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二. ニーナの章
10. 死人
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「ん…みんな起きて」
身体を揺さぶられる感覚でハッと目が覚めた。
何時の間にか眠っていたようだ。崩れた床の残骸の僅かなスペースに膝を抱えて蹲っていたのに、よく落ちなかったものだ。遠くに波の音を聴きながら、それが天然の子守歌になってしまったのだろう。
いけない。
徹夜覚悟で昼間はしっかり寝てきたはずなのに、人はどうしても夜の闇にいると眠たくなってしまう生き物なのだろう。
顔を上げると、ギャバンがいた。
元・船乗りの名残なのか、彼はいつもバンダナを巻いている。結び目が風に靡いている。
夏が過ぎ去ったこの時期は、日中は暑いが日が落ちると途端に寒くなる。潮風はとても冷たく、思わず寒気で震えてしまった。
「どうしたの?」
「しい…」
彼は猫のような細い目を更に細くして、人差し指で静かにしろと合図した。
丸まった背筋をほぐすように伸びをして、立ち上がる。
辛うじて残った二階部分の四方にいた他の仲間たちも、それぞれの場所で立ち上がって辺りを見回している。
ふいに、生暖かい空気と、生臭さを感じた。
肌は風に当たって冷たいのに、顔面が感じるのは妙な暖かさである。
つんと鼻に臭うのは、魚の腐ったような微かなもの。
この教会跡地は波止場に近い。波止場は海流が滞って濁りやすく、独特の匂いがするものだ。
今漂っている匂いはその類のものだったが、何か違うような雰囲気もする。
「ギャバン?」
バンダナ頭は動かない。その細い目に何を写しているのか、前方の暗闇を睨みつけている。
すると団長が一度柱を降り、私のいる場所までやってきた。
一人でも厳しいという狭さなのに、男が二人も!しかも団長は筋肉隆々で大人二人分ほどの体格をしているのだ。床が抜け落ちるのではないかとハラハラする。
途端に居場所がなくなってふら付いていると、団長が腰を支えてくれた。
「どうした、何が見えるのだ?」
団長にしては小さな声でギャバンに問う。
夜目が利く彼には何かが見えているのだろう。起きたばかりの私はまだ闇に目が慣れていない。
目を凝らすも何も分からない。カンテラは火の温存がしたくて、みんな消している。
「死人…でたかも…」
「え?」
「なんと!」
「しいっ…」
四方の私の斜め前にいるアインも闇に目を向けている。
私たちが驚いた様子を見て、カンテラをつけようか悩んでいるみたいだ。
「どこにいるのだ?大勢か?」
ギャバンの見る方向の先は、確か崖で行き止まりだったはず。
そのあたりは私達も「探索」していないのでよく分からないが、暗くなる前に遠目から確認した時は、いくつも隆起した小さな渓谷のようなデコボコの地形が崖まで続いていたはず。
「……人影」
「うむ」
「人影みたいなものが、たくさん…動いてた。後、足音も」
「うむう。ここからでは見えないな」
すると団長はまた柱を降り、アインの方へ行く。
狭くなったスペースにアインの文句を言っている声が聞こえてきた。それからすぐにカンテラに火が灯る。
ホワンと優しい光が私達を照らした。
団長が何度も下に降りているので、敵はここいらにはいないのだろう。
アインがカンテラを照らすも、教会跡地は静かなものである。
カンテラの炎は、ギャバンが見据える先までは届かない。光が傍に現れた所為で、闇に慣れそうだった目も元に戻ってしまった。
「あっちに…いると思う」
そう言ってギャバンも私の持つカンテラに火を点けた。
「今のところ、この辺りは安全か。待っていても仕方が無い。こっちから行くぞ!」
「はあ?」
「その為に来たのだろう!今さラ臆病風吹かせてどうするのだ、アイン!」
「え?いや臆病じゃあありませんよ!作戦も立てずに何を言ってんのかなあって思っただけです!」
ロルフ団長とアインの言い争う声が聞こえる。
静かにしろとギャバンが注意してくれた意味がないじゃないか。
「カンテラつけた時点で…気づかれるときはきづかれるし、どうでもいい…」
「あ、そうなんだ…」
やる気があるのかないのか分からない言葉に、私の緊張が一気に解れた。
結局、私たちはギャバンが指す方に行ってみようという話になった。
団長の云う通り、私たちはこの為に来たのだ。
本当に死人とやらの魔物が出るのか。
数は?その特徴は?見定めないと、今後の活動にも支障がでる。
大人数で動けば動くほど、統率も取れにくくなる。戦闘しないと決めてしまえば、遭遇した時は逃げるのみだ。だから、身軽な者しか連れてきていない。
カンテラ一つを教会跡地に残して目印にする。闇の中に一筋の光が浮かぶ。
もしもの時は、あそこを目指せばいいのだ。
私たちは柱を降り、団長を先頭にして残りの三人は横並びの隊列だ。
真ん中が私。私だけカンテラを持っていないが、その代わり愛用の触媒の杖を持っている。
用心に越した事はないのだ。いつでも魔法が発動できるように、精霊だけは呼び出してある。
水の精霊メロウを宿した触媒の石は、薄っすらと光を漂わせている。お陰で足元だけは見えるので、私たちは10年間放置されていたかつては立派な石畳だったであろう、今はデコボコの道を歩いている。
道は基本的に一本道だ。
途中いくつか道が分かれるところが出てくるが、それは広大な敷地の墓場に繋がるらしい。
「探索」を済ました武器屋を通り過ぎ、ここから先は未知の世界。
ピタリと、団長が足を止めた。
思わずつんのめるように三人が団子になる。
しこたま団長の固い背中に鼻を打ち付けたアインが文句を言おうと口を開く前に、団長が振り返る。
「いたぞ、すぐそこだ!!」
「はい!」
「ええ?痛いなあ、もう」
「……」
瓦礫と化した廃墟の影に隠れる。極力足音を立てないように、意識して動く。
カンテラの火を消す。間近まで迫っていたのに、今のところは気付かれていないようだ。
その時である。
「アアアアァァァァァァアアアアアァァ…」
私たちの来た方向、つまり後ろから声がした。
喉が潰されたのを必死で出しているような、喘ぎ声。声になっていない声が、ほんの後ろからしたのである。
「!!」
瓦礫に隠れて正解だった。
それは、私達に気付く事なくゆっくりと進んでいる。
プンと鼻につく臭いに顔を顰める。
息を殺す。
それが通り過ぎる。間近に見るそれに、本当は叫びたかった。
でもそれは適わなかった。ロルフ団長が、私の口を抑えてくれていたからである。
ずるずると何かを引きずる音。絶え間なくそれからは声が漏れている。
私たちはもれなく全員が汗びっしょりとなって、それを凝視している。
それがついに私達を通り過ぎた。
全く気付かれてはいない。
緊張で息も忘れていたのか、それが闇に消えて初めて肺に空気を入れる。
「見たか?」
アインだ。ロルフ団長に口を塞がれたままだから、こくこくと頷いた。
ギャバンにはまだそれが見えているようだ。後を追うように、ずっと見つめている。その顔は真っ青だ。
「あれは何だか、魔物辞典に書いてたかい?」
「ぷは」
ようやくロルフ団長が手を離してくれた。息をつき、私たち以外には誰もいないと確認して脳みそをフル回転させる。
「いえ…書いて、なかったです」
絞り出すように言った。
それは、まさに人間の死体だった。
つい先ほどまで墓場に埋められていたかの如く、身体中を土塗れにしてのそりのそりと歩いていた。
私は人の死体を見るのは初めてではない。災厄で大勢が死んだのだ。流れ着く貿易都市の住民たちの後始末もした事もある。
だから見慣れているといっては可笑しいが、間違いなく死体だと確信できる。
腐って爛れた青緑の肌に、土に還る途中のボロボロの衣服を身に着けて、口をカッパリと開けてひたすら前に進んでいた。
目は窪んでなく、舌もない。鼻は溶けて剥き出しで、指の先は骨だった。
ゾロゾロと何を引きずっているかと思いきや、それは外れかかった自らの足で、それが通った後はひん曲がりそうな腐った臭いがした。
あれを死体と言わずして何というのだ。
脳の収納部屋を漁って漁って、あれが一体何なのか得た知識をフル回転させても全く答えが出てこない。
魔物辞典には載っていない。
魔物は次々と新種も発見されるから、それもその類かもしれないが、人間の死体の姿をしている魔物は今まで聞いたことも無かった。
あと考えられるのは、馬鹿げた話だが、お伽噺しか残っていない。
創世の時代に造られた、伝説の生き物。
確かそれに書いてあった。肉体が朽ち果てるのを知らずに作った女神の失敗作として。
「どこの向かってるんだ?ギャバン、見えるか?」
「いや…もう、見えないね」
団長らの言葉に焦りが見える。
確認するつもりでやってきたのに、本当に見るとは思わなかった。そんな口調である。
「だけど、前にたくさんいるね…ちょっと、ヤバイかもよ…」
「吐きそうだ。この臭いはもう死体だ。俺は帰るに一票だね。多勢に無勢は危険すぎるねえ」
「でも、あそこで何をしているのでしょう」
「うむう、気にはなるがアインの云う通りかもしれんな」
こう見えて、ロルフ団長は慎重派である。団の特攻隊長を謳うあの二人の方が、血気盛んなのだ。
恐らく彼らがいたら、まず帰るのはあり得ないと息巻いているだろう。
連れてこなくて本当に良かった。
「本当は、死人の対処方も確認したかったが…」
団長の云っている事も理解できる。
せっかく来たのだ。奴らがどんな戦い方をするのかも、目で見るのと話を聞くだけでは全く違ったものになる。
この死人らは、東エリアにも出没する。夜間だけ行動するとは云え、あんなとろい歩みでも、確実に前には進む。いつか私の町にもやってくるかもしれない。
それだけは阻止しなければならないのだ。
戦闘するには相手を見極める必要がある。西エリアの入り口を住処にしていた半魚人の魔物も、数か月の下見と作戦を立てて臨んだのだ。
結果、倒す事が出来たのであり、行き当たりばったりでは命が幾つあっても足りない。
「奴らの行動の目的さえ分かればなあ」
ロルフ団長は悔しそうだ。
このまま帰ってもいい。むしろ、そうした方が全員安全に帰宅できるだろう。
だが実際に化け物をこの目で見てしまったら、はいはいそうですかでは問屋が卸さない。
危険なのはビシビシと伝わる。どうにか対処する方法さえ見つかれば。
ほんの少しばかし話し合い、結局あの死体達が何をしているのか確認してからでも遅くはないだろうと結論付け、私たちは死人の後を追う事で話がついた。
私もみんなも考えている事は一緒。町が大事なのだ。
身体を揺さぶられる感覚でハッと目が覚めた。
何時の間にか眠っていたようだ。崩れた床の残骸の僅かなスペースに膝を抱えて蹲っていたのに、よく落ちなかったものだ。遠くに波の音を聴きながら、それが天然の子守歌になってしまったのだろう。
いけない。
徹夜覚悟で昼間はしっかり寝てきたはずなのに、人はどうしても夜の闇にいると眠たくなってしまう生き物なのだろう。
顔を上げると、ギャバンがいた。
元・船乗りの名残なのか、彼はいつもバンダナを巻いている。結び目が風に靡いている。
夏が過ぎ去ったこの時期は、日中は暑いが日が落ちると途端に寒くなる。潮風はとても冷たく、思わず寒気で震えてしまった。
「どうしたの?」
「しい…」
彼は猫のような細い目を更に細くして、人差し指で静かにしろと合図した。
丸まった背筋をほぐすように伸びをして、立ち上がる。
辛うじて残った二階部分の四方にいた他の仲間たちも、それぞれの場所で立ち上がって辺りを見回している。
ふいに、生暖かい空気と、生臭さを感じた。
肌は風に当たって冷たいのに、顔面が感じるのは妙な暖かさである。
つんと鼻に臭うのは、魚の腐ったような微かなもの。
この教会跡地は波止場に近い。波止場は海流が滞って濁りやすく、独特の匂いがするものだ。
今漂っている匂いはその類のものだったが、何か違うような雰囲気もする。
「ギャバン?」
バンダナ頭は動かない。その細い目に何を写しているのか、前方の暗闇を睨みつけている。
すると団長が一度柱を降り、私のいる場所までやってきた。
一人でも厳しいという狭さなのに、男が二人も!しかも団長は筋肉隆々で大人二人分ほどの体格をしているのだ。床が抜け落ちるのではないかとハラハラする。
途端に居場所がなくなってふら付いていると、団長が腰を支えてくれた。
「どうした、何が見えるのだ?」
団長にしては小さな声でギャバンに問う。
夜目が利く彼には何かが見えているのだろう。起きたばかりの私はまだ闇に目が慣れていない。
目を凝らすも何も分からない。カンテラは火の温存がしたくて、みんな消している。
「死人…でたかも…」
「え?」
「なんと!」
「しいっ…」
四方の私の斜め前にいるアインも闇に目を向けている。
私たちが驚いた様子を見て、カンテラをつけようか悩んでいるみたいだ。
「どこにいるのだ?大勢か?」
ギャバンの見る方向の先は、確か崖で行き止まりだったはず。
そのあたりは私達も「探索」していないのでよく分からないが、暗くなる前に遠目から確認した時は、いくつも隆起した小さな渓谷のようなデコボコの地形が崖まで続いていたはず。
「……人影」
「うむ」
「人影みたいなものが、たくさん…動いてた。後、足音も」
「うむう。ここからでは見えないな」
すると団長はまた柱を降り、アインの方へ行く。
狭くなったスペースにアインの文句を言っている声が聞こえてきた。それからすぐにカンテラに火が灯る。
ホワンと優しい光が私達を照らした。
団長が何度も下に降りているので、敵はここいらにはいないのだろう。
アインがカンテラを照らすも、教会跡地は静かなものである。
カンテラの炎は、ギャバンが見据える先までは届かない。光が傍に現れた所為で、闇に慣れそうだった目も元に戻ってしまった。
「あっちに…いると思う」
そう言ってギャバンも私の持つカンテラに火を点けた。
「今のところ、この辺りは安全か。待っていても仕方が無い。こっちから行くぞ!」
「はあ?」
「その為に来たのだろう!今さラ臆病風吹かせてどうするのだ、アイン!」
「え?いや臆病じゃあありませんよ!作戦も立てずに何を言ってんのかなあって思っただけです!」
ロルフ団長とアインの言い争う声が聞こえる。
静かにしろとギャバンが注意してくれた意味がないじゃないか。
「カンテラつけた時点で…気づかれるときはきづかれるし、どうでもいい…」
「あ、そうなんだ…」
やる気があるのかないのか分からない言葉に、私の緊張が一気に解れた。
結局、私たちはギャバンが指す方に行ってみようという話になった。
団長の云う通り、私たちはこの為に来たのだ。
本当に死人とやらの魔物が出るのか。
数は?その特徴は?見定めないと、今後の活動にも支障がでる。
大人数で動けば動くほど、統率も取れにくくなる。戦闘しないと決めてしまえば、遭遇した時は逃げるのみだ。だから、身軽な者しか連れてきていない。
カンテラ一つを教会跡地に残して目印にする。闇の中に一筋の光が浮かぶ。
もしもの時は、あそこを目指せばいいのだ。
私たちは柱を降り、団長を先頭にして残りの三人は横並びの隊列だ。
真ん中が私。私だけカンテラを持っていないが、その代わり愛用の触媒の杖を持っている。
用心に越した事はないのだ。いつでも魔法が発動できるように、精霊だけは呼び出してある。
水の精霊メロウを宿した触媒の石は、薄っすらと光を漂わせている。お陰で足元だけは見えるので、私たちは10年間放置されていたかつては立派な石畳だったであろう、今はデコボコの道を歩いている。
道は基本的に一本道だ。
途中いくつか道が分かれるところが出てくるが、それは広大な敷地の墓場に繋がるらしい。
「探索」を済ました武器屋を通り過ぎ、ここから先は未知の世界。
ピタリと、団長が足を止めた。
思わずつんのめるように三人が団子になる。
しこたま団長の固い背中に鼻を打ち付けたアインが文句を言おうと口を開く前に、団長が振り返る。
「いたぞ、すぐそこだ!!」
「はい!」
「ええ?痛いなあ、もう」
「……」
瓦礫と化した廃墟の影に隠れる。極力足音を立てないように、意識して動く。
カンテラの火を消す。間近まで迫っていたのに、今のところは気付かれていないようだ。
その時である。
「アアアアァァァァァァアアアアアァァ…」
私たちの来た方向、つまり後ろから声がした。
喉が潰されたのを必死で出しているような、喘ぎ声。声になっていない声が、ほんの後ろからしたのである。
「!!」
瓦礫に隠れて正解だった。
それは、私達に気付く事なくゆっくりと進んでいる。
プンと鼻につく臭いに顔を顰める。
息を殺す。
それが通り過ぎる。間近に見るそれに、本当は叫びたかった。
でもそれは適わなかった。ロルフ団長が、私の口を抑えてくれていたからである。
ずるずると何かを引きずる音。絶え間なくそれからは声が漏れている。
私たちはもれなく全員が汗びっしょりとなって、それを凝視している。
それがついに私達を通り過ぎた。
全く気付かれてはいない。
緊張で息も忘れていたのか、それが闇に消えて初めて肺に空気を入れる。
「見たか?」
アインだ。ロルフ団長に口を塞がれたままだから、こくこくと頷いた。
ギャバンにはまだそれが見えているようだ。後を追うように、ずっと見つめている。その顔は真っ青だ。
「あれは何だか、魔物辞典に書いてたかい?」
「ぷは」
ようやくロルフ団長が手を離してくれた。息をつき、私たち以外には誰もいないと確認して脳みそをフル回転させる。
「いえ…書いて、なかったです」
絞り出すように言った。
それは、まさに人間の死体だった。
つい先ほどまで墓場に埋められていたかの如く、身体中を土塗れにしてのそりのそりと歩いていた。
私は人の死体を見るのは初めてではない。災厄で大勢が死んだのだ。流れ着く貿易都市の住民たちの後始末もした事もある。
だから見慣れているといっては可笑しいが、間違いなく死体だと確信できる。
腐って爛れた青緑の肌に、土に還る途中のボロボロの衣服を身に着けて、口をカッパリと開けてひたすら前に進んでいた。
目は窪んでなく、舌もない。鼻は溶けて剥き出しで、指の先は骨だった。
ゾロゾロと何を引きずっているかと思いきや、それは外れかかった自らの足で、それが通った後はひん曲がりそうな腐った臭いがした。
あれを死体と言わずして何というのだ。
脳の収納部屋を漁って漁って、あれが一体何なのか得た知識をフル回転させても全く答えが出てこない。
魔物辞典には載っていない。
魔物は次々と新種も発見されるから、それもその類かもしれないが、人間の死体の姿をしている魔物は今まで聞いたことも無かった。
あと考えられるのは、馬鹿げた話だが、お伽噺しか残っていない。
創世の時代に造られた、伝説の生き物。
確かそれに書いてあった。肉体が朽ち果てるのを知らずに作った女神の失敗作として。
「どこの向かってるんだ?ギャバン、見えるか?」
「いや…もう、見えないね」
団長らの言葉に焦りが見える。
確認するつもりでやってきたのに、本当に見るとは思わなかった。そんな口調である。
「だけど、前にたくさんいるね…ちょっと、ヤバイかもよ…」
「吐きそうだ。この臭いはもう死体だ。俺は帰るに一票だね。多勢に無勢は危険すぎるねえ」
「でも、あそこで何をしているのでしょう」
「うむう、気にはなるがアインの云う通りかもしれんな」
こう見えて、ロルフ団長は慎重派である。団の特攻隊長を謳うあの二人の方が、血気盛んなのだ。
恐らく彼らがいたら、まず帰るのはあり得ないと息巻いているだろう。
連れてこなくて本当に良かった。
「本当は、死人の対処方も確認したかったが…」
団長の云っている事も理解できる。
せっかく来たのだ。奴らがどんな戦い方をするのかも、目で見るのと話を聞くだけでは全く違ったものになる。
この死人らは、東エリアにも出没する。夜間だけ行動するとは云え、あんなとろい歩みでも、確実に前には進む。いつか私の町にもやってくるかもしれない。
それだけは阻止しなければならないのだ。
戦闘するには相手を見極める必要がある。西エリアの入り口を住処にしていた半魚人の魔物も、数か月の下見と作戦を立てて臨んだのだ。
結果、倒す事が出来たのであり、行き当たりばったりでは命が幾つあっても足りない。
「奴らの行動の目的さえ分かればなあ」
ロルフ団長は悔しそうだ。
このまま帰ってもいい。むしろ、そうした方が全員安全に帰宅できるだろう。
だが実際に化け物をこの目で見てしまったら、はいはいそうですかでは問屋が卸さない。
危険なのはビシビシと伝わる。どうにか対処する方法さえ見つかれば。
ほんの少しばかし話し合い、結局あの死体達が何をしているのか確認してからでも遅くはないだろうと結論付け、私たちは死人の後を追う事で話がついた。
私もみんなも考えている事は一緒。町が大事なのだ。
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