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第5章 3 発覚
どこからばれたの?
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翌朝。
スクランブルエッグにバターを塗ったパンを食べていると、対面に座るミライが。
「あの、誠道さん。ちょっとご相談があります」
「漫才の最初の言葉みたいに言うんじゃねぇ。……で、なんだ?」
「実は、ホンアさんのことでちょっと気になることがありまして」
「気になること?」
「昨日、誠道さんからデートの話を聞いて、疑惑がさらに深まったと言いますか」
……疑惑。
ミライの口から出てきた、あまりいい響きではない言葉に、いったん食べかけのパンをお皿の上に戻す。
「はい。あくまで個人的な推測の域を越えませんが」
重い雰囲気を纏ったミライは、低い声でつづける。
「ホンアさんは、誠道さんが彼氏役を演じていることを隠す気がないのではないでしょうか?」
「……は?」
いきなりなにを言いだすんだ?
隠す気、がない?
ホンアちゃんが、俺との秘密の関係を?
「いやいや、だってホンアちゃんは恋愛禁止のアイドルだぞ。俺との関係がばれたら大変なことになるじゃないか」
「それはそうですけど」
ミライは首をひねって考え込むようなそぶりを見せる。
慎重に言葉を選びながらという感じで。
「なんと言いますか、隠す気がないのではなくて、バレてもいい、むしろ自分からバレにいっているのではないかと」
「自分から……って。さすがにそれは…………いや」
ミライの言葉を否定しようと思ったが、すぐに考え直す。
たしかに、昨日のホンアちゃんの行動は明らかにおかしかった。
いや、その前からおかしな点はいくつもあった。
「ホンアちゃんが、自分から……か」
俺の家に尋ねてきた来訪者を自ら出迎えたり、変装しているにもかかわらず何度も自分からフードを取ったり、ましてや自分のファンがたむろしているとわかっている場所に出向いたり。
冷静に考えると、脇が甘いなんてもんじゃない。
自分からバレにいっていると言われても反論できないレベルだ。
まあ、ホンアちゃんがスリルを楽しんでいると言われればそれまでだけど。
ただバカでアホなだけだと言われればそれまでだけど。
でも、やっぱりどこかおかしいように思う。
「まあたしかにな。考えてみれば、ちょっとおかしい気がする」
「はい」
小さくうなずいたミライは、探偵が犯人の用意した完璧なアリバイを崩すときのように、自慢げにつづけた。
「そして、なにより一番おかしいのは、彼氏にしたくない特性ナンバーワンである、引きこもり男の称号をもつ誠道さんを彼氏役に選んでいることです!」
「俺が一番おかしいと思うのは、俺に仕えているはずのミライが、俺をこうしてさらりと貶めていることなんだが」
「私が何度も何度も街で誠道さんの悪評を広めているというのに、どうして誠道さんを選ぶのでしょうか」
「だからそれがおかしいって」
「普通の女性、いや男性であっても、誠道さんを彼氏役に選ぶなんてことはしないはずなんです」
「ねぇ、俺もう泣いてもいいですか?」
「あっ! そんなひどい噂ばかりの誠道さんのそばにずっといられる私って、もしかしてものすごく優しいのでは? 思いやりや忍耐力のある素敵で稀有な女性なのでは?」
「いやその悪いうわさを流してる本人がなに言ってんだよ!」
「これは私を手放すわけにはいきませんね。こんな優秀で美人なメイドが誠道さんのそばにいることは奇跡的なことなんです。宇宙の誕生より神秘的なことなんです!」
「ナルチー! ミライさん!」
トンデモ理論を駆使して、自画自賛するミライを止めてくれたのは、どんどんと激しく玄関の扉をたたく音と、ホンアちゃんの切羽詰まった声だった。
「ホンアちゃん?」
なにか急を要する事態でもあったのだろうか。
ミライと共に玄関に向かって扉を開けると、膝に手をついて肩で息をしているホンアちゃんがいた。
いつもは元気よく跳ねているアホ毛が、いまはぺたんとしている。
「実は、今朝からこれが、街中に出回っていて」
涙目のホンアちゃんが、手に持っている物を俺たちの眼前に突きつける。
「……え、嘘だろ。これって」
俺は目を疑った。
いや、昨日のことを考えれば、こうなってもおかしくはなかったはずだ。
「でも、パパラッチって、普通は貴族を狙うんじゃ……」
ホンアちゃんが俺たちに見せてくれたのは、俺たちがグランダラの街を仲良さそうに並んで歩く写真と、ホンアちゃんがちょうどフードを外して、俺の持っているスプーンにぱくりと食いついている写真だった。
ああ!!
俺たちの秘密の関係、バレちゃってるじゃん!!
スクランブルエッグにバターを塗ったパンを食べていると、対面に座るミライが。
「あの、誠道さん。ちょっとご相談があります」
「漫才の最初の言葉みたいに言うんじゃねぇ。……で、なんだ?」
「実は、ホンアさんのことでちょっと気になることがありまして」
「気になること?」
「昨日、誠道さんからデートの話を聞いて、疑惑がさらに深まったと言いますか」
……疑惑。
ミライの口から出てきた、あまりいい響きではない言葉に、いったん食べかけのパンをお皿の上に戻す。
「はい。あくまで個人的な推測の域を越えませんが」
重い雰囲気を纏ったミライは、低い声でつづける。
「ホンアさんは、誠道さんが彼氏役を演じていることを隠す気がないのではないでしょうか?」
「……は?」
いきなりなにを言いだすんだ?
隠す気、がない?
ホンアちゃんが、俺との秘密の関係を?
「いやいや、だってホンアちゃんは恋愛禁止のアイドルだぞ。俺との関係がばれたら大変なことになるじゃないか」
「それはそうですけど」
ミライは首をひねって考え込むようなそぶりを見せる。
慎重に言葉を選びながらという感じで。
「なんと言いますか、隠す気がないのではなくて、バレてもいい、むしろ自分からバレにいっているのではないかと」
「自分から……って。さすがにそれは…………いや」
ミライの言葉を否定しようと思ったが、すぐに考え直す。
たしかに、昨日のホンアちゃんの行動は明らかにおかしかった。
いや、その前からおかしな点はいくつもあった。
「ホンアちゃんが、自分から……か」
俺の家に尋ねてきた来訪者を自ら出迎えたり、変装しているにもかかわらず何度も自分からフードを取ったり、ましてや自分のファンがたむろしているとわかっている場所に出向いたり。
冷静に考えると、脇が甘いなんてもんじゃない。
自分からバレにいっていると言われても反論できないレベルだ。
まあ、ホンアちゃんがスリルを楽しんでいると言われればそれまでだけど。
ただバカでアホなだけだと言われればそれまでだけど。
でも、やっぱりどこかおかしいように思う。
「まあたしかにな。考えてみれば、ちょっとおかしい気がする」
「はい」
小さくうなずいたミライは、探偵が犯人の用意した完璧なアリバイを崩すときのように、自慢げにつづけた。
「そして、なにより一番おかしいのは、彼氏にしたくない特性ナンバーワンである、引きこもり男の称号をもつ誠道さんを彼氏役に選んでいることです!」
「俺が一番おかしいと思うのは、俺に仕えているはずのミライが、俺をこうしてさらりと貶めていることなんだが」
「私が何度も何度も街で誠道さんの悪評を広めているというのに、どうして誠道さんを選ぶのでしょうか」
「だからそれがおかしいって」
「普通の女性、いや男性であっても、誠道さんを彼氏役に選ぶなんてことはしないはずなんです」
「ねぇ、俺もう泣いてもいいですか?」
「あっ! そんなひどい噂ばかりの誠道さんのそばにずっといられる私って、もしかしてものすごく優しいのでは? 思いやりや忍耐力のある素敵で稀有な女性なのでは?」
「いやその悪いうわさを流してる本人がなに言ってんだよ!」
「これは私を手放すわけにはいきませんね。こんな優秀で美人なメイドが誠道さんのそばにいることは奇跡的なことなんです。宇宙の誕生より神秘的なことなんです!」
「ナルチー! ミライさん!」
トンデモ理論を駆使して、自画自賛するミライを止めてくれたのは、どんどんと激しく玄関の扉をたたく音と、ホンアちゃんの切羽詰まった声だった。
「ホンアちゃん?」
なにか急を要する事態でもあったのだろうか。
ミライと共に玄関に向かって扉を開けると、膝に手をついて肩で息をしているホンアちゃんがいた。
いつもは元気よく跳ねているアホ毛が、いまはぺたんとしている。
「実は、今朝からこれが、街中に出回っていて」
涙目のホンアちゃんが、手に持っている物を俺たちの眼前に突きつける。
「……え、嘘だろ。これって」
俺は目を疑った。
いや、昨日のことを考えれば、こうなってもおかしくはなかったはずだ。
「でも、パパラッチって、普通は貴族を狙うんじゃ……」
ホンアちゃんが俺たちに見せてくれたのは、俺たちがグランダラの街を仲良さそうに並んで歩く写真と、ホンアちゃんがちょうどフードを外して、俺の持っているスプーンにぱくりと食いついている写真だった。
ああ!!
俺たちの秘密の関係、バレちゃってるじゃん!!
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