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第4章 5 私はあなたを選ばない
ミライはやっぱり献身的?
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猫族の里から帰ってきてから、もう三週間が経つ。
俺は相変わらず、俺の引きこもり生活をサポートするはずのメイドのミライのせいで、引きこもりたいのに引きこもれない日常を過ごしていた。
……まぁ、ひとつだけその日常に変化はあって。
「いらっしゃいませー、あっ! 誠道さん! ミライさん!」
「こんばんは、コハクちゃん。その制服可愛いね。だいぶ様になってきたんじゃない?」
「えへへ、そうですかね」
「うん、すごく似合っているよ」
「ありがとうございます」
少しだけ恥ずかしそうにもじもじしながら、しおらしい笑みを浮かべるコハクちゃん。
嬉しいのか、耳がぴくぴく動いている。
現在のコハクちゃんは、あの露出度が高い服ではなく、白いシャツに黒の短パン、そして深緑のエプロンを着ている。
まるで料理屋の店員みたいな格好なのだが――なんと、本当にコハクちゃんは店員さんなのだ。
俺たちが訪れているのは、グランダラにあるファミリー向けの料理屋だ。
オーナーは優しそうな老夫婦。
そこでコハクちゃんはウェイトレスとして、住み込みで働いている。
ワルシュミーとの戦いのあと、コハクちゃんが、
「私もみなさんと一緒にグランダラに帰ります」
と言ったときは驚いたが、同時に、自分の人生を自分で決めて歩もうとしている姿を見て嬉しくもあった。
コハクちゃんは猫族の里に別れを告げ、俺たちと一緒にグランダラへ。
そして、たまたま働き手を募集していたこの料理屋で働けることになった。
コハクちゃんを見ていると、幸運というのは前を向いて歩いている人の元に集まるんだなぁと、しみじみ思った。
ちなみに、グランダラに帰ってすぐ、なぜか光聖志と真枝務が、
「「皇帝さんがいなくなった!」」
と慌てふためき、五升は、
「仕方がない。これからはバカイザーさん……じゃなくて皇帝さんに変わって俺がこのグループを引っ張っていく!」
と宣言していた。
俺はそれを聞いた瞬間に、……あっ、と思ったが、それから二日後に心出は帰ってきたので、なにも言わないことにした。
わ、忘れていたわけじゃないよ?
あえて置いていったんだよ?
心出にサバイバルの極意を、身をもって学んでもらうためにね。
でも、なんで置き去りにしたんだと、心出から聞かれたときは大変だったなぁ。
ミライが機転を利かせてくれたおかげて、心出は納得してくれたけどさ。
ミライがどんな言いわけをしたのかは思い出せないけど、心出は速攻で納得していたので…………これって本当に心出がただのバカイザーなだけでは?
「むぅ、コハクちゃんばかり褒めて。……そうですねぇ。私もここで働くべきでしょうか」
店の通りに面した席に座ったあと、隣のミライがぼそりと呟く。
おお、ついに自分から働く気になったか。
借金は働かないと返せないからな。
自身が債務者という自覚が出てきたようで、俺はとても嬉し――
「いや、私には誠道さんの引きこもり生活を支援するという使命があるので働けないんでした。断腸の思いで断念します」
「ミライさんは借金を返すという大切な使命があるのをご存知ない?」
「ああ、こんな風に自分の欲望を抑えることになろうとは。でもこれも誠道さんのためを思えばこそ、本当に断腸の思いです」
なんかミライさん、無条件自己肯定世界に迷い込んじゃってるよ。
その自己肯定力を増幅させる領域展開が俺もほしいなあ。
「ああ、この世の常は、働かざるもの食うべからず。それを体現している私って、なんて健気で優秀でかけがえのない存在なのでしょう」
「いや働いてないじゃん! 俺のためを思えばこそ外で働いて!」
「私は誠道さんの引きこもり生活をサポートするために働いているじゃないですか! 家事だって立派な仕事です」
「そういう意味の働くね。紛らわしい言い方するなよ…………いや、よく考えたら俺の引きこもり生活全然サポートできてないよね! よく考えなくても外で働いてくれた方が助かるんだけど!」
「ああ、どうして私はこんなにも優秀なのでしょう。誠道さんのためにこんなにも身を粉にして働くなんて」
「おーい、ミライさん、聞こえてますかー?」
「ああ、本当に、どうして私はこんなにも健気で優秀すぎるんでしょうか。誠道さんは私がそばにいるだけで徳をしています」
「借金してくる分だけ、俺は損をしているんですけどー」
「もはや自分自身の有能さが怖くなってきました。誠道さんは絶対に私を手放してはいけません。かけがえのない存在だと思って、大切にしつづけるべきですね。ちらっ、ちらっ!」
「なんの目配だよ! いいかげんにしろよ!」
「どうして怒鳴るんですか! 私は毎日誠道さんのためを思って――――あっ! すみません誠道さん」
急に態度をころっと変えて、深々と頭を下げるミライ。
「いまのは完全に私が悪かったです。誠道さんが怒るのもの無理ありません。これからは心を入れ替えます」
「……なんか不気味すぎるんだけど、まあ、わかればそれでいいんだよ。じゃあこれからは、ミライは借金のために働いてくれ」
「働かざるもの食うべからず。この言葉は引きこもりにとって一番きつい言葉でしたねっ」
「そういう意味で謝罪してたんかい! しかも満面の笑みで言うことかよっ!」
「やっぱり図星だからそうやってまた怒るんですね。本当に申しわけありませんでした」
「もしかしなくてもさ、ミライはいま俺を確実に煽ってるよね?」
「そう思うなら私のことを褒めてください! いまこの場で!」
俺は相変わらず、俺の引きこもり生活をサポートするはずのメイドのミライのせいで、引きこもりたいのに引きこもれない日常を過ごしていた。
……まぁ、ひとつだけその日常に変化はあって。
「いらっしゃいませー、あっ! 誠道さん! ミライさん!」
「こんばんは、コハクちゃん。その制服可愛いね。だいぶ様になってきたんじゃない?」
「えへへ、そうですかね」
「うん、すごく似合っているよ」
「ありがとうございます」
少しだけ恥ずかしそうにもじもじしながら、しおらしい笑みを浮かべるコハクちゃん。
嬉しいのか、耳がぴくぴく動いている。
現在のコハクちゃんは、あの露出度が高い服ではなく、白いシャツに黒の短パン、そして深緑のエプロンを着ている。
まるで料理屋の店員みたいな格好なのだが――なんと、本当にコハクちゃんは店員さんなのだ。
俺たちが訪れているのは、グランダラにあるファミリー向けの料理屋だ。
オーナーは優しそうな老夫婦。
そこでコハクちゃんはウェイトレスとして、住み込みで働いている。
ワルシュミーとの戦いのあと、コハクちゃんが、
「私もみなさんと一緒にグランダラに帰ります」
と言ったときは驚いたが、同時に、自分の人生を自分で決めて歩もうとしている姿を見て嬉しくもあった。
コハクちゃんは猫族の里に別れを告げ、俺たちと一緒にグランダラへ。
そして、たまたま働き手を募集していたこの料理屋で働けることになった。
コハクちゃんを見ていると、幸運というのは前を向いて歩いている人の元に集まるんだなぁと、しみじみ思った。
ちなみに、グランダラに帰ってすぐ、なぜか光聖志と真枝務が、
「「皇帝さんがいなくなった!」」
と慌てふためき、五升は、
「仕方がない。これからはバカイザーさん……じゃなくて皇帝さんに変わって俺がこのグループを引っ張っていく!」
と宣言していた。
俺はそれを聞いた瞬間に、……あっ、と思ったが、それから二日後に心出は帰ってきたので、なにも言わないことにした。
わ、忘れていたわけじゃないよ?
あえて置いていったんだよ?
心出にサバイバルの極意を、身をもって学んでもらうためにね。
でも、なんで置き去りにしたんだと、心出から聞かれたときは大変だったなぁ。
ミライが機転を利かせてくれたおかげて、心出は納得してくれたけどさ。
ミライがどんな言いわけをしたのかは思い出せないけど、心出は速攻で納得していたので…………これって本当に心出がただのバカイザーなだけでは?
「むぅ、コハクちゃんばかり褒めて。……そうですねぇ。私もここで働くべきでしょうか」
店の通りに面した席に座ったあと、隣のミライがぼそりと呟く。
おお、ついに自分から働く気になったか。
借金は働かないと返せないからな。
自身が債務者という自覚が出てきたようで、俺はとても嬉し――
「いや、私には誠道さんの引きこもり生活を支援するという使命があるので働けないんでした。断腸の思いで断念します」
「ミライさんは借金を返すという大切な使命があるのをご存知ない?」
「ああ、こんな風に自分の欲望を抑えることになろうとは。でもこれも誠道さんのためを思えばこそ、本当に断腸の思いです」
なんかミライさん、無条件自己肯定世界に迷い込んじゃってるよ。
その自己肯定力を増幅させる領域展開が俺もほしいなあ。
「ああ、この世の常は、働かざるもの食うべからず。それを体現している私って、なんて健気で優秀でかけがえのない存在なのでしょう」
「いや働いてないじゃん! 俺のためを思えばこそ外で働いて!」
「私は誠道さんの引きこもり生活をサポートするために働いているじゃないですか! 家事だって立派な仕事です」
「そういう意味の働くね。紛らわしい言い方するなよ…………いや、よく考えたら俺の引きこもり生活全然サポートできてないよね! よく考えなくても外で働いてくれた方が助かるんだけど!」
「ああ、どうして私はこんなにも優秀なのでしょう。誠道さんのためにこんなにも身を粉にして働くなんて」
「おーい、ミライさん、聞こえてますかー?」
「ああ、本当に、どうして私はこんなにも健気で優秀すぎるんでしょうか。誠道さんは私がそばにいるだけで徳をしています」
「借金してくる分だけ、俺は損をしているんですけどー」
「もはや自分自身の有能さが怖くなってきました。誠道さんは絶対に私を手放してはいけません。かけがえのない存在だと思って、大切にしつづけるべきですね。ちらっ、ちらっ!」
「なんの目配だよ! いいかげんにしろよ!」
「どうして怒鳴るんですか! 私は毎日誠道さんのためを思って――――あっ! すみません誠道さん」
急に態度をころっと変えて、深々と頭を下げるミライ。
「いまのは完全に私が悪かったです。誠道さんが怒るのもの無理ありません。これからは心を入れ替えます」
「……なんか不気味すぎるんだけど、まあ、わかればそれでいいんだよ。じゃあこれからは、ミライは借金のために働いてくれ」
「働かざるもの食うべからず。この言葉は引きこもりにとって一番きつい言葉でしたねっ」
「そういう意味で謝罪してたんかい! しかも満面の笑みで言うことかよっ!」
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