はないのだ」
「では、私の番だね。外の物価が上がっているようだ、《中央の街》に人が集まっているらしい。軍でも作ろうかって勢いさ。物の価値も同時に高くなってる。私らの作物はいい値段で売れてるよ」
「して、ここには」
「まあ、眼中にもないだろうね。中央は目下、王都の事で頭がいっぱいさ」
「長、町と云えばローベ夫婦の息子の件ですが」
「うむ。子は三歳になったか」
「は。あの御方が二週間後に連れ帰って参ります。すでに町を出立し、渓谷近くの村に滞在しているとの事」
「それは良き話」
「長様、もう一つ良い話が」
長、と呼ばれた影が頭を上げる。
僅かなカンテラの光が顔を映し出す。が、判別するにはまだ光は足らない。
「フードの旅人が言うには、自分のほかに渓谷を渡る二つの人物を見かけたとか」
他の3人がどよめいた。
旅人が来ている事はすでに全員が知っている。
影達が驚いたのは、その言葉の成す意味である。
「それは誠か」
「はい。フードの旅人は身軽だった故に一足先にこの村へ着いたそうで、遠目から男女二人だったと。女の方は旅慣れしておらず、時間がかかっているのだろうと言っておりました」
「それはなんという…」
「神の助けじゃ」
「間に合った!!」
口々に賛美の詞。心なしか、最初よりも明るくなった雰囲気。
「して、そのフードの旅人は」
「捨て置け」
ピシャリと言い放つ。
「その者があの聖職者どもの知り合いだろうと構わぬ。村を嗅ぎ回ろうとも、腹を探られて痛いものは何も無い。堂々としておれば良い」
「は」
「はい」
「しかし、速やかに辞していただこう。我らに恵みを与える真の客人をお招きするに、彼のものは邪魔だ」
「わかりました。もてなしの準備に入ります」
「こちらも。村人達に申し伝えましょう。いつ来られてもいいように万全の態勢を」
「では私は男共に伝達を」
「食堂に行くならば伝えよ。宴の準備をと。腕によりをかけ、存分にもてなすが良いと」
「は」
「ついでにアッシュに言っておいてくれ。外界へ降りるのは、次はお前の番だ、と」
「はい。こちらも手配いたしましょう」
「うむ。では他に申し伝える事はないか」
影達は黙る。肯定の証。この集会に余計な言葉は必要無い。
「では解散。全てはカミサマの御心のままに」
『御心のままに……』
カンテラの微かな光が、唐突にふっと消えた。
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