47 / 360
第1章 6 レッサーデーモンとの戦いは欧米文化との戦い
ミライの提案
しおりを挟む
ベッドの上でごろごろしていると、ミライが俺の部屋に入ってきた。
「誠道さん。私、頭を冷やして考えてみたのですが」
彼女の深刻な表情になにかを感じ取った俺は、ベッドの上に座って背筋を伸ばす。ごくりと生唾を飲んで、不安を覚えながら彼女の発言を待った。
「やっぱり引きこもりはよくないと思うのです」
「それお前の存在意義を前提から否定してんぞ。俺の快適な引きこもり生活を支援するのがお前の役割だろ」
緊張して損したわ。
一緒に引きこもりを極めましょうって言ったのはどこのどいつだったかな?
「だって普通に考えてみてください」
しかし、ミライの顔は真剣そのものだ。
「実際、引きこもりを肯定する理由なんかひとつもありませんよね?」
「そりゃそうだけどさ」
「でしたら早く外に出ましょう。引きこもっていてもいいことなんかありません」
「ミライが本当に俺の引きこもり生活を支援する気があるのか、不安になってきたなぁ」
俺は、いきなり変なことを言い出したミライを不審に思いつつ――いやいつものことだったな、この展開は。
「それにさ、俺にとって引きこもるのはいいことなんだろ? だって俺はそうしないと経験値を稼げないんだから」
「あんな固有ステータスの持ち主が努力しても無駄ですよ」
「こいつ今言っちゃいけないことを口にしやがった!」
俺はお前に言われた通り、毎日家で腹筋やらスクワットやら腕立てやらやってんだぞ。
その努力すらも全否定するのか。
まあ俺もうすうす無駄なんじゃないかと思いはじめているけれども。
どうせ俺は、なにやったって俺だし。
「はぁ。どうしてこう、誠道さんは反抗ばかりするのでしょうか」
「お前の提案がまともだったことがないからだよ」
「ほらまた言い返す。……って、待ってください。相手が言ったことをすべて拒絶する。これってヤンキーの特徴じゃないですか!」
ミライのテンションが爆上がりする。
え? なに?
よくわからないが、ミライの思考がまともではないことだけはわかる。
「もう。ヤンキーを目指しているなら早くそう言ってください。だったらどんどん否定してくださってかまいません」
「え、あの……俺、別にヤンキーなんか目指してないですけど」
「あっ! また否定しましたね! それまでヤンキーを目指していたにもかかわらず、私がヤンキーをすすめた瞬間ヤンキーにはなりたくないって言いました! それはもう立派なヤンキーです!」
「ああもう面倒くせぇなこれ」
ヤンキーを目指しているからこそ、ヤンキーを目指していないと言うことが、実はヤンキーを目指しているということである。
なんか、意味わかんなくなってきたよ。
「ってか、俺は本当にヤンキーを目指してないんだよ」
「また否定をっ! 誠道さんがどんどんヤンキーになっていきます!」
「わかったよ。俺はお前の言う通りヤンキーを目指してるよ」
「やっぱりそうだったんですね!」
「八方ふさがりじゃねぇか。誠道がヤンキーになる道編のスタートってか。そんなダジャレもストーリーも誰ひとり望んじゃいねぇんだよ」
「私は望んでいますが? そして、誠道さんも心の底では望んでいるのでしょう」
「だからちげぇよ!」
「あっ、また否定を」
「いい加減にしろっ」
それから、長い時間をかけてようやく、俺はミライを説得することに成功した。
「だから、俺は本当の本当にヤンキーになるつもりはないんだって」
「そうですか。残念です」
しゅんとうなだれるミライ。
唇を尖らせて拗ねている姿は完全に鹿目さんなのになぁ。
「いや、そこまで落ち込まれても困るんだけど。でも、どうしていきなりヤンキーを推してきたんだよ」
「だってヤンキーって基本、夜になっても家に帰ってこないじゃないですか。だからヤンキーになれば自然と引きこもりを卒業できるって理論です」
「自信満々に説明してるとこ悪いんだけど、むしろ普通に生活してる人は夜になったら家に帰ってくるんだが」
「また私の意見に否定を? もう、誠道さんはとんだツンデレさんですね。やっぱりヤンキーになりたいんじゃないですか」
「お前の理論が謎すぎるからだよ!」
もはや俺に否定をさせるために、謎理論を言っているまである。
「とにかく、ヤンキーを目指すかどうかは別にして、ヤンキーとはなにかを考えてみませんか?」
「まあ、それくらいなら」
「えっ! 今度は否定しなかった! 私の計算が狂わされたっ?」
「俺をバカにしすぎたろ! 考えねえよって言ったらまた面倒になることくらい予想できるわ!」
過剰にショックを受けるミライを横目に、俺は俺なりのヤンキーを考えてみる。
「でもそうだなぁ……。ヤンキーってことは、悪ぶってるやつらのことだよな。ヤンキー、悪ぶる、ヤンキー。俺なりのヤンキー……あ」
ひらめいた! と手をポンとたたく。
「つまりあれだな。ゴミをポイ捨てしたり、怖い先生がいない日だけ髪にワックスつけたり、彼氏彼女のペアがある日突然シャッフルされていたり」
「すみません誠道さん。まことに申し上げにくいのですが、それはヤンキー未満陰キャ以上、ただの悪ぶってるだけの中学生ですね。悪いことのレベルがしょうもないです。もっと他人に害を与えるようなことを考えてみてはいかがですか?」
「害、か……。じゃあ黒板消し落とししたり、誰かの靴紐をもほどいたり、寝てるやつの背中に付箋はったり」
「誠道さん。もう結構です」
俺の熱弁を、ミライがため息で遮る。
「今度は思考が小学生レベルに退化しました。誠道さんにヤンキーの素質はない。もう諦めます」
「それはそれで悲しいな!」
「どうしましょう。これでは誠道さんを外に連れ出せません。せっかくこれまでの借金を一括で返せるようなクエストを取ってきたというのに」
「それを先に言えー。それなら出かけるに決まってるだろ」
「そんなにもやる気に満ちていたなんて……ありがとうございます。誠道さん」
ミライは感極まったような顔を浮かべる。
え、俺が外に出るだけで、そんなに喜んでくれるの?
「よかったです。これで私が新たにギャンブルで作った分の借金も併せて返済できます」
「そのクエストいく前に依存症のカウンセリング受けてこいよー」
「誠道さん。私、頭を冷やして考えてみたのですが」
彼女の深刻な表情になにかを感じ取った俺は、ベッドの上に座って背筋を伸ばす。ごくりと生唾を飲んで、不安を覚えながら彼女の発言を待った。
「やっぱり引きこもりはよくないと思うのです」
「それお前の存在意義を前提から否定してんぞ。俺の快適な引きこもり生活を支援するのがお前の役割だろ」
緊張して損したわ。
一緒に引きこもりを極めましょうって言ったのはどこのどいつだったかな?
「だって普通に考えてみてください」
しかし、ミライの顔は真剣そのものだ。
「実際、引きこもりを肯定する理由なんかひとつもありませんよね?」
「そりゃそうだけどさ」
「でしたら早く外に出ましょう。引きこもっていてもいいことなんかありません」
「ミライが本当に俺の引きこもり生活を支援する気があるのか、不安になってきたなぁ」
俺は、いきなり変なことを言い出したミライを不審に思いつつ――いやいつものことだったな、この展開は。
「それにさ、俺にとって引きこもるのはいいことなんだろ? だって俺はそうしないと経験値を稼げないんだから」
「あんな固有ステータスの持ち主が努力しても無駄ですよ」
「こいつ今言っちゃいけないことを口にしやがった!」
俺はお前に言われた通り、毎日家で腹筋やらスクワットやら腕立てやらやってんだぞ。
その努力すらも全否定するのか。
まあ俺もうすうす無駄なんじゃないかと思いはじめているけれども。
どうせ俺は、なにやったって俺だし。
「はぁ。どうしてこう、誠道さんは反抗ばかりするのでしょうか」
「お前の提案がまともだったことがないからだよ」
「ほらまた言い返す。……って、待ってください。相手が言ったことをすべて拒絶する。これってヤンキーの特徴じゃないですか!」
ミライのテンションが爆上がりする。
え? なに?
よくわからないが、ミライの思考がまともではないことだけはわかる。
「もう。ヤンキーを目指しているなら早くそう言ってください。だったらどんどん否定してくださってかまいません」
「え、あの……俺、別にヤンキーなんか目指してないですけど」
「あっ! また否定しましたね! それまでヤンキーを目指していたにもかかわらず、私がヤンキーをすすめた瞬間ヤンキーにはなりたくないって言いました! それはもう立派なヤンキーです!」
「ああもう面倒くせぇなこれ」
ヤンキーを目指しているからこそ、ヤンキーを目指していないと言うことが、実はヤンキーを目指しているということである。
なんか、意味わかんなくなってきたよ。
「ってか、俺は本当にヤンキーを目指してないんだよ」
「また否定をっ! 誠道さんがどんどんヤンキーになっていきます!」
「わかったよ。俺はお前の言う通りヤンキーを目指してるよ」
「やっぱりそうだったんですね!」
「八方ふさがりじゃねぇか。誠道がヤンキーになる道編のスタートってか。そんなダジャレもストーリーも誰ひとり望んじゃいねぇんだよ」
「私は望んでいますが? そして、誠道さんも心の底では望んでいるのでしょう」
「だからちげぇよ!」
「あっ、また否定を」
「いい加減にしろっ」
それから、長い時間をかけてようやく、俺はミライを説得することに成功した。
「だから、俺は本当の本当にヤンキーになるつもりはないんだって」
「そうですか。残念です」
しゅんとうなだれるミライ。
唇を尖らせて拗ねている姿は完全に鹿目さんなのになぁ。
「いや、そこまで落ち込まれても困るんだけど。でも、どうしていきなりヤンキーを推してきたんだよ」
「だってヤンキーって基本、夜になっても家に帰ってこないじゃないですか。だからヤンキーになれば自然と引きこもりを卒業できるって理論です」
「自信満々に説明してるとこ悪いんだけど、むしろ普通に生活してる人は夜になったら家に帰ってくるんだが」
「また私の意見に否定を? もう、誠道さんはとんだツンデレさんですね。やっぱりヤンキーになりたいんじゃないですか」
「お前の理論が謎すぎるからだよ!」
もはや俺に否定をさせるために、謎理論を言っているまである。
「とにかく、ヤンキーを目指すかどうかは別にして、ヤンキーとはなにかを考えてみませんか?」
「まあ、それくらいなら」
「えっ! 今度は否定しなかった! 私の計算が狂わされたっ?」
「俺をバカにしすぎたろ! 考えねえよって言ったらまた面倒になることくらい予想できるわ!」
過剰にショックを受けるミライを横目に、俺は俺なりのヤンキーを考えてみる。
「でもそうだなぁ……。ヤンキーってことは、悪ぶってるやつらのことだよな。ヤンキー、悪ぶる、ヤンキー。俺なりのヤンキー……あ」
ひらめいた! と手をポンとたたく。
「つまりあれだな。ゴミをポイ捨てしたり、怖い先生がいない日だけ髪にワックスつけたり、彼氏彼女のペアがある日突然シャッフルされていたり」
「すみません誠道さん。まことに申し上げにくいのですが、それはヤンキー未満陰キャ以上、ただの悪ぶってるだけの中学生ですね。悪いことのレベルがしょうもないです。もっと他人に害を与えるようなことを考えてみてはいかがですか?」
「害、か……。じゃあ黒板消し落とししたり、誰かの靴紐をもほどいたり、寝てるやつの背中に付箋はったり」
「誠道さん。もう結構です」
俺の熱弁を、ミライがため息で遮る。
「今度は思考が小学生レベルに退化しました。誠道さんにヤンキーの素質はない。もう諦めます」
「それはそれで悲しいな!」
「どうしましょう。これでは誠道さんを外に連れ出せません。せっかくこれまでの借金を一括で返せるようなクエストを取ってきたというのに」
「それを先に言えー。それなら出かけるに決まってるだろ」
「そんなにもやる気に満ちていたなんて……ありがとうございます。誠道さん」
ミライは感極まったような顔を浮かべる。
え、俺が外に出るだけで、そんなに喜んでくれるの?
「よかったです。これで私が新たにギャンブルで作った分の借金も併せて返済できます」
「そのクエストいく前に依存症のカウンセリング受けてこいよー」
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる