蒼淵の独奏譚 ~どこか壊れた孤高で最強の魔法使いがその一生を終えるまでの独奏物語~

蔵之介

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二. ニーナの章

4. 超新星カモメ団!!

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「おはようございます…」

 早朝、あれから結局あまり眠れなくて、寝不足で目の下に隈を作ったまま、いつものように出勤する。

 基本的にメンバーは毎日アジトに顔を出すのが習わしだ。
 仲間の結束を固める為に、家族のような繋がりが欲しいとロルフ団長が決めた。

 顔を合わせ、挨拶をするだけでも繋がりは出来る。
 血の繋がりがない団員の、時には命を掛けねばならない仲間内の信頼関係を構築するのに、一番いい方法なのだと彼は言った。

 扉を開け、中へ。

 日が昇ったばかりの時間。案の定、屋敷はシンと静まり返っている。

 メンバーの殆どはこのアジトに寝泊まりしている。昨日の遠征で疲れた彼らを起こすのも本意ではないので、私は静かに自分の定位置に着いた。




 超新星カモメ団は、今より8年前にロルフ団長が発起し、設立された町の自警団である。
 その設立の経緯は前述の通りだ。

 メンバー数は約150人。
 その殆どが、このグレンヴィルの町に住む若者達で構成されている。

 ロルフ団長は《中央》出身だが、災厄から逃れてきた人達や、家を失った人達も望めばメンバーになれる。

 メンバーの加入条件は、三つ。
「団に命を預ける事」
「仲間同士の繋がりを家族よりも第一とする事」
「活動で得た金銭や物は、全て平等折半する事」
 で、ロルフ団長の面接だけでメンバー参加の合否が決められる。

 主な活動は、「町の復興」だ。

 10年前の災厄で町は酷いダメージを受けた。
 その傷跡は、いまだ濃く残っている。

 町は主に養殖産業を生業としていた。貿易都市リンドグレンにそれを卸す事で収入を得ていた家庭が殆どだった。

 あの災厄で船は流され、沖合の養殖漁業地も一緒に流された。
 管理していた魚や貝は、自然では生息できない。敢え無く全滅したうえに、追い打ちをかけるように苗床…つまり養殖の元となる魚や貝そのものがいなくなったのだ。

 あの日から海は嵐で時化、まともに船を出す事もできない。リンドグレンの方向は瓦礫や流木で進めないし、《王都》の方へ北上するも、海流が定まらず常に嵐が吹き荒れている。
 貿易も漁も養殖も、何もかも出来なくなった町は、仕事も食べるものも失った。
 趣味で菜園をしている人以外は、食っていく方法が無かったのだ。

 そこでロルフ団長は、岸辺に流れ着く様々なリンドグレンからの漂流物に目を付ける。

 災厄で壊滅に陥った街は、その機能を突然失った。
 昨日の今日まで人々は普通に生活をしていた。
 人口も物資も、資材も金も知識も、この町を遥かに凌ぐ。これを利用しない手はないと。

 団のもう一つの大きな活動に、この「探索」がある。
 先日、私が出向いたあれだ。

 月に5度ほど、団は荷馬車を引いて廃墟を目指す。
 そこで、文字通り使えそうなものを片っ端から詰め込むのだ。

 一番喜ばれるのは食料。長期保存が可能な缶詰類は、波や風の影響を殆ど受けない。
 貴重な食糧は、それだけで助かるのだ。

 次に宝石類。
 海に頼らず生活するのが難しいこの町は、一体どうやって食っていくべきか。
 一部の大人達は空いた土地を探して農業を始めたが、町全部を賄うまでには至ってない。
 それに農業をするにも耕具だったり種だったり、金がいる。

 ロルフ団長は、昔の伝手を頼った。
 《中央》の、商人たちを。

 団はリンドグレンの廃墟で得た物資を、町で使わないもの以外は全て換金した。
 その金で食料を買い、生活必需品を買い、これも町の皆に分け与えた。

 廃墟は私達以外も人が来ていたけれど、魔物やグレフがいつ現れるか分からない危険もあってか、すぐに去っていく。徒党を組んだ私達に勝るものはないだろう。

 町は自警団を受け入れた。大いに受け入れた。
 自らが何もせずとも、自警団が食わせてくれるからだ。

 ロルフ団長は、町に自分たちの居場所さえ作ってくれれば、あとは町に貢献し続けるだけだと言った。そしてそれは果たされ、私達にはこの豪華で堅固な貴族の屋敷を、町民は団のおこぼれを、それぞれが得たのだ。




 椅子に座り、ほっと一息。

 貰った時はふかふかだった椅子のクッションは、何年もしたら潰れてしまった。
 でも創設当初からこの椅子は私専用なので、私のお尻の形にクッションがへこんで実にしっくりくる。

 20歳のお祝いに団員達からプレゼントされた伊達メガネを鞄から出して、掛ける。

 別段目は悪くないのだけど、私は少々目がキツいらしい。
 笑ったら可愛いのにと豪快に笑う団長が、少しでも和らいで見えるようにとくれた眼鏡。
 今考えると余計なお世話だと思うが、貰ったものを突き返すほど私は薄情な人間ではない。

 所々すり切れた、元は絢爛豪華だった机から書類の束を取り出して、早速書き出す。

 昨日の「探索」で得た物品の一覧は、昨日のうちに走り書きしておいた。
 《中央》ではこの書類を持って金品に換えてくる。間違いがないように、とても大事な書類なので丁寧に清書するのだ。

 自警団での仕事は、メンバーごとに違う。

 ロルフ団長は、主に町の見廻り。
 副団長や参謀も一緒に連れて行く。
 町民たちの不満や困った事などのご用達を聴いて回るのだ。それらで出てきた力仕事だったり修繕だったり、単なるお手伝いやちょっとした助けまで何でも聞いて、あとでメンバーに仕事を振り分ける。

 団に仕事を依頼した人は、報酬として僅かな金か食べ物、物資を支払わなければならない。そこで得た金をまた団できっちり三等分し、団と働いた本人と町へ分配する。

 もはや、何でも屋という立ち位置だ。

 残りのメンバーは、団長が持ってきた仕事を主にしているが、私はそうではない。
 私と、あと何人かだが、団の書記として働いていた。

 私は自分が思った以上に書類仕事が得意みたいで、特に調べ物や作戦概要を短絡的に正確にまとめる能力に長けていた。次に何の書類が必要か、どのような資料をどういった形でほしいのか、相手の話を聞いて正しくそれを判断し、素早く提供する。
 仕事が少しでもはかどるように、たかが書類如きに時間を取られてしまわないように、裏方として最善を尽くす。

 私の仕事はメンバーに高評価を得ている。

 加えて手が空いていた時に練習した魔法の力を、ようやく昨日発揮することができた。

 私は裏方だけに甘んじて引っ込むような女ではない。
 私だって戦えるのだと、その身をもって団に知らしめる事に成功したのだ。



「おお、ニーナ精がでるな!!」

 朝っぱらから遠慮のない大きな声に書いていた手を止め、見上げる。

「団長、おはようございます」
「うむ、おはよう!!今日もいい天気だな!!お?目の下に隈があるな、もしかして興奮して寝れなかったかあ?」

 昨日の疲れも何のその。
 団長は袖の無いピチピチのシャツを身に纏い、腕に力こぶを作ってなんだかよく分からない筋肉アピールをしている。

「はあ、まあ…」

 団長は悪い人ではないのだが、如何せんこのテンションである。
 しかも四六時中こんな調子なのだ。
 行動力は凄まじいものがあるが、場の空気を読めなかったり、こちらが気落ちしていると些か気に障る事もある。

「はははは!!今から朝飯だが一緒にどうだ、ニーナ!朝から食えば元気もりもり、今日も一日頑張れるというものだ!!」
「え、あ。そうですね」

 そう、悪い人ではない。
 豪快だがお人好し。空気が読めないが、その分誠実。裏表がなく、正義感があって、頼もしい。
 それがロルフ団長だ。

「今日もギルドの野郎にゃ負けていられないからな!あのクソッタレが性懲りもなくまたこの町に現れやがったら、屁をこいて追い返してやるというもの!!はっはっはー!!!!」

 そう。悪い人ではないのだが、良い人…というには語弊がある。
 この人の行動力は、その全てがある事柄に集約しているからだ。
 若い団員は知らない者もいるが、初期から団長を知っているメンバーには周知の事実。

「ギルドなんか滅亡しても痛くもかゆくもないわな!!!」

 そうして笑いながら去っていく大きな背中を見つめながら、私は溜息をつく。

 実はこのロルフ団長、なぜか《中央》のギルドが嫌いなのだ。
 ただの嫌いじゃなくて、大嫌い。

 姿を見るのもその名を聴くのも嫌がるし、自分の故郷であるはずの《中央》へ換金しに行く際も、絶対に行かないと駄々をこねるか、人がいなくて行かざるを得ない時は、頑なに街の入り口から動かない。もはや憎んでいるのではといったレベルで嫌っている。

 一体何がどうしてそんなに嫌うのか理由を尋ねるも、「あのお高くとまった感が気に食わない」の一点張りで、一方的に好敵手扱いしているのだ。

 ロルフ団長は、この町に多大な功績を残した。彼がいたから町は救われ、災厄を生き延びた。
 だがそんな彼の一連の行動は、ただ単に「災厄で死んでゆく哀れな町の為に立ち上がる」のではなく、「気に食わない《中央》の助けを借りたくない」が本音だったのだ。

 彼は救世主だが、その根っこの心意気は町に伝えてはいけない。
 彼は本当は町の事などどうでも良く、ギルドの鼻を明かしてやる手段に過ぎないのだから。

 しかしたかがそんな理由で、よくもまあ命を懸けていられるものである。呆れを通り越して、逆に尊敬さえする。

「ニーナ、いくぞお!!!」

 声を掛けられ、慌てて椅子を立つ。
 団長の周りには、昨日のメンバーとあと何人か増えている。
 町の酒場は、このカモメ団の為に店を開いているようなものだ。毎朝そこで朝食を採るのも、もはや変わりようはない。

「はい!」

 寝不足で頭はだるいがお腹は空いている。

 眼鏡をくいと持ち上げ、手早く書類をまとめると、私は彼らの元へ走って向かった。
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