333 / 360
最終章 1 失踪、捜索、そしてドMへと……
そういうところに惚れて
しおりを挟む
「……」
俺がなにもに言えずにいると、マーズはゆっくりと頬を緩めた。
「本当に、そんなのどうでもいいのよ。新技が出ちゃったものはしょうがないじゃない。だったらそれをいい機会だって思えばいいのよ」
「いい、機会」
「出来ちゃった結婚ってそういうものでしょ。あれも出ちゃったもんはしょうがないって話で」
「その発言は多方面から怒られるんでやめてください」
「そうだったわね。出来ちゃった結婚じゃなくて、確信犯で出しちゃった結婚ってちゃんと言わないと」
「それだともっとダメになってるから!」
「じゃあ思ったより耐えられなかった結婚?」
「もうやめろ! ってか今は授かり婚って言わないと怒られるしそもそも結婚の話はしてないから!」
「童貞の悪い癖よ。告白とかつき合うとかに無駄な理想や羨望や幻想を抱いている。みんなけっこう打算的よ。吊り橋効果を利用してみたり、みんなで作り上げた文化祭が大成功に終わった後の感動的なテンションを利用してみたり、失恋の隙をついてみたり、恋を成就させるためなら利用できるものはなんでも利用するの」
マーズが俺の肩に手を乗せる。
「誰も彼も告白するための理由を必死で探しているの。なのに童貞は、誠道くんは、自分から告白しないでいい理由を必死で探している。結局は怖がっているだけ。そんなんじゃいつまでたっても告白なんかできないわ」
「でも、ミライがキスしてきたんだから、その……告白も」
「ミライさんのことが好きなんでしょ?」
俺の弱気に、マーズの言葉が覆いかぶさってくる。
ミライのことが好きなんでしょ?
腹の底から震えが湧き上がってきて、心臓が熱を帯び、脳が勝手にミライの笑顔を思い出す。
「そりゃあ……はい」
わずかに顎を引くと、マーズが俺の頭をわしゃわしゃしてきた。
「だったら、なんでもいいから早く告白しなさい。女の子は誰だって好きな人から告白されたい生き物なの。ミライさんはあなたからの告白を心待ちにしているの」
わしゃわしゃしていた手を止めたマーズは、俺の額にデコピンしてきた。
いきなりなに、と思ってマーズを見上げると、彼女は穏やかに笑っていた。
「もちろん不安な気持ちはわかるし、勇気だって出さないといけないけど、このまま告白しなかったら絶対に後悔する。だって、大切な人がいつまでもそばにいてくれるとは限らないんだから」
太陽の暖かな日差しに照らされた彼女の顔は、とても美しい。
「いきなり恋人を失ってリッチーになった。そんな後悔の化け物だった私から言われたら、説得力が違うでしょ?」
幼気な少女のような笑みを浮かべるマーズを見て、俺の心の中でなにかが溶けていく。
いや、覚悟ができたというべきなのだろうか。
世界がさっきよりも明るくなったような気がする。
「たしかに、マーズの言う通りすぎて、うん、そうだよな」
俺はミライのことが好き。
告白……したい。
怖いけど、気持ちを伝えるのは怖いけど、緊張するけど、恥ずかしいけど。
「俺、ミライに告白する」
「いい顔になったじゃない。それでいいのよ」
そう言った後、マーズはひょいっと立ち上がって、俺に背を向けたままかかとを上げ、両手を空に突き上げて背伸びをした。
それは座っていたせいで凝り固まった体を伸ばしたわけではなく、なにかをごまかしているようにも見えた。
「ちゃんと別れたから後悔はないけど、こうしたまだ気持ちを伝え合えるあなたたちが、少し羨ましい」
「話を聞いてくれて、ありがとうございました」
少しだけ寂しげな背中に向けて頭を下げると、マーズは、「そういうところに惚れたのかもね」と呟いた後で、やっぱり後ろを向いたまま。
「さて、私はまた新しい可能性を探しにいきますか」
去っていくマーズの背中は小さくなっているはずなのに、俺にはずっと彼女の背中が大きく見えていた。
追いつきたくても追いつけない、格好いい大人の背中だった。
「……ってか、よく考えるとこれってさ」
俺は今一度、新に出現したわざとその習得条件を確認する。
【??????】
習得条件 あなたの大切と向き合い、本心を形にしたとき。
なんか、あのくそ女神から『きっかけ作ったからさっさと告白しろよ(笑)。このいくじなしめがっ』ってからかわれているだけなんじゃないかって気がしてきた。
そう思えるくらいには、心が晴れ渡っていた。
「本当にありがとうございました」
もう一度、感謝の言葉をつぶやきながら立ち上がって、「そういうところに惚れる人、きっと出てくるから」とマーズに向けて声を飛ばす。
すると、格好いい大人の背中は急に立ち止まって、前を通り過ぎた女性の背中を一目散に追いかけて。
「そこの通りすがりの美しいお嬢さん、ぜひこの鞭で私を快感に導いてほしいのっ!」
そういうところに惚れる人、出てくるよね?
***
家に帰ると、すでにミライとマダムさんがオムツおじさんを見つけたあとだった。
なんでも、オムツおじさんはグレートバリアテストカルウルフという、虹色に輝く牙を持つ狼のような魔物を討伐しにいっていたらしい。
そして、その魔物を倒してゲットした虹色の牙を素材に指輪を作って、マダムさんの誕生日プレゼントとして持ち帰ってきたのだ。
それを知ったマダムはたいそう喜び、オムツおじさんを抱きしめ、
「帰ったらいっぱいいっぱいかわいがってあげるからね」
と言っていた。
かわいがる、の真意については言及しなかったが、マダムさんはオムツおじさん探しに協力してくれた見返りとして、かなりの額のお金(これを作る極上との計画に使)とユーバニア地方にある超巨大な遊園地、フェニックスハイランドの一日貸し切りをしてくれるという。
俺は決意した。
フェニックスハイランドでミライとデートした後に、観覧車の頂上で夜景を見ながら告白しようと。
それが、ミライを喜ばせるために俺が考えられる最大限のサプライズだ。
シャレオツじゃない俺が考え付く、最大限のシャレオツ告白だ。
俺がなにもに言えずにいると、マーズはゆっくりと頬を緩めた。
「本当に、そんなのどうでもいいのよ。新技が出ちゃったものはしょうがないじゃない。だったらそれをいい機会だって思えばいいのよ」
「いい、機会」
「出来ちゃった結婚ってそういうものでしょ。あれも出ちゃったもんはしょうがないって話で」
「その発言は多方面から怒られるんでやめてください」
「そうだったわね。出来ちゃった結婚じゃなくて、確信犯で出しちゃった結婚ってちゃんと言わないと」
「それだともっとダメになってるから!」
「じゃあ思ったより耐えられなかった結婚?」
「もうやめろ! ってか今は授かり婚って言わないと怒られるしそもそも結婚の話はしてないから!」
「童貞の悪い癖よ。告白とかつき合うとかに無駄な理想や羨望や幻想を抱いている。みんなけっこう打算的よ。吊り橋効果を利用してみたり、みんなで作り上げた文化祭が大成功に終わった後の感動的なテンションを利用してみたり、失恋の隙をついてみたり、恋を成就させるためなら利用できるものはなんでも利用するの」
マーズが俺の肩に手を乗せる。
「誰も彼も告白するための理由を必死で探しているの。なのに童貞は、誠道くんは、自分から告白しないでいい理由を必死で探している。結局は怖がっているだけ。そんなんじゃいつまでたっても告白なんかできないわ」
「でも、ミライがキスしてきたんだから、その……告白も」
「ミライさんのことが好きなんでしょ?」
俺の弱気に、マーズの言葉が覆いかぶさってくる。
ミライのことが好きなんでしょ?
腹の底から震えが湧き上がってきて、心臓が熱を帯び、脳が勝手にミライの笑顔を思い出す。
「そりゃあ……はい」
わずかに顎を引くと、マーズが俺の頭をわしゃわしゃしてきた。
「だったら、なんでもいいから早く告白しなさい。女の子は誰だって好きな人から告白されたい生き物なの。ミライさんはあなたからの告白を心待ちにしているの」
わしゃわしゃしていた手を止めたマーズは、俺の額にデコピンしてきた。
いきなりなに、と思ってマーズを見上げると、彼女は穏やかに笑っていた。
「もちろん不安な気持ちはわかるし、勇気だって出さないといけないけど、このまま告白しなかったら絶対に後悔する。だって、大切な人がいつまでもそばにいてくれるとは限らないんだから」
太陽の暖かな日差しに照らされた彼女の顔は、とても美しい。
「いきなり恋人を失ってリッチーになった。そんな後悔の化け物だった私から言われたら、説得力が違うでしょ?」
幼気な少女のような笑みを浮かべるマーズを見て、俺の心の中でなにかが溶けていく。
いや、覚悟ができたというべきなのだろうか。
世界がさっきよりも明るくなったような気がする。
「たしかに、マーズの言う通りすぎて、うん、そうだよな」
俺はミライのことが好き。
告白……したい。
怖いけど、気持ちを伝えるのは怖いけど、緊張するけど、恥ずかしいけど。
「俺、ミライに告白する」
「いい顔になったじゃない。それでいいのよ」
そう言った後、マーズはひょいっと立ち上がって、俺に背を向けたままかかとを上げ、両手を空に突き上げて背伸びをした。
それは座っていたせいで凝り固まった体を伸ばしたわけではなく、なにかをごまかしているようにも見えた。
「ちゃんと別れたから後悔はないけど、こうしたまだ気持ちを伝え合えるあなたたちが、少し羨ましい」
「話を聞いてくれて、ありがとうございました」
少しだけ寂しげな背中に向けて頭を下げると、マーズは、「そういうところに惚れたのかもね」と呟いた後で、やっぱり後ろを向いたまま。
「さて、私はまた新しい可能性を探しにいきますか」
去っていくマーズの背中は小さくなっているはずなのに、俺にはずっと彼女の背中が大きく見えていた。
追いつきたくても追いつけない、格好いい大人の背中だった。
「……ってか、よく考えるとこれってさ」
俺は今一度、新に出現したわざとその習得条件を確認する。
【??????】
習得条件 あなたの大切と向き合い、本心を形にしたとき。
なんか、あのくそ女神から『きっかけ作ったからさっさと告白しろよ(笑)。このいくじなしめがっ』ってからかわれているだけなんじゃないかって気がしてきた。
そう思えるくらいには、心が晴れ渡っていた。
「本当にありがとうございました」
もう一度、感謝の言葉をつぶやきながら立ち上がって、「そういうところに惚れる人、きっと出てくるから」とマーズに向けて声を飛ばす。
すると、格好いい大人の背中は急に立ち止まって、前を通り過ぎた女性の背中を一目散に追いかけて。
「そこの通りすがりの美しいお嬢さん、ぜひこの鞭で私を快感に導いてほしいのっ!」
そういうところに惚れる人、出てくるよね?
***
家に帰ると、すでにミライとマダムさんがオムツおじさんを見つけたあとだった。
なんでも、オムツおじさんはグレートバリアテストカルウルフという、虹色に輝く牙を持つ狼のような魔物を討伐しにいっていたらしい。
そして、その魔物を倒してゲットした虹色の牙を素材に指輪を作って、マダムさんの誕生日プレゼントとして持ち帰ってきたのだ。
それを知ったマダムはたいそう喜び、オムツおじさんを抱きしめ、
「帰ったらいっぱいいっぱいかわいがってあげるからね」
と言っていた。
かわいがる、の真意については言及しなかったが、マダムさんはオムツおじさん探しに協力してくれた見返りとして、かなりの額のお金(これを作る極上との計画に使)とユーバニア地方にある超巨大な遊園地、フェニックスハイランドの一日貸し切りをしてくれるという。
俺は決意した。
フェニックスハイランドでミライとデートした後に、観覧車の頂上で夜景を見ながら告白しようと。
それが、ミライを喜ばせるために俺が考えられる最大限のサプライズだ。
シャレオツじゃない俺が考え付く、最大限のシャレオツ告白だ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる