200 / 360
第4章 5 私はあなたを選ばない
伝わったんだね
しおりを挟む
コハクちゃんがそう叫んだあと、彼女の体から放たれている光がその眩さを増した。
「【野獣化】!」
コハクちゃんの体が、直視できないほどの眩い光に包まれ、ゆっくりと膨張していく。
口元からはサーベルタイガーのような鋭利で大きな牙が生え、白地にところどころ黒のまだら模様が入っている巨大な図体は、陽光に照らされて艶やかに輝いている。
マスコット的な可愛らしさを備えていたコハクちゃんが化けたとは到底思えないほど高貴で気品にあふれた巨大な虎は、美しさと優雅さと獰猛さを絶妙なバランス持ち合わせていた。
「あれが、コハクちゃん……なのか」
怒涛の展開の連続で、なにがなんだかわからない。
そんなことどうでもよくて、空と雲と草原と白い虎、ただただ目の前に広がるすべてが美しいと思ってしまう。
コハクちゃんに襲われそうになっているという危機的状況なのに、俺は目の前の白い虎にどうしようもなく見惚れていた。
体中が酸素を欲しているにもかかわらず、呼吸をすることも忘れ、見るものを魅了する煌びやかな輝きに圧倒されつづけていた。
「お前らがっ! 私のお母さんを、たった一人のお母さんをっ! どこへやったっ! 【虎突猛進】ッ!!」
コハクちゃんはそう叫びながら、俺たちに向かって飛びかかってくる。
「誠道さんっ! 早く【盾弧燃龍】を……って、誠道さんっ!」
「……えっ?」
ミライが俺を呼ぶ声が聞こえたような気が……と思った瞬間、ミライが覆いかぶさってきた。
気がつけば俺は地面に倒れていて、上にはミライがのっかっている。
隣には、困惑の表情を浮かべた心出が同じように倒れていた。
「誠道さんっ! しっかりしてくださいっ!」
「悪い、つい見惚れて……危なっ! 【盾孤燃龍】ッ!」
コハクちゃんが前足についている鋭利な爪で俺たちを切り裂こうとしているのが見えたので、【盾孤燃龍】でなんとか防ぐ。
ガリ、という鈍い引っかき音がしたが、盾はしっかりと俺たちを守ってくれた。
「あなたたちがっ! お母さんをっ! お母さんをっ!」
コハクちゃんはなおも攻撃をつづける。
とち狂ったように、一心不乱に、目に涙を浮かべながら。
「コハクちゃん! ちょっと待って! 落ち着いて!」
「コハクさん! 私たちはハクナさんを攫ってなんかいません。むしろ探しにしたんです!」
「あなたたちのことっ! 信じてっ、たのにっ!」
俺とミライが盾の中からコハクちゃんに声をかけるも、聞く耳を持ってくれない。
コハクちゃんの鋭利な爪と盾がぶつかることで発生する振動が、盾内の空気を揺らしたあと、俺たちの体の奥底までもぐらぐらと揺らしてくる。
くそぉ。
相手がコハクちゃんじゃなければ、【無敵の人間】化して攻撃できるのに。
「コハクさん!」
今度は心出が説得を試みる。
……無理だと思うけど、しないよりはましか?
「俺は本当の君と話がしたいんだ! 俺の目を見てくれ! 俺が君のお母さんを攫うように見えるかい?」
「……あ、あなたはっ」
コハクちゃんの攻撃が止まった。
驚いたように目を見開いて、心出をじっと見つめている。
……え?
なにこの展開。
もしかして俺が鈍感で気がつかなかっただけで、コハクちゃんも心出のことを好いていた?
心出の一方通行じゃなくて、二人は両想いだった?
コハクちゃんと心出、互いが互いをじっと見つめ合い――まさかこれがラブコメの波動が生まれそうな瞬間だと言うのかっ!
そして、心出がにっこりと笑い、涙する子供を慰めるように優しく語りかける。
「伝わったんだね。コハクさん。君に対する俺の愛が」
「あのぉ、あなたはいったい誰ですか? 初対面ですよね?」
「ぜんぜん伝わってないじゃねぇか! そもそも存在を覚えられてもねぇし! とんだ茶番だよ!」
「【野獣化】!」
コハクちゃんの体が、直視できないほどの眩い光に包まれ、ゆっくりと膨張していく。
口元からはサーベルタイガーのような鋭利で大きな牙が生え、白地にところどころ黒のまだら模様が入っている巨大な図体は、陽光に照らされて艶やかに輝いている。
マスコット的な可愛らしさを備えていたコハクちゃんが化けたとは到底思えないほど高貴で気品にあふれた巨大な虎は、美しさと優雅さと獰猛さを絶妙なバランス持ち合わせていた。
「あれが、コハクちゃん……なのか」
怒涛の展開の連続で、なにがなんだかわからない。
そんなことどうでもよくて、空と雲と草原と白い虎、ただただ目の前に広がるすべてが美しいと思ってしまう。
コハクちゃんに襲われそうになっているという危機的状況なのに、俺は目の前の白い虎にどうしようもなく見惚れていた。
体中が酸素を欲しているにもかかわらず、呼吸をすることも忘れ、見るものを魅了する煌びやかな輝きに圧倒されつづけていた。
「お前らがっ! 私のお母さんを、たった一人のお母さんをっ! どこへやったっ! 【虎突猛進】ッ!!」
コハクちゃんはそう叫びながら、俺たちに向かって飛びかかってくる。
「誠道さんっ! 早く【盾弧燃龍】を……って、誠道さんっ!」
「……えっ?」
ミライが俺を呼ぶ声が聞こえたような気が……と思った瞬間、ミライが覆いかぶさってきた。
気がつけば俺は地面に倒れていて、上にはミライがのっかっている。
隣には、困惑の表情を浮かべた心出が同じように倒れていた。
「誠道さんっ! しっかりしてくださいっ!」
「悪い、つい見惚れて……危なっ! 【盾孤燃龍】ッ!」
コハクちゃんが前足についている鋭利な爪で俺たちを切り裂こうとしているのが見えたので、【盾孤燃龍】でなんとか防ぐ。
ガリ、という鈍い引っかき音がしたが、盾はしっかりと俺たちを守ってくれた。
「あなたたちがっ! お母さんをっ! お母さんをっ!」
コハクちゃんはなおも攻撃をつづける。
とち狂ったように、一心不乱に、目に涙を浮かべながら。
「コハクちゃん! ちょっと待って! 落ち着いて!」
「コハクさん! 私たちはハクナさんを攫ってなんかいません。むしろ探しにしたんです!」
「あなたたちのことっ! 信じてっ、たのにっ!」
俺とミライが盾の中からコハクちゃんに声をかけるも、聞く耳を持ってくれない。
コハクちゃんの鋭利な爪と盾がぶつかることで発生する振動が、盾内の空気を揺らしたあと、俺たちの体の奥底までもぐらぐらと揺らしてくる。
くそぉ。
相手がコハクちゃんじゃなければ、【無敵の人間】化して攻撃できるのに。
「コハクさん!」
今度は心出が説得を試みる。
……無理だと思うけど、しないよりはましか?
「俺は本当の君と話がしたいんだ! 俺の目を見てくれ! 俺が君のお母さんを攫うように見えるかい?」
「……あ、あなたはっ」
コハクちゃんの攻撃が止まった。
驚いたように目を見開いて、心出をじっと見つめている。
……え?
なにこの展開。
もしかして俺が鈍感で気がつかなかっただけで、コハクちゃんも心出のことを好いていた?
心出の一方通行じゃなくて、二人は両想いだった?
コハクちゃんと心出、互いが互いをじっと見つめ合い――まさかこれがラブコメの波動が生まれそうな瞬間だと言うのかっ!
そして、心出がにっこりと笑い、涙する子供を慰めるように優しく語りかける。
「伝わったんだね。コハクさん。君に対する俺の愛が」
「あのぉ、あなたはいったい誰ですか? 初対面ですよね?」
「ぜんぜん伝わってないじゃねぇか! そもそも存在を覚えられてもねぇし! とんだ茶番だよ!」
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる