うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ

文字の大きさ
65 / 360
第1章 7 異世界でも俺は引きこもりたい

ミライのために

しおりを挟む
「ミライを傷つけたこと、後悔しても遅いからな」

 誠道さんがそう言った瞬間、彼のまとう空気が変わった。

 目が鋭すぎて、少し怖い。

 彼の体から放出されているすべての怒りが、一心に大度出へと注がれている。

 傷だらけの体から真っ赤な蒸気が立ち上っている。

 普通じゃない。

 誠道さんの中で、なにかが起こったのだということだけはわかる。

「ステータス【新偉人ニート】保有者の『大切な人が傷つけられ、怒りが頂点に』達しました。特殊条件を満たしたため、【無敵の人間インヴィジブルパーソン】が発動します」

 そして、誠道さんは一瞬だけ私を見て、優しく微笑んでくれた。



 ――見捨てるわけ、ないだろ。



 そう言われた気がした。

「今さらなにやったっておせぇんだよ!」

 大度出が誠道さんに向かって叫ぶ――瞬間、大度出の拳が鋼色に変わった。

 固有ステータスで得た必殺技のひとつだろう。

 これまで彼は本気を出していなかったのだ。

 

 ――でも、そんなんじゃ、誠道さんには敵わない。



 私は謎の安心感に包まれていた。

 誠道さんが私を助けにきてくれて、見捨てないでいてくれて、私のために怒ってくれて、私のために何度も立ち上がってくれて、戦ってくれる。

 それがなにより嬉しくて。

 幸せで。

 あなたに出会えてよかったと思うことができて。

「ありがとう。誠道さん」

「いいかげんくたばれぇ! 【粉砕衝撃拳ジャイロボール】ッ!」

 大度出の鋼色の拳が誠道さんに襲いかかる。

 しかし、誠道さんは暖簾でも払うかのように、拳を簡単に弾き飛ばした。

 つづけて大度出の顔を目がけて回し蹴り。

 大度出は「ぐっあっ」と情けない声を上げながら、長椅子を巻き込んで横に吹っ飛んだ。

「なんだいったい――ぐっ」

 誠道さんが大度出の胸ぐらをつかんで持ち上げる。

 腹に一発拳をお見舞いすると、また大度出は吹っ飛んだ。

「……て、めぇ、い、ったいなに、がっ」

 横たわる大度出の腹に、誠道さんの蹴りが襲い掛かる。

「おい! 鶏真、勅使、五升! なにやってる! はや、く俺……を…………」

 わずかに持ち上げた顔をきょろきょろとさせている大度出の声が、震えながら止まる。

 彼の仲間だったはずの三人からの返事は……当然ない。

 だって彼らは、すでに誠道さんに恐れをなして逃げ出した後なのだから。

「な、んで」

 彼らのつながりなんて、そんなもんだ。

 恐怖による支配なんて、そんなもんだ。

 少しは私のご主人様を見習え。

 誠道さんは、どれだけ惨めに殴られつづけようと、私のために逃げずに立ち向かってくれる。

 あんたたちが霞むほどの強さと優しさを持っているのだ。

 大度出さん。

 あなたはずっと、独りぼっちだったんですよ。

「くそがぁあああ!」

 喚きながら大度出が立ち上がるも、すぐに誠道さんに足を払われ、額を床にぶつけた。

 誠道さんが左手で大度出の髪の毛をつかんで、強引に上半身を持ち上げる。

 右手の握り拳は、真っ赤に発光していた。

「石川ぁ、てめぇ、ふざ、けんなよ」

 誠道さんの拳に宿った光が炎に、龍の形に変わっていく。

 前歯が二本とも折れている大度出は、この期に及んでもなお上から目線で。

「お、い。お前……こんなことしてただで済むと思ってんのか」

「ミライを傷つけやがって、お前の顔なんか、もう見たくもねぇ」

 しかし、誠道さんが睨みを利かせた瞬間、すぐにその強がりは怯えに変わった。

「わ、悪かったって。ゆ、赦せよ。もうしない。おまえらにも近づかねぇ、から。だから、赦してくだ――」

「【炎鬼殺燃龍奥義ひきこもりゅうおうぎ炎上翔砲ゲヘナフレイム】」

 大度出の顔に、真っ赤な龍を宿した誠道さんの拳がめり込み、そこから巨大な炎が四方八方に広がっていく。

 深紅の炎に包まれた大度出の体は、廃教会の壁をぶち破って外へ飛び出し、木々を何本もなぎ倒しながらはるか遠くへ消えていった。

 私の顔にも誠道さんの炎の熱が伝わってきて、それ以上の熱が体の内側からあふれてきて。

 教会内はしんと静まり返っていた。

 私は幸せを感じていた。

「誠道、さん」

 私がそう呼びかけると、誠道さんはこちらを振り返り、片側だけにえくぼのできる、私の大好きな笑顔を見せてくれた。

「ミライ、大丈夫――かっ……」

 誠道さんの体がぐらりと傾く。

 倒れるっ! と思った私は急いで彼のもとに駆け寄ってその体を支える。

「ありがとうございます。誠道さん」

 私が誠道さんの手をぎゅっと握ると、彼はわずかに目を開けて、私の手をぎゅっと握り返してくれた。

「ミライ。ミラ……イ」

 誠道さんは、二度、私の名前を読んでから意識を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...