うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ

文字の大きさ
334 / 360
最終章 2 フェニックスハイランドはきっと貸し切り

今日は記念日

しおりを挟む
「なぁ、ミライ。ちょっといいか?」

 オムツおじさん失踪事件も無事に解決し。

 俺はリビングのソファで背伸びをした後、マダムさんが来て中断していた昼食づくり(もう夕食の時間になってしまった)を再開させたミライに声をかけた。

「はい。なんでしょうか……って」

 ぐつぐつ音を立てている鍋の前にいたミライは片手間で返事をしていたが、突然火を止めてがばっと勢いよく振り返った。

「こういう時、いつもは私からなにか提案することになってるはずなのに……まさか今回は誠道さんが借金を増やしてきた?」

「確かに思い返せばそうかもしれないけどそうじゃねぇわ。ってか、ついさっきマダムさんから報酬を貰ったんだから借金は減るはずだろうが」

 しかもかなり額を。

 さすが、オムツおじさんを二億リスズで落札したマダムなだけある。

 俺には、オムツおじさんにそこまでの価値を見出せないけど、ま、自分にとってのガラクタが他人にとっての宝物ってケースはよくあることだしね。

「……え? 借金が、減る?」

 俺が謎の考え事をしていると、なぜかミライがきょとんと首を傾げた。

「いきなり意味のわからないこと言わないでくださいよ。追い詰められた政治家じゃないんですから」

「ミライはあの金をなにに使うつもりだ!」

 たしかに、窮地に陥った政治家は、「命とは生命です」みたいな感じで変なこと言いがちだけどさ。

「普通に借金を返せよ。ギャンブルで一攫千金とか考えてるならそれは」

「ギャンブルなんて、私はそんな無駄なことしませんよ」

 ため息をついたミライは、昼寝をする赤ちゃんに向けるような、慈しみたっぷりの笑顔を浮かべながらつづけた。

「あのお金は、私たちのためにきちんと使いますから」

「つまり借金を返済するってことだな。あーよかったよかった」

「だから、そんな無駄なことはしませんって。しかもただ返済するだけなんて、ギャンブルよりも無駄じゃないですか」

「そんなわけあるか! 本当に俺たちのためを思ってるなら、ちゃんと借金返せよ! 使うって言葉が選ばれた時点でなんか嫌な予感しかしてなかったけどさ!」

 さっきから意味のわからないことを言っているのは、追い詰められた政治家じゃなくてミライの方でしたっ!

「誠道さん、そこまで心配しなくても大丈夫です。ちゃんと私たちのために使用しますから」

「類義語にすればいいってわけじゃねぇぞ! そもそも私たちのためって言葉で曖昧にせず、きちんと借金を返すって宣言してくれないかな?」

「曖昧……ですか。私たち……曖昧な、曖昧…………」

 なぜか急に、含みのある言い方をしたミライは、ちょっとだけ不機嫌そうにプイっとそっぽを向いた。

「そもそも、オムツおじさんを見つけたのはこの私です。なので、マダムさんからの報酬をどう使うかの権限を持っているのはこの私です」

 意地を張る子供のような態度を見せたミライはそそくさと調理を再開し、じゃげぇもという名のジャガイモによく似た芋を切り始めた。

 くそぉ。

 こういうやり取りがしたかったわけじゃないのに。

 まあでも、お金の使い道を決めておくのは大事だからね。

 遺言がなかったばかりに、いや遺言が残されていたって、骨肉の遺産争いを繰り広げて関係がめちゃくちゃになる人たちなんてざらにいるわけだし。

 とかなんとか言ってあれこれ理由をつけようとするのは俺の悪い癖だ。

 ついさっきマーズからも言われただろう。

 ただ勇気がないだけだって。

 好きな子をデートに誘えない男が、いったいどうしたら告白なんてできるというのだろう。

 ってかじゃげぇもって、この世界には孫〇空でもいるのかよ!

「あの、さ、ミライ」

「……」

 ああそうですか無視ですか。

 でも肩がぴくってなったから、聞こえていないわけではないのだろう。

 俺のうるさすぎる心臓の音は、聞こえていないといいんだけどなぁ。

 さぁ、全世界の引きこもりのみんな、おらに勇気を分けてくれぇ!!!

「その、マダムさんからの報酬で、フェニックスハイランドを一日貸切る権利をもらっただろ?」

「……」

 ミライがじゃげぇもを切る音が、ちょっとだけ不規則になる。

「それで、そのぉ、もしよかったら二人で、その、でででで、でででで、デートっていうか、遊びにいかないかなぁっていう誘いっていうか、まあその、権利は使わないともったいないっていうか、そういうやつで……」

「ふふっ」

 可愛らしい笑い声が、ミライの方から聞こえてくる。

「何回言い直せば気がすむんですか。でででで、でででで、って、なにかが出てくるときの効果音かと思いましたよ」

 包丁を置いたミライが振り返る。

 その眩い笑顔に網膜を焼かれそうになっているのに、俺はミライの笑顔から目を逸らすことができなかった。

「でもすごく嬉しいです。私も、ぜひ誠道さんと一緒に遊びに行き……あっ」

 そこで言葉を止めたミライは、ちょっとだけ頬を赤らめて。

「デートに行きたいです。よろしくお願いしますね」

 わざわざそう言い直してきた。

「お、おう」

 なんか急に超絶怒涛系な勢いで恥ずかしくなって、俺はミライに背を向けて目を閉じた。

 胸に手を当て、皮膚を突き破ろうとせんばかりの勢いで膨れ上がる心臓を、なんとか抑え込む。

 さっきのミライの眩い笑顔が、頭から離れてくれない。

「よしっ、今日は誠道さんがデートに誘ってくれた記念で、いつもより豪華にしましょう。ゴブリンの睾丸をたくさん使いましょう!」

「いや、それは普通にやめてくれ」

「なんでですか? 料理しないくせに料理に文句言うなんて、一番やっちゃいけないことですよ」

「まともな食材を使うようになってからそのセリフは聞きたいなぁ」

「誠道さんがまともにデートに誘える日はくるんでしょうかねぇ、ふふふ」

「うるせぇ。あー、色々あって昼食べられなかったからお腹空いた。この際ゴブリンの睾丸でもいいよ、なんでも」

「素直じゃないんですから。料理上手な私のおかげでゴブリンの睾丸が大好きになったって言えばいいのに」

 ミライがいま言ったことが本当かどうかは、まあ、俺からはあえて言及しないでおくとして。

 ついにミライをデートに誘った。

 もう後戻りはできないぞ。

 フェニックスハイランドで、俺はミライに告白する。

 とりあえず、バラは百本用意すべき?

 白のタキシードを着て、ロールスロイス? リムジン? で迎えに行くべき?

 ああもうどうしたらいいのか急にわかんなくなってきた!

 え? ってか世の中のほとんどの人は、告白する時こんなに悩んでんの緊張してんの?

 もしかして、俺が恨み妬み嫉みを募らせるだけだった世のカップルたちって、本当はめちゃくちゃにすごい勇気を持ってるってことなの?

「誠道さんが睾丸をついに好きになってくれたなんて。つまり、今日という日は睾丸記念日ですね」

「今すぐ全世界のサラダに謝れー!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...