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第4章 4 束縛の果てに
もう、戻れない
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俺とミライと心出の三人は、コハクちゃんの家の前で途方に暮れていた。
「誰もいないってどういうことだ」
いくらノックしても声をかけても、反応がない。
コハクちゃんが出かけているのはまだわかるけど、病床に伏しているハクナさんはこの中にいるはずでは?
かなりうるさく呼んでいたので、起きてきてもいいはずなのに。
「ってかマーズも一向に戻ってこないけど、あいつはいったいどこにいったんだ」
コハクちゃんと話をしようと決めた俺たちは、それから広場に戻って、マーズが戻ってくるのをしばらく待った。
しかし、待てど暮らせど一向にマーズは戻ってこなかったので、公共物に悪いとは思ったが、広場のベンチに『コハクちゃんの家にいくから』と張り紙をして移動した。
あれから一時間は経っていると思うけど、まだマーズは情報収集をつづけているのか?
「どうしましょうか、誠道さん。コハクちゃんを探しにいきます?」
「いや、帰ってくるのを待っていた方が早いだろ。マーズがくるのも待っていた方がいいだろうし」
すれ違いになっては元も子もない。
「誠道くん、ミライさん」
「なんだよ、心出」
ただでさえ焦りを隠しきれないのに、ケモナーストーカーのボケにツッコみなんかしたくないぞ。
と思ったが、心出の深刻な表情を見てピリッと背筋が伸びた。
心出がゆっくりと口を開く。
「いや、俺もいまその考えに至って、俺が心配性なだけだったら指摘してくれて構わないのだが、ここまで反応がないのはさすがにおかしいのではないだろうか。さすがにハクナさん? が出てきてもいいのではないだろうか。つまりこの状況は、ハクナさんは出たくても出られないと、そういうことではないだろうか」
「……あっ」
心出に言われ、俺は自分の至らなさを恥じる。
ミライも「あっ」と呟いて、眉間にしわを寄せた。
ハクナさんは不治の病と闘っている。
家の中で意識を失っていてもおかしくない。
「おい! ミライ、心出! いますぐこの扉をぶち破るぞ」
俺たちはすぐに三人で体当たりをして、扉をぶち破った。
「ハクナさん! 大丈夫ですか?」
ハクナさんが寝ている部屋の扉を開ける。
「ハクナさっ……んが、…………え、いな、い?」
部屋の中にハクナさんはいなかった。
もちろんコハクちゃんもいない。
「どういうことでしょう。ハクナさんが出かける理由なんて……ないですよね」
ミライが誰もいない部屋を見まわして首を傾げる。
ハクナさんが昨日出かけていたのは、コハクちゃんが失踪していて、心配で、病気の体に鞭打って探そうとしたからだ。
コハクちゃんが帰ってきたいま、ハクナさんが外出する理由はないはず。
コハクちゃんだって、昨日はハクナさんを見つけるなり外出したことを咎めていた。
「誠道さん。なんだか私、嫌な予感がするんですけど」
俺の隣に立ったミライがそうつぶやいた瞬間。
「君たち! ……よかったぁ。ここにいたのかっ!」
息を切らしながら部屋の中に入ってきたのは、テツカさんだった。
「テツカさんっ?」
額から汗を流し、両ひざに手をついているテツカさんに駆け寄ると、テツカさんは呼吸をと止める間も惜しいと言わんばかりに、すぐに口を開く。
「あの虎の魔物が、また現れたという情報を得たんだ」
「え?」
「しかも、ハクナさんがこれ以上コハクちゃんに迷惑をかけられないと、あんな状態なのに戦いにいってしまって……」
テツカさんはひどく切羽詰まっているように見えた。
「もしかしたら、ハクナさんはコハクちゃんをこれ以上自分に縛りつけないために、死ににいったのかもしれない」
「場所は? 知ってるんですか?」
テツカさんの言葉を遮るようにして聞くと、テツカさんは斜め上を見上げた。
「……えっと、たしか昨日冒険者が襲われたのと同じ場所――君たちっ!」
俺は呼び止めるテツカさんを置き去りにして走った。
ミライと心出も、俺の後ろをついてきている。
ハクナさんっ!
コハクちゃん!
どこで二人の関係性はねじ曲がってしまったのだろう。
お互いが互いを大切に思うあまり、大切に思いすぎるあまり、こんがらがってしまった二人の関係性はとりかえしのつかないところにまで来てしまったのかもしれない。
まあ、このときの俺は――おそらくミライも心出も――本当に冷静でなくて、コハクちゃんが大切に思っているハクナさんを殺すわけがないから、たとえ二人が出会ったとしても、トラ化しているコハクちゃんが身を隠すだけなのだが。
「……あ、コハクちゃん!」
ホクトたちが襲われた場所に到着すると、そこにはコハクちゃんがこちらに背を向けて、一人でぽつんと立っていた。
その背中からは不穏な空気が漂っている。
あたり一面に生えている背の低い草をなびかせていた風が、ぴたりとやんだ。
ハクナさんの姿はどこにもない。
「ようやく来ましたか……えっ、あなたたち、が?」
振り返ったコハクちゃんは、すごんでいた目をぱっと見開いて、口を手で押さえる。
「コハク、ちゃん」
俺は息も絶え絶えな中、必死で言葉を絞り出す。
「ハクナさんはっ、いま、どこにっ……」
前かがみになって両膝に手をついた状態でコハクちゃんを見上げると、コハクちゃんは眉間にしわを寄せて、その可愛らしいネコミミをプルプルと震わせはじめた。
「お母さんがどこって……」
コハクちゃんの体から白い光が噴き出すように出てくる。
「あんたたちが攫おうとしたんだろうがっ!」
「誰もいないってどういうことだ」
いくらノックしても声をかけても、反応がない。
コハクちゃんが出かけているのはまだわかるけど、病床に伏しているハクナさんはこの中にいるはずでは?
かなりうるさく呼んでいたので、起きてきてもいいはずなのに。
「ってかマーズも一向に戻ってこないけど、あいつはいったいどこにいったんだ」
コハクちゃんと話をしようと決めた俺たちは、それから広場に戻って、マーズが戻ってくるのをしばらく待った。
しかし、待てど暮らせど一向にマーズは戻ってこなかったので、公共物に悪いとは思ったが、広場のベンチに『コハクちゃんの家にいくから』と張り紙をして移動した。
あれから一時間は経っていると思うけど、まだマーズは情報収集をつづけているのか?
「どうしましょうか、誠道さん。コハクちゃんを探しにいきます?」
「いや、帰ってくるのを待っていた方が早いだろ。マーズがくるのも待っていた方がいいだろうし」
すれ違いになっては元も子もない。
「誠道くん、ミライさん」
「なんだよ、心出」
ただでさえ焦りを隠しきれないのに、ケモナーストーカーのボケにツッコみなんかしたくないぞ。
と思ったが、心出の深刻な表情を見てピリッと背筋が伸びた。
心出がゆっくりと口を開く。
「いや、俺もいまその考えに至って、俺が心配性なだけだったら指摘してくれて構わないのだが、ここまで反応がないのはさすがにおかしいのではないだろうか。さすがにハクナさん? が出てきてもいいのではないだろうか。つまりこの状況は、ハクナさんは出たくても出られないと、そういうことではないだろうか」
「……あっ」
心出に言われ、俺は自分の至らなさを恥じる。
ミライも「あっ」と呟いて、眉間にしわを寄せた。
ハクナさんは不治の病と闘っている。
家の中で意識を失っていてもおかしくない。
「おい! ミライ、心出! いますぐこの扉をぶち破るぞ」
俺たちはすぐに三人で体当たりをして、扉をぶち破った。
「ハクナさん! 大丈夫ですか?」
ハクナさんが寝ている部屋の扉を開ける。
「ハクナさっ……んが、…………え、いな、い?」
部屋の中にハクナさんはいなかった。
もちろんコハクちゃんもいない。
「どういうことでしょう。ハクナさんが出かける理由なんて……ないですよね」
ミライが誰もいない部屋を見まわして首を傾げる。
ハクナさんが昨日出かけていたのは、コハクちゃんが失踪していて、心配で、病気の体に鞭打って探そうとしたからだ。
コハクちゃんが帰ってきたいま、ハクナさんが外出する理由はないはず。
コハクちゃんだって、昨日はハクナさんを見つけるなり外出したことを咎めていた。
「誠道さん。なんだか私、嫌な予感がするんですけど」
俺の隣に立ったミライがそうつぶやいた瞬間。
「君たち! ……よかったぁ。ここにいたのかっ!」
息を切らしながら部屋の中に入ってきたのは、テツカさんだった。
「テツカさんっ?」
額から汗を流し、両ひざに手をついているテツカさんに駆け寄ると、テツカさんは呼吸をと止める間も惜しいと言わんばかりに、すぐに口を開く。
「あの虎の魔物が、また現れたという情報を得たんだ」
「え?」
「しかも、ハクナさんがこれ以上コハクちゃんに迷惑をかけられないと、あんな状態なのに戦いにいってしまって……」
テツカさんはひどく切羽詰まっているように見えた。
「もしかしたら、ハクナさんはコハクちゃんをこれ以上自分に縛りつけないために、死ににいったのかもしれない」
「場所は? 知ってるんですか?」
テツカさんの言葉を遮るようにして聞くと、テツカさんは斜め上を見上げた。
「……えっと、たしか昨日冒険者が襲われたのと同じ場所――君たちっ!」
俺は呼び止めるテツカさんを置き去りにして走った。
ミライと心出も、俺の後ろをついてきている。
ハクナさんっ!
コハクちゃん!
どこで二人の関係性はねじ曲がってしまったのだろう。
お互いが互いを大切に思うあまり、大切に思いすぎるあまり、こんがらがってしまった二人の関係性はとりかえしのつかないところにまで来てしまったのかもしれない。
まあ、このときの俺は――おそらくミライも心出も――本当に冷静でなくて、コハクちゃんが大切に思っているハクナさんを殺すわけがないから、たとえ二人が出会ったとしても、トラ化しているコハクちゃんが身を隠すだけなのだが。
「……あ、コハクちゃん!」
ホクトたちが襲われた場所に到着すると、そこにはコハクちゃんがこちらに背を向けて、一人でぽつんと立っていた。
その背中からは不穏な空気が漂っている。
あたり一面に生えている背の低い草をなびかせていた風が、ぴたりとやんだ。
ハクナさんの姿はどこにもない。
「ようやく来ましたか……えっ、あなたたち、が?」
振り返ったコハクちゃんは、すごんでいた目をぱっと見開いて、口を手で押さえる。
「コハク、ちゃん」
俺は息も絶え絶えな中、必死で言葉を絞り出す。
「ハクナさんはっ、いま、どこにっ……」
前かがみになって両膝に手をついた状態でコハクちゃんを見上げると、コハクちゃんは眉間にしわを寄せて、その可愛らしいネコミミをプルプルと震わせはじめた。
「お母さんがどこって……」
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