うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ

文字の大きさ
4 / 360
第1章 2 俺のステータスだけ特別すぎないか

新偉人

しおりを挟む
 その後は、まあ想像通りというかなんというか、とにかく悲惨だった。

 女神様の計らいで、広々とした二階建ての家を用意してもらい、しばらくなにもせずに暮らせるだけのお金――単位は女神様の名前と同じリスズ――ももらっての転生となった。

 言語問題に関しては、なんと俺たちが転生する異世界の共通言語が日本語だったのだから驚きだ。

 なぜそうなったのかというと、女神リスズが管理する世界の中ではじめて言葉や文字が誕生したのが地球で、その素晴らしさに感動した女神リスズが、各世界に地球で生まれた言葉と文字を広めたから。

 英語やフランス語、中国語が共通言語の異世界もあるらしい。

 普通、転生時にこれだけの恩恵を受ければ、異世界での生活はストレスなくはじまるはずなのだが……なんせ俺は大度出独裁国家の奴隷だからね。

 俺は、毎日のように大度出独裁国家の面々に、経験値稼ぎのために利用されていた。

 経験値とは【攻撃】や【防御】等の基本ステータスをレベルアップさせるために必要なもので、戦闘経験を積むことで獲得できる。

 大度出たちは、俺をボコるという戦闘経験でドンドン経験値を獲得し、各種ステータスをレベルアップさせていった。

 勅使太一が、経験値を通常の二倍の速度で稼げる空間を作り出すことができたから(女神様からカンストした固有ステータスをもらった際に習得した技)、俺は毎日のようにその空間に連れていかれ、ボコられていた。

「俺もうすぐ【攻撃】LV100超えるわ」

 自慢げな大度出が、あざだらけで横たわる俺を見下してくる。

 でもまあ、ボコられるも一応戦闘経験だから、俺も獲得した経験値でステータスをレベルアップだ!

 そう思っていたのだが、なぜか俺は経験値を稼ぐことができなかった。

 さらに悪いことに、大度出や勅使たちは、女神様からカンストした固有ステータスをもらうだけで、いくつかの必殺技を覚えていたのだが、俺はなぜか、



【??????】

 習得条件 攻撃LV○○以上



 といったように、【攻撃】や【防御】等の基本ステータスをレベルアップさせることで、はじめて技を習得できる仕様になっていた。

 ほほぉ、【新偉人】がカンストしているだけでは技を覚えられないということかどういうことだよ! 

 これじゃあカンストしている意味ないじゃん!

 しかも経験値がもらえないから基本ステータス上げられないんですけど、これって俺がひ弱ニートだからLV1でカンストってことですか?

 そうですよね!

 所詮俺は引きこもりだから、LV1でも満足しないといけないですよね!

 また、俺の技欄の中には、習得条件が特殊過ぎるものもあった。

 その一例がこれ。



【??????】

 習得条件 大切な人が傷つけられ、怒りが頂点に達したとき



 この条件が一番きつかった。

 だって俺は引きこもりだ。

 大切な人なんていないし、大切だと思ってきた人はみんな俺を裏切った。

 だから俺は大切な人なんて作りたくもないし、こんな俺に作れるとも思わなかった。

「だめだな。こんな雑魚ボコってももうなんも面白くねぇ」

 その言葉を最後に、大度出たちが俺の前に現れることもなくなった。

 都合のいいように利用されて、用済みになれば捨てられるなんて、俺は家出女子高生かよ。

「くそぉ、ふざけやがって……」

 でもこれでようやく異世界を満喫できるじゃん、耐え抜いた甲斐あったわー。

 なんて前向きな気持ちにはなれず、俺は家に引きこもるだけ。

 異世界でも大度出たちにいじめられ、どうせ俺は俺だ、なにも変われないんだと、この世のすべてに絶望していた。

「こんな、【新偉人】なんてよ。ふざけやがって」

 自室のベッドの上で膝を抱えてうずくまる。

 この世界で死ぬことになれば、俺という存在は完全に消失してしまうのだろうか。

 その方がいいのかもしれない。

 もちろん自分という存在がなくなるのは怖いが、それ以上にこのまま惨めで無価値な人間として無気力に生きつづけることの方が、怖いと思ってしまった。

「……あのクソ女神、ほんと、ざけんなよ」

 敷き詰められた石畳とか、荘厳な宮殿のような図書館とか、魔道具によってライトアップされた夜間の街並みとか、ここグランダラの街は情緒にあふれているのに、こうやって引きこもっていたら異世界転生した意味ねぇんだよなぁ。

「しかもサポートアイテムがこれってさぁ」

 俺は壁際に置かれてある、女神リスズが与えてくれた異世界を生き抜くためのサポートアイテムを見る。

 それは、画家が人体造形を学ぶために使うデッサン人形。

 しかも無駄にでかい。

 立たせれば、俺の肩のあたりに頭がくるんじゃないだろうか。

 つまり……これはあれですか?

 引きこもりの俺に、女神様が唯一の友達を与えてくれたってことですか。

 人間とは話せないコミュ障の引きこもりも、この人形となら話せるだろ、ってそういうことですか。

「なんだよ、女神様、引きこもりの特性わかってるぅ! 無駄に人間なんか用意したらコミュ障発揮して、気まずいだけの空間が発生するわけねぇんだよクソがぁ! これでデッサンの勉強してどうしろっつうんだよ!」

 そりゃあさ、俺だって自分で女の子のエロい絵がうまく描けたらどんなにいいか、妄想したことはあるよ。

 だって、そうすれば大好きなあの子の裸も、テレビで活躍するアイドルの裸も、俺の意のまま気の向くまま。

 男なら一度は妄想したことあるよね。

 なんなら男の絵師さんが絵師になった理由の99パーセントがそれだよね(個人の見解です)。

「ああ、俺は現世でも引きこもり、転生先でも引きこもり。石川誠道から比企戸盛男ひきこもりおに改名しようかなぁ……ってほんとふざけんな!」

 怒りを抑えられなくなった俺は、ふらふらと等身大デッサン人形に歩み寄り、思い切り頭を叩く。

 これくらいのやつあたりは許してほしいね。

 人様に当たるよりはましだし。

 やつあたりできる人様がそばにいないだけなんですけど。

「なにが比企戸盛男だよ! 引きこもりのなにが悪い……ん? …………え?」

 気がつけば、俺は何度も瞬きを繰り返していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...