うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ

文字の大きさ
326 / 360
最終章 1 失踪、捜索、そしてドMへと……

帰ってきましたグランダラ

しおりを挟む
 ハグワイアムから帰ってきて、ミライと顔を合わせることにもだいぶ慣れてきた。

 同じ家に住んでいるんだから、いつまでも緊張していたら疲れるもんね。

 ミライはずっと通常運転なので、俺だけ意識し続けるのも違うだろうし。

 でも。



 ――このままでいいのだろうか。



 不意に、そんな感情に支配されるときがある。

 このまま、というのは当然、ミライとの関係性のことだ。

 ゼイ・ダッツ・オリョウに洗脳されていた俺は、ミライのキスによって正気を取り戻すことができた。

 ミライと確実にキスをした。

 にもかかわらず、俺たちの表面的な関係性は、なにも変わっていない。

 普通なら、異性とキスをしたらそれはカップル成立! でいいのかもしれないが、ミライと俺の関係は前と同じ。

 引きこもりご主人様と、そんなの引きこもりの生活を支援してくれるメイド。

 ミライはいつだって献身的に尽くしてくれた。

 俺が引きこもりであることをからかってきたり、ことあるごとに俺がドMだと決めつけて縛ろうとしてきたり、グランダラで俺の悪評を広めたり、意味不明な理由で借金を作ってきたり……あれ?

 よく考えたらミライって全然俺の引きこもり生活を支援してなくないか?

 そういう意味でも、俺たちの関係性はこのままじゃいけない気がするぞ!

 ……って話が逸れた。

 とにかく、ミライが彼女っぽく振る舞ってきたのなら、俺も甘んじてそれを受け入れようとしていたのだが、ミライの俺に対する接し方は、キスをする前とまったく同じ。

 だから、俺だけ浮かれるのはやっぱり違う気がする。

 そもそもキスくらいで浮かれるなんて、俺はそそそそんな童貞思考の持ち主じゃないからね!

 キスなんて欧米では挨拶のひとつで、握手みたいなもんだから!

 って日本人なのに言うやつのうざさは異常。

 欧米人のキスは挨拶発言は全くうざくないのになぁ。

 ことあるごとに、欧米ではこうだからって欧米の考えを押し付けてくる欧米かぶれって本当にうざいよね。

 何度も言うけど、ここは日本ですからっ!

 ざんねーん!

 ……なんてかなり昔に流行ったギターでさすらう系芸人のネタを思い出してみたけど、そもそもここは異世界なんだよなぁ。

「って、またいろいろ考えてんなぁ」

 グランダラの広場にあるベンチに座ってただ空を見ているだけなのに、深いため息が出てくる。

 空は青く澄んでいて、涼しげなそよ風だって吹いているのに、気分が晴れない。

 ミライのことで頭がいっぱいなせいだ。

 気がついたら唇をなぞっていることも稀によくあるし。

「それに、これだよなぁ」

 小声でステータスオープンとつぶやく。

 この世界に転生したときはレベル1とかだった各種ステータスも、いまではすべて三ケタを超えている。

 努力の結晶をこうして可視化できるのは本当に嬉しい限りで、実は毎日のように確認して「むふふふ」とにやけていたのだが。

「なんでこれまで、表示されてなかったんだろ」

 必殺技の欄に新たな技が記載されていることに気がついてからは、その「むふふふ」すらできなくなった。



【??????】

 習得条件 あなたの大切と向き合い、本心を形にしたとき。



 ハグワイアムから帰ってきてから新たに表示された。

「むふふふ」のために毎日のように確認していたから、気がつかなかっただけという可能性はない。

 つまり、ハグワイアムへの旅行中に、なにか特殊な条件をクリアしたから、表示されるようになったと考えるのが妥当だろう。

「絶対、キスした……ってか、ハグワイアムでの一件が理由だよなぁ」

 そうとしか考えられない。

 いや、実はただの偶然か?

 たまたまこのタイミングだっただけで、あのクソ女神が「やべ、ひとつ技を記載し忘れちゃってた、てへぺろ」みたいな感じで追加しただけなのか。

 キスを意識すぎるあまりに、俺が考え過ぎているだけなのか。

 でも、このタイミングで表示されるようになったことになにかを感じずにはいられないのだ。

「俺の大切……大切って……」

 澄んだ空を見上げながらつぶやくと、腹の虫がぐうと鳴った。

「……もう十一時半だし、帰るか」

 散歩に出る前、ミライから「十二時には帰ってきてくださいね。お昼ご飯を用意して待ってますから」と言われていたのだ。

「本心を、形に……ねぇ」

 家へと変える足取りが重い。

 本心を形にする。

「あああああ! くそぉ!」

 それを考えるだけで、体が熱くなって、心がむしゃくしゃする。

 のどに魚の骨が刺さっているのと、くしゃみが出そうで出ない状態が同時に襲い掛かっているような気分だ。

「もう、家か」

 そんなこんなで、もう家についてしまう。

 深呼吸をしてから、家の扉を開け。

「誠道さん! お金儲けの時間です!」

「それ絶対、お金を失うフラグだろ!」

 リビングから目をお金の形にしたミライが飛び出してきた!

 はぁ、もう嫌な予感しかしないよぉ。

「絶対、借金すればお金儲けができるんですとか言い出すやつだろ! わかってんだぞこっちは! だっていつものパターンだからな!」

「なに言ってるんですか? 借金がお金儲けになるはずないでしょう。借金は借金、あくまで人のお金です」

「ミライに言われても説得力ないんだよなぁ。これまでの言動を振り返ってどうぞ」

「ひどいです。私がそんな馬鹿に見えますか?」

「うん。そうにしか見えない」

「ひどいです。成長を喜んでくれると思ったのに」

 涙を浮かべたミライをかわいいと思ってしまう。

 急に恥ずかしくなって目を逸らした。

「でさ、そのお金儲けの時間とやらの詳細を教えてくれ」

「はい」

 頷いたミライはすぐに泣き止む。

 おい嘘泣きだったのかどうせ明日には借金も立派な財産ですとか言い出すやつだろ!

「今回は人を助けて一儲けしようっていう魂胆です」

「それが世の中の常識だけど言い方は考えてね。なんか俺たちが下賤な人間みたいに見えるから」

「じゃあ他人を利用してお金儲けを」

「もっとひどくなってるから」

「他人を利用して、お金を稼がせていただく?」

「そっちを丁寧に言って欲しいんじゃねぇから!」

 これじゃあ埒があないのでもう先に進む!

「で、人を助けるって、誰のこと?」

「それはですね」

 ミライの目がまたお金の形に変わる。

「しかもさっきより輝いてやがるじゃねぇか! そんな卑しい目、依頼者に向けたらアウトだから!」

 ミライは本気で『他人を利用して、お金を稼がせていただく』と思ってる可能性あるな!

 困っている人を救った結果、副産物としてお金が手に入ったって思えるような倫理観を持てるようになったら、その成長を喜んでやるよ!

「このお方です! どうぞ!」

 ミライが体を開く。

 リビングから出てきたのは、大きなサングラスをかけた、いつぞやの闇オークションでオムツおじさんを落札したマダムだった。

「私のかわいいペットが逃げちゃったのよ」

 首輪を見せなが、鼻水を啜るマダム。

 頬を涙が流れ落ちていく。

「このマダムさんが、いなくなってしまったペットを見つけた人に高額報酬を支払うを約束してくれました」

 自慢げに説明するミライはさておき。

 俺は首輪を持って涙するマダムを見た。

 依頼は、逃げたペットの捜索。

 マダムのペット、ペットと言ったらその、なんていうか、ね?

 これ、絶対に関わりたくない案件なんだけど。

「ちなみになんですけど、マダムさん。逃げたペットって、犬ですか? それとも猫ですか?」

 一縷の望みをかけてそう聞いて見ると、マダムは少し考えた後で。

「私が犬といえば犬になるし、猫といえば猫にもなる、そんなかわいいかわいい」

「ただのオムツおじさんだろそれ! あんたがご主人だからその命令を聞くだけだろ」

 はぁ。やっぱりこうなるのね。

 もっとしんみり展開続けたかったけど、こいつらとかかわっている限り無理みたいです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...