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第1章 8 エピローグ
私は、あなたの
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「あやつらは、わらわが与えていたサポートアイテム、『真面目になる薬』を飲むのを拒んでおったのじゃ。どれだけ努力しても報われないことに絶望して、グレてしまった哀れなやつらだったのじゃよ。さっき強制的に『真面目になる薬』を飲ませたから、もう安心せい」
「ありがとうございます」
「でも、すまんかったのう。おぬしには痛い思いをさせた。こやつの能力を覚醒させてトラウマを克服させたかったのもあるが、なによりこれまで悲惨な思いをしてきたおぬしの思いも尊重したかった。じゃが、それもこれもすべてわらわの独りよがり。おぬしがこんなに傷つく前に、わらわが直接助けにきた方がよかったか?」
「いえ。私は嬉しいのです。誠道さんがこうして助けにきてくれた。世界一幸せなのです」
「そうか。おぬしのその笑顔が今ここにあるなら、これが正解なんじゃろうな」
「はい。ありがとうございます」
「たわけ。わらわはただ、わらわの玩具の幸せを見るのが好きなだけなのじゃ」
俺の近くで誰かが話している。
なんの話だ?
言葉は聞き取れるが、頭が痛すぎて、体が痛すぎて、理解はできない。
「そろそろ目を覚ますようじゃな。さて、わらわは帰るぞ。こんなクソ面倒くさい引きこもりのおもりは、おぬしにしか務まらんからな。他の人形なんか用意したら、そいつらがかわいそうで見ていられん」
「はい。他の誰にも譲りません。譲りたくありません」
なんか引きこもりだのクソだの面倒だの、ものすごくバカにされている気がするけど、意識がはっきりしないから気のせいかもしれない。
「じゃったら今後もしっかり、こやつの面倒をみるのじゃぞ」
「承知いたしました」
そういえば、なぜだろう。
懐かしく、甘い匂いがする。
頭を優しく撫でられている。
ゆっくりと目を開けると、ぼやけた視界の中に人の顔が浮かび上がって……彼女も傷だらけだ。
けれど、本当に幸せそうに笑っている。
その笑顔を、俺は心の底からずっと求めていた。
「ミ、ラ……イ」
「はい。私はあなたのミライですよ」
「ここ、は? ……うっ」
頭痛がした。
あれ、俺はどうしてここに。
記憶が定かではない。
たしかミライが攫われて、大度出たちが、あれ、俺は……。
「大度出、たちは?」
「安心してください。彼らはここにはいません。誠道さんがやっつけてくれました」
「俺、が?」
「はい。私のために、誠道さんがやっつけてくれました。格好よかったですよ」
笑顔のミライに『格好よかった』と言われ、皮膚の内側がぞわりとした。
恥ずかしくて目を逸らしたいのに、体がまったく動かない。
ってか、今の状況って、これって。
「ま、さか俺、膝枕されてる?」
「嫌、でしたか?」
「それは…………嫌じゃ、ないけど」
「だったら、もう少しこうしていればいいじゃないですか」
ミライがまた俺の頭を優しく撫でてくれる。
もう片方の手で俺の手をぎゅっと握ってくれる。
恥ずかしいけど、ものすごく心地よい。
幸せだ。
「そう、だな。しばらくこのままでいいか? 体が痛くて動けないんだ」
「体が痛いなら、それなら仕方がありませんね」
「うるせぇ」
にやりと笑ったミライに悪態をついた後、我慢できず俺も笑う。
ゆっくりと目を閉じて、この幸せを、この時間を、ひとときも忘れないよう、体中で感じつづける。
浸りつづける。
それから、どれだけの時間こうしていただろうか。
少しの間、眠っていたかもしれない。
窓の外から小鳥のさえずりが聞こえてきて、朝日が廃教会の窓から差し込んできて、俺たちを明るく照らしはじめた。
「一晩中家に帰らないなんて、誠道さんはやっぱりヤンキーですね」
「うるせぇ。ミライだって同じじゃねぇか」
「誠道さんが私の膝枕をひどくお気に召されたから、動けなかっただけです」
「それは悪うござんしたなぁ」
ま、俺はまだまだ動くつもりはないけど。
だって、もう少しこうしていた……まだ体が動かないんだ。
「あの、誠道さん」
動けない正当な理由を思いつたところで、陰のある表情を浮かべたミライが話しかけてきた。
「ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
「……なんだよ?」
「私はあくまであなたのサポートアイテムです。なのに、こうして傷だらけになってまで助けてくれたのは、その……どうしてでしょうか」
「だからさ、お前は人間なんだって」
それだけはしっかりと訂正してから。
「そんなのただ、俺が……俺がミライを助けたいと思ったからだよ」
本心を伝えた瞬間、ミライの頬が真っ赤に染まる。
それを見て、俺の体も沸騰しそうなほど熱くなった。
「そそ、それにあれだよ。俺は引きこもりのコミュ障だからさ、新しいやつとゼロから関係作るのが面倒だったんだよ」
「なるほど。そういうことでしたか」
胸に手を当てて目を閉じたミライは、「そうですよね」と、少しだけ意地の悪そうな笑みを浮かべ。
「たしかに、誠道さんはものすごく面倒な人ですね。こんなにも面倒くさい引きこもりのそばにいられるのは、絶対に私しかいません。仕方がないので、私が一生、あなたの理想的な引きこもり生活を、いろんな意味で支援させていただきます」
「ああ、くれぐれも頼むよ」
お前だって面倒な人じゃねぇか。
そうつづけて言おうと思った矢先、とてつもない眠気が襲ってきて、口を動かすことができなくなった。
俺は、ゆっくりと目を閉じる。
もう少し、もう少しだけこうさせてくれ。
後少し、後少しだけ、この幸せを噛みしめていたいんだ。
俺は、心地よい眠りの海へと、また意識を沈ませていく。
「私は、あなたの心に引きこもれましたよね」
だから引きこもりって言うなって。
とろけていく意識の中、なんとなく聞こえてきた言葉にそう反論しようとした瞬間。
俺の唇に柔らかくて暖かななにかが、触れた気がした。
「ありがとうございます」
「でも、すまんかったのう。おぬしには痛い思いをさせた。こやつの能力を覚醒させてトラウマを克服させたかったのもあるが、なによりこれまで悲惨な思いをしてきたおぬしの思いも尊重したかった。じゃが、それもこれもすべてわらわの独りよがり。おぬしがこんなに傷つく前に、わらわが直接助けにきた方がよかったか?」
「いえ。私は嬉しいのです。誠道さんがこうして助けにきてくれた。世界一幸せなのです」
「そうか。おぬしのその笑顔が今ここにあるなら、これが正解なんじゃろうな」
「はい。ありがとうございます」
「たわけ。わらわはただ、わらわの玩具の幸せを見るのが好きなだけなのじゃ」
俺の近くで誰かが話している。
なんの話だ?
言葉は聞き取れるが、頭が痛すぎて、体が痛すぎて、理解はできない。
「そろそろ目を覚ますようじゃな。さて、わらわは帰るぞ。こんなクソ面倒くさい引きこもりのおもりは、おぬしにしか務まらんからな。他の人形なんか用意したら、そいつらがかわいそうで見ていられん」
「はい。他の誰にも譲りません。譲りたくありません」
なんか引きこもりだのクソだの面倒だの、ものすごくバカにされている気がするけど、意識がはっきりしないから気のせいかもしれない。
「じゃったら今後もしっかり、こやつの面倒をみるのじゃぞ」
「承知いたしました」
そういえば、なぜだろう。
懐かしく、甘い匂いがする。
頭を優しく撫でられている。
ゆっくりと目を開けると、ぼやけた視界の中に人の顔が浮かび上がって……彼女も傷だらけだ。
けれど、本当に幸せそうに笑っている。
その笑顔を、俺は心の底からずっと求めていた。
「ミ、ラ……イ」
「はい。私はあなたのミライですよ」
「ここ、は? ……うっ」
頭痛がした。
あれ、俺はどうしてここに。
記憶が定かではない。
たしかミライが攫われて、大度出たちが、あれ、俺は……。
「大度出、たちは?」
「安心してください。彼らはここにはいません。誠道さんがやっつけてくれました」
「俺、が?」
「はい。私のために、誠道さんがやっつけてくれました。格好よかったですよ」
笑顔のミライに『格好よかった』と言われ、皮膚の内側がぞわりとした。
恥ずかしくて目を逸らしたいのに、体がまったく動かない。
ってか、今の状況って、これって。
「ま、さか俺、膝枕されてる?」
「嫌、でしたか?」
「それは…………嫌じゃ、ないけど」
「だったら、もう少しこうしていればいいじゃないですか」
ミライがまた俺の頭を優しく撫でてくれる。
もう片方の手で俺の手をぎゅっと握ってくれる。
恥ずかしいけど、ものすごく心地よい。
幸せだ。
「そう、だな。しばらくこのままでいいか? 体が痛くて動けないんだ」
「体が痛いなら、それなら仕方がありませんね」
「うるせぇ」
にやりと笑ったミライに悪態をついた後、我慢できず俺も笑う。
ゆっくりと目を閉じて、この幸せを、この時間を、ひとときも忘れないよう、体中で感じつづける。
浸りつづける。
それから、どれだけの時間こうしていただろうか。
少しの間、眠っていたかもしれない。
窓の外から小鳥のさえずりが聞こえてきて、朝日が廃教会の窓から差し込んできて、俺たちを明るく照らしはじめた。
「一晩中家に帰らないなんて、誠道さんはやっぱりヤンキーですね」
「うるせぇ。ミライだって同じじゃねぇか」
「誠道さんが私の膝枕をひどくお気に召されたから、動けなかっただけです」
「それは悪うござんしたなぁ」
ま、俺はまだまだ動くつもりはないけど。
だって、もう少しこうしていた……まだ体が動かないんだ。
「あの、誠道さん」
動けない正当な理由を思いつたところで、陰のある表情を浮かべたミライが話しかけてきた。
「ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
「……なんだよ?」
「私はあくまであなたのサポートアイテムです。なのに、こうして傷だらけになってまで助けてくれたのは、その……どうしてでしょうか」
「だからさ、お前は人間なんだって」
それだけはしっかりと訂正してから。
「そんなのただ、俺が……俺がミライを助けたいと思ったからだよ」
本心を伝えた瞬間、ミライの頬が真っ赤に染まる。
それを見て、俺の体も沸騰しそうなほど熱くなった。
「そそ、それにあれだよ。俺は引きこもりのコミュ障だからさ、新しいやつとゼロから関係作るのが面倒だったんだよ」
「なるほど。そういうことでしたか」
胸に手を当てて目を閉じたミライは、「そうですよね」と、少しだけ意地の悪そうな笑みを浮かべ。
「たしかに、誠道さんはものすごく面倒な人ですね。こんなにも面倒くさい引きこもりのそばにいられるのは、絶対に私しかいません。仕方がないので、私が一生、あなたの理想的な引きこもり生活を、いろんな意味で支援させていただきます」
「ああ、くれぐれも頼むよ」
お前だって面倒な人じゃねぇか。
そうつづけて言おうと思った矢先、とてつもない眠気が襲ってきて、口を動かすことができなくなった。
俺は、ゆっくりと目を閉じる。
もう少し、もう少しだけこうさせてくれ。
後少し、後少しだけ、この幸せを噛みしめていたいんだ。
俺は、心地よい眠りの海へと、また意識を沈ませていく。
「私は、あなたの心に引きこもれましたよね」
だから引きこもりって言うなって。
とろけていく意識の中、なんとなく聞こえてきた言葉にそう反論しようとした瞬間。
俺の唇に柔らかくて暖かななにかが、触れた気がした。
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