うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ

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最終章 1 失踪、捜索、そしてドMへと……

そういうところに惚れて

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「……」

 俺がなにもに言えずにいると、マーズはゆっくりと頬を緩めた。

「本当に、そんなのどうでもいいのよ。新技が出ちゃったものはしょうがないじゃない。だったらそれをいい機会だって思えばいいのよ」

「いい、機会」

「出来ちゃった結婚ってそういうものでしょ。あれも出ちゃったもんはしょうがないって話で」

「その発言は多方面から怒られるんでやめてください」

「そうだったわね。出来ちゃった結婚じゃなくて、確信犯で出しちゃった結婚ってちゃんと言わないと」

「それだともっとダメになってるから!」

「じゃあ思ったより耐えられなかった結婚?」

「もうやめろ! ってか今は授かり婚って言わないと怒られるしそもそも結婚の話はしてないから!」

「童貞の悪い癖よ。告白とかつき合うとかに無駄な理想や羨望や幻想を抱いている。みんなけっこう打算的よ。吊り橋効果を利用してみたり、みんなで作り上げた文化祭が大成功に終わった後の感動的なテンションを利用してみたり、失恋の隙をついてみたり、恋を成就させるためなら利用できるものはなんでも利用するの」

 マーズが俺の肩に手を乗せる。

「誰も彼も告白するための理由を必死で探しているの。なのに童貞は、誠道くんは、自分から告白しないでいい理由を必死で探している。結局は怖がっているだけ。そんなんじゃいつまでたっても告白なんかできないわ」

「でも、ミライがキスしてきたんだから、その……告白も」

「ミライさんのことが好きなんでしょ?」

 俺の弱気に、マーズの言葉が覆いかぶさってくる。

 ミライのことが好きなんでしょ?

 腹の底から震えが湧き上がってきて、心臓が熱を帯び、脳が勝手にミライの笑顔を思い出す。

「そりゃあ……はい」

 わずかに顎を引くと、マーズが俺の頭をわしゃわしゃしてきた。

「だったら、なんでもいいから早く告白しなさい。女の子は誰だって好きな人から告白されたい生き物なの。ミライさんはあなたからの告白を心待ちにしているの」

 わしゃわしゃしていた手を止めたマーズは、俺の額にデコピンしてきた。

 いきなりなに、と思ってマーズを見上げると、彼女は穏やかに笑っていた。

「もちろん不安な気持ちはわかるし、勇気だって出さないといけないけど、このまま告白しなかったら絶対に後悔する。だって、大切な人がいつまでもそばにいてくれるとは限らないんだから」

 太陽の暖かな日差しに照らされた彼女の顔は、とても美しい。

「いきなり恋人を失ってリッチーになった。そんな後悔の化け物だった私から言われたら、説得力が違うでしょ?」

 幼気な少女のような笑みを浮かべるマーズを見て、俺の心の中でなにかが溶けていく。

 いや、覚悟ができたというべきなのだろうか。

 世界がさっきよりも明るくなったような気がする。

「たしかに、マーズの言う通りすぎて、うん、そうだよな」

 俺はミライのことが好き。

 告白……したい。

 怖いけど、気持ちを伝えるのは怖いけど、緊張するけど、恥ずかしいけど。

「俺、ミライに告白する」

「いい顔になったじゃない。それでいいのよ」

 そう言った後、マーズはひょいっと立ち上がって、俺に背を向けたままかかとを上げ、両手を空に突き上げて背伸びをした。

 それは座っていたせいで凝り固まった体を伸ばしたわけではなく、なにかをごまかしているようにも見えた。

「ちゃんと別れたから後悔はないけど、こうしたまだ気持ちを伝え合えるあなたたちが、少し羨ましい」

「話を聞いてくれて、ありがとうございました」

 少しだけ寂しげな背中に向けて頭を下げると、マーズは、「そういうところに惚れたのかもね」と呟いた後で、やっぱり後ろを向いたまま。

「さて、私はまた新しい可能性を探しにいきますか」

 去っていくマーズの背中は小さくなっているはずなのに、俺にはずっと彼女の背中が大きく見えていた。

 追いつきたくても追いつけない、格好いい大人の背中だった。

「……ってか、よく考えるとこれってさ」

 俺は今一度、新に出現したわざとその習得条件を確認する。

 

【??????】

 習得条件 あなたの大切と向き合い、本心を形にしたとき。



 なんか、あのくそ女神から『きっかけ作ったからさっさと告白しろよ(笑)。このいくじなしめがっ』ってからかわれているだけなんじゃないかって気がしてきた。

 そう思えるくらいには、心が晴れ渡っていた。

「本当にありがとうございました」

 もう一度、感謝の言葉をつぶやきながら立ち上がって、「そういうところに惚れる人、きっと出てくるから」とマーズに向けて声を飛ばす。

 すると、格好いい大人の背中は急に立ち止まって、前を通り過ぎた女性の背中を一目散に追いかけて。

「そこの通りすがりの美しいお嬢さん、ぜひこの鞭で私を快感に導いてほしいのっ!」

 そういうところに惚れる人、出てくるよね?


  ***
 

 家に帰ると、すでにミライとマダムさんがオムツおじさんを見つけたあとだった。

 なんでも、オムツおじさんはグレートバリアテストカルウルフという、虹色に輝く牙を持つ狼のような魔物を討伐しにいっていたらしい。

 そして、その魔物を倒してゲットした虹色の牙を素材に指輪を作って、マダムさんの誕生日プレゼントとして持ち帰ってきたのだ。

 それを知ったマダムはたいそう喜び、オムツおじさんを抱きしめ、

「帰ったらいっぱいいっぱいかわいがってあげるからね」

 と言っていた。

 かわいがる、の真意については言及しなかったが、マダムさんはオムツおじさん探しに協力してくれた見返りとして、かなりの額のお金(これを作る極上との計画に使)とユーバニア地方にある超巨大な遊園地、フェニックスハイランドの一日貸し切りをしてくれるという。

 俺は決意した。

 フェニックスハイランドでミライとデートした後に、観覧車の頂上で夜景を見ながら告白しようと。

 それが、ミライを喜ばせるために俺が考えられる最大限のサプライズだ。

 シャレオツじゃない俺が考え付く、最大限のシャレオツ告白だ。
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