41 / 170
二. ニーナの章
11. 怒れる神との遭遇
しおりを挟む
カンテラには火を灯さず、今度は一列になって進む。
私は触媒の光が外に漏れないように、服の中に杖を隠す。魔法はいつでも発動できる。後は詠唱のみだ。
時々、瓦礫に隠れながら周りを確認する。先ほどのように、後ろを取られるわけにはいかない。彼らは息をしていないらしく、気配が探れないのだ。
随分と歩いた。
闇はまだ混沌と支配する時刻。恐らく夜中だろう。
テルマはもう眠っているだろう。家に帰ってこない私を心配しているかもしれない。
そう頭に片隅に思い浮かべながら後ろを振り返る。
教会跡地に置いてきたカンテラの光が見えなくなっている。
ここは隆起の激しい緩急地帯のようで、平地が定まっていない。下っている今は教会の姿も消える。
途端に不安になった。
「団長、深入りしすぎでは…」
「うむ、確かになあ」
「あ、まって…あれ、変だな」
ギャバンが目に見えて狼狽えている。無口でのっそりとしているギャバンは、大抵うざったそうにしているだけで、余り感情の起伏が見られない。
その彼が、忙しく首を振っている。
「ギャバン?」
「どうしたのだ!」
「え?…いや、うそでしょ、さっきまでいたのに…」
「どういうこと?」
ギャバンは徐にカンテラに火を点けた。止める間もなく火は点いて辺りを照らす。
敵が近いのに不用心だぞとロルフ団長の声がするが、お構いなしにずんずんと進みだした。
慌てて私達三人もギャバンの後を追う。
足音も構っていられない。
「ギャバン!!」
ついにロルフ団長のいつもの声量が、ギャバンを呼んだ。
そこでギャバンは立ち止まり、暗い目からでも良く分かる青白い顔をして私達に言った。
「死人、いなくなってる…」
「えええええええ?」
「なんだとお!」
「は?追ってきたあの足引きずってんのもいないの?」
「…いない」
ロルフとアインもカンテラに火を灯す。
三つの光が地面を照らす。
今ままで追ってきた影が、一つ残らず消えて消いる。
「どこに、いったの…」
汗がまた噴き出してくるのを感じた。
「足音はさっきまでしていたんだ…それに大勢の影も。だけど急に闇が濃くなって、気づいたら何も感じなくなった。こんなの有り得っこない…」
私たちの両側は、崖だ。崖の下は海しかない。落ちていれば水音もするはずだ。
それが今は無音である。
なんだか嫌な予感がしてきた。
「ニーナ、光の魔法で照らせないのかよって。お前は水しか使えなかったなあ」
言いかけている途中でアインが諦めたかのように頭を振った。
その通りだ。私は魔法を使えるが、万物の力を操れるわけではない。地水火風光闇の六大元素に沿って魔法は構築できるが、各々によって得意な性質が違うのだ。
私は水の魔法に特化している。生まれた時から海に慣れ親しんだ私は、水の精霊に適性を得ていた。
原理さえ学べばどんな魔法も使えるが、私は水の力を極めたくて、水の元素しか学んでこなかった。水の魔法にはそれなりに自信はあるが、それ以外はからきしなのだ。
周りを照らすのは光の魔法だ。水の魔法にそんな応用は聴いた事がない。
「ごめんなさい…」
そう素直に謝るも、アインは言いすぎたと頭を下げてくれた。
「戻るぞお!!!ここは危険だ!!!」
団長が叫んだ。
「はい!」
「…りょーかい」
「さあ、走ろうか」
私たちは踵を翻し、文字通り一目散に逃げだした。
カンテラの光が私達の影を左右に地面に映し出す。カタカタと蝋燭が動いているが、気にしてはいられない。
何処に消えたのか分からないのだ。
しかも、ギャバンがいうには数十人規模の大群だったらしい。
唐突に、それは消えた。
何度も岩に足を取られて転びかけるも、必死に走る。
遠くに、ようやく教会跡地の光の目印が見えてきた。
ホっとする。あともう少し。
早く抜けて、瓦礫を降りて、波止場を抜ける。
そのまま真っ直ぐ通りを走って、入り口までノンストップで走り抜ける!
あとは馬で駆け出せばいい。
確認は、奴らの出ない昼間にすればいい。今は、命の温存の方が大事だ。
「はあはあはあはあっ!」
息が切れる。
集中力が途切れた所為で、魔法の力も霧散してしまった。
「がっ!」
途中でアインが転ぶ。
持っていたカンテラがその手から吹っ飛んで遠くに行く。
「捨て置くぞお!!アイン、急げ!!」
コロコロと転がったカンテラを見捨てて、アインに肩を貸す。
足を捻って膝を強く打ち付けてしまったらしく、うまく走れない。
もたついているとロルフ団長が来て、アインをその逞しい背に持ちあげた。
「すみません、団長…ふがいないねえ」
「よいぞ、アイン!さあ、このまま引くぞ。ギャバンに先頭を任す。道は選べよお!!!」
「…りょーかい」
細いアインを背負うぐらいでは、ロルフ団長は柔な作りではない。全く動じる事なく、走る。私は団長のカンテラを代わりに持って、隣を並走する。
走る事数分。もう何時間も走った気がする。それぐらい長く感じた道だった。
魔物の気配はない。遭遇することもなかった。
このまま何もなければいい。
懸命に走って、ついに教会跡地に到着するといった時。
目印にしていた光が消えた。
前方が闇に覆われる。しかし夜目に慣れたお陰でぼんやりとだが分かる。白い大理石の柱と朽ちた建物。
蝋燭が潰えたのかもしれない。
「ん…?」
再び、ギャバンが足を止めた。
何事かと思って私達も足を緩めたと同時に見てしまう。
「…なんだ、あれ」
ロルフ団長の背の上で、アインの震える声がする。
私達が先程までいた教会跡地の一階部分に、何やら白い物陰が動いている気配。
ひたり。
ゾクリと背筋が凍る。
ひたり。
ひたり。
白いものは、廃墟の柱ではない。明らかに、意思を持って動いている。
ひたり。
私たち4人を、それは待ち望んでいたかのように、ゆっくりとゆっくりとそれは動く。
「あ……あ、あ…」
私はその正体を理解した。
「あれは…まさか」
他の3人も、もう分かっている。
認めたくはない。こんな所で、こんな時間に、どうしてこんな。
ジリリと後ずさりする。先頭にいたギャバンが私達に並ぶ。
白いものは、徐々にその姿を鮮明にしてゆく。その様子を私たちは見つめるしかなかった。まるで蛇に睨まれたカエルのように、身体が硬直して動かない。
ひたり。
こんな闇でもはっきり分かる。
闇の中に浮かぶ、白いモヤの塊。
うごうごと気持ち悪い動きをしながら、確実に私たちに向かってくる。
「怒れる神!!!」
ついにロルフ団長がその名を呼んだ。
その時だった。
グレフを中心に、周りの土が急に盛り上がったかと思ったら、あの死人の大群が土の中から這い出てきたのである。
私たちは一瞬にして囲まれた。
前方はグレフ。
周りは死人。
「まさか、グレフの野郎が絡んでいやがるとは思わなかったねえ…あはは」
「チっ…」
アインは諦めたかのように笑っている。
笑いしか出てこないのだろう。私も顔の筋肉が動いてくれるのなら、大笑いしたい気分だ。
誰が想像するか。魔物の調査に行ったら、帰り道にグレフが待ち伏せているだなんて。
今迄死人に遭遇したという話に、グレフはいなかった。
いや、いたのかもしれない。全滅してしまうと、それを伝える手段はないのだから。
災厄以降、初めて【死】を感じた。
グレフに攻撃は効かない。そして、噂では死人も不死身だ。
私たちは4人。戦う道具は、ロルフの長剣と、ギャバンのナイフ、私の魔法しかない。
アインは怪我で歩けない。
もはや、絶体絶命だった。
まさかこんな所で命果てることになろうとは、いきなりの死刑宣告に狼狽えた。
まだまだやりたい事はある。エルマの事も心配だ。私がいなくなったら、冷たい母の元でエルマは碌に面倒も見てもらえずに死んでしまうかもしれない。
団長がいなくなったらカモメ団はどうなってしまう?
その遺志を継いで、アドリアンたちが何とかしてくれるか。
私は涙を流していた。
もう、逃れられない。
後方は崖一択だ。いずれ、追い詰められる。
グレフに遭えば死ぬ。こんな間近にいて、よほどの強運の持ち主でないと生きては帰れないだろう。
「崖から飛び降りるか?」
焦った口調でロルフが言っている。
「…自殺行為だよ、どれくらい高いと思ってんの」
「だよなあ!終わったな、こりゃあ」
ギャバンはもう諦めたように力を抜いている。ロルフに突っ込んだ口調はいつものもので、ロルフもそれを受けて頭を掻いている。
「は!俺はまだ死にたくないねえ、でも諦めるしかないな、こりゃあマジでアウトだ」
アインがロルフ団長の背から降り、唾を飛ばした。
「こうなったら、仕方ない、ですよね。何だか腑に落ちませんけど」
「だよな、あっはっは!!」
グレフはもう目の前だ。
白いモヤは何か形を作っていたのかと思ったら、それは巨大な蛇に変身した。
フシュフシュと激しく息をして、長い舌をひっきりなしに出し入れしている。
グレフは擬態すると聞いたことがある。それがそうなのだろう。今更新たな知識を得ても、本当にどうしようもないのだけれど。
創造神がいなくなった今、輪廻の回路が乱れた中に死すると、私はどうなってしまうのだろうう。
永遠に彷徨うのか。
その時ニーナという意思が無ければ、辛くなくて済むのに。
嘲笑して私も肩の力を抜いた。
グレフがにじにじと近寄ってきて、あんぐりとその口を開けた。
口の中は真っ黒で、何もない。
でもその穴は、死国に繋がっている。
覚悟を決め、私はぎゅうと目を瞑った。
私は触媒の光が外に漏れないように、服の中に杖を隠す。魔法はいつでも発動できる。後は詠唱のみだ。
時々、瓦礫に隠れながら周りを確認する。先ほどのように、後ろを取られるわけにはいかない。彼らは息をしていないらしく、気配が探れないのだ。
随分と歩いた。
闇はまだ混沌と支配する時刻。恐らく夜中だろう。
テルマはもう眠っているだろう。家に帰ってこない私を心配しているかもしれない。
そう頭に片隅に思い浮かべながら後ろを振り返る。
教会跡地に置いてきたカンテラの光が見えなくなっている。
ここは隆起の激しい緩急地帯のようで、平地が定まっていない。下っている今は教会の姿も消える。
途端に不安になった。
「団長、深入りしすぎでは…」
「うむ、確かになあ」
「あ、まって…あれ、変だな」
ギャバンが目に見えて狼狽えている。無口でのっそりとしているギャバンは、大抵うざったそうにしているだけで、余り感情の起伏が見られない。
その彼が、忙しく首を振っている。
「ギャバン?」
「どうしたのだ!」
「え?…いや、うそでしょ、さっきまでいたのに…」
「どういうこと?」
ギャバンは徐にカンテラに火を点けた。止める間もなく火は点いて辺りを照らす。
敵が近いのに不用心だぞとロルフ団長の声がするが、お構いなしにずんずんと進みだした。
慌てて私達三人もギャバンの後を追う。
足音も構っていられない。
「ギャバン!!」
ついにロルフ団長のいつもの声量が、ギャバンを呼んだ。
そこでギャバンは立ち止まり、暗い目からでも良く分かる青白い顔をして私達に言った。
「死人、いなくなってる…」
「えええええええ?」
「なんだとお!」
「は?追ってきたあの足引きずってんのもいないの?」
「…いない」
ロルフとアインもカンテラに火を灯す。
三つの光が地面を照らす。
今ままで追ってきた影が、一つ残らず消えて消いる。
「どこに、いったの…」
汗がまた噴き出してくるのを感じた。
「足音はさっきまでしていたんだ…それに大勢の影も。だけど急に闇が濃くなって、気づいたら何も感じなくなった。こんなの有り得っこない…」
私たちの両側は、崖だ。崖の下は海しかない。落ちていれば水音もするはずだ。
それが今は無音である。
なんだか嫌な予感がしてきた。
「ニーナ、光の魔法で照らせないのかよって。お前は水しか使えなかったなあ」
言いかけている途中でアインが諦めたかのように頭を振った。
その通りだ。私は魔法を使えるが、万物の力を操れるわけではない。地水火風光闇の六大元素に沿って魔法は構築できるが、各々によって得意な性質が違うのだ。
私は水の魔法に特化している。生まれた時から海に慣れ親しんだ私は、水の精霊に適性を得ていた。
原理さえ学べばどんな魔法も使えるが、私は水の力を極めたくて、水の元素しか学んでこなかった。水の魔法にはそれなりに自信はあるが、それ以外はからきしなのだ。
周りを照らすのは光の魔法だ。水の魔法にそんな応用は聴いた事がない。
「ごめんなさい…」
そう素直に謝るも、アインは言いすぎたと頭を下げてくれた。
「戻るぞお!!!ここは危険だ!!!」
団長が叫んだ。
「はい!」
「…りょーかい」
「さあ、走ろうか」
私たちは踵を翻し、文字通り一目散に逃げだした。
カンテラの光が私達の影を左右に地面に映し出す。カタカタと蝋燭が動いているが、気にしてはいられない。
何処に消えたのか分からないのだ。
しかも、ギャバンがいうには数十人規模の大群だったらしい。
唐突に、それは消えた。
何度も岩に足を取られて転びかけるも、必死に走る。
遠くに、ようやく教会跡地の光の目印が見えてきた。
ホっとする。あともう少し。
早く抜けて、瓦礫を降りて、波止場を抜ける。
そのまま真っ直ぐ通りを走って、入り口までノンストップで走り抜ける!
あとは馬で駆け出せばいい。
確認は、奴らの出ない昼間にすればいい。今は、命の温存の方が大事だ。
「はあはあはあはあっ!」
息が切れる。
集中力が途切れた所為で、魔法の力も霧散してしまった。
「がっ!」
途中でアインが転ぶ。
持っていたカンテラがその手から吹っ飛んで遠くに行く。
「捨て置くぞお!!アイン、急げ!!」
コロコロと転がったカンテラを見捨てて、アインに肩を貸す。
足を捻って膝を強く打ち付けてしまったらしく、うまく走れない。
もたついているとロルフ団長が来て、アインをその逞しい背に持ちあげた。
「すみません、団長…ふがいないねえ」
「よいぞ、アイン!さあ、このまま引くぞ。ギャバンに先頭を任す。道は選べよお!!!」
「…りょーかい」
細いアインを背負うぐらいでは、ロルフ団長は柔な作りではない。全く動じる事なく、走る。私は団長のカンテラを代わりに持って、隣を並走する。
走る事数分。もう何時間も走った気がする。それぐらい長く感じた道だった。
魔物の気配はない。遭遇することもなかった。
このまま何もなければいい。
懸命に走って、ついに教会跡地に到着するといった時。
目印にしていた光が消えた。
前方が闇に覆われる。しかし夜目に慣れたお陰でぼんやりとだが分かる。白い大理石の柱と朽ちた建物。
蝋燭が潰えたのかもしれない。
「ん…?」
再び、ギャバンが足を止めた。
何事かと思って私達も足を緩めたと同時に見てしまう。
「…なんだ、あれ」
ロルフ団長の背の上で、アインの震える声がする。
私達が先程までいた教会跡地の一階部分に、何やら白い物陰が動いている気配。
ひたり。
ゾクリと背筋が凍る。
ひたり。
ひたり。
白いものは、廃墟の柱ではない。明らかに、意思を持って動いている。
ひたり。
私たち4人を、それは待ち望んでいたかのように、ゆっくりとゆっくりとそれは動く。
「あ……あ、あ…」
私はその正体を理解した。
「あれは…まさか」
他の3人も、もう分かっている。
認めたくはない。こんな所で、こんな時間に、どうしてこんな。
ジリリと後ずさりする。先頭にいたギャバンが私達に並ぶ。
白いものは、徐々にその姿を鮮明にしてゆく。その様子を私たちは見つめるしかなかった。まるで蛇に睨まれたカエルのように、身体が硬直して動かない。
ひたり。
こんな闇でもはっきり分かる。
闇の中に浮かぶ、白いモヤの塊。
うごうごと気持ち悪い動きをしながら、確実に私たちに向かってくる。
「怒れる神!!!」
ついにロルフ団長がその名を呼んだ。
その時だった。
グレフを中心に、周りの土が急に盛り上がったかと思ったら、あの死人の大群が土の中から這い出てきたのである。
私たちは一瞬にして囲まれた。
前方はグレフ。
周りは死人。
「まさか、グレフの野郎が絡んでいやがるとは思わなかったねえ…あはは」
「チっ…」
アインは諦めたかのように笑っている。
笑いしか出てこないのだろう。私も顔の筋肉が動いてくれるのなら、大笑いしたい気分だ。
誰が想像するか。魔物の調査に行ったら、帰り道にグレフが待ち伏せているだなんて。
今迄死人に遭遇したという話に、グレフはいなかった。
いや、いたのかもしれない。全滅してしまうと、それを伝える手段はないのだから。
災厄以降、初めて【死】を感じた。
グレフに攻撃は効かない。そして、噂では死人も不死身だ。
私たちは4人。戦う道具は、ロルフの長剣と、ギャバンのナイフ、私の魔法しかない。
アインは怪我で歩けない。
もはや、絶体絶命だった。
まさかこんな所で命果てることになろうとは、いきなりの死刑宣告に狼狽えた。
まだまだやりたい事はある。エルマの事も心配だ。私がいなくなったら、冷たい母の元でエルマは碌に面倒も見てもらえずに死んでしまうかもしれない。
団長がいなくなったらカモメ団はどうなってしまう?
その遺志を継いで、アドリアンたちが何とかしてくれるか。
私は涙を流していた。
もう、逃れられない。
後方は崖一択だ。いずれ、追い詰められる。
グレフに遭えば死ぬ。こんな間近にいて、よほどの強運の持ち主でないと生きては帰れないだろう。
「崖から飛び降りるか?」
焦った口調でロルフが言っている。
「…自殺行為だよ、どれくらい高いと思ってんの」
「だよなあ!終わったな、こりゃあ」
ギャバンはもう諦めたように力を抜いている。ロルフに突っ込んだ口調はいつものもので、ロルフもそれを受けて頭を掻いている。
「は!俺はまだ死にたくないねえ、でも諦めるしかないな、こりゃあマジでアウトだ」
アインがロルフ団長の背から降り、唾を飛ばした。
「こうなったら、仕方ない、ですよね。何だか腑に落ちませんけど」
「だよな、あっはっは!!」
グレフはもう目の前だ。
白いモヤは何か形を作っていたのかと思ったら、それは巨大な蛇に変身した。
フシュフシュと激しく息をして、長い舌をひっきりなしに出し入れしている。
グレフは擬態すると聞いたことがある。それがそうなのだろう。今更新たな知識を得ても、本当にどうしようもないのだけれど。
創造神がいなくなった今、輪廻の回路が乱れた中に死すると、私はどうなってしまうのだろうう。
永遠に彷徨うのか。
その時ニーナという意思が無ければ、辛くなくて済むのに。
嘲笑して私も肩の力を抜いた。
グレフがにじにじと近寄ってきて、あんぐりとその口を開けた。
口の中は真っ黒で、何もない。
でもその穴は、死国に繋がっている。
覚悟を決め、私はぎゅうと目を瞑った。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる