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第2章 4 金の亡者の本懐
金の亡者の本懐
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ピロ―ドロー・カイマセヌとの激闘の傷もすっかりと癒え、今日から俺は経験値獲得のため筋トレを再開させた。
理由はもちろん。
強くなりたいから。
大切な人を守れるくらいの、強さがほしいから。
こんなことを引きこもりの俺が思うようになるなんて。
カイマセヌとの戦いで俺は実感した。
己の無力さを、弱さを、ふがいなさを。
強くなければ、大切なものを守ることはできない。
ジツハフくんを守り抜いたイツモフさんのように。
「強くならなきゃ」
羨ましかった。格好よかった。
己の弱さが憎かった。
「……はっ! どうしたんですか誠道さん!」
俺の部屋に入ってきたミライが目を見開いて、口を手で押さえている。
「どうしたもこうしたも、経験値のための筋トレだよ」
この世界で強くなるためにはこうするしかない。
こうやって地道な努力をつづけることが、大切な誰かを守れるようになる唯一の方法だ。
「こんなに集中して筋トレって……、あなた誠道さんではありませんね! 本物の誠道さんをどこにやったんですか!」
「なんで鞭を取り出すんだ! 偽物じゃねぇよ!」
「誠道さんが自発的に訓練なんかするはずありません! 絶対に偽物です!」
「俺にも思うところがあったんだよ」
「じゃあこの鞭で縛って確認します!」
「なんでそうなるっ! そんなことしなくたって俺は俺だ!」
「やっぱり偽物ですね。誠道さんは縛られるのが引きこもることの次に大好きなお方。そして私はそんな誠道さんのために日々様々な縛り方を」
「そんなもん覚えんな! 俺はそんな性癖持ってない!」
「そんなぁ、あんまりです」
絶望の表情を浮かべて、がっくりとうなだれるミライ。
「でもじゃあどうして、自発的に訓練なんかしていたんですか?」
「思うところがあったって言ってんだろ」
「思うところってなんですか?」
「……強くなりたいって、ただそう思っただけだよ」
頬をかきながらぼそぼそとした声で言う。
顔が熱い。
決意を誰かに言うのって本当に恥ずかしいんだよなぁ。
こういうのって内に秘めて頑張るものだと思うが、まあミライになら言ってもいいだろう。
協力してもらわないといけない場面も多々あるだろうし、なにより俺が守りたいのはミライだから。
「強くなりたい、ですか」
顔を上げたミライはしばらくの間、口をぽかんと開けて無防備な姿をさらしている。
「なんだよ、そんなに驚いて」
「……いえ」
ミライはぽっと頬を赤らめて。
「やっぱりあなたは偽物じゃないです。私が一生をかけて支援しようと決めた、本物の誠道さんです」
おいおい照れるなぁ。
そんなに感動しないでくれよ。
俺だって、情けないままではいられないんだ。
「ようやく気づいたか」
「はい。そうやって夢を語る言葉が似合わないのは引きこもりの特徴です! 絶対に偽物では出せませんから!」
やっぱり情けないままでいていいですかぁ?
満面の笑みで俺を貶めないでくれますか?
「なんだその判断きじゅ」
「あ、来客です。すみません、私はこれで」
ドアをノックする音に引き寄せられるように、ミライは俺のツッコみを最後まで待たずに去っていく。
……ねぇ、これ俺泣いていいですか?
俺はどこまでいっても格好よくなれないってことですか?
「イツモフさんっ! お久しぶりですっ!」
一階の玄関の方からミライの声が聞こえる。
来訪者はイツモフさんだったようだ。
俺も挨拶しなければな、と二人の元へ向かおうと自室を出て階段を下りる。
「ちょっと待ってください。すぐに用意します」
階段を慌てて駆け上るミライとすれ違ったが……用意しますってなんだ?
まあいいか。
「誠道くん。お久しぶりです」
「久しぶりだな」
イツモフさんはいつもと変わらぬ笑顔を浮かべていた。
「誠道お兄ちゃん、僕もいるよ」
「おお。ジツハフも久しぶり」
イツモフさんの隣にはジツハフくんもいる。
「それで、今日はなんのようだ?」
俺が尋ねると、イツモフさんは「え……あ」と少しだけ考えるように目を泳がせてから。
「用件はもうミライさんに伝えてありますので」
「だから、その用件って?」
「お二方との約束です」
「約束?」
なんだそれ。そんなものした覚えないぞ?
「こういうことは、きっちりしないといけませんから」
「イツモフさん。お待たせしました」
ミライが階段を降りてくる。だから約束ってなに?
俺を蚊帳の外にしないで。
「えーと、これで足りますか? 利息を含めて、しめて12万リスズで」
「おいちょっと待て」
俺はミライの前に立って、イツモフさんに近づかせないようにする。
「なんですか? イツモフさんをお待たせするわけには」
「待たせていい。それはなんのお金なんだ?」
「約束したじゃないですか。誠道さん。ケチ精神で約束を反故にするのはいけません。友達だからこそこういうことはきっちりと、大切にしていかないと」
「だから約束ってなんのことだよ」
「運んでもらったじゃないですか」
「だからなにを」
「私たちを」
「は?」
私たち? ってなに?
ミライと話していても平行線をたどるだけだと、俺はイツモフさんの方を向き直る。
イツモフさんは悪びれもせずにこう告げた。
「カイマセヌさんを倒したとき、遺跡から脱出するために誠道くんたちを運んであげたじゃないですか。だから、その運搬料を請求しにきました」
「はぁあああ? あれで金取るのかよ」
「普通では? 動けない誠道くんとミライさんをたしかにこの私が運搬しましたから」
「元はと言えばあんたが壊したんだろ! それで金を請求って、ふざけやがって」
「たしかに私はいつもふざけていますが……私がふざけているときに」
「そういう問題じゃなーい!」
なにあの決め台詞言おうとしてんだ!
怖すぎんぞ!
「ってかそもそも俺はそんな約束してないぞ」
「したじゃないですか」
「どこで?」
「ユニコーソの角を採集するときにばったり出会って、目からビームについての会話をしたときに」
「あのときかっ!」
たしかにそんな会話があったような。
昔すぎて記憶が曖昧だ。
「そんなん誰が覚えてるんだよ!」
「あなた方の命の恩人である私が覚えています!」
「自慢げに言うなよ! 恩着せがましいぞ!」
「いいから払ってください。運んだのは事実ですから。それともあのまま遺跡に押しつぶされた方がよかったと?」
「こ、いつ……やっぱりただの金の亡者じゃねぇか!」
ニヤリと不敵に笑うイツモフさんを見ながら俺は歯噛みする。
「はい。私は弟を守る金の亡者ですよ」
そう言って笑ったイツモフさんの笑顔からは、幸せの匂いがした。
はぁーあ、本当にこいつは、弟バカの素敵なお姉ちゃんだよ!
「って脱出のときのお金は俺のだっただろうが! 返すのはお前らの方じゃねぇか!」
重要な事実を思い出した俺が抗弁を返すと、イツモフさんは「ヤバっ、気づかれたっ」と小声でつぶやき目を泳がせた。
すぐにジツハフの手を取って、俺たちの前から走り去っていく。
「いや待てよこの金の亡者どもぉおおお!」
手をつないで走る二人の背中を追いかけようかと思ったが……まあ今日は二人の互いを思い合う心に免じて許してやるか。
「ったく、ほんとあいつらは。なぁミライ……え、あれ? ミライ?」
呆れたように笑いながら隣にいるはずのミライを見たが、そのミライがどこにもいない。
「え? おいミライ? いったいど」
「イツモフさん待ってくださーい! まだ運搬料の12万リスズを渡せてませんよ!」
「だからなんでこうなるんだよ!」
こうして俺は、姉弟を追いかけるミライを必死で追いかける羽目になりましたとさ。
理由はもちろん。
強くなりたいから。
大切な人を守れるくらいの、強さがほしいから。
こんなことを引きこもりの俺が思うようになるなんて。
カイマセヌとの戦いで俺は実感した。
己の無力さを、弱さを、ふがいなさを。
強くなければ、大切なものを守ることはできない。
ジツハフくんを守り抜いたイツモフさんのように。
「強くならなきゃ」
羨ましかった。格好よかった。
己の弱さが憎かった。
「……はっ! どうしたんですか誠道さん!」
俺の部屋に入ってきたミライが目を見開いて、口を手で押さえている。
「どうしたもこうしたも、経験値のための筋トレだよ」
この世界で強くなるためにはこうするしかない。
こうやって地道な努力をつづけることが、大切な誰かを守れるようになる唯一の方法だ。
「こんなに集中して筋トレって……、あなた誠道さんではありませんね! 本物の誠道さんをどこにやったんですか!」
「なんで鞭を取り出すんだ! 偽物じゃねぇよ!」
「誠道さんが自発的に訓練なんかするはずありません! 絶対に偽物です!」
「俺にも思うところがあったんだよ」
「じゃあこの鞭で縛って確認します!」
「なんでそうなるっ! そんなことしなくたって俺は俺だ!」
「やっぱり偽物ですね。誠道さんは縛られるのが引きこもることの次に大好きなお方。そして私はそんな誠道さんのために日々様々な縛り方を」
「そんなもん覚えんな! 俺はそんな性癖持ってない!」
「そんなぁ、あんまりです」
絶望の表情を浮かべて、がっくりとうなだれるミライ。
「でもじゃあどうして、自発的に訓練なんかしていたんですか?」
「思うところがあったって言ってんだろ」
「思うところってなんですか?」
「……強くなりたいって、ただそう思っただけだよ」
頬をかきながらぼそぼそとした声で言う。
顔が熱い。
決意を誰かに言うのって本当に恥ずかしいんだよなぁ。
こういうのって内に秘めて頑張るものだと思うが、まあミライになら言ってもいいだろう。
協力してもらわないといけない場面も多々あるだろうし、なにより俺が守りたいのはミライだから。
「強くなりたい、ですか」
顔を上げたミライはしばらくの間、口をぽかんと開けて無防備な姿をさらしている。
「なんだよ、そんなに驚いて」
「……いえ」
ミライはぽっと頬を赤らめて。
「やっぱりあなたは偽物じゃないです。私が一生をかけて支援しようと決めた、本物の誠道さんです」
おいおい照れるなぁ。
そんなに感動しないでくれよ。
俺だって、情けないままではいられないんだ。
「ようやく気づいたか」
「はい。そうやって夢を語る言葉が似合わないのは引きこもりの特徴です! 絶対に偽物では出せませんから!」
やっぱり情けないままでいていいですかぁ?
満面の笑みで俺を貶めないでくれますか?
「なんだその判断きじゅ」
「あ、来客です。すみません、私はこれで」
ドアをノックする音に引き寄せられるように、ミライは俺のツッコみを最後まで待たずに去っていく。
……ねぇ、これ俺泣いていいですか?
俺はどこまでいっても格好よくなれないってことですか?
「イツモフさんっ! お久しぶりですっ!」
一階の玄関の方からミライの声が聞こえる。
来訪者はイツモフさんだったようだ。
俺も挨拶しなければな、と二人の元へ向かおうと自室を出て階段を下りる。
「ちょっと待ってください。すぐに用意します」
階段を慌てて駆け上るミライとすれ違ったが……用意しますってなんだ?
まあいいか。
「誠道くん。お久しぶりです」
「久しぶりだな」
イツモフさんはいつもと変わらぬ笑顔を浮かべていた。
「誠道お兄ちゃん、僕もいるよ」
「おお。ジツハフも久しぶり」
イツモフさんの隣にはジツハフくんもいる。
「それで、今日はなんのようだ?」
俺が尋ねると、イツモフさんは「え……あ」と少しだけ考えるように目を泳がせてから。
「用件はもうミライさんに伝えてありますので」
「だから、その用件って?」
「お二方との約束です」
「約束?」
なんだそれ。そんなものした覚えないぞ?
「こういうことは、きっちりしないといけませんから」
「イツモフさん。お待たせしました」
ミライが階段を降りてくる。だから約束ってなに?
俺を蚊帳の外にしないで。
「えーと、これで足りますか? 利息を含めて、しめて12万リスズで」
「おいちょっと待て」
俺はミライの前に立って、イツモフさんに近づかせないようにする。
「なんですか? イツモフさんをお待たせするわけには」
「待たせていい。それはなんのお金なんだ?」
「約束したじゃないですか。誠道さん。ケチ精神で約束を反故にするのはいけません。友達だからこそこういうことはきっちりと、大切にしていかないと」
「だから約束ってなんのことだよ」
「運んでもらったじゃないですか」
「だからなにを」
「私たちを」
「は?」
私たち? ってなに?
ミライと話していても平行線をたどるだけだと、俺はイツモフさんの方を向き直る。
イツモフさんは悪びれもせずにこう告げた。
「カイマセヌさんを倒したとき、遺跡から脱出するために誠道くんたちを運んであげたじゃないですか。だから、その運搬料を請求しにきました」
「はぁあああ? あれで金取るのかよ」
「普通では? 動けない誠道くんとミライさんをたしかにこの私が運搬しましたから」
「元はと言えばあんたが壊したんだろ! それで金を請求って、ふざけやがって」
「たしかに私はいつもふざけていますが……私がふざけているときに」
「そういう問題じゃなーい!」
なにあの決め台詞言おうとしてんだ!
怖すぎんぞ!
「ってかそもそも俺はそんな約束してないぞ」
「したじゃないですか」
「どこで?」
「ユニコーソの角を採集するときにばったり出会って、目からビームについての会話をしたときに」
「あのときかっ!」
たしかにそんな会話があったような。
昔すぎて記憶が曖昧だ。
「そんなん誰が覚えてるんだよ!」
「あなた方の命の恩人である私が覚えています!」
「自慢げに言うなよ! 恩着せがましいぞ!」
「いいから払ってください。運んだのは事実ですから。それともあのまま遺跡に押しつぶされた方がよかったと?」
「こ、いつ……やっぱりただの金の亡者じゃねぇか!」
ニヤリと不敵に笑うイツモフさんを見ながら俺は歯噛みする。
「はい。私は弟を守る金の亡者ですよ」
そう言って笑ったイツモフさんの笑顔からは、幸せの匂いがした。
はぁーあ、本当にこいつは、弟バカの素敵なお姉ちゃんだよ!
「って脱出のときのお金は俺のだっただろうが! 返すのはお前らの方じゃねぇか!」
重要な事実を思い出した俺が抗弁を返すと、イツモフさんは「ヤバっ、気づかれたっ」と小声でつぶやき目を泳がせた。
すぐにジツハフの手を取って、俺たちの前から走り去っていく。
「いや待てよこの金の亡者どもぉおおお!」
手をつないで走る二人の背中を追いかけようかと思ったが……まあ今日は二人の互いを思い合う心に免じて許してやるか。
「ったく、ほんとあいつらは。なぁミライ……え、あれ? ミライ?」
呆れたように笑いながら隣にいるはずのミライを見たが、そのミライがどこにもいない。
「え? おいミライ? いったいど」
「イツモフさん待ってくださーい! まだ運搬料の12万リスズを渡せてませんよ!」
「だからなんでこうなるんだよ!」
こうして俺は、姉弟を追いかけるミライを必死で追いかける羽目になりましたとさ。
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