蒼淵の独奏譚 ~どこか壊れた孤高で最強の魔法使いがその一生を終えるまでの独奏物語~

蔵之介

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四. ルーベンスの章

9. 会合

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 歓迎式典は、今のところ順調に進んでいる。
 若干の変更点が有って予定通りにはいかなかったものの、そこはナポリの腕の見せ所により、無事昼食会を迎えている最中である。

 場所はファーストワン区画の最奥に位置する、厳かな佇まいの迎賓館。今に生きる魔族が用いる限りの最高の技術を駆使して建てられた屋敷は、魔族の礎の象徴としての重要な意味をもたらしている。また建物の一部は長の住まいや公民館も兼ねており、我々の日々の暮らしに上手く活用されている。
 災厄で名の知れた偉大な建築家達は皆死んだ。生き延びた者の中に建築技術を持ち合わせる者はほんの一握りで、限界のある材料と知識でここまで立派な屋敷を築き上げた事は尊敬に値する。
 無論、私や他の屈強な戦士も手を貸した。それは大きな経験となり、皆が寝泊まりする長屋の殆どは、ボランティアによる有志の面々が携わっている。
 雨風を気にせずに眠れ、心から安堵できる癒しの我が家の建築が集落中に今あるのは、得意分野を超えて皆が協力し合った尊い絆がなければ成し得なかった事で、いつまでも孤高に憑りつかれて魔族の生き方を変えていなければ、今も吹きさらしの掘立小屋で不便に過ごしていたであろう。

 迎賓館では“アアル集合体”の各統括長と、この集落の政治を担う各分野の責任者が一堂に会し、人間達と顔を付き合わせている。

 神と見間違うほど圧倒的なマナを見せつけた人間の主は、あれより直ぐに力の放出を収め、今はただの力なき人間と化している。
 近寄り難い雰囲気はそのままであるが、マナの放出が無くなった事によりあの清冽な厳かさは消え失せ、泣きたくなるような不意の激情が襲ってこないだけでも有難かった。
 自我を失いそうになるのは勘弁願いたかった。我らは子犬のように腹を見せる羽目に陥っていた事だろう。
 それにわざわざ力を示さずとも、我々はあの輝きをしかと記憶している。今更人間に盾突こうなどと思う魔族など、この場には一人もいない。

 迎賓館に招かれた人間達を上座に据えた長は、開口一番こう言った。
 ああしなければ、群衆が押し寄せ大混乱に陥っていたやもしれなかったと。

 渦巻く感情の波ははち切れんばかりに膨らんで、今にも爆発しそうであった。ほんの小さなきっかけで、細い細い針が誰か一人でもその心を突いて穴を開けたその瞬間に、私達は文字通り終わるところであった。
 感情のままに魔族は暴れ倒し、歓迎の儀どころではなく下手すれば死者が出ていた。人間に危害が加えられれば、報復として数万人の人間達が戦争を仕掛けてもくるだろう。蔓延した淀みはずっと不条理に押さえつけられていた魔族の感情を揺さぶり、せっかく築いた秩序の中の集団生活も破綻していたに違いない。
 集団心理とは故に恐ろしいものである。簡単に朱に交わる事が出来る。良い意味でも、悪い意味でも。

 紡ぎ殿はここに至る道すがら、この簡単に崩れそうな混沌を察知していた。
 魔族は己が実力を超える者に対しては、ひどく従順な性質を持つ。だから敢えて馬車内では力を封じ、皆の前で一気に放出して奇を狙い、問答無用に黙らせたのである。

 どうにでもなれと対応を放棄していた自分が恥ずかしい。

「紡ぎ殿は、我が魔族に最大限の配慮をしてくださったのだ。力の誇示ではない、そこを取り違えてはならぬ」

 長はすっかり紡ぎ殿に陶酔しきりであった。
 先の式典で形ばかりの挨拶を幹部がこなしている最中も、長はその者を差し置いてひたすら一人で喋っていた。
 元々話好きなタイプではなく、どちらかというと寡黙な方だと私は思っていた。その長が年頃の少女のように顔を高揚させ、楽し気に喋っているのを私はポカンと見つめるしかなかった。

 それだけではない。長は一人一人の幹部を名指しで呼び、長と紡ぎ殿が座す前に直立させた上に、急な自己紹介スピーチをさせたのだ。これには私も幹部も開いた口が塞がらなかった。当たり前だがナポリの進行計画にはない事で、当然誰も知らされていなかったから、皆が慌てる様は前代未聞の滑稽さであった。
 本来は幹部を代表して私が祝辞を述べるだけだったのだ。ナポリが用意した完璧な原稿を暗記して読むだけの簡単な役目だったはずである。それを長が提案した時、流石に皆背筋が強張り、しどろもどろの自己紹介は聞くに堪えない代物であったのは仕方がなき事だと思う。
 だが長も紡ぎ殿も、我らの失態など左程気にしていない様子だった。なにしろ長が誰よりも多く喋り、やれこの人物の功績はどうだ人柄はああだと熱心に語るのを、紡ぎ殿は相槌も打たずじっと黙り込んでいる図という、これまた滑稽な光景が出来上がっていた。

 長ははしゃいでいるのか、傍迷惑な紹介をやめようとはしなかった。
 ナポリや私、他の者が時間が押している等と低刺激の最もな事を言って長の絶好調を諭そうとしたが駄目であった。
 あれで長は頑固者である。こうなってしまえば、長の気の済むまでやらせるしかない。

 あんまりにもその時間を長く取った為、ナポリの提案でこのまま昼食会へと突入した。
 紡ぎ殿の従者、主にあの精霊の少女が疲れた腹減った退屈だ云々と騒ぎだした事が後押しとなったのだ。
 慌ただしく食事の準備をしている間も、長はずっと我々の紹介をし続けていた。
 私の番がやって来たのは、一通りの準備が終わり、長の無礼講だという乾杯の音頭が終わって暫くの事であった。

「ルーベンス、来なされ。お前の番だ」
「は、すぐに参ります」

 和やかに始まる昼食会。多種間の交流を目的とする為に、敢えて立食形式にしている。
 長と紡ぎ殿は上座に席が用意されていて、長の許可が無ければ誰も近づけない為に、料理も運ばれていない。
 集落の女が腕によりを掛けて用意した馳走だ。この日の為に、貴重な牛を一頭捌いた。私も肉を食べるのは数か月ぶりだ。紹介を終え、長から解放された幹部はやり切った顔で肉に食らいついている。順番を待つ者は、まだかまだか私も含めてちっとも落ち着かない。

 色とりどりの食事が並ぶ中、精霊の少女がすでに頬をぱんぱんに膨らまして部屋中を駆け回っている。
 決して狭くない部屋なのに、視界の端に少女の巻き毛が必ず映るのだ。私達とは違った落ち着きのなさで、部屋中を縦横無尽に駆けまわっているのだろう。その後ろを、人間の女が謝りながら追い駆けている。
 あの人間の女は、紡ぎ殿の従者としては至極であった。正真正銘の純粋な人間だったからである。
 こういっては変だが、紡ぎ殿が引き連れた従者の4人の内、2人が人間では無かった為に、ようやく普通の人間が現れてくれて安心したのを覚えている。
 150年生きてきて、私は人間と対面した事など過去一度も無かった。初めて間近で見る人間は、紡ぎ殿と同じ匂いが微かに感じられた。

「こちらはルーベンス。我が集落の総責任者を務める実力者です。魔王の系譜に連なる竜人族ですじゃ」
「お初にお目に掛かります、紡ぎ殿。ようこそ御出で下さいました」

 長と紡ぎ殿のテーブルには白乳色の液体で満たされたワイングラスしか置かれていなかった。
 紡ぎ殿はそれにも手をつけず、両の手をテーブルの前で組んで置き、じっと佇んでいる。

「このファーストワン区画の統治者にして、人望も厚く、腕っ節も集落中の5本の指に入る手練れでしょう。気が利き、慈しみもあり、常に魔族の未来を憂いて復興に尽力を尽くしています。魔王様が死してその力を半分失っておりますが、この儂が一番に推す人物ですじゃ」
「お、長…」

 長は紡ぎ殿に長々と私の経歴を話して聴かす。長と私の付き合いはこの集落を造ってからの10年間しかないが、長は魔王様に連なる私の立場を重んじて、随分と可愛がってくれて密に接してきた。
 私は恥ずかしくなる。長が私の事を存分に褒めちぎり、それを惜しげもなく紡ぎ殿に自慢するからである。
 紡ぎ殿は他の幹部らにもそうだったように、私に対しても無反応であった。無視ではなく、彼の視線はローブの中からひしひしと感じている。
 長旅で疲れた身体を癒す間もなく長に連れまわされ、数時間も見知らぬ魔族の生い立ちと自慢話を永遠と聞かされては、嫌になるのは尤もの感情だ。
 長も自重すればいいものをと思うが、私如きが意見するなど烏滸がましいにも程がある。
 うんともすんとも言わない紡ぎ殿は、それはそれはうんざりしているだろうが、しっかり長に付き合っている辺り、己の立場を十分に理解している常識人であると思われた。

 しかし長の話は終わらない。
 集落に反発する無法者を力で捩じ伏せた事や、鍛錬と勉学に励んでいる事、慎ましやかに暮らして贅沢を好まない事や、こっそり煙草の葉を育てて葉巻を楽しむ趣味を持ち合わせている事、これで意外にも魔法に通じている事など、私の全てを曝け出されているようで居た堪れなかった。

「ですが、この通り朴念仁でしてね。女っ気がないのもこの男らしいというか…唯一の汚点です」
「お、長…!そんな事まで仰らなくとも!」
「いや、女性にはモテるのですよ。それに本人も全く興味がない訳でもありませんのじゃ。持て余した熱情のぶつけ先を娼婦にぶつける以外知らないのです。女に現を抜かさないのは良い事ですが、子孫を遺さない意味では真の貢献とは言えません」
「……長っ!」

 ぐうの音も出ないとはまさにこの事だ。
 全くその通りであるが、私の性事情まで話す必要はなかろうて。
 愛想笑いすらしない紡ぎ殿の前で、これではただの赤っ恥である。

「しかし儂からすれば可愛い我が子も同然ですじゃ。魔王の系譜に連なる貴重な存在でもあります故、この男には魔族の悲願を達して欲しいと切に願っておるのです」
「…長?」

 魔族の悲願―――?それはどういう事かと聞き返そうとした時、突然紡ぎ殿がテーブルに頭を打ち付けんがごとく、前のめりとなった。

「!!」
「つ、紡ぎ殿!?」

 訂正しよう。べちゃりと顔面を打ち付けてしまっている。驚愕しながらもテーブルから転げ落ちた彼のワイングラスを床スレスレで受け止められた私の動体視力も捨てたものではない。
 一体何が起きたのかと見上げた紡ぎ殿の更に頭の上に、カラカラと元気に笑うふわふわ巻き毛の少女が圧し掛かっているのを見て、私は全てを理解した。

 精霊には地も空もない。右も左もなく、在るがままなのが精霊だ。
 少女が降ってきたのだ。紡ぎ殿の、真上へと。

「て、テルマ!!!」

 そこへ慌ただしく飛び込んできたのが、宴が始まりし時より少女の尻を追い掛け回す青髪の女である。

「も、申し訳ございません!!いい加減になさい、テルマ。これ以上はお仕置きするわよ」
「きゃーこわいー!!」
「あはは!見てごらんよ、リュシアが潰れてる。テルマ嬢の尻に敷かれてぺちゃんこだ」

 もう一人の従者、あの人間でも魔族でもない不可解な力を感じる気障な男まで登場する。
 不遜にも主人を指差して大笑いだ。

「おやおや、皆さまお元気な事で」

 仮にも敵対地のど真ん中、多くの実力者が揃う魔族に囲まれていながらも一切の物怖じを見せない不届きな人間どもを見て、長は実に楽しそうに笑っている。表情が孫の成長を喜ぶアレだ、目の中に入れても痛くない云々のあれだ。

「長!元気だとかそういう問題では!場所と立場というものがですね…!それよりも紡ぎ殿は…」
「テルマ!早くマスターから退きなさい!ま、マスター…大丈夫ですか?」
「ルーや、ここは無礼講。良いではないか、礼儀に凝り固まった食事は、どんな絶品な馳走でも味気ない。精霊さまは儂らを元気付けて下さっているのだ」
「初めて見るものばかりで、テンション上がってるだけだと思うんだけどね、僕は」
「…―――いいから早くどけ」

 ここでようやく、私は紡ぎ殿の声を聴いた。

 因みにもう一人の従者―――黒づくめの人間は紡ぎ殿の陰の中に潜んでいる。
 彼の身辺警護に就く男は長の許しを得て、その姿を消した。マナも気配も完全に断ち、完璧に影法師に徹して紡ぎ殿の安全を司っている。
 今まさに紡ぎ殿の安全が精霊によって害された訳であるが、影は沈黙を保ったままだった。真に命の危機を察しなければ、出てくるつもりがないようである。

「癖が強いお人達ですねぇ」
「ナポリか…うむ、不安になるほどだ」

 長と紡ぎ殿の食事を運んできたナポリは、困り顔ながらも楽しそうであった。
 思いの外気さくな人間達で、今までにない新しい風を感じて嬉しいのだと彼は言う。

「オレは嫌いじゃないですよ。あのハンサムがオレの妻をナンパしなければ、の話ですけどね」
「またか…、あのは凄まじいな。種族関係なく口説いて回っている。驚いた事に、女も満更ではない素振りを見せているとは」
「オレの妻もそうですよ…翼の一つも持ってやしないってのに、あの浅黒い肌に焦がれるのだそうで。オレが羽毛だらけなのがいけないんですかねぇ…」

 来訪を果たした人間達の紹介は一通り受けている。
 この宴が始まる時、乾杯の音頭と一緒に簡単に説明された程度ではあるが。

 長の隣に在らせられる、深蒼の衣を纏いし人間の長、私達が言葉も出ぬほど衝撃を受けた純粋無垢で膨大なマナを持ち合わせ得るこの男こそ、人間が作りし組織―――魔法使いを中心に構成するギルド“紡ぎの塔”の君臨者。
 その名をリュシアと言った。
 長は彼をギルド名の敬称で呼んだ。従って私も長に倣って“紡ぎ殿”と呼んでいる。

 その気配は人間である。
 しかし、人間にはあるまじきマナを持つ不思議な存在でもあった。

 マナはこの世界に生きる者全てが持つ生命エネルギーだ。それぞれ性質が異なり、十人十色の性格があるように、同じ性質のマナを持つ者はいない。
 マナは自然界を漂い、空気のように我々は無意識にそれを取り込んで力の源とする。身体に入ればその者の性質へと変化し、エネルギーが体中を駆け巡ってやがて排出されれば軌跡となって暫く跡が残る。
 これはどんな生物にも当てはまる。よって、何にも影響を受けていない純度ゼロのマナは、事実上存在しないと言われていた。

 あるとすれば、性質の概念の無い『神』そのものである。

 紡ぎ殿の発したマナは、全く混ざり気が無かった。
 山の頂上から濾過された美しい真水のように、霧が晴れた後の清々しい空気のように、それよりも恐ろしほど純粋な、綺麗すぎて直視できないマナの輝きを、私達は目の当たりにした。
 産まれたての赤ん坊でさえ、母のマナに影響されているというのに。

 人間の身体を持ちながら、人ではないマナエネルギーを有する。
 おおよそ考えられない、いや、理解の範疇を超えている。
 なのに、れっきとした人間なのだ。
 だから私は思った。あれは人の皮を被った神なのだと。

 最初に馬車から飛び出して、皆の度肝を抜いたあの白髪の少女の正体は、やはり感じた通り精霊だった。
 話せば長くなるからとはぐらかされたが、本人曰く、自然界に生まれた自然的な存在ではなく、とある事象により生を成した『人工精霊』ということであった。
 本来は名もなき精霊の彼女は、皆に「テルマ」と呼ばれ、それを己の名として認識している。

 10歳前後の少女の井出達をしているのは、あの青髪の女が関係しているらしい。
 憎き侵略者グレフも関わっているようで、侵略者と紡ぎ殿、そして青髪の女の力が合わさって人工精霊として生まれ変わったとか何とか云々と説明されたが、はっきり言ってよく分からなかった。

 精霊テルマは天真爛漫でよく笑い、よくはしゃぎ、よく悪戯した。
 その後ろで少女のお目付け役をしているのが、先の青髪の女である。
 人間にしては潜在的なマナの力が強く、実際に水と傀儡の術を得意とするらしい。傀儡とは人形の事で、彼女は対象の物質を遠隔操作して様々な補助を担う事が出来るのだそうで、余興の一つとして皆に披露しては大歓声を浴びていた。
 その名をニーナ、20を半ば超えた年頃の女だ。
 胸元は貧相だが、引き締まった腰といい、安産型のどっしりとした尻といい、妙な色気を感じさせている。僅かに紡ぎ殿の匂いをさせているから、こんなところまで付いてくるくらいだ、彼の性処理要員か、若しくは大事なパートナーか、いずれにしても二人の関係はただの上司と部下ではないと思われる。

 もう一人の人間は、紡ぎ殿の陰に潜んで護衛に勤しんでいる。
 名をロベルトと言ったが、彼については私はほんの一瞬しか姿を見ていないので、その為人ひととなりは想像するしか手立てはない。
 全身黒ずくめの身体にピタリとした風変わりな衣装を着こなし、僅かな隙も見せない只ならぬ男であったのは間違いない。あの中で唯一、私達に消えがたい殺気を放っていたのだ。紡ぎ殿のマナにかき消されて気付いた者は居なかったが、私はそのほんの一瞬を見逃さなかった。男は紡ぎ殿に向けられる侮蔑の念を危険視していたのだ。
 しかしこの中の誰よりもマナは少なく、あの量では先天的に魔法は使えないと思われる。それでも気が許せないのは、あの男が完璧に気配とマナを隠す術を身に着けている事であり、洗練された動きは目だけでは追えず、恐らく敵対すると非常に厄介な相手になる事だけは確かであろう。

 最後の一人、あの人間でも魔族でもない気障な男の名はセト。
 あの説明できない不可解な力は、なんと侵略者グレフのものであった。
 それを聞いた時、一斉に刃がセトに向けられたが当の本にはどこ吹く風、口笛を鳴らして「野蛮だね」と一言呟いただけであった。
 彼には敵意も殺気も熱意もない。我々は彼への接し方を対処しかねた。

 人間と侵略者―――怒れる神グレフとの戦いは熾烈を極めている。奴らの事を何も知らない我々とは違う。人間は災厄で大打撃を受けながらも、同時に侵略者による攻撃に苦しんでいる。
 懸命に抗った先が、今の人間どもだ。
 蚊帳の外に追いやられた我らを余所に、あらゆる力を結束し侵略者を阻む。多くの犠牲を払いながらも、決して諦める事はない。
 そんな中、セトは生きながらにして侵略者に食われた犠牲者だった。

 素知らぬうちに奴らに騙され、町一つを残虐な方法で滅ぼされた。彼もまた死する運命にあったが、ここにいる紡ぎ殿の介入により、何とか生き長らえている状態なのらしい。
 紡ぎ殿が術を施さねば即効死ぬ。
 そんな不幸な生い立ちなどおくびも出さない飄々とした態度は、並大抵以上の精神力が無ければ出来ない代物であろう。

 しかし、だからといって手当たり次第に女を口説くのは如何なものかと正直思う。
 種族の垣根を凌駕した女好きだ。身の振舞い方や仕草、喋り方が実にスマートで、なにより女の扱いが長けている。人間如きにとプライドの高い女どもの目が完全に彼の前だと絆されて、黄色い悲鳴を背に受けても平然としている様が末恐ろしい。
 また、妻の移り気を許しているナポリといい、女を獲られて男どもが怒っていないのも不思議でたまらない。
 この男の底知れぬ未知の力は侵略者のもの。ただの優男だと軽視すべきではない。

 どこからどう見ても、不思議な取り合わせであった。
 アンバランスなのに、個々の力は計り知れない。それらを繋ぎ止める事が出来るのも、紡ぎ殿の力の賜物であろう。

 長の言う通りかもしれぬ。
 この三者三葉の取り合わせこそ、世界に目を向けて進み続ける人間の姿そのものなのだと。

 人間を侮るなかれ。
 マナの劣勢種でありながら、私達は彼らにんげんには勝てぬ。

 それを痛感させられた会合であった。
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