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第一章 異世界召喚
23. 実に呑気な異世界事情 ①
しおりを挟む「この世界の仕組みは何となく分かった。スケールがでっかいのか小っちゃいのか分かんねえし、女神っつーのが随分と生き物に対して意地悪で残酷なのも腑に落ちねえけどな。だけどそれは俺の質問の答えになってねえぞ?」
俺は腕の中のリアを、ほらよと皆に見せつけた。
おおよそ“聖女”とはかけ離れた存在の赤ん坊を。
リアはまたも口周りをぐちゃぐちゃに汚している。哺乳瓶の先をずっと咥えている事が出来ず、その度に飲みきれないミルクが唇から零れる。
赤子の頭が柔らかくてしっかり持てない俺も悪いんだけど。
「赤ん坊は、何だ?って訊いてるんだけど。それにアンタらが異世界から来た俺を、何の疑いもなく軽く受け入れちまってる事も甚だ疑問だ。頭、大丈夫かって思う」
これが逆の立場ならば、間違いなく病院行きだ。まずクスリでもやってんじゃないかと疑われる。
現実と幻想の区別が付かないアタマのオカシイ奴とも思われかねない。
ファンタジーの世界はあくまで非現実のファンタジーだからこそ受け入れられるのであって、大真面目にその存在を信じる奴なんぞ、どっかのオカルトスレでもネタ扱いされる危険人物だ。
その哀れな妄想者の行先は一つ。社会不適合者として、最悪檻付きの病室で死ぬまで薬塗れである。
「だから言ったでしょ。そういう平行世界が在る事を、あたし達は聖女様に教えられたって」
「人間世界は暇だからって、よく別の世界をリア様は覗いていたんだよ。面白半分にね」
「ふふふ。それに貴方様の存在を受け入れているのは私達だけですよ。リア様と一緒に過ごしていたからこそです。この世界のほとんどは、異世界など何も知りません。貴方様と同様に」
今、マナの大いなる恵みは魔族側にあるのだと、聖女の巫女達は言った。
彼女らの言葉を信じるなら、恩恵に肖れない萎びた地獄の只中にいるのは、人間の方。
「じゃあ、人間側に勇者がいるって事か。魔族からマナの覇権を奪うために」
「そう。本来は…ね」
マナの優劣の争いは早くて10年、遅くとも200年で交代交代順繰りしているのだそうだ。
ある程度の人口も増やさねば戦争も出来ない。どうしてもインターバルが生じるのは仕方がないシステムのようだ。
「本来、とは?」
「800年」
「え?」
「800年…なのよ。人間が劣勢種族で居続けてる年数」
「はっぴゃく…」
なんと膨大な時間。
あまり数がに大きすぎて、ちっとも現実味が無い。そもそもこの話自体も俺からすればリアルじゃないんだが、今は揚げ足を取っている場合ではない。
俺の世界だと、800年前はちょうど鎌倉時代だ。イイクニツクロウの、あの時代である。
殆ど覚えちゃいないが、貴族に替わって武士が政権を獲得して、後々江戸まで続いた武家社会を設立させた云々だったか。
はっきりいって、教科書だけに存在した時代だ。
「この余りにも長い時間…。人は、人間は慣れてしまったのですわ。マナの恩恵にあやかれない事を」
長い黒髪を弄りつつ、パルミラは悲し気に眉尻を下げる。
「それは、戦う意義すら失ったのですわ」
「もはや遠い過去、人間がマナの優劣の頂点にいて、恵み豊かな大地に埋もれて幸せだった時代があった事を知る者はいない。人伝えでも限界はある。…人は完全に忘れてしまったの」
「それでも女神の摂理は働く。こんな中でも劣勢にいる人間側に勇者は産まれるんだ。唯一、歴史を紡ぐ王家が後ろ盾に立ち、勇者を最大限にバックアップしても尚、勇者にやる気がある者は少ない」
「それに戦争ともなれば、絶対に避けられないのが怪我や死。マナが枯渇し、不自由でも我慢すればそれでいいと人間は学んでしまったんです。贅沢は出来ないけれど、少なくとも戦争で死ぬ可能性はゼロだから」
世界をわざわざ二つに分け、すげえお宝を一個だけ与えるからそれを戦争して獲得しろというのが女神の作ったこの世界の仕組み。椅子が一脚しかない、椅子取りゲーム。要はそれだ。
それは分かったが、こうなる事は予め予測できないか?
お宝はそりゃすげえモノだ。毎日A5ランクの肉が食い放題みたいなもんだろう。
もう片っぽの飯は豆腐ハンバーグだ。肉は勝者が全部獲っちまったからな。
でもよ、それが800年も続いてみろよ。
もうそうなっちまうと、「肉が食いたい」んじゃなくて、「豆腐ハンバーグなのが普通。むしろ肉って何?」ってなるだろうがよ。
人はどんなに劣悪な環境でも、時間が経てばなんとなく慣れるのだ。最初からそんなもんだと思ってしまえば、それは不幸ですらない。
だから不思議に思うのだ。それの何が悪いんだと。
800年も戦争が起きない方が、俺にはよっぽどマシだと思うのだがそれじゃいけないのか?
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