234 / 360
第5章 2 背徳快感爆走中!
いいファン、悪いファン、そんなの人それぞれ
しおりを挟む
今日も俺は、ホンアちゃんのライブ会場にいる。
場所はいつもの広場。
隣には、なぜかめちゃうざ古参ファンのコジキーがいる。
俺は遠回しに拒絶しているにもかかわらず、一方的に懐かれてしまったのだ。
今日もコジキーは、ホンアちゃんファンクラブ並びにホンアちゃんファンクラブ会長のキシャダ・マシイを蔑むような目で見ている。
「けっ、あいつら、最近のホンアちゃんしか知らねぇにわかが。俺は俺しかファンがいなかった時代からホンアちゃんを応援してんだ。本当のホンアちゃんを知らねぇくせに、幅利かせやがって、ムカつくなぁ」
えっと、あなたも本当のホンアちゃん知らないですよねぇ。
あの子、ファンのことを背徳感を得るための道具としか見てませんよ。
男、ですよ。
「しっかし、今日はずいぶんと遅いなぁ。あんなキモい奴らの前で歌うのが嫌なんじゃねぇのかなぁ」
コジキ―さんがさらに愚痴る。
一向にホンアちゃんが現れないのはそんなクソみたいな理由じゃないと思うが、たしかにちょっと遅すぎだ。
もうライブの開始時間はとっくに過ぎてしまっている。
観客たちのざわめきも徐々に大きくなっている。
……って、あれ、見間違いか?
俺は何度も瞬きをして、目を擦りに擦って、ざわめく観客の中にいる一人の女性を見る。
「きゃー、ホンアちゃーん! まだなのぉ? まだなのぉ!?」
ホンアちゃんラブの文字が書かれた手作りうちわを持っているテンション高めの女性は、間違いなく氷の大魔法使い、マーズ・シィだ。
なにやってんだよあいつ……って俺もライブに来てるんだから人のこと言えねぇか。
でも、ホンアちゃんは女(男)だぞ。
なんで女が女を応援するんだ……って、そういう考えは時代遅れか。
女が女を応援したっていい。
誰の目も気にせず、好きなものを好きだと言えばいい。
それをバカにするやつなんか、大したことないさ。
それに、アイドルをやってるホンアちゃんを応援したくなる気持ちはよくわかる。
ステージに立つホンアちゃんはキラキラ輝いていて、老若男女を虜にするような素敵な魅力を――
「さぁ! 早く出てきてちょうだい! あなたがライブしているのを見ているだけで、なぜだかすごくバカにされているような気分になるの! 笑顔で踊っているのに蔑まれていると感じるの! さいっこうの快感なのっ!」
全然よくわからなかったわ!!
なんだよその理由!!
ってかマーズがドMすぎて、ホンアちゃんの真の目的、『ファンをバカにして背徳感を得たい』に気づきかけてるんですけど!
ある意味すごいよ!
あんたは正真正銘、ドMの鏡だよ!
それから、さらに十分ほど待たされたあと、ようやく舞台上に人が現れる。
「お、ようやくか……って、ホンアちゃんじゃねぇじゃねぇか」
コジキーが立ったまま貧乏ゆすりをしはじめる。
舞台に上がったのは、ぷりちーな衣装を着たぷりちーアイドルホンアちゃんではなく、一人のスーツ姿の男性だった。
「皆様、本日はぷりちーアイドルホンアちゃんのライブのためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。私は、この広場の所有者で、舞台の出演スケジュールを管理している者です。本日、出演予定のホンアちゃんですが、急な体調不良のため本日は欠席となります。それに伴って、本日のライブは中止となります。急な決定となってしまいまして、大変申しわけございません」
事情を説明した男性が頭を下げると、観客たちから落胆の声が上がる。
しかし、ヤジを飛ばしたり男性に詰め寄ったりする人はいない。
まあ、しょうがないよね。
体調不良なんだから。
「くそがっ! そんなことどうでもいいからホンアちゃんを出せよ! 体調不良がどうした! ファンが第一だろうがよ!!」
……俺は、隣で唯一最低なヤジを飛ばしているコジキーさんを置いて、その場から立ち去った。
「んんあっ! 今日ホンアちゃんは姿を見せていないのに、姿を見せていないからこそ、なぜだかバカにされたように感じるわ。もうああっんんっ、最高よぉ!」
去り際に聞こえたマーズの言葉は、考えても考えても理解できなかった。
しかし、すぐにその理由がわかってしまうことを、このときの俺はまだ知らないのだった。
場所はいつもの広場。
隣には、なぜかめちゃうざ古参ファンのコジキーがいる。
俺は遠回しに拒絶しているにもかかわらず、一方的に懐かれてしまったのだ。
今日もコジキーは、ホンアちゃんファンクラブ並びにホンアちゃんファンクラブ会長のキシャダ・マシイを蔑むような目で見ている。
「けっ、あいつら、最近のホンアちゃんしか知らねぇにわかが。俺は俺しかファンがいなかった時代からホンアちゃんを応援してんだ。本当のホンアちゃんを知らねぇくせに、幅利かせやがって、ムカつくなぁ」
えっと、あなたも本当のホンアちゃん知らないですよねぇ。
あの子、ファンのことを背徳感を得るための道具としか見てませんよ。
男、ですよ。
「しっかし、今日はずいぶんと遅いなぁ。あんなキモい奴らの前で歌うのが嫌なんじゃねぇのかなぁ」
コジキ―さんがさらに愚痴る。
一向にホンアちゃんが現れないのはそんなクソみたいな理由じゃないと思うが、たしかにちょっと遅すぎだ。
もうライブの開始時間はとっくに過ぎてしまっている。
観客たちのざわめきも徐々に大きくなっている。
……って、あれ、見間違いか?
俺は何度も瞬きをして、目を擦りに擦って、ざわめく観客の中にいる一人の女性を見る。
「きゃー、ホンアちゃーん! まだなのぉ? まだなのぉ!?」
ホンアちゃんラブの文字が書かれた手作りうちわを持っているテンション高めの女性は、間違いなく氷の大魔法使い、マーズ・シィだ。
なにやってんだよあいつ……って俺もライブに来てるんだから人のこと言えねぇか。
でも、ホンアちゃんは女(男)だぞ。
なんで女が女を応援するんだ……って、そういう考えは時代遅れか。
女が女を応援したっていい。
誰の目も気にせず、好きなものを好きだと言えばいい。
それをバカにするやつなんか、大したことないさ。
それに、アイドルをやってるホンアちゃんを応援したくなる気持ちはよくわかる。
ステージに立つホンアちゃんはキラキラ輝いていて、老若男女を虜にするような素敵な魅力を――
「さぁ! 早く出てきてちょうだい! あなたがライブしているのを見ているだけで、なぜだかすごくバカにされているような気分になるの! 笑顔で踊っているのに蔑まれていると感じるの! さいっこうの快感なのっ!」
全然よくわからなかったわ!!
なんだよその理由!!
ってかマーズがドMすぎて、ホンアちゃんの真の目的、『ファンをバカにして背徳感を得たい』に気づきかけてるんですけど!
ある意味すごいよ!
あんたは正真正銘、ドMの鏡だよ!
それから、さらに十分ほど待たされたあと、ようやく舞台上に人が現れる。
「お、ようやくか……って、ホンアちゃんじゃねぇじゃねぇか」
コジキーが立ったまま貧乏ゆすりをしはじめる。
舞台に上がったのは、ぷりちーな衣装を着たぷりちーアイドルホンアちゃんではなく、一人のスーツ姿の男性だった。
「皆様、本日はぷりちーアイドルホンアちゃんのライブのためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。私は、この広場の所有者で、舞台の出演スケジュールを管理している者です。本日、出演予定のホンアちゃんですが、急な体調不良のため本日は欠席となります。それに伴って、本日のライブは中止となります。急な決定となってしまいまして、大変申しわけございません」
事情を説明した男性が頭を下げると、観客たちから落胆の声が上がる。
しかし、ヤジを飛ばしたり男性に詰め寄ったりする人はいない。
まあ、しょうがないよね。
体調不良なんだから。
「くそがっ! そんなことどうでもいいからホンアちゃんを出せよ! 体調不良がどうした! ファンが第一だろうがよ!!」
……俺は、隣で唯一最低なヤジを飛ばしているコジキーさんを置いて、その場から立ち去った。
「んんあっ! 今日ホンアちゃんは姿を見せていないのに、姿を見せていないからこそ、なぜだかバカにされたように感じるわ。もうああっんんっ、最高よぉ!」
去り際に聞こえたマーズの言葉は、考えても考えても理解できなかった。
しかし、すぐにその理由がわかってしまうことを、このときの俺はまだ知らないのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる