50 / 68
俺と彼女の、せいしをかけた戦い
結末
しおりを挟む
「あ、え……これは」
「どうして、泣いてるんですか?」
吉良坂さんに指摘された途端、視界が一気に滲んだ。
頬がむず痒い。
次から次に涙が吉良坂さんのおなかの上へ落ちていく。
「違う、これは、違って」
そう呟きながら涙を拭うが、ちっとも収まる気配がない。
こんなことが前にもあった。
でもあのときと違うのは、俺がいま泣いている理由をはっきりと自覚しているということだ。
ここまでやったのに、ここまでしたのに、ここまでしてもらったのに、俺が背負っている残酷な現実に抗えなかった。
むしろ一度乗り越えようと壁をよじ登り始めてしまったばかり、その壁の高さを改めて思い知らされてしまった。
「も、もしかして、私の裸に、幻滅した?」
そんなわけない、と伝えたいのに、涙でうまくしゃべれない。
違う、違うんだ! 俺はどうしてこんななんだよ!
苛立ちと失望が身体の中を渦巻いている。
やっぱり駄目だった。
梨本さんから男になれって言われたくせに、草飼さんに吉良坂さんの家で二人きりにしてもらったくせに、スッポンや牡蠣を食べたくせに、イランイランの香りがしているくせに、吉良坂さんがここまで許してくれたのに、受け入れてくれたのに!
俺の流した涙が、彼女の綺麗で艶やかな肌の上を滑り落ちていく。
「げ、幻滅したなら、ごめんなさい。その分いろいろ頑張るから、なんでもしていいし、するから。私はあなたとエッチがしたいの。あなたの精子が、子供がほしいの」
そんなこと、涙目で俺に言わないでくれよ。
「ねぇ、私はどうしたらいい? あなたの言うことなんでも聞く。どんなことだってしてあげる。だから一緒に気持ちよくなろうよ。エッチって、すごく気持ちいんだって。幸せなんだって」
「だめ、なんだ」
ようやくその言葉を絞り出せた。
「だめ、って、私じゃ、私とじゃどうしてもエッチできないってこと?」
「そうじゃない! そうじゃないんだ!」
「じゃあなんで!」
「しないんじゃなくて、俺はできないんだ」
ああ、言ってしまった。
「そりゃあ俺だってしたいさ。普通の男子高校生だ。男だ。魅力的な女の子が下着姿でいる。しかも俺が服を脱がした。これから先のことだって受け入れてくれている。なんでもしてくれる。そんな状況で、やっぱり無理だなんて言いたくない!」
「だったらどうして!」
「だからいくら俺がしたいと思ったって、無理なんだよ!」
いますぐ下半身を取っかえたい。どんなに早漏なやつでもいい、どんなに粗末なやつでもいいから、通常の機能を備えたものに取り替えたい。
「だって俺は勃たないし、そもそも精子も作り出せない。そういう身体なんだ」
俺は俺の身体の真実を吉良坂さんに告げた。
「え……なにそれ」
吉良坂さんの顔が失望に歪む。
「じゃあ君の子供を、私は、どうやっても……できないの?」
悔しいけど、俺は深くうなずいた。
「どうして! ねぇどうして!」
吉良坂さんが声を荒らげる。泣き始める。顔を悲しみが支配していく。
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてよ!」
「俺に言われたってどうしようもないんだよ!」
「私は君の子供が欲しいんだよ!」
吉良坂さんの顔はもう涙と絶望でぐちゃぐちゃだ。
「だってそうしないと、私は……おじい様が決めた相手と結婚することになる。子供が出来れば、妊娠すれば、私はその運命に抗える! お母さんがそうやってお父さんと結ばれたように! 私もなりたいの!」
初めて聞くことばかりだった。
おじい様が相手を決める?
それに抗うため?
なんだそれは。
小説のためじゃなかったのか。
でも、そこにどんな理由があろうとも、俺が彼女の願いを叶えてあげられることは絶対にない。
「申しわけないけど、俺にはできない。他をあたってくれ」
「いやだっ!」
「俺たちは初めから相容れなかったんだ」
吉良坂さんは子供が欲しい。
子供のいる暖かな家族に憧れている。
俺はそれを叶えてあげられない。
「そんな、どうして、こんなのって……」
吉良坂さんの身体から力が抜けていくのがわかった。お腹に手を添えて、ゆっくりとさすり始める。
「あなたの子供ができないって、そんな……」
俺はなにも答えない。
だって相容れないから。
どうすることもできない状況が、現実が、将来の夢が、憧れが、俺たちの間に立ちはだかっているのだから。
「どうして、泣いてるんですか?」
吉良坂さんに指摘された途端、視界が一気に滲んだ。
頬がむず痒い。
次から次に涙が吉良坂さんのおなかの上へ落ちていく。
「違う、これは、違って」
そう呟きながら涙を拭うが、ちっとも収まる気配がない。
こんなことが前にもあった。
でもあのときと違うのは、俺がいま泣いている理由をはっきりと自覚しているということだ。
ここまでやったのに、ここまでしたのに、ここまでしてもらったのに、俺が背負っている残酷な現実に抗えなかった。
むしろ一度乗り越えようと壁をよじ登り始めてしまったばかり、その壁の高さを改めて思い知らされてしまった。
「も、もしかして、私の裸に、幻滅した?」
そんなわけない、と伝えたいのに、涙でうまくしゃべれない。
違う、違うんだ! 俺はどうしてこんななんだよ!
苛立ちと失望が身体の中を渦巻いている。
やっぱり駄目だった。
梨本さんから男になれって言われたくせに、草飼さんに吉良坂さんの家で二人きりにしてもらったくせに、スッポンや牡蠣を食べたくせに、イランイランの香りがしているくせに、吉良坂さんがここまで許してくれたのに、受け入れてくれたのに!
俺の流した涙が、彼女の綺麗で艶やかな肌の上を滑り落ちていく。
「げ、幻滅したなら、ごめんなさい。その分いろいろ頑張るから、なんでもしていいし、するから。私はあなたとエッチがしたいの。あなたの精子が、子供がほしいの」
そんなこと、涙目で俺に言わないでくれよ。
「ねぇ、私はどうしたらいい? あなたの言うことなんでも聞く。どんなことだってしてあげる。だから一緒に気持ちよくなろうよ。エッチって、すごく気持ちいんだって。幸せなんだって」
「だめ、なんだ」
ようやくその言葉を絞り出せた。
「だめ、って、私じゃ、私とじゃどうしてもエッチできないってこと?」
「そうじゃない! そうじゃないんだ!」
「じゃあなんで!」
「しないんじゃなくて、俺はできないんだ」
ああ、言ってしまった。
「そりゃあ俺だってしたいさ。普通の男子高校生だ。男だ。魅力的な女の子が下着姿でいる。しかも俺が服を脱がした。これから先のことだって受け入れてくれている。なんでもしてくれる。そんな状況で、やっぱり無理だなんて言いたくない!」
「だったらどうして!」
「だからいくら俺がしたいと思ったって、無理なんだよ!」
いますぐ下半身を取っかえたい。どんなに早漏なやつでもいい、どんなに粗末なやつでもいいから、通常の機能を備えたものに取り替えたい。
「だって俺は勃たないし、そもそも精子も作り出せない。そういう身体なんだ」
俺は俺の身体の真実を吉良坂さんに告げた。
「え……なにそれ」
吉良坂さんの顔が失望に歪む。
「じゃあ君の子供を、私は、どうやっても……できないの?」
悔しいけど、俺は深くうなずいた。
「どうして! ねぇどうして!」
吉良坂さんが声を荒らげる。泣き始める。顔を悲しみが支配していく。
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてよ!」
「俺に言われたってどうしようもないんだよ!」
「私は君の子供が欲しいんだよ!」
吉良坂さんの顔はもう涙と絶望でぐちゃぐちゃだ。
「だってそうしないと、私は……おじい様が決めた相手と結婚することになる。子供が出来れば、妊娠すれば、私はその運命に抗える! お母さんがそうやってお父さんと結ばれたように! 私もなりたいの!」
初めて聞くことばかりだった。
おじい様が相手を決める?
それに抗うため?
なんだそれは。
小説のためじゃなかったのか。
でも、そこにどんな理由があろうとも、俺が彼女の願いを叶えてあげられることは絶対にない。
「申しわけないけど、俺にはできない。他をあたってくれ」
「いやだっ!」
「俺たちは初めから相容れなかったんだ」
吉良坂さんは子供が欲しい。
子供のいる暖かな家族に憧れている。
俺はそれを叶えてあげられない。
「そんな、どうして、こんなのって……」
吉良坂さんの身体から力が抜けていくのがわかった。お腹に手を添えて、ゆっくりとさすり始める。
「あなたの子供ができないって、そんな……」
俺はなにも答えない。
だって相容れないから。
どうすることもできない状況が、現実が、将来の夢が、憧れが、俺たちの間に立ちはだかっているのだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる