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俺と彼女の、せいしをかけた戦い
大切に思うからこそ
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「なに驚いてるの? まさか帆乃がホームレスだと思ってた?」
「そうじゃなくて、だって吉良坂さんの家って豪邸で、名家のお嬢様で……」
そんな家に一般ピープルの俺が行く? どう振る舞えばいいの? ってかご両親になんて挨拶すれば? ごきげんようでいいのか?
「心配しなくていいわ。帆乃はこの学校に通うために親元を離れて暮らしているから」
「そっか。なら安心だな。余計な気を使わなくて……いいわけないだろ! むしろそれも問題だよ! 他に誰もいない女の子の家に男女が二人ってことだろ!」
「宮田下くんは毎日ここで帆乃と二人きりになってるんじゃなかった?」
「そうだけど、そういうことじゃないんだよ!」
学校の教室と女の子の部屋では、なんというか気分とかムードとか匂いとか、いろいろ違うだろ! 心の準備とかも違ってくるし、それに……。
「さっきからウジウジウジウジ、なに? いい加減にして! あんた男でしょ!」
いきなり梨本さんから怒鳴られて、心臓がきゅっと縮み上がった。
「ウダウダ言ってないでとっとと行きなさいよ。帆乃はあなたを待ってるの。女の子を待たせるなんて男として最低よ。ま、帆乃は『私、待つの好きだから……』って言って何時間でも待っちゃう女だけどね」
そう続けた梨本さんがいきなり俺の肩を掴んだ。引きちぎられそうなほど強い力だったので、思わず顔をしかめる。いきなりなにすんだよ! と言おうとしたが、熱くて鋭い感情が詰まった瞳で睨まれており、委縮して声は出せなかった。
「とにかく、あんたは行くしかないの。男を見せなさい。帆乃は私なんかの友達をやってくれるくらいの、素敵な女の子だから」
んじゃ、私の用はこれだけ。
部屋から出ようとする梨本さんを追いかけるように振り返ったが、口は動かないまま。
梨本さんの異様な雰囲気に身体が凍りついていたのだ。
――とにかく、あんたは行くしかないの。男を見せなさい。
明らかに梨本さんはいつもと違っていた。
切羽詰まっているような、冷静さを欠いているような、そんな感じだ。
「あ、それと」
扉に手をかけた梨本さんが振り返らないまま言う。
「もう一度言っとくけど、帆乃を泣かせたら許さないから」
敵意むき出しの辛辣な言葉が胸に突き刺さった。なにも言えないまま、梨本さんが扉を閉めるのをぼけっと見送る。
金縛りがとけたのは、廊下の足音が聞こえなくなってからだった。
「自分を卑下するやつは嫌いなんじゃなかったのかよ」
梨本さんの手が乗っていた肩をさすりながらつぶやく。
まだ痛い。
梨本さんにとって吉良坂さんは、自分の考えを簡単に曲げられるくらい、そうしてでも褒めたいと思うくらいの大切な存在なのだ。
――帆乃は私なんかの友達をやってくれるくらいの、素敵な女の子だから。
親友を大切に思う感情で溢れかえっている素敵な言葉は、けれど不吉で不穏で不気味な雑音として、俺の耳の中で暴れ狂っている。
「そうじゃなくて、だって吉良坂さんの家って豪邸で、名家のお嬢様で……」
そんな家に一般ピープルの俺が行く? どう振る舞えばいいの? ってかご両親になんて挨拶すれば? ごきげんようでいいのか?
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「そっか。なら安心だな。余計な気を使わなくて……いいわけないだろ! むしろそれも問題だよ! 他に誰もいない女の子の家に男女が二人ってことだろ!」
「宮田下くんは毎日ここで帆乃と二人きりになってるんじゃなかった?」
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学校の教室と女の子の部屋では、なんというか気分とかムードとか匂いとか、いろいろ違うだろ! 心の準備とかも違ってくるし、それに……。
「さっきからウジウジウジウジ、なに? いい加減にして! あんた男でしょ!」
いきなり梨本さんから怒鳴られて、心臓がきゅっと縮み上がった。
「ウダウダ言ってないでとっとと行きなさいよ。帆乃はあなたを待ってるの。女の子を待たせるなんて男として最低よ。ま、帆乃は『私、待つの好きだから……』って言って何時間でも待っちゃう女だけどね」
そう続けた梨本さんがいきなり俺の肩を掴んだ。引きちぎられそうなほど強い力だったので、思わず顔をしかめる。いきなりなにすんだよ! と言おうとしたが、熱くて鋭い感情が詰まった瞳で睨まれており、委縮して声は出せなかった。
「とにかく、あんたは行くしかないの。男を見せなさい。帆乃は私なんかの友達をやってくれるくらいの、素敵な女の子だから」
んじゃ、私の用はこれだけ。
部屋から出ようとする梨本さんを追いかけるように振り返ったが、口は動かないまま。
梨本さんの異様な雰囲気に身体が凍りついていたのだ。
――とにかく、あんたは行くしかないの。男を見せなさい。
明らかに梨本さんはいつもと違っていた。
切羽詰まっているような、冷静さを欠いているような、そんな感じだ。
「あ、それと」
扉に手をかけた梨本さんが振り返らないまま言う。
「もう一度言っとくけど、帆乃を泣かせたら許さないから」
敵意むき出しの辛辣な言葉が胸に突き刺さった。なにも言えないまま、梨本さんが扉を閉めるのをぼけっと見送る。
金縛りがとけたのは、廊下の足音が聞こえなくなってからだった。
「自分を卑下するやつは嫌いなんじゃなかったのかよ」
梨本さんの手が乗っていた肩をさすりながらつぶやく。
まだ痛い。
梨本さんにとって吉良坂さんは、自分の考えを簡単に曲げられるくらい、そうしてでも褒めたいと思うくらいの大切な存在なのだ。
――帆乃は私なんかの友達をやってくれるくらいの、素敵な女の子だから。
親友を大切に思う感情で溢れかえっている素敵な言葉は、けれど不吉で不穏で不気味な雑音として、俺の耳の中で暴れ狂っている。
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