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二. ニーナの章
7. 妹
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夕方から私が仕事から帰ってきて、多少なりとも遊ぶ時間があると分かった時のテルマの喜びようったらなかった。
身体を使わない遊びをしようねと言ったら、絵本を読んでほしいとせがんできた。
私がまだ小さかった頃に何度も何度も母に読んでもらった大好きな絵本。その本はテルマもお気に入りの一冊だ。
優しい両親と小さな女の子が仲良く暮らしている。
女の子は妹が欲しくてたまらなくて、ついに妹を探す旅に出る…といった内容の絵本だ。
女の子はたくさんの冒険をして、たくさんの経験をして、最終的にはお母さんのお腹の中で妹を見つける。
家族はいつまでも仲良く暮らしました。
そう締めくくられた絵本の影響で、私にも妹が欲しくなった事を思い出す。
テルマに読み聞かせながら、私は物思いに耽る。
私の家族は、昔はこんな感じではなかった。
この絵本のように、父も母も仲が良くて、毎日笑って暮らしていた。
貧乏だけど、心は豊かだった。妹が産まれて一層家族はその絆を強くしたはずだったのに。
いつから壊れてしまったのだろう。
災厄前、私の父と母はこの町の養殖業を取り纏める漁業組合に勤める事務員だった。
幼馴染で同僚で同期だった二人はいつしか恋に落ち、結婚してこの地に居を構えた。
すぐに私が産まれ、母は仕事を辞めて専業主婦になった。
父が一家を支えていて、それは楽な暮らしではなかったけれど、安定した給料は大元のリンドグレンの組合が保証してくれていたので、生活に困る事は無かった。
明るくて勤勉な父と、怒りっぽいけどとても優しくて料理の得意な母。
孫に甘くてよく気が利く祖母、そしてそんな真面目な父と感情の起伏の激しい母の間中の性格を受け継いだ私の4人は、慎ましくも楽しい毎日を過ごしていた。
私が3歳の時、待ち望んだ妹テルマが産まれた。
両親の誰にも似ていない、お人形さんみたいな綺麗な赤ちゃんだった。
後に聞くと、父型の祖父がこんな髪をしていたらしい。それはそれはとても可愛くて、家族はすっかりテルマの虜になった。
テルマはスクスクと成長し、私は私で学校に通い始めて、それは充実した日々だったのだと思う。
いつ、どんなきっかけで、何があったか分からない。
それは突然、始まった。
もう、私が幾つの頃だったか思い出せない。だが、まだテルマは小さくて、私も少女だった。
テルマが病気になったのだ。
たくさんのお医者様が来て、たくさんの人がテルマの周りを囲んで診たけれど、テルマの病名は分からなかった。
テルマの顔は真っ青で、息もまばら。終始苦しそうで喘息のようにぜえぜえと息をする。
足腰は弱り、食欲も減り、どんどん痩せていく。
ついに口から血を吐き出して、寝込むようになってしまった。
どんな薬も、どんな治療もテルマには効かなかった。
どんどん弱っていくテルマはついに、その成長を止めてしまった。
誰もが死を覚悟した。
でもテルマは強かった。何とか峠を越して持ち堪えてくれて、その命は輪廻を回る事を免れた。
時々発作が出るので、テルマは基本的に寝たきりだ。
命が長らえただけでも充分で、これから家族の結束を更に固めてテルマを支えようと思っていた矢先に、今度は両親がおかしくなった。
病気で苦しむテルマを、まるで厄介なお荷物のように、その存在を無視し始めたのだ。
まず、テルマの部屋を撤去した。
テルマはあの部屋で寝てるというのに、問答無用でベッドを運び出そうとする両親を、私は必死に止めて説得して、何とか私の部屋にベッドを運ぶ事で合意してくれた時は身も心も疲れ果てたのを思い出す。
でも、それからも大変だった。
母はテルマの食事の用意をしないのだ。
テルマは死んでいない。病気で成長が止まっただけで、生きている。彼女も生きる為に必死なのに、どうしてそんな意地悪をするのだと、縋りつくように私は叫んだ。
両親が頑なな時は、近所に助けも求めた。
両親がテルマの育児放棄をする。
成長を止めたテルマを気持ち悪がって世話をしようとしない。どうか助けてほしいと。
今思えば近所の人たちも迷惑だっただろう。それなりに付き合いはあるが家族の事情に立ち入るほど仲が良いわけでもあるまいし。しかし当時の私は必死だった。
自分の子どもだというのに両親はテルマを気持ち悪がって、その存在を隠そうとする。
私は必死になって両親に縋る。
私もまだ子供だった。私自身、親に養って貰っている身分なのだ。
嫌気の差した父に殴られ、蹴られ、母からは冷たい怒号を食らったりもしたけれど、私にとっては変りない可愛い妹なのだ。見捨てるなんてできっこない。
病気になった厄介者のテルマを捨てようとする両親と、それを必死に守ろうとする私とで、この家族に大きな大きな亀裂が入った。
修復すらできない傷は時間が経つにつれ裂けていき、今は真っ二つに切れている。
祖母はそんな私達を見守っているだけだった。両親、私のどれにも味方をせず、寝たきりで苦しそうなテルマに唯一優しい言葉をかけてくれた。
私はあんなに好きだった家族が大嫌いになった。
家にいたくない私の居場所は、いつしか学校になった。
学校では様々な学問を教えてくれる。町の外の広い世界を知って、こんなつまらない、テルマの味方になってくれない町を出て行きたい気持ちが私の中に生まれた。
マナの循環を得る為に、この国では15歳になると冒険者になって魔王を倒す旅に出なければならない法律があった。除外されるのは、貴族か評議会の子ども、または親の家業を継ぐ子どもだけで、それ以外の多くが町を出て旅に出る。
私の父は漁業組合の雇われ社員だし、母は専業主婦だ。継ぐものなど何もない。
私は学校の「冒険者コース」に入れられて、冒険に必要なサバイバル知識や、魔族や魔物と戦う基本的な術を学んでいた。
私ははやく15歳になりたかった。
何もかも捨て、冒険者となって大空に飛び立ちたかった。
そこで何年か頑張って財を成し、両親も誰もいない遠くの田舎に居を構えて、妹とふたりでいつまでも暮らしたいと願ったのだ。
私はこの町が大嫌いだった。
私が13歳の時。その頃にはもう父はあまり家には帰ってこなくなっていた。組合の事務所の中で寝泊まりをして、月に一度の頻度で生活費を渡しに来るだけになった。
相変わらず母はテルマに冷たくて、私と母の仲は険悪になっていた。
そんな二人の間に入ってくれたのは祖母で、祖母だけが私が学校でいない間のテルマの看病をしてくれていた。
冒険者になれるまで後2年。
学校の上級生だった私は、その生真面目さから生徒会に誘われ、書記としてメンバー入りを果たす。
そこで出会った同い年の男の子に初恋をして、淡い青春時代を送っていた。
学校も生徒会も充実していて、家では可愛いテルマが待っていて、母との仲さえ無視すれば、私は久々に楽しいと思える日常を過ごした時代だった。
冒険者になるには、国の正式な手続きを取らなければならない。
国は魔王を倒す最大の援助を冒険者に施す代わりに、その全ては自己責任である。
魔族も魔王を護る為に全力で応戦してくる。冒険者としての立ち回りは本人の自由だが、屍までは誰も拾わない。死んだら最後、終わりなだけだ。
何処で野垂れ死んでもいいように、登録した冒険者にはタグが配られる。
死んでも運が良ければ、タグだけは家族の元に還れるといった仕組みだ。
以前は冒険者にいちいちランクを付けて支給金もランクに応じて違ったが、30年前に新しい王様になってから法律が変わって支給金そのものがなくなった。こっそり引退したのにお金だけもらう輩もいたからである。
冒険者支援センターが3つの大きな都市に作られ、その一つは貿易都市・リンドグレンにあった。
冒険者は様々な案件や仕事をセンターで見つけ、その報酬金で生きていくのだ。
15歳。隣にあるのに行った事のない貿易都市に行ける日を、私はとにかく待ち望んでいた。
冒険者になって、仲間を募って旅をする。大きな仕事をこなして大金を得て、金も名声も手に入れて満を持して引退する。隣には素敵な旦那様と可愛い子ども。そして、大事な大事な私の妹が私の帰りを待っている。
私の子どもと一緒に遊びながら、「おねえちゃん!」と笑ってくれるのだ。
それは夢見た未来だった。
でも、私の頑張り次第で実現し得る未来でもあったのである。
今から10年前。世界に【カミが堕ちて】きた日。
私は15歳、貿易都市リンドグレンに冒険者として旅立つほんの2日前の事だった。
あの災厄は、全てを奪いつくした。
数多の命、平穏な生活、豊かな自然。
全部壊した。
私のささやかな夢も、長年抱いていた希望も未来も何もかも。
ごっそり奪った。
高台にある我が家は災厄の難を逃れ、旅立つ前に用意していた食料や道具が、奇しくも被災して食うものに困った家族を救った。
災厄のショックで祖母は現実逃避からボケてしまい、漁場を失った組合は潰れ父は仕事を失った。
母は祖母の世話に明け暮れ、私が行きたくて心待ちにしていたリンドグレンの貿易都市は、一足先に冒険者の手続きに行った大好きだった片思いの男の子もろとも、海の藻屑に消えた。
私は大好きな人を失い、生きる意味も目標も失い、壊れた家族と病状のテルマを抱えて呆然とするしかなかった。
そんな時に、当時剣術を教えていた臨時の教師のロルフが私を救ってくれたのだ。
どうしても行きたかった、旅立ちたかったあの都市へ。
冒険者という目的ではなく生きるために必要な物資を探すという目的に換えて、かつては大いに賑わっていただろうその街の跡地へと足を踏み入れた。
大好きだった男の子は、今もまだ見つかっていない。あの時死んだか、別の町に逃れたか。それすらも分からない。
10年経った。災厄から10年。
町は復興し、色々と変わろうとしているのに、私の家族はちっとも変ってない。
父は家にいたくないからか、廃材を拾っては売る行商に職を変え、年に数度も帰ってこない。
幼い私とテルマにクッキーを焼き続けている祖母は、その行動が危なっかしくなった。
母はそんな祖母の介護で手一杯で、碌に家の掃除もできてない。
テルマは今年で21歳となった。
だが、病気はちっとも改善せず、彼女は3歳でその成長を止めたまま、今も病気と闘っている。
私は超新星カモメ団の一員となり、この町の為、結果的に妹の為に毎日働いている。
家族が暮らす為に必要な金を私が稼ぐようになってから、家族の順位だけが変わった。
深夜まで働いて家族を食わす私に誰が文句を言えるものか。
母はすっかり縮こまって、いつもびくびくと私の顔色を伺いながら生活している。
私がテルマの看病を強く言うので、仕方なくといった感じで従っているだけで、母はテルマに冷たく無関心なのも、災厄前から変わらない。
「―――娘は妹の姉になりました。家族はいつまでもいつまでも幸せにくらしました…」
パタンと読み終わった絵本を閉じる。
テルマはニコニコしている。
「おねえちゃんもしあわせ?」
そう言いながら、また最初のページを開いている。また読んでほしいらしい。
彼女は年齢を重ねる事が出来ない。
身体も心も3歳のまま、彼女はずっと生きている。
「しあわせよ、私にはテルマがいるから」
「えへへ!テルマもおねえちゃんが大好きだよ。だからまたご本、読んでえ?」
彼女を心から愛している。
彼女だけは変わらずに私を愛してくれるからだ。
「じゃあ、もう一回ね。読み終わったら少しねんねしようか」
「うん!」
この町を飛び立ちたくて、旅立ちたくてたまらなかった。
しかし飛び立つ瞬間に、その翼を折られた。
行く当てもなく、海に立ち尽くすだけだった1羽のカモメを、ロルフ団長が救った。
鳥は再び翼を得て、団という風に乗って羽ばたいた。
だが、心の小さな片隅に、飛び立てなかった後悔が、いつまでもいつまでも尾を引いているのも事実だった。
あの時、もう少し早く家を出ていれば、私はまた違った人生を歩んでいたのかもしれない。
好きだったあの男の子と一緒に、波にのまれて死んでいたのかな。
それとも、すぐに冒険の旅にでて、運よく難を逃れて違う町に生きのびていたかな。
「昔々あるところに、とても仲の良い家族が住んでいました……」
私は、私以外になりたかったのかもしれない。
壊れた家族も、依存するしか能の無い町も、いずれ破綻する自警団も、恋に現を抜かす呑気な若者達も。
何もかも捨てて、生まれ変わりたいのかもしれない。
「娘は妹を探して旅に出ました。最初は警察官に聴きにいきました。妹は届いてないよと言われました」
熱心に絵本を見つめるテルマに目を落とす。
私がいなければ生きていけない可哀相な妹。
この子を放って旅に出る?この私が?
「どろぼうさんに聴きにいきました。さすがに妹までは盗まないよと言われました」
何もかも捨てたいのに、この子を捨てる勇気がない。
この子が私に依存しているというなら、私だってこの子に依存している。
「ダンサーに会いにいきました。そんなことより一緒に踊ろうよ。たくさん踊っても妹は見つかりません」
答えはいくら考えても出てこない。
今はもう考えないようにしよう。せっかく妹と一緒にいるのだ。そんな答えの出ない愚問に悩むより、目の前の笑顔の方が大事だ。
「困ったな。妹はどこにいけば会えるのかな。娘の妹を探す旅は続きます」
ふと、母の息を殺した気配を感じた。
扉を薄く開け、こっそり私たちの様子を窺っている。
本当に嫌になる。
そんなに気になるなら、堂々と聞けばいいのに。
じめじめと陰気臭いったらない。
母と私と妹と絵本。
この不適格で歪な家族は、私が出て行かない限り、いつまでも在り続けるのだ。
いっそのこと、魔族だけじゃなくて人間も滅ぼしてくれたら良かったのに。
人類最大の敵【怒れる神(グレフ)】にさえ依存するのだから、私はどうにかしている。
「しねばいいのに…」
ポツリと呟いた言葉はテルマに聞こえてしまっただろうか。
何も気にせず続きを促す妹の姿を見て、私はホウっと安堵と諦めの溜息をつくのであった。
■■■
「そうだ、ねえテルマ。あなたにお土産があるの」
「おみやげ!」
「ええ、いつお利口さんしてるテルマに、とっても素敵なお土産!」
「いいの?」
きょとんと首を傾げる彼女は、本当に可愛くて出来る事ならいつも首にぶら下げていたいぐらいだ。
絵本をお終いにして、そろそろ眠る時間。
テルマは興奮してまだ眠たくなさそうだけど、テルマと一緒のベッドにいたら何だか私の方が眠たくなってしまった。
昨日の寝不足が祟っているのは間違いない。
もう眠ってしまいたかった。
私の朝は早いので、また渡しそびれてしまう前にと思ったのだ。
ポケットをまさぐり、布に包まれた透明な石をテルマの前に差し出す。
それを見た瞬間、テルマの顔がパアと明るくなる。
「わあああ、きれー!!」
「綺麗でしょ?探索で見つけたの。ほら見てごらん、透き通っているのよ」
石を摘まんで、夕焼けに彩られた赤い町並みに石をかざす。
それは小さな小さなキャンパスとなって、幻想的な光景を映し出す。いつも見慣れた町並みも、石を通せば目新しい景色となる。
「わあ!すごいね、おねえちゃん!!石が透けてみえるよ」
テルマに石を渡すと、ベッドの上に限定されるが動ける範囲であちこちを見ている。
私のベッドだったりクローゼットだったり。様々なものを石を通して見つめては感動してきゃあきゃあ言っている。
もう長い間この部屋しか知らない彼女は、この小さな空間が唯一の世界なのだ。
たかが銅貨一枚の価値でしかない石も、これを通せば新たな世界を彼女にくれてやれるのだから、なんて安い買い物なのだろうと思った。
私の場合は拾ったので、銅貨一枚すら支払っていないのだけれど。
「わあ、ベッドがぐねぐねしてるよ!ちょっとかたむけると、お日様が何個も見えるね!」
とても楽しそうな様子のテルマを見て、私も素直に笑う事ができた。
「この石は、願いの叶う石なんだって」
全身黒ずくめの行商人の男が垂れた口上を、テルマに分かり易く説明する。
「透明な部分をじいと見て、大好きな人の事を思ってお祈りすると、願いが叶うんだって」
「だったらテルマはおねえちゃんを思っておいのりするね!」
「まあ、おねえちゃん嬉しいよ」
「テルマは、おねえちゃんがいるからここにいるんだよ。おねえちゃんがテルマを必要としてくれるから、テルマは病気きついけど、頑張ってねんねして治そうと思うの。全部おねえちゃんがいるからがんばれるんだよ」
そうニコニコと屈託のない笑顔を見せつけられて、私はついに陥落してしまう。
いきができないと苦しい声を出すテルマの頭ごと、ぎゅうぎゅうに彼女を抱いて離さない。
ああ、もう可愛すぎる。
幸せすぎる。
「おねえちゃん、今日はここで寝る!テルマとぎゅうぎゅうしながら寝るもん!」
「わあい、やったー。でもせまいよ?」
なんせテルマのベッドは子供用なのだ。でもそれは大丈夫。私は足を折り曲げればいいし、テルマを抱きしめていればいいのだから。
「狭いからいいのよ。テルマと頬っぺたくっつんこできるでしょ」
「わあ!くっつんこくっつんこ!!」
まだ眠るには少し早い時間だが、もうそろそろ私も限界に近い。
テルマに絵本を読んでいる途中から空欠伸で何とか誤魔化していたが、子ども特有の暖かい身体を味わってしまったらもう抜け出せない。
「テルマ、寝よ?あなたも少しお休みしないと、明日が辛くなっちゃうよ」
「はあい」
彼女を腕に抱き、少し窮屈だがぴったりくっついて布団をかぶる。
ふわふわのシルバーブロンドが鼻をくすぐる。
ずっと家の中にいるはずなのに、なぜかお日様の匂いがする髪を優しく撫でながら、私も睡魔の奈落に落ちかける。
「この石、だいじにするね」
「え?うん…テルマ、おやすみなさい」
「おねえちゃんをいつもおもってお祈りするね」
「テルマ…ね、む…」
目を閉じる。
次第にやってくる闇が心地よい。
「………」
耳の遠くで、まだテルマが何か喋っていたが、もう聞こえなかった。
意識を完全に夢の中に飛ばすまで。
いち。
に。
さん。
…………。
「テルマは本当はお姉ちゃんが望むままに生きていられるんだよ。お休みなさい、お姉ちゃん」
ひと時の夢を―――。
私は朝まで目覚めなかった。
身体を使わない遊びをしようねと言ったら、絵本を読んでほしいとせがんできた。
私がまだ小さかった頃に何度も何度も母に読んでもらった大好きな絵本。その本はテルマもお気に入りの一冊だ。
優しい両親と小さな女の子が仲良く暮らしている。
女の子は妹が欲しくてたまらなくて、ついに妹を探す旅に出る…といった内容の絵本だ。
女の子はたくさんの冒険をして、たくさんの経験をして、最終的にはお母さんのお腹の中で妹を見つける。
家族はいつまでも仲良く暮らしました。
そう締めくくられた絵本の影響で、私にも妹が欲しくなった事を思い出す。
テルマに読み聞かせながら、私は物思いに耽る。
私の家族は、昔はこんな感じではなかった。
この絵本のように、父も母も仲が良くて、毎日笑って暮らしていた。
貧乏だけど、心は豊かだった。妹が産まれて一層家族はその絆を強くしたはずだったのに。
いつから壊れてしまったのだろう。
災厄前、私の父と母はこの町の養殖業を取り纏める漁業組合に勤める事務員だった。
幼馴染で同僚で同期だった二人はいつしか恋に落ち、結婚してこの地に居を構えた。
すぐに私が産まれ、母は仕事を辞めて専業主婦になった。
父が一家を支えていて、それは楽な暮らしではなかったけれど、安定した給料は大元のリンドグレンの組合が保証してくれていたので、生活に困る事は無かった。
明るくて勤勉な父と、怒りっぽいけどとても優しくて料理の得意な母。
孫に甘くてよく気が利く祖母、そしてそんな真面目な父と感情の起伏の激しい母の間中の性格を受け継いだ私の4人は、慎ましくも楽しい毎日を過ごしていた。
私が3歳の時、待ち望んだ妹テルマが産まれた。
両親の誰にも似ていない、お人形さんみたいな綺麗な赤ちゃんだった。
後に聞くと、父型の祖父がこんな髪をしていたらしい。それはそれはとても可愛くて、家族はすっかりテルマの虜になった。
テルマはスクスクと成長し、私は私で学校に通い始めて、それは充実した日々だったのだと思う。
いつ、どんなきっかけで、何があったか分からない。
それは突然、始まった。
もう、私が幾つの頃だったか思い出せない。だが、まだテルマは小さくて、私も少女だった。
テルマが病気になったのだ。
たくさんのお医者様が来て、たくさんの人がテルマの周りを囲んで診たけれど、テルマの病名は分からなかった。
テルマの顔は真っ青で、息もまばら。終始苦しそうで喘息のようにぜえぜえと息をする。
足腰は弱り、食欲も減り、どんどん痩せていく。
ついに口から血を吐き出して、寝込むようになってしまった。
どんな薬も、どんな治療もテルマには効かなかった。
どんどん弱っていくテルマはついに、その成長を止めてしまった。
誰もが死を覚悟した。
でもテルマは強かった。何とか峠を越して持ち堪えてくれて、その命は輪廻を回る事を免れた。
時々発作が出るので、テルマは基本的に寝たきりだ。
命が長らえただけでも充分で、これから家族の結束を更に固めてテルマを支えようと思っていた矢先に、今度は両親がおかしくなった。
病気で苦しむテルマを、まるで厄介なお荷物のように、その存在を無視し始めたのだ。
まず、テルマの部屋を撤去した。
テルマはあの部屋で寝てるというのに、問答無用でベッドを運び出そうとする両親を、私は必死に止めて説得して、何とか私の部屋にベッドを運ぶ事で合意してくれた時は身も心も疲れ果てたのを思い出す。
でも、それからも大変だった。
母はテルマの食事の用意をしないのだ。
テルマは死んでいない。病気で成長が止まっただけで、生きている。彼女も生きる為に必死なのに、どうしてそんな意地悪をするのだと、縋りつくように私は叫んだ。
両親が頑なな時は、近所に助けも求めた。
両親がテルマの育児放棄をする。
成長を止めたテルマを気持ち悪がって世話をしようとしない。どうか助けてほしいと。
今思えば近所の人たちも迷惑だっただろう。それなりに付き合いはあるが家族の事情に立ち入るほど仲が良いわけでもあるまいし。しかし当時の私は必死だった。
自分の子どもだというのに両親はテルマを気持ち悪がって、その存在を隠そうとする。
私は必死になって両親に縋る。
私もまだ子供だった。私自身、親に養って貰っている身分なのだ。
嫌気の差した父に殴られ、蹴られ、母からは冷たい怒号を食らったりもしたけれど、私にとっては変りない可愛い妹なのだ。見捨てるなんてできっこない。
病気になった厄介者のテルマを捨てようとする両親と、それを必死に守ろうとする私とで、この家族に大きな大きな亀裂が入った。
修復すらできない傷は時間が経つにつれ裂けていき、今は真っ二つに切れている。
祖母はそんな私達を見守っているだけだった。両親、私のどれにも味方をせず、寝たきりで苦しそうなテルマに唯一優しい言葉をかけてくれた。
私はあんなに好きだった家族が大嫌いになった。
家にいたくない私の居場所は、いつしか学校になった。
学校では様々な学問を教えてくれる。町の外の広い世界を知って、こんなつまらない、テルマの味方になってくれない町を出て行きたい気持ちが私の中に生まれた。
マナの循環を得る為に、この国では15歳になると冒険者になって魔王を倒す旅に出なければならない法律があった。除外されるのは、貴族か評議会の子ども、または親の家業を継ぐ子どもだけで、それ以外の多くが町を出て旅に出る。
私の父は漁業組合の雇われ社員だし、母は専業主婦だ。継ぐものなど何もない。
私は学校の「冒険者コース」に入れられて、冒険に必要なサバイバル知識や、魔族や魔物と戦う基本的な術を学んでいた。
私ははやく15歳になりたかった。
何もかも捨て、冒険者となって大空に飛び立ちたかった。
そこで何年か頑張って財を成し、両親も誰もいない遠くの田舎に居を構えて、妹とふたりでいつまでも暮らしたいと願ったのだ。
私はこの町が大嫌いだった。
私が13歳の時。その頃にはもう父はあまり家には帰ってこなくなっていた。組合の事務所の中で寝泊まりをして、月に一度の頻度で生活費を渡しに来るだけになった。
相変わらず母はテルマに冷たくて、私と母の仲は険悪になっていた。
そんな二人の間に入ってくれたのは祖母で、祖母だけが私が学校でいない間のテルマの看病をしてくれていた。
冒険者になれるまで後2年。
学校の上級生だった私は、その生真面目さから生徒会に誘われ、書記としてメンバー入りを果たす。
そこで出会った同い年の男の子に初恋をして、淡い青春時代を送っていた。
学校も生徒会も充実していて、家では可愛いテルマが待っていて、母との仲さえ無視すれば、私は久々に楽しいと思える日常を過ごした時代だった。
冒険者になるには、国の正式な手続きを取らなければならない。
国は魔王を倒す最大の援助を冒険者に施す代わりに、その全ては自己責任である。
魔族も魔王を護る為に全力で応戦してくる。冒険者としての立ち回りは本人の自由だが、屍までは誰も拾わない。死んだら最後、終わりなだけだ。
何処で野垂れ死んでもいいように、登録した冒険者にはタグが配られる。
死んでも運が良ければ、タグだけは家族の元に還れるといった仕組みだ。
以前は冒険者にいちいちランクを付けて支給金もランクに応じて違ったが、30年前に新しい王様になってから法律が変わって支給金そのものがなくなった。こっそり引退したのにお金だけもらう輩もいたからである。
冒険者支援センターが3つの大きな都市に作られ、その一つは貿易都市・リンドグレンにあった。
冒険者は様々な案件や仕事をセンターで見つけ、その報酬金で生きていくのだ。
15歳。隣にあるのに行った事のない貿易都市に行ける日を、私はとにかく待ち望んでいた。
冒険者になって、仲間を募って旅をする。大きな仕事をこなして大金を得て、金も名声も手に入れて満を持して引退する。隣には素敵な旦那様と可愛い子ども。そして、大事な大事な私の妹が私の帰りを待っている。
私の子どもと一緒に遊びながら、「おねえちゃん!」と笑ってくれるのだ。
それは夢見た未来だった。
でも、私の頑張り次第で実現し得る未来でもあったのである。
今から10年前。世界に【カミが堕ちて】きた日。
私は15歳、貿易都市リンドグレンに冒険者として旅立つほんの2日前の事だった。
あの災厄は、全てを奪いつくした。
数多の命、平穏な生活、豊かな自然。
全部壊した。
私のささやかな夢も、長年抱いていた希望も未来も何もかも。
ごっそり奪った。
高台にある我が家は災厄の難を逃れ、旅立つ前に用意していた食料や道具が、奇しくも被災して食うものに困った家族を救った。
災厄のショックで祖母は現実逃避からボケてしまい、漁場を失った組合は潰れ父は仕事を失った。
母は祖母の世話に明け暮れ、私が行きたくて心待ちにしていたリンドグレンの貿易都市は、一足先に冒険者の手続きに行った大好きだった片思いの男の子もろとも、海の藻屑に消えた。
私は大好きな人を失い、生きる意味も目標も失い、壊れた家族と病状のテルマを抱えて呆然とするしかなかった。
そんな時に、当時剣術を教えていた臨時の教師のロルフが私を救ってくれたのだ。
どうしても行きたかった、旅立ちたかったあの都市へ。
冒険者という目的ではなく生きるために必要な物資を探すという目的に換えて、かつては大いに賑わっていただろうその街の跡地へと足を踏み入れた。
大好きだった男の子は、今もまだ見つかっていない。あの時死んだか、別の町に逃れたか。それすらも分からない。
10年経った。災厄から10年。
町は復興し、色々と変わろうとしているのに、私の家族はちっとも変ってない。
父は家にいたくないからか、廃材を拾っては売る行商に職を変え、年に数度も帰ってこない。
幼い私とテルマにクッキーを焼き続けている祖母は、その行動が危なっかしくなった。
母はそんな祖母の介護で手一杯で、碌に家の掃除もできてない。
テルマは今年で21歳となった。
だが、病気はちっとも改善せず、彼女は3歳でその成長を止めたまま、今も病気と闘っている。
私は超新星カモメ団の一員となり、この町の為、結果的に妹の為に毎日働いている。
家族が暮らす為に必要な金を私が稼ぐようになってから、家族の順位だけが変わった。
深夜まで働いて家族を食わす私に誰が文句を言えるものか。
母はすっかり縮こまって、いつもびくびくと私の顔色を伺いながら生活している。
私がテルマの看病を強く言うので、仕方なくといった感じで従っているだけで、母はテルマに冷たく無関心なのも、災厄前から変わらない。
「―――娘は妹の姉になりました。家族はいつまでもいつまでも幸せにくらしました…」
パタンと読み終わった絵本を閉じる。
テルマはニコニコしている。
「おねえちゃんもしあわせ?」
そう言いながら、また最初のページを開いている。また読んでほしいらしい。
彼女は年齢を重ねる事が出来ない。
身体も心も3歳のまま、彼女はずっと生きている。
「しあわせよ、私にはテルマがいるから」
「えへへ!テルマもおねえちゃんが大好きだよ。だからまたご本、読んでえ?」
彼女を心から愛している。
彼女だけは変わらずに私を愛してくれるからだ。
「じゃあ、もう一回ね。読み終わったら少しねんねしようか」
「うん!」
この町を飛び立ちたくて、旅立ちたくてたまらなかった。
しかし飛び立つ瞬間に、その翼を折られた。
行く当てもなく、海に立ち尽くすだけだった1羽のカモメを、ロルフ団長が救った。
鳥は再び翼を得て、団という風に乗って羽ばたいた。
だが、心の小さな片隅に、飛び立てなかった後悔が、いつまでもいつまでも尾を引いているのも事実だった。
あの時、もう少し早く家を出ていれば、私はまた違った人生を歩んでいたのかもしれない。
好きだったあの男の子と一緒に、波にのまれて死んでいたのかな。
それとも、すぐに冒険の旅にでて、運よく難を逃れて違う町に生きのびていたかな。
「昔々あるところに、とても仲の良い家族が住んでいました……」
私は、私以外になりたかったのかもしれない。
壊れた家族も、依存するしか能の無い町も、いずれ破綻する自警団も、恋に現を抜かす呑気な若者達も。
何もかも捨てて、生まれ変わりたいのかもしれない。
「娘は妹を探して旅に出ました。最初は警察官に聴きにいきました。妹は届いてないよと言われました」
熱心に絵本を見つめるテルマに目を落とす。
私がいなければ生きていけない可哀相な妹。
この子を放って旅に出る?この私が?
「どろぼうさんに聴きにいきました。さすがに妹までは盗まないよと言われました」
何もかも捨てたいのに、この子を捨てる勇気がない。
この子が私に依存しているというなら、私だってこの子に依存している。
「ダンサーに会いにいきました。そんなことより一緒に踊ろうよ。たくさん踊っても妹は見つかりません」
答えはいくら考えても出てこない。
今はもう考えないようにしよう。せっかく妹と一緒にいるのだ。そんな答えの出ない愚問に悩むより、目の前の笑顔の方が大事だ。
「困ったな。妹はどこにいけば会えるのかな。娘の妹を探す旅は続きます」
ふと、母の息を殺した気配を感じた。
扉を薄く開け、こっそり私たちの様子を窺っている。
本当に嫌になる。
そんなに気になるなら、堂々と聞けばいいのに。
じめじめと陰気臭いったらない。
母と私と妹と絵本。
この不適格で歪な家族は、私が出て行かない限り、いつまでも在り続けるのだ。
いっそのこと、魔族だけじゃなくて人間も滅ぼしてくれたら良かったのに。
人類最大の敵【怒れる神(グレフ)】にさえ依存するのだから、私はどうにかしている。
「しねばいいのに…」
ポツリと呟いた言葉はテルマに聞こえてしまっただろうか。
何も気にせず続きを促す妹の姿を見て、私はホウっと安堵と諦めの溜息をつくのであった。
■■■
「そうだ、ねえテルマ。あなたにお土産があるの」
「おみやげ!」
「ええ、いつお利口さんしてるテルマに、とっても素敵なお土産!」
「いいの?」
きょとんと首を傾げる彼女は、本当に可愛くて出来る事ならいつも首にぶら下げていたいぐらいだ。
絵本をお終いにして、そろそろ眠る時間。
テルマは興奮してまだ眠たくなさそうだけど、テルマと一緒のベッドにいたら何だか私の方が眠たくなってしまった。
昨日の寝不足が祟っているのは間違いない。
もう眠ってしまいたかった。
私の朝は早いので、また渡しそびれてしまう前にと思ったのだ。
ポケットをまさぐり、布に包まれた透明な石をテルマの前に差し出す。
それを見た瞬間、テルマの顔がパアと明るくなる。
「わあああ、きれー!!」
「綺麗でしょ?探索で見つけたの。ほら見てごらん、透き通っているのよ」
石を摘まんで、夕焼けに彩られた赤い町並みに石をかざす。
それは小さな小さなキャンパスとなって、幻想的な光景を映し出す。いつも見慣れた町並みも、石を通せば目新しい景色となる。
「わあ!すごいね、おねえちゃん!!石が透けてみえるよ」
テルマに石を渡すと、ベッドの上に限定されるが動ける範囲であちこちを見ている。
私のベッドだったりクローゼットだったり。様々なものを石を通して見つめては感動してきゃあきゃあ言っている。
もう長い間この部屋しか知らない彼女は、この小さな空間が唯一の世界なのだ。
たかが銅貨一枚の価値でしかない石も、これを通せば新たな世界を彼女にくれてやれるのだから、なんて安い買い物なのだろうと思った。
私の場合は拾ったので、銅貨一枚すら支払っていないのだけれど。
「わあ、ベッドがぐねぐねしてるよ!ちょっとかたむけると、お日様が何個も見えるね!」
とても楽しそうな様子のテルマを見て、私も素直に笑う事ができた。
「この石は、願いの叶う石なんだって」
全身黒ずくめの行商人の男が垂れた口上を、テルマに分かり易く説明する。
「透明な部分をじいと見て、大好きな人の事を思ってお祈りすると、願いが叶うんだって」
「だったらテルマはおねえちゃんを思っておいのりするね!」
「まあ、おねえちゃん嬉しいよ」
「テルマは、おねえちゃんがいるからここにいるんだよ。おねえちゃんがテルマを必要としてくれるから、テルマは病気きついけど、頑張ってねんねして治そうと思うの。全部おねえちゃんがいるからがんばれるんだよ」
そうニコニコと屈託のない笑顔を見せつけられて、私はついに陥落してしまう。
いきができないと苦しい声を出すテルマの頭ごと、ぎゅうぎゅうに彼女を抱いて離さない。
ああ、もう可愛すぎる。
幸せすぎる。
「おねえちゃん、今日はここで寝る!テルマとぎゅうぎゅうしながら寝るもん!」
「わあい、やったー。でもせまいよ?」
なんせテルマのベッドは子供用なのだ。でもそれは大丈夫。私は足を折り曲げればいいし、テルマを抱きしめていればいいのだから。
「狭いからいいのよ。テルマと頬っぺたくっつんこできるでしょ」
「わあ!くっつんこくっつんこ!!」
まだ眠るには少し早い時間だが、もうそろそろ私も限界に近い。
テルマに絵本を読んでいる途中から空欠伸で何とか誤魔化していたが、子ども特有の暖かい身体を味わってしまったらもう抜け出せない。
「テルマ、寝よ?あなたも少しお休みしないと、明日が辛くなっちゃうよ」
「はあい」
彼女を腕に抱き、少し窮屈だがぴったりくっついて布団をかぶる。
ふわふわのシルバーブロンドが鼻をくすぐる。
ずっと家の中にいるはずなのに、なぜかお日様の匂いがする髪を優しく撫でながら、私も睡魔の奈落に落ちかける。
「この石、だいじにするね」
「え?うん…テルマ、おやすみなさい」
「おねえちゃんをいつもおもってお祈りするね」
「テルマ…ね、む…」
目を閉じる。
次第にやってくる闇が心地よい。
「………」
耳の遠くで、まだテルマが何か喋っていたが、もう聞こえなかった。
意識を完全に夢の中に飛ばすまで。
いち。
に。
さん。
…………。
「テルマは本当はお姉ちゃんが望むままに生きていられるんだよ。お休みなさい、お姉ちゃん」
ひと時の夢を―――。
私は朝まで目覚めなかった。
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