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三. セトの章
9. 四大ギルド
しおりを挟む対外的に発表されている4つのギルドは、互いに互いを牽制し合う事で権力の独り占めを抑止し、治世の分野を分散せず一点に集中させる事で分野に特化した組織となるのを目的とし、最後は全ての力を合わせて怒れる神との戦争と王都開放を理念として掲げている。
「フレデリク将軍の騎士団は言わずもがなだね。前々から《王都》で活躍してたし、王様の信頼も篤かった。
「ヴァレリに最も訪れているのが騎士団だったな」
「今はね。どうしても砂漠を越えて《王都》に行きたいみたい。それに治安…かな。名目上は。このヴァレリは最後の中継地だからね。是が非でもほしいんだろう。この町の主権を」
筆頭ギルドは前述した王国騎士団。
ユリウス・フレデリク総帥閣下がギルドマスターを務め、主に治安維持、魔物退治などの力仕事を全般に請け負う戦士ギルドであり、「顔」だ。
目立った活動は全て騎士団で、他の3つは完全に見劣りしている。
人々がギルドといえば騎士団の事であり、最も知られ信頼に篤いのも騎士団だ。
フレデリク将軍は単一でも有能で、勇猛果敢な戦士であり沈着冷静な策士でもある気の抜けない相手だ。
1を語る前から10の指示を的確に行える。真の天才とはあのような人物を言うのだろう。
この町には数回、砂漠の様子見で訪れているし、《中央》では騎士団を指揮する彼を何度か見かけている。黄金甲冑を身に纏いし姿はまさに“勇者”そのもので、男であっても惚れそうな雄姿であった。
「人外は僕らに関係ないな。一次産業をこの町でやっている人はいないから」
「土地の借用を申し込まれているが断っているぞ。ギルドに貸しを作るのは良いが、どうも慈善事業になりそうだからな。利益にはならんだろう」
「人外族に恩を売っておいても損はないけど。まあ、僕らに不利益が被るのだけは勘弁してもらいたいから、現状維持だね」
「うむ…きちんと見ておるな」
「当然だよ、父さん」
次に、人外族を中心に構成されたギルド。ギルド名は公表されていない。
ギルドマスターは、シュナル大森林に住まう太古のエルフ族、族長キキョウだ。
見た目は幼女で可愛らしく、長い髪と伝統衣装に身を包みちょこちょこ歩く姿は愛おしく人形のようでたまらない。僕は遠目から一度見たことがあったが、オーラの度合いが一般人と雲泥の差だったのを覚えている。
そんな也で千年も生きているというから、まさに人智を超える存在だろう。
創世の時代から人外族はマナの劣勢種族に手を貸し、マナの循環を見守る神の代理人といった立場を取り続けている知的生物だ。
マナの循環を止めた新たな神の台頭は彼らの存在意義を失くすと同時に、神の代理人として由々しき事態だったのだろう。また人外族を人間組織に加える事で、『全ての生物が一致団結して神に対抗する構図を見せつける』意図があったのだと僕は思っている。
人々の協力義務を、より強固なものにするために。
人外族のギルドは、その性質から第一次作業、つまり農業や林業、漁業の管理を請け負っている。
「“研究者”はよく分からないな。《中央》でもあまり表には出てこないみたいだ」
「ワシらに直接関係もあるまい。放っておくべきだろう」
「同感だけど気になる事も。マスターは別として《中央》の公的機関の受付なんかはこのギルドの人たちなんだけどね。僕らが外資を得たり換金しようとする時にどうしても関りを持つ必要がある。だから無視はできないよ」
「そうか…資金を管理しているのだったな」
「だとしても、この町との相互性は低いと思うけどね」
3つ目は、盗賊ギルド。これもギルド名は公表されていない。どうして“盗賊”と名乗っているのか。それにギルドマスターも謎に包まれていて怪しい事この上ない存在だ。僕が集めた情報によるとそれは男で、「研究者」である事が分かっている。
活動内容もよく分からないが、軒並み頭が良く天才の集団で、裏から治世の糸を引いているのではないかと踏んで、いる。
《中央》では法と役所、銀行の仕事を請け負っていて、彼らがいないと経済が崩壊するとも言われている。怒れる神との戦争では軍師的役割を果たすのだろうが、その実力も闇の中である。
しかし仕事内容が《中央》内に留まっているので、外の僕らに直接関わり合いがないのが幸いだ。
僕らの資金まで管理されたらそれこそたまったものではない。
「ワシが知りたいのは、最後の胡散臭い連中だ!」
「ああ…あのオカルト集団ね」
最後の4つ目のギルド。
これを聞いた時、僕は最初鼻で笑ってしまったのだけど。何と戦闘に於いて全くの役立たずである『魔法使い』とやらを中心にギルドが構成されてしまったからである。
不用な人材がよくもまあ恥ずかしげもなく騎士団と肩を並べられるものだと思ったが、あの有能なフレデリク将軍が存在を許しているのだから、それなりに使える組織なのだろう。
ギルド名は“紡ぎの塔”。教会総本山の隣の敷地に、長い塔を中心にしてその本拠地は在る。
ギルドマスターの正体は不明だ。
それだけ内偵を放っても調べ尽くしても、このギルドマスターの存在は希薄だった。いるにはいるのだが、殆ど外に出ないうえに無名の輩だった事もあって男か女かすらも分からない。
その姿を拝んでみたい気もするが、情報によると常にローブを羽織っているらしく、決して人前では脱がない。
これにより、ギルドマスターは複数説といった突拍子もない話もあるくらいだ。本当は3つしかギルドは存在しないのに、自由に動けるように便宜上作った白紙の組織で、名義だけが存在するとも噂されている。
しかし役割は小さいものではなくて、市場全体を仕切っている。《中央》のみならず、町や村の店という店を管理し、適正な相場と人員配置を行っている。
これが曲者で、僕らの町に一番影響が出たのがこのギルドの政策だった。
後述するが魔法使いなだけでも不信感たっぷりだし、オカルト要素満載で胡散臭くて、間接的に僕の町を脅かすものだから、僕はこのギルドがはっきり言って嫌いだったのだ。
「お前の情報通も見事だな」
「父さん…勘弁してよ。そもそもギルドが発足して3年足らず。治世に乗り出したのは今月だよ。《中央》から離れた地で、これでもかなり早い方だと思うけどな」
「まあよい。これ以上はせっかくのディナーが不味くなる」
不味くしているのは誰なんだか。
そろそろ本気で世襲を考えないと、父がこうではやりにくい。
でも父がまだ現役だから僕が好き勝手動けるのは事実で。
若い盛りは今しかないのだから、僕としてはもう少し遊びたかったのが本音ではあるが。
父がこうも不機嫌なのは、まさに“紡ぎの塔”の使者がこの町の市場を視察に連日訪れて、ああだこうだと痛い袖を探られているらしいのだ。
使者は父本人とは会談しない。市場の人たちと個別に会い、何らかの条件を提示して領主である父との差を粗探しし、《中央》への交渉手段として用いているようである。
何と姑息な手を使うのだと、父はご立腹。それならば直接《中央》に文句を言えばいいのに、騎士団の目を気にして動こうとしない。
父さえ早婚であれば、もう少し働けるのになと思う。
晩婚のデメリットはこれに尽きるな。子が大人になる頃に、親が年寄りになる。
年寄りはわが身が可愛いばかりで口しか出ない。
そして子は、遊びたい時期に親の面倒とは…最悪だ。
「じゃあ、僕はもう行ってもいいかな。レディたちを部屋で待たせているんだけど」
子牛のソテーは残してしまった。
どうせ僕の食いカスを使用人の誰かが食うだろうから、どうにも思わない。
「女と遊ぶのは構わん。気に入ればいつでも妾に取ればいい。だが、入れあげすぎて足元を掬われるなよ」
「分かってるよ」
年を取って更に好色爺となった父は、あっちの方はまだまだ現役だ。
抱き方がねちっこくて乱暴になったと女たちからのクレームも多くなった。そんな彼女らを慰め、懇親的にケアしているのが僕だ。
女性に対して非情になり切れないのが僕の悪い癖。良い点でもあると思うけどね。
「絶対に御子を作るな」
「分かってるってば」
僕としても子を盾に望まない婚姻なんて本意ではない。
好きでもない男に手籠めにされ僕を身籠ったから仕方なく結婚して、やっぱり耐えられないから乳飲み子に一度も乳をやらずに出奔した母のようにはなりたくないからだ。
「抜かりなく避妊を徹底してるから、安心していいよ」
本当に父は駄目になった。災厄の時の采配は見事だったのに、今は女に現を抜かし金と快楽に身を任せて碌に町の治世も出来ない。
現在の世界の中心は間違いなく《中央》のギルドであって、そのギルドは本格的に動き出したのだ。
王と《王都》を救う理念を掲げられると、王に身分を与えられた貴族は従わざるを得ない。絶対的な忠誠心を植え付けられたのだ。
まだギルドは発足して間もないから大人しい方だが、僕の見立てだと近いうちに強制徴兵も始まるだろうと踏んでいる。
《王都》を救う兵隊は、死兵は、あるだけあればいい。
父のように文句を言っているだけでは駄目なのだ。時代に乗り遅れる。乗り遅れたまま気付けばいいように扱われて、そうなればもう二度と僕らの町が自由を謳歌する事は叶うまい。
―――それに。
ギルドが出張るのは、僕らにとっても都合がよろしくない__・__#。
もう一つの取引先が、黙っていないだろう。
その対策も練っていかねばならないのに、父はちっとも分かってない。
僕らが災厄を経てもなお、こうして潤っていられるのは双方との良い関係があるからこそなのに。
「失礼しますよ、父さん。オカルト集団についてはまた調べてきますよ」
幸いにも“紡ぎの塔”の連中はこの町に何人か居座っている。
ギルドに忠誠を誓っているのか知らないが、彼らとて人間だ。今日の歌い手の男のように、チラリを金を見せればすぐに情報を吐くだろう。
まずは“塔”の狙いを見定めて、この町で大きな顔をし始めた騎士団にも何か仕掛けないと。
しばらくぶりだった、【彼】と会ってどうにかしてもらうのもいいかもね。
僕は暇ではない。
唄を歌い、女を囲い、多くを見聞きするのは真にこの町を愛しているからだ。
特別な僕の特別な町を、余所者に好き勝手されるわけにはいかないのである。
食堂を出て、僕の自室に向かう。
10年前に建て直された屋敷は更に豪華絢爛となり、ピカピカと目が痛いくらいだ。
メイドに女たちと食べる軽食を頼み、ついでに父の機嫌が悪いから上玉の女を寄越すように依頼してあげた。
なんていい息子なんだろうと思う。
「待たせちゃってごめんね」
逃げられないように外鍵をしていた扉を開け、待ちくたびれて非難轟々の女たちをベッドに押し倒した。
「セト様遅い!!」
「帰っちゃおうかと思ったわ!」
「ごめんごめん。老害に捕まっててね。お詫びにローストビーフを頼んだから、後でワインと一緒に食べようか」
「え!お肉!?」
「わあっ、嬉しいわぁ!」
肉はいつの時代でも高級食材。この町であっても例外なくそうだ。町での食料品は全て輸入に頼っているから、新鮮な生肉を食する機会をただの民は持っていない。
この女たちはラッキーだったね。
「そんな老害、早いところ切っちゃえばいいのに」
「セト様が領主様になっちゃえば、毎日お肉食べ放題じゃん」
女たちの放漫な乳房を二人同時に弄る。身を捩りながらも彼女たちは言いたい放題だ。
寝屋での睦言は本音を暴き出す。女たちの頭は、カラッポだった。
「ふふふ。そうだね。老害を排除してもらうように頼もうかな」
「ええー?本気ぃ?殺し屋とかいるのぉ?」
「秘密だよ。じゃあ、食事の前に精一杯お腹を空かせよう。頑張って僕を愉しませてね」
「はぁい!」
「張り切っちゃうわよ!!」
僕は暇ではない。
やらねばならない事は多く、考えねばならない事も数えきれない。
こんな時は必ず女を抱く。
9歳の頃から、僕は一人きりのベッドを経験した試しはないのだ。何もしない時もあるが、一人寝だけはどうしても無理だった。
誰かの体温をそばに感じていないと、僕が僕でなくなるような、明日を無事に迎えられないような虚無を味わうからである。
だからこんな馬鹿な女でも役には立っている。彼女らが身体を使って僕を懸命に愉しませてくれて、それが滑稽で阿呆らしくて愛おしい。僕は未だ特定の恋人を持った経験はないが、必要ないと考える人間だ。多様の性技を堪能できるハーレムこそ正義。一人の女に縛られて、一つのセックスしかできないなんて地獄もいいところだ。
だからこその一夫多妻制なんだけど、それも「女は固定」されるわけだろう?僕は縛られるのは大嫌いなんだ。
「ねえ、君の店に《中央》のギルドの人たちが来ているだろ?僕に紹介してくれないかな」
「うふふ、いいわよ。お肉のお礼よ」
「あたしも騎士団とヤっちゃってるよ」
「じゃあ、色々とお話を聞かせてもらおうかな。君の…その美しい肢体に」
「いやん、えっち」
父さん。こんな馬鹿な女でも役に立つんだよ。少なくとも、父さんよりはね。
明日は朝から忙しくなるな。
僕は気怠い目をこすりながら、いつまでも腰を振り続けるのであった。
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