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第1章 7 異世界でも俺は引きこもりたい
ポジティブシンキング
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さっそく、マジダメンタリストさんことイツモフ・ザケテイルさんの講義がはじまった。
ソファに座る俺とミライの前で、身振り手振りを交えて説明してくれる。
「いいですか誠道くん。ポジティブでいるためには、常にポジティブでいることが大事なのです」
なるほど……って、今の説明、頭痛が痛いと言われたのとどこが違うの?
「そこで今から誠道くんには、何事もポジティブに捉えるトレーニングをしていただこうと思います」
「ポジティブに捉える?」
「たとえば、こういうことです」
イツモフさんは腕を組んで少し考えてから。
人通りの多い場所で転んでしまった。
↓
周囲の人から笑われた。
↓
恥ずかしい思いをした。
「こう思ってしまうと、ただの負の思い出になってしまいますよね」
「まあ、そうだな」
「でも、ポジティブトレーニングをすると……」
人通りの多い場所で転んでしまった。
↓
周囲の人から笑われた。
↓
周りのみんなを私が笑顔にした。
「このように陽の思い出となるわけです」
イツモフさんが説明を終えると、隣のミライが胸の前で手を合わせた。
「なるほどっ! つまりこういうことですね?」
お金を稼ぐため、闇の業者から借金をした。
↓
それを元手にしたギャンブルで、借金した額以上のお金をぼろ儲け。
↓
お金が尽きるまでほしいものをたくさん買えるようになる。
「どうですか? 私の見事なポジティブシンキングは?」
「いや絶対だめだよね? 都合よすぎだし希望的観測すぎだし隙あらば自分の愚行を正当化しようとすんな」
「いえ、ポジティブシンキングとはそういうことです」
「そういうことなのかよ!」
なんでイツモフさんは満足げに拍手を送ってるの?
なんでミライは自慢げに胸を張ってるの?
「これはあくまで訓練ですから。その人が行ったポジティブシンキングを否定してはいけません。実現不可能でもいいのです。自分にとってのポジティブとはなにか、を考えることが重要なのですから」
「そうですよ。誠道さん」
イツモフさんの言葉に、ミライが即座に賛同する。
いや、ミライだけには言われたくねぇよ。
ってか、百歩譲って最後の考え方は、『借金を返したのち、お金が尽きるまでほしいものをたくさん買えるようになる』だと思うぞ。
「はーい。集中力が切れていますよー」
ひっちゃかめっちゃかになってしまった空気――主にミライのせい――を引き締めるためか、イツモフさんがパンパンと手をたたく。
「では今度は誠道くん、やってみましょう」
「わかりました」
まあ、なにはともあれ、前向きな表現に言い換えろってことだよな。
就職活動での嘘のつき合いみたいなもんなら、俺にだってできるぞ。
「でも、イツモフさん。申しわけないですけど、こんなトレーニングで俺がポジティブになれるとは思えないんですが」
「やってもいないことを否定してはいけません」
イツモフさんが俺の顔を指す。
「本当に簡単なことは、実は本当に難しくて、本当に難しいことは、実は本当に簡単なんです。世界は自分が思っている以上に単純なものの積み重ねでできています。複雑なのは、無駄にネガティブなのは、世界じゃなくて自分の思考回路の方です」
ぽんと肩に手を置かれる。
なんだろう、この説得力は。
この人は本当にすごい人なのかもしれない。
本物のマジメンタリストなのかもしれない。
「では私がお題を出すので、誠道くんはその出来事をポジティブに捉え直してください」
「わかりました」
俺がうなずくと、イツモフさんは腕を組んでお題を考えはじめる。
どんなのがくるのだろうか。
ま、ここらでいっちょ俺のポジティブシンキング力を見せつけてやるか。
「では、そうですね。はい。決まりました。お題は『引きこもりになった』」
いきなり核心を突かれ、俺は面食らう。こんなにもストレートに俺の現状を突きつけてくるなんて思いもしな――
「――は絶望的過ぎてどうしようもないのでやめましょう」
「いきなり先生がネガティブを押しつけてきたんですけどー。俺の存在を全否定してきたんですけどー」
さっきまでの感動的な雰囲気返して!
俺、不覚にもあなたの言葉に感銘を受けてたんだよ?
「ちょっと待ってください。引きこもりになった、本を読むようになった、小説家になって印税生活。ほら、ポジティブシンキングできたじゃないですか」
「誠道さん。今イツモフさんが言ったばかりだというのに、イツモフさんの話を否定してどうするんですか。どうしようもないものはどうしようもないんです。諦めることも大事です」
「だからミライは俺の引きこもりを支援するメイドだろうが」
「ミライさんの言う通りです。否定はよくないと私がさっき言ったじゃないですか」
「先に俺を否定したのあんたらだからね。なんなら、俺のポジティブシンキングを二人とも否定してるからね」
こいつら五分前に言ったことも忘れちまったのか?
イツモフさんって、やっぱりマジヤバメンタリストなんですけどー。
ソファに座る俺とミライの前で、身振り手振りを交えて説明してくれる。
「いいですか誠道くん。ポジティブでいるためには、常にポジティブでいることが大事なのです」
なるほど……って、今の説明、頭痛が痛いと言われたのとどこが違うの?
「そこで今から誠道くんには、何事もポジティブに捉えるトレーニングをしていただこうと思います」
「ポジティブに捉える?」
「たとえば、こういうことです」
イツモフさんは腕を組んで少し考えてから。
人通りの多い場所で転んでしまった。
↓
周囲の人から笑われた。
↓
恥ずかしい思いをした。
「こう思ってしまうと、ただの負の思い出になってしまいますよね」
「まあ、そうだな」
「でも、ポジティブトレーニングをすると……」
人通りの多い場所で転んでしまった。
↓
周囲の人から笑われた。
↓
周りのみんなを私が笑顔にした。
「このように陽の思い出となるわけです」
イツモフさんが説明を終えると、隣のミライが胸の前で手を合わせた。
「なるほどっ! つまりこういうことですね?」
お金を稼ぐため、闇の業者から借金をした。
↓
それを元手にしたギャンブルで、借金した額以上のお金をぼろ儲け。
↓
お金が尽きるまでほしいものをたくさん買えるようになる。
「どうですか? 私の見事なポジティブシンキングは?」
「いや絶対だめだよね? 都合よすぎだし希望的観測すぎだし隙あらば自分の愚行を正当化しようとすんな」
「いえ、ポジティブシンキングとはそういうことです」
「そういうことなのかよ!」
なんでイツモフさんは満足げに拍手を送ってるの?
なんでミライは自慢げに胸を張ってるの?
「これはあくまで訓練ですから。その人が行ったポジティブシンキングを否定してはいけません。実現不可能でもいいのです。自分にとってのポジティブとはなにか、を考えることが重要なのですから」
「そうですよ。誠道さん」
イツモフさんの言葉に、ミライが即座に賛同する。
いや、ミライだけには言われたくねぇよ。
ってか、百歩譲って最後の考え方は、『借金を返したのち、お金が尽きるまでほしいものをたくさん買えるようになる』だと思うぞ。
「はーい。集中力が切れていますよー」
ひっちゃかめっちゃかになってしまった空気――主にミライのせい――を引き締めるためか、イツモフさんがパンパンと手をたたく。
「では今度は誠道くん、やってみましょう」
「わかりました」
まあ、なにはともあれ、前向きな表現に言い換えろってことだよな。
就職活動での嘘のつき合いみたいなもんなら、俺にだってできるぞ。
「でも、イツモフさん。申しわけないですけど、こんなトレーニングで俺がポジティブになれるとは思えないんですが」
「やってもいないことを否定してはいけません」
イツモフさんが俺の顔を指す。
「本当に簡単なことは、実は本当に難しくて、本当に難しいことは、実は本当に簡単なんです。世界は自分が思っている以上に単純なものの積み重ねでできています。複雑なのは、無駄にネガティブなのは、世界じゃなくて自分の思考回路の方です」
ぽんと肩に手を置かれる。
なんだろう、この説得力は。
この人は本当にすごい人なのかもしれない。
本物のマジメンタリストなのかもしれない。
「では私がお題を出すので、誠道くんはその出来事をポジティブに捉え直してください」
「わかりました」
俺がうなずくと、イツモフさんは腕を組んでお題を考えはじめる。
どんなのがくるのだろうか。
ま、ここらでいっちょ俺のポジティブシンキング力を見せつけてやるか。
「では、そうですね。はい。決まりました。お題は『引きこもりになった』」
いきなり核心を突かれ、俺は面食らう。こんなにもストレートに俺の現状を突きつけてくるなんて思いもしな――
「――は絶望的過ぎてどうしようもないのでやめましょう」
「いきなり先生がネガティブを押しつけてきたんですけどー。俺の存在を全否定してきたんですけどー」
さっきまでの感動的な雰囲気返して!
俺、不覚にもあなたの言葉に感銘を受けてたんだよ?
「ちょっと待ってください。引きこもりになった、本を読むようになった、小説家になって印税生活。ほら、ポジティブシンキングできたじゃないですか」
「誠道さん。今イツモフさんが言ったばかりだというのに、イツモフさんの話を否定してどうするんですか。どうしようもないものはどうしようもないんです。諦めることも大事です」
「だからミライは俺の引きこもりを支援するメイドだろうが」
「ミライさんの言う通りです。否定はよくないと私がさっき言ったじゃないですか」
「先に俺を否定したのあんたらだからね。なんなら、俺のポジティブシンキングを二人とも否定してるからね」
こいつら五分前に言ったことも忘れちまったのか?
イツモフさんって、やっぱりマジヤバメンタリストなんですけどー。
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