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最終章 2 フェニックスハイランドはきっと貸し切り
足し算も引き算も
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「で、結局どうするんですか? タピオカミルクティーは頼むんですか?」
「ああ。イツモフさんたちのせいで余計に疲れたし、喉も渇いたからな」
糖分と水分を同時に吸収できるタピオカミルクティーは、この状況に一番適した飲み物だろう。
「わかりました。タピオカは何粒入れますか?」
「…………なしで頼む」
だって一粒、三百円なんでしょ?
じゃあなくていいよ。
「誠道さん、それだとただのミルクティーです。結局流行に乗れない引きこもりのままです」
「そうだけど、ぼったくられるくらいならただの引きこもりでいいよ」
「誠道お兄ちゃん、大丈夫だよ。タピオカミルクティーの中にはいくらタピオカを入れても、お値段は据え置きだから」
「え? そうなの?」
「うん。僕たちはそこまであこぎな商売はやってないからね」
「ごめん、ジツハフくんって、本当に子供なんだよね?」
「うん! 僕はまだ何色にも染まっていない、純真無垢な子供だよ」
笑顔で言われると、なにも言えなくなる。
でも純真無垢な子供が『あこぎな商売』なんて言葉を知っているだろうか。
「じゃあタピオカをふた……待て! 据え置きって、そもそもタピオカミルクティー自体の値段が高かったら意味ないじゃん!」
あぶねー、また騙されるところだった。
「だから大丈夫だって。はぁ、誠道お兄ちゃんは人を疑うことしか知らないかわいそうな人なんだね。信じる強さを持とうよ」
「誰のせいでこうなってると思ってるんだ」
「僕たちはあこぎな商売はしないって言ってるでしょ。タピオカミルクティーは400リスズだよ。だから安心して」
「タピオカ一粒300リスズで売ってる店の値段設定じゃねぇな。バグりすぎだろ」
「そりゃそうだよ。だってタピオカが一粒300リスズなのは、単にぼったくるためなんだから」
「おいこの子供今確実にぼったくるって言ったぞ」
「誠道くん。ジツハフをいじめるとどうなるか」
「いじめてないいじめてない」
鬼モードになりかけたイツモフさんをなんとかなだめる。
そして、ようやく念願のタピオカミルクティーをきちんと注文できた。
「じゃあ、タピオカミルクティーを二つ、お願いします」
財布から800リスズを取り出して、カウンターに置く。
「いや、足りませんよ」
え? なんか普通にイツモフさんから拒絶されたんですけど。
「は? ……あ、消費税ってことね」
この世界にそんなのがあったかどうかはもういいや。
「しょうひぜい? なにを言ってるんですか? タピオカミルクティーは一つ400リスズなので、二つで二億リスズです」
「とりあえずイツモフさんは足し算から学び直してこい!」
ぼったくりにもほどがあんだろ!
どうせ二つセットの値段は言ってないよ、とかなんとか言うつもりだろ!
「誠道くん。落ち着いてください」
「これが落ち着いてられるかぁ」
「最後まで説明を聞いてください。確かに、二つで二億リスズだとは言いましたが、現在、お値段が非常に安くなるキャンペーンの最中なんです」
「安くなるキャンペーン?」
イツモフさんが一生使わないはずの言葉が出てきて、普通に驚いた。
「はい。こちらのタピオカミルクティー。二億リスズのところを、カップルだという証明ができれば、なんと! 100リスズまで値引きさせていただきます」
「え?」
「ちなみに、一つのままだと400リスズです」
なに、それ?
どういうこと?
イツモフさんってバカなの?
「これは子供の僕でもわかるよ。どっちが得なのかね」
ジツハフくんが謎の後押しをしてきたけど、いや、そんなこと俺でもわかってるよ。
でも、カップルの証明ってどうするの?
「さぁ、カップルの証明。つまりここでキスをしてください! 男である誠道さんの方から!」
「……は?」
イツモフさん、あなた、なにをおっしゃっているんですか?
「いや、だから、なにを言って」
キス、俺からって、そそそ、そんなのできるわけ、だって、イツモフさんたちに見られながら?
「お姉ちゃん。間違ってるよ。普通の人はキスだけど、誠道お兄ちゃんたちのカップルの証明はお散歩プレイだよ」
「違うわ!」
「じゃあ、誠道お兄ちゃんはキスできるんだね?」
「そ、それは……」
ジツハフくんの純粋な瞳が、俺の動揺を加速させる。
顔が熱くてどうにかなりそうだ。
ちらっと隣にいるミライを見ると、ミライも顔を真っ赤にしてもじもじしていた。
「さぁ、誠道くん、早くキッスを。あと五秒以内に」
からかうような声音で急かしてくるイツモフさん。
「いや、えっと、五秒って」
「5、4」
「いや、だからキスって、それはだから」
「誠道お兄ちゃん。カップルなんだったらできるよね?」
ジツハフくんがさらに煽ってくる。
イツモフさんのカウントダウンの声は止まらない。
「3、2、1――」
「すみません。イツモフさん」
とその時、今まで黙っていたミライが、すっと俺の前に出た。
「もう急かさなくても大丈夫です。そもそも私たちはまだ恋人同士ではないので、割引キャンペーンを受けることができないのです」
ミライがきっぱりと言い放つと、イツモフさんは目を丸くした。
「え? でも」
「これ以上誠道さんを困らせるのもあれですし、それにキスをしたからと言って恋人同士とは限りません。いろいろと提案してくださったのに、ご期待に沿えず申しわけございません」
「そ、そうだよ」
俺もこの流れに乗っかることにする。
「それにほら、ジツハフっていう子供の前でそんなことするのもどうかと思っていうか」
「「……はぁ」」
俺の弁明を聞いたイツモフさんとジツハフくんが顔を見合わせ、同時にため息をつく。
「誠道くん、あなたは本当に」
「誠道お兄ちゃん、早く大人になりなよ。こんなこと子供の僕に言わせないでよ」
「なんで俺がこんなに責められてんの?」
意味がわからない。
ってかなんで人前でキスしないといけなかったんだよ。
そういうのは、別に見せつけるようなものではないだろ。
こっちにも予定があるんだよ。
急に言われて、はいそうですかって、キスとか告白とかできるかぁ!
「ああ。イツモフさんたちのせいで余計に疲れたし、喉も渇いたからな」
糖分と水分を同時に吸収できるタピオカミルクティーは、この状況に一番適した飲み物だろう。
「わかりました。タピオカは何粒入れますか?」
「…………なしで頼む」
だって一粒、三百円なんでしょ?
じゃあなくていいよ。
「誠道さん、それだとただのミルクティーです。結局流行に乗れない引きこもりのままです」
「そうだけど、ぼったくられるくらいならただの引きこもりでいいよ」
「誠道お兄ちゃん、大丈夫だよ。タピオカミルクティーの中にはいくらタピオカを入れても、お値段は据え置きだから」
「え? そうなの?」
「うん。僕たちはそこまであこぎな商売はやってないからね」
「ごめん、ジツハフくんって、本当に子供なんだよね?」
「うん! 僕はまだ何色にも染まっていない、純真無垢な子供だよ」
笑顔で言われると、なにも言えなくなる。
でも純真無垢な子供が『あこぎな商売』なんて言葉を知っているだろうか。
「じゃあタピオカをふた……待て! 据え置きって、そもそもタピオカミルクティー自体の値段が高かったら意味ないじゃん!」
あぶねー、また騙されるところだった。
「だから大丈夫だって。はぁ、誠道お兄ちゃんは人を疑うことしか知らないかわいそうな人なんだね。信じる強さを持とうよ」
「誰のせいでこうなってると思ってるんだ」
「僕たちはあこぎな商売はしないって言ってるでしょ。タピオカミルクティーは400リスズだよ。だから安心して」
「タピオカ一粒300リスズで売ってる店の値段設定じゃねぇな。バグりすぎだろ」
「そりゃそうだよ。だってタピオカが一粒300リスズなのは、単にぼったくるためなんだから」
「おいこの子供今確実にぼったくるって言ったぞ」
「誠道くん。ジツハフをいじめるとどうなるか」
「いじめてないいじめてない」
鬼モードになりかけたイツモフさんをなんとかなだめる。
そして、ようやく念願のタピオカミルクティーをきちんと注文できた。
「じゃあ、タピオカミルクティーを二つ、お願いします」
財布から800リスズを取り出して、カウンターに置く。
「いや、足りませんよ」
え? なんか普通にイツモフさんから拒絶されたんですけど。
「は? ……あ、消費税ってことね」
この世界にそんなのがあったかどうかはもういいや。
「しょうひぜい? なにを言ってるんですか? タピオカミルクティーは一つ400リスズなので、二つで二億リスズです」
「とりあえずイツモフさんは足し算から学び直してこい!」
ぼったくりにもほどがあんだろ!
どうせ二つセットの値段は言ってないよ、とかなんとか言うつもりだろ!
「誠道くん。落ち着いてください」
「これが落ち着いてられるかぁ」
「最後まで説明を聞いてください。確かに、二つで二億リスズだとは言いましたが、現在、お値段が非常に安くなるキャンペーンの最中なんです」
「安くなるキャンペーン?」
イツモフさんが一生使わないはずの言葉が出てきて、普通に驚いた。
「はい。こちらのタピオカミルクティー。二億リスズのところを、カップルだという証明ができれば、なんと! 100リスズまで値引きさせていただきます」
「え?」
「ちなみに、一つのままだと400リスズです」
なに、それ?
どういうこと?
イツモフさんってバカなの?
「これは子供の僕でもわかるよ。どっちが得なのかね」
ジツハフくんが謎の後押しをしてきたけど、いや、そんなこと俺でもわかってるよ。
でも、カップルの証明ってどうするの?
「さぁ、カップルの証明。つまりここでキスをしてください! 男である誠道さんの方から!」
「……は?」
イツモフさん、あなた、なにをおっしゃっているんですか?
「いや、だから、なにを言って」
キス、俺からって、そそそ、そんなのできるわけ、だって、イツモフさんたちに見られながら?
「お姉ちゃん。間違ってるよ。普通の人はキスだけど、誠道お兄ちゃんたちのカップルの証明はお散歩プレイだよ」
「違うわ!」
「じゃあ、誠道お兄ちゃんはキスできるんだね?」
「そ、それは……」
ジツハフくんの純粋な瞳が、俺の動揺を加速させる。
顔が熱くてどうにかなりそうだ。
ちらっと隣にいるミライを見ると、ミライも顔を真っ赤にしてもじもじしていた。
「さぁ、誠道くん、早くキッスを。あと五秒以内に」
からかうような声音で急かしてくるイツモフさん。
「いや、えっと、五秒って」
「5、4」
「いや、だからキスって、それはだから」
「誠道お兄ちゃん。カップルなんだったらできるよね?」
ジツハフくんがさらに煽ってくる。
イツモフさんのカウントダウンの声は止まらない。
「3、2、1――」
「すみません。イツモフさん」
とその時、今まで黙っていたミライが、すっと俺の前に出た。
「もう急かさなくても大丈夫です。そもそも私たちはまだ恋人同士ではないので、割引キャンペーンを受けることができないのです」
ミライがきっぱりと言い放つと、イツモフさんは目を丸くした。
「え? でも」
「これ以上誠道さんを困らせるのもあれですし、それにキスをしたからと言って恋人同士とは限りません。いろいろと提案してくださったのに、ご期待に沿えず申しわけございません」
「そ、そうだよ」
俺もこの流れに乗っかることにする。
「それにほら、ジツハフっていう子供の前でそんなことするのもどうかと思っていうか」
「「……はぁ」」
俺の弁明を聞いたイツモフさんとジツハフくんが顔を見合わせ、同時にため息をつく。
「誠道くん、あなたは本当に」
「誠道お兄ちゃん、早く大人になりなよ。こんなこと子供の僕に言わせないでよ」
「なんで俺がこんなに責められてんの?」
意味がわからない。
ってかなんで人前でキスしないといけなかったんだよ。
そういうのは、別に見せつけるようなものではないだろ。
こっちにも予定があるんだよ。
急に言われて、はいそうですかって、キスとか告白とかできるかぁ!
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