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第2章 1 なにか忘れてるような
帰宅
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廃教会からの帰り道、俺とミライはたくさんの人達からジロジロ見られていた。
ちょっと……いやかなり居心地が悪い。
こんなことならもっとミライに膝枕されとくんだったなぁ……じゃなくて。
他人の視線なんか本当にどうでもいい。
いまなによりも重要なことは、俺が意識を失う前、俺の唇に触れたものがなんだったのか、についてだ。
なんとなく、わかってはいるのだけど、確定ではない。
その正体が知りたいようで、知りたくないというか。
宝くじの番号が発表されたときに抱く感情に似ているかもしれない。
確認したら可能性がひとつに狭まるが、確認しなければ可能性は無限大。
でも確認することで、嬉しさが爆発することだってある。
つまり、俺はさっきからミライの隣を歩いているだけなのに、ドキドキが止まらないのだ。
「誠道さん。どうして先ほどから挙動不審なんですか?」
「え、あ」
突然ミライに尋ねられる。
子供がいたずらを思いついたときみたいな顔をしている。
唇はもちろんぷるんと赤い……ってそうじゃなくて、こいつ、もしかして俺の気持ちを見透かした上で聞いてるんじゃ?
まあ、さっき、キスしたの? とは聞けないから、ごまかすんだけど。
だって、もし違ったら俺超痛いやつじゃん。
それに聞かなければキスした可能性は残るからね。
これぞまさしく厨二病患者が大好きすぎてラノベ界隈にあふれかえっている単語、シュレディンガーの猫ならぬシュレディンガーの口づけ!
「いや、なんか……すれ違う人からすげぇジロジロ見られてんなと思ってさ」
「本当にそれが理由ですか?」
ドキッ! という音が脳内で鳴った。
ミライは少しだけ体を前に傾けて、覗き込むようにして俺を見上げているが……こいつ、自分が一番かわいく見える姿をわかってやがる。
なんてあざとかわいい。
「本当もなにも、実際にジロジロ見られてるだろ。周りを見てみろよ」
「たしかにそうですね」
ミライはぽっと頬を赤らめて。
「きっとこれは、私たちがバカップルみたいにお揃いの姿をしているからですよね」
「ただ二人ともがボコボコで傷だらけなだけな」
そう。
俺たちは大度出たちとの戦いを終え、廃教会から我が家へ帰っている最中だ。
八百屋の店主も、子供二人を連れたお母さんも、いかつい冒険者も、杖をついて歩く老夫婦も、スタイル抜群のマダムに散歩されているオムツおじさんも、こちらに奇異の目を向けている。
「いや最後のやつらだけ納得いかねえ! 俺らより明らかに変なやつがいるじゃねぇか!」
俺は右側を歩いていたオムツおじさんを指さす。
街中の視線がいっせいにそこへ向かい――最後にオムツおじさんとマダムも顔を後ろに向けた。
「いやお前らだよ! なにあたかも自分たちの後ろにいる人が指さされたみたいな反応してんだよ!」
即座にそうツッコんだのだが、マダムとオムツおじさんは「なに言ってるのこの人?」みたいな感じで、大仰に首を傾げた。
「お前らまだ誤魔化す気か! ――って」
なんだこれ、おかしいだろ。
俺は周囲を見渡す。
この場にいる誰もかれもが、オムツおじさんたちと同じように首を傾げていた。
「やだ、あの人、ペットを散歩させているだけの人にすべてをなすりつけようとしてるわ」
「きっと頭を打っておかしくなっているのよ」
「高貴で品位のあるマダムが変なやつだなんて、きっと貧乏人の僻みね」
こ、こんなことってありえるの?
「なんだよこの団体芸は! ここ異世界じゃなくてお笑いの劇場なの? この街の人は全員狂ってんのかよ!」
そして、勝ち誇ったようにダンディに笑うオムツおじさんムカつくなぁもう!
誰かのペットに成り下がって人権すら奪われてる裸のおじさんに負けてるところなんかなにひとつないはずなのに、どうしてこんなにも胸が苦しいんでしょうか?
きっと彼が二億リスズの男だからです。
二億なんて、三年連続二桁勝利くらいやらないともらえない額ですよ。
ドリーム系のジャンボ系ですよ。
「誠道さん。周りの人間なんてどうでもいいじゃないですか」
両膝に手をついて落ち込む俺の肩にミライがポンと手を置く。
「大事なのは、私たちがわかり合っているかどうかだけです。それにこれは名誉の負傷です。卑下するものではありません」
「……それもそうか」
ミライに言われ、そうだなと納得する。
俺たちは俺たち。
周りなんて関係ない。
「そういう意味では、私は大度出さんたちに感謝をしています。だって彼らのおかげで、私と誠道さんの仲がさらに深まったのですから」
「いま考えると、絶妙な噛ませ犬だったな」
「誠道さんも言うようになりましたね」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
「でも、ミライはよくそんな堂々と歩けるよな。どうでもいいったってさ、やっぱり視線が痛くないか?」
「そうですか? まあ私は誠道さんからどう見られているか、にしか興味がないのですからね」
「俺もそんな風にメンタル強くなりたいよ」
「なにを御冗談を。誠道さんは、私なんかよりもはるかにメンタルがお強いではありませんか」
「えっ? 俺が?」
「はい」
笑顔でうなずいてくれるミライ。
そっか。
ま、俺、ミライを助けるために大度出に立ち向かえたんだもんな。
しかもあの大度出を(記憶はないけど)倒しちゃったし。
ミライを救ったわけだし。
言われてみれば、廃教会にいけた時点でメンタルが強いって言ってもいいのかもしれない。
「だって、普通はできないじゃないですか」
うんうん。
そうだよねそうだよね。
誰かを救うために死地に飛び込むなんて、普通はできないよ。
ミライさんもきっと感動したから、こうして言及してくれるんでしょうなぁ!
「現実から逃げて引きこもる、なんて世の中のすべてから非難されるような決断。人目を気にしていたらまずできません」
「ミライさん、それ俺を煽ってる?」
「滅相もございません。だって、普通の人はしたくてもできないんですよ? 引きこもったら世間から冷たい目を向けられ、人間失格とまで思われる。引きこもりを決断できるなんて、勇気と覚悟と信念がなければできないことです」
「やっぱり滅茶苦茶煽ってるよねぇ!」
やっぱりミライさんはどこまでいってもミライさんでしたよ。
まあ、ここで激ベタ褒めされても、それはそれでなんか違う感でるけどさ。
「って、そういえば」
「どうしました?」
「いや、うん。……なんでもない。思い出せないから大したことじゃないんだと思う」
大事なことを忘れているような気はするが……まあ、気のせいだよね。
さぁ! 張り切って家に帰ろう!
ちょっと……いやかなり居心地が悪い。
こんなことならもっとミライに膝枕されとくんだったなぁ……じゃなくて。
他人の視線なんか本当にどうでもいい。
いまなによりも重要なことは、俺が意識を失う前、俺の唇に触れたものがなんだったのか、についてだ。
なんとなく、わかってはいるのだけど、確定ではない。
その正体が知りたいようで、知りたくないというか。
宝くじの番号が発表されたときに抱く感情に似ているかもしれない。
確認したら可能性がひとつに狭まるが、確認しなければ可能性は無限大。
でも確認することで、嬉しさが爆発することだってある。
つまり、俺はさっきからミライの隣を歩いているだけなのに、ドキドキが止まらないのだ。
「誠道さん。どうして先ほどから挙動不審なんですか?」
「え、あ」
突然ミライに尋ねられる。
子供がいたずらを思いついたときみたいな顔をしている。
唇はもちろんぷるんと赤い……ってそうじゃなくて、こいつ、もしかして俺の気持ちを見透かした上で聞いてるんじゃ?
まあ、さっき、キスしたの? とは聞けないから、ごまかすんだけど。
だって、もし違ったら俺超痛いやつじゃん。
それに聞かなければキスした可能性は残るからね。
これぞまさしく厨二病患者が大好きすぎてラノベ界隈にあふれかえっている単語、シュレディンガーの猫ならぬシュレディンガーの口づけ!
「いや、なんか……すれ違う人からすげぇジロジロ見られてんなと思ってさ」
「本当にそれが理由ですか?」
ドキッ! という音が脳内で鳴った。
ミライは少しだけ体を前に傾けて、覗き込むようにして俺を見上げているが……こいつ、自分が一番かわいく見える姿をわかってやがる。
なんてあざとかわいい。
「本当もなにも、実際にジロジロ見られてるだろ。周りを見てみろよ」
「たしかにそうですね」
ミライはぽっと頬を赤らめて。
「きっとこれは、私たちがバカップルみたいにお揃いの姿をしているからですよね」
「ただ二人ともがボコボコで傷だらけなだけな」
そう。
俺たちは大度出たちとの戦いを終え、廃教会から我が家へ帰っている最中だ。
八百屋の店主も、子供二人を連れたお母さんも、いかつい冒険者も、杖をついて歩く老夫婦も、スタイル抜群のマダムに散歩されているオムツおじさんも、こちらに奇異の目を向けている。
「いや最後のやつらだけ納得いかねえ! 俺らより明らかに変なやつがいるじゃねぇか!」
俺は右側を歩いていたオムツおじさんを指さす。
街中の視線がいっせいにそこへ向かい――最後にオムツおじさんとマダムも顔を後ろに向けた。
「いやお前らだよ! なにあたかも自分たちの後ろにいる人が指さされたみたいな反応してんだよ!」
即座にそうツッコんだのだが、マダムとオムツおじさんは「なに言ってるのこの人?」みたいな感じで、大仰に首を傾げた。
「お前らまだ誤魔化す気か! ――って」
なんだこれ、おかしいだろ。
俺は周囲を見渡す。
この場にいる誰もかれもが、オムツおじさんたちと同じように首を傾げていた。
「やだ、あの人、ペットを散歩させているだけの人にすべてをなすりつけようとしてるわ」
「きっと頭を打っておかしくなっているのよ」
「高貴で品位のあるマダムが変なやつだなんて、きっと貧乏人の僻みね」
こ、こんなことってありえるの?
「なんだよこの団体芸は! ここ異世界じゃなくてお笑いの劇場なの? この街の人は全員狂ってんのかよ!」
そして、勝ち誇ったようにダンディに笑うオムツおじさんムカつくなぁもう!
誰かのペットに成り下がって人権すら奪われてる裸のおじさんに負けてるところなんかなにひとつないはずなのに、どうしてこんなにも胸が苦しいんでしょうか?
きっと彼が二億リスズの男だからです。
二億なんて、三年連続二桁勝利くらいやらないともらえない額ですよ。
ドリーム系のジャンボ系ですよ。
「誠道さん。周りの人間なんてどうでもいいじゃないですか」
両膝に手をついて落ち込む俺の肩にミライがポンと手を置く。
「大事なのは、私たちがわかり合っているかどうかだけです。それにこれは名誉の負傷です。卑下するものではありません」
「……それもそうか」
ミライに言われ、そうだなと納得する。
俺たちは俺たち。
周りなんて関係ない。
「そういう意味では、私は大度出さんたちに感謝をしています。だって彼らのおかげで、私と誠道さんの仲がさらに深まったのですから」
「いま考えると、絶妙な噛ませ犬だったな」
「誠道さんも言うようになりましたね」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
「でも、ミライはよくそんな堂々と歩けるよな。どうでもいいったってさ、やっぱり視線が痛くないか?」
「そうですか? まあ私は誠道さんからどう見られているか、にしか興味がないのですからね」
「俺もそんな風にメンタル強くなりたいよ」
「なにを御冗談を。誠道さんは、私なんかよりもはるかにメンタルがお強いではありませんか」
「えっ? 俺が?」
「はい」
笑顔でうなずいてくれるミライ。
そっか。
ま、俺、ミライを助けるために大度出に立ち向かえたんだもんな。
しかもあの大度出を(記憶はないけど)倒しちゃったし。
ミライを救ったわけだし。
言われてみれば、廃教会にいけた時点でメンタルが強いって言ってもいいのかもしれない。
「だって、普通はできないじゃないですか」
うんうん。
そうだよねそうだよね。
誰かを救うために死地に飛び込むなんて、普通はできないよ。
ミライさんもきっと感動したから、こうして言及してくれるんでしょうなぁ!
「現実から逃げて引きこもる、なんて世の中のすべてから非難されるような決断。人目を気にしていたらまずできません」
「ミライさん、それ俺を煽ってる?」
「滅相もございません。だって、普通の人はしたくてもできないんですよ? 引きこもったら世間から冷たい目を向けられ、人間失格とまで思われる。引きこもりを決断できるなんて、勇気と覚悟と信念がなければできないことです」
「やっぱり滅茶苦茶煽ってるよねぇ!」
やっぱりミライさんはどこまでいってもミライさんでしたよ。
まあ、ここで激ベタ褒めされても、それはそれでなんか違う感でるけどさ。
「って、そういえば」
「どうしました?」
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