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出会い2
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彼に着てもらうTシャツとスウェットを出し、俺の開けてない下着、と思ったけれど彼は俺より背が低いだけじゃなく細身だ。俺のでは大きいかもしれない。そう考えていると元彼用に買った下着が余ってた気がした。元彼は彼ほど細身ではないけれど、俺よりは体格が近い。
クローゼットの中を探すと思った通り俺のよりワンサイズ小さな下着が出てきた。
Tシャツとかは俺のだから大きいけれど、そこは我慢して貰う。でも下着は大丈夫だろう。
「かごに着替えとタオル置いておきますね」
シャワーを浴びてる彼に声をかけ、そういえば夕食は食べたのだろうかと気になった。少なくとも俺はコンビニ弁当を買って来たぐらいだから食べてはいない。
もし彼も食べてないなら何かとってもいい。
そういえば名前をまだ訊いてなかったと思い出す。こちらは社員証を見せたから、俺の名前は知られているが、彼の名前を知らない。名前を知らないと呼ぶときに困る。後で訊いてみよう。
そう思っているとシャワーから出てきたようだ。
「下着のサイズ大丈夫でした?」
「大丈夫です」
「夕食って済ませました?」
「いいえ食べてません」
「じゃあ、何かとりましょう。俺もまだだから。ラーメン、寿司、ピザ、どれがいい?」
「俺はどれでも」
「じゃあピザでもいいですか? 一人だと食べれないので」
「はい」
スマホでピザ屋のアプリを立ち上げメニューを見る。
「何か食べたいものは? 魚介系かガッツリ肉か、シンプルなのか」
「なんでもいいです。それより、俺、今日お金持ってないから……」
「お金ならいいですよ。それでも気になるなら後日でもいいし。近いんだから」
「じゃあ近いうちに持ってきます」
「じゃあそういうことで。で、ピザどれにします? ハーフ&ハーフで肉系とシーフード系とか?」
「はい」
メニューを見ながらアプリで注文を済ませ、後は到着待ちだ。
そこで彼の名前を訊いていなかったことに気づいた。
「そういえば名前聞いてなかったんだけど、名前なんていうんですか? 名前わからないと、君としか呼べなくて。あ、名乗りたくないなら拒否していいんで」
「あ、すいません、名乗ってなくて。道枝律です」
「律くんか。律くんって呼んでもいいですか? 俺のことは好きに呼んでいいんで。あと、敬語やめていいですか? 疲れちゃって」
「はい。律でいいです。じゃあ、直樹さんって呼ばせて下さい。あと、敬語なんかじゃなくていいです」
「ありがとう。じゃあ律くんって呼ばせて貰うね」
暴力を振るわれた律くんを放っておけなくて家に招いたけれど、なんとなく彼とお近づきになりたいな、と思って名前を訊いた。
それは下心があったとかそういうのではなく、純粋にお近づきになりたいと思ったのだ。
「あ、ピザが来る前にもう一度湿布貼っちゃおうね。待っててね、今持って来るから」
先にシャワー浴びさせれば良かったけど、まさか泊めるとはおもわなかったしな。この間湿布を補充したばかりで良かった。
そして先ほどと同じところに湿布を貼っていくけれど、ほんとに痛々しい。律くんとあの暴力を振るっていた彼がどんな関係なのかはわからないけれど、別々に暮らした方がいいんじゃないか、と思ってしまう。
けれど、今日会ったばかりで律くんのことも何も知らないで軽々しく口にできることではない。それに、俺が言わなくても律くんの友人などがとっくになにか言っているに違いない。
もしかしたら出ていきたいけれど出ていけない事情があるのかもしれない。それは出会ったばかりの俺が聞き出せるものでもないし、口を挟むものでもない。
ただ、体にはこれだけの痣があるのに顔には一つも痣がないところを見ると、きっとあえて顔は避けているんだろうな、とわかる。
「なんか2度もすいません。今度湿布代も持ってきます」
「そんなこと気にしなくていいよ。お節介なんだから」
「でも……」
そんなことを気にしてしまう律くんは真面目な良い子なんだろうな、と思う。湿布代なんて大したものじゃないし、たまたま居合わせてしまって見過ごせなかっただけのお節介なのだから、気にしなくてもいいのに。
それでも、なんだか律くんと出会えて良かったな、と思ってしまうのは不謹慎だろうか。でも、あの暴力を振るう彼が渡り廊下に蹴り出してくれなかったら出会うこともなかった。
俺が帰宅するのはいつも大体このくらいの時間だから、今まではもっと早い時間か遅い時間だったのだろう。
というか、俺は家が少し離れているけれど、隣の家の人は物音や声など聞こえないのだろうか。いや、聞こえていたとしたって知らない人相手になにか言うことなんてできないか。
あの彼とは兄弟なのか、それとも……恋人? その二択しかない気がする。もし友人だと言うのなら、暴力を振るう相手とは縁を切ろうとするだろう。でも、それをせずに一緒にいるということは兄弟か恋人かしか想像がつかない。
でも、自分のことを棚に上げて言うのもなんだけど、ゲイなんてそうそういるわけじゃない。こんなご近所さんにゲイカップルがいるとは思えなくて。
それでも、兄弟でなければそうとしか思えなくて。なんとなく律くんがそうならいいなぁ、なんて思ってしまう。
「直樹さん?」
「え? あ、ごめん。ちょっとぼんやりしちゃった」
まさか、君と彼の関係について考えてしまっていたなんて言えるはずがない。
「すいません。お疲れのところ。あの、俺、やっぱりネカフェかなにかに行きます。いえ、その分お金を借りなきゃいけないんですけど……」
「大丈夫だよ。疲れてはいるけど、もう週末だからね。明日なに作ろうかなって考えてただけだから」
「直樹さんって料理できるんですか?」
「一応ね。一人暮らし歴もそれなりにあるから。週終わりは作り置きなくなるからコンビニ弁当に頼っちゃうけど週頭は作り置きもあるんだよ」
「作り置きなんてしてるんですか。すごい! 俺、料理って苦手で作れるものなんて少ししかないです。だから、できる人を尊敬します。直樹さんすごいんですね。彼女が喜ぶでしょうね」
彼女、ね。生まれてこの方、一度も彼女なんて存在がいたことはないよ、とはさすがに言えない。いたのは彼氏だよ、なんて。
律くんのセクシャリティがわからないから、話を濁していく。俺はどちらかというとクローゼット派だ。
昔よりはマイノリティが声を出しやすくなったのかもしれないが、社会生活を営んでいく上で何らかの支障があるかもしれない、という危険を冒してまでオープンになろうとは思えないからだ。
「残念ながら彼女はいないなぁ」
「あ、別れたとかでですか? 直樹さん優しいしイケメンだからモテますよね。きっとすぐできますよ」
「そうかな? ありがとう」
まぁ、別れたのは彼氏で、次にできるのも彼氏だけども。と心の中で付け加えておく。
そんなふうに話をしているうちにピザが届いた。
玄関を開けるときに、律くんに暴力を振るっていた彼がいるかもしれない、と少し緊張して開けたが、帰ってくるなと言っていたからか玄関は閉まっていた。
「さぁ、熱いうちに食べよう。今、お皿持ってくるね」
2人分のお皿とフォークを持ってリビングに戻る。律くんの目は少しキラキラとしているような気がする。お腹が空いていたんじゃないだろうか。
「はい、お皿。さ、食べよう」
彼氏と別れてしまった俺は、今、絶賛独り身なのでピザなんてなかなか食べられないので、ピザを食べるのなんてほんとに久しぶりで、俺の目の方がキラキラしているかもしれない。
とろりと溶けたチーズはカロリーを考えると怖い。もう30歳を超えている身としてはだらしない体型になるのが怖いから普段は気をつけているけれど、たまにのチーズはご褒美とする。大体ピザと言い出したのは俺だ。
食べっぷりを見ていると律くんもお腹を空かせていたようだ。食事もとらずにあんな暴力を振るわれていたのかと思うと可哀想になる。
腹ッペかしが2人だったせいかMサイズのピザはあっという間になくなってしまった。
「ピザなんて久しぶりに食べました」
「ほんと? 俺も久しぶりに食べたよ。ちょっと禁断の味だけど美味しかったよね」
「美味しかったです」
そう言って笑う律くんから俺は目を離すことができなかった。
クローゼットの中を探すと思った通り俺のよりワンサイズ小さな下着が出てきた。
Tシャツとかは俺のだから大きいけれど、そこは我慢して貰う。でも下着は大丈夫だろう。
「かごに着替えとタオル置いておきますね」
シャワーを浴びてる彼に声をかけ、そういえば夕食は食べたのだろうかと気になった。少なくとも俺はコンビニ弁当を買って来たぐらいだから食べてはいない。
もし彼も食べてないなら何かとってもいい。
そういえば名前をまだ訊いてなかったと思い出す。こちらは社員証を見せたから、俺の名前は知られているが、彼の名前を知らない。名前を知らないと呼ぶときに困る。後で訊いてみよう。
そう思っているとシャワーから出てきたようだ。
「下着のサイズ大丈夫でした?」
「大丈夫です」
「夕食って済ませました?」
「いいえ食べてません」
「じゃあ、何かとりましょう。俺もまだだから。ラーメン、寿司、ピザ、どれがいい?」
「俺はどれでも」
「じゃあピザでもいいですか? 一人だと食べれないので」
「はい」
スマホでピザ屋のアプリを立ち上げメニューを見る。
「何か食べたいものは? 魚介系かガッツリ肉か、シンプルなのか」
「なんでもいいです。それより、俺、今日お金持ってないから……」
「お金ならいいですよ。それでも気になるなら後日でもいいし。近いんだから」
「じゃあ近いうちに持ってきます」
「じゃあそういうことで。で、ピザどれにします? ハーフ&ハーフで肉系とシーフード系とか?」
「はい」
メニューを見ながらアプリで注文を済ませ、後は到着待ちだ。
そこで彼の名前を訊いていなかったことに気づいた。
「そういえば名前聞いてなかったんだけど、名前なんていうんですか? 名前わからないと、君としか呼べなくて。あ、名乗りたくないなら拒否していいんで」
「あ、すいません、名乗ってなくて。道枝律です」
「律くんか。律くんって呼んでもいいですか? 俺のことは好きに呼んでいいんで。あと、敬語やめていいですか? 疲れちゃって」
「はい。律でいいです。じゃあ、直樹さんって呼ばせて下さい。あと、敬語なんかじゃなくていいです」
「ありがとう。じゃあ律くんって呼ばせて貰うね」
暴力を振るわれた律くんを放っておけなくて家に招いたけれど、なんとなく彼とお近づきになりたいな、と思って名前を訊いた。
それは下心があったとかそういうのではなく、純粋にお近づきになりたいと思ったのだ。
「あ、ピザが来る前にもう一度湿布貼っちゃおうね。待っててね、今持って来るから」
先にシャワー浴びさせれば良かったけど、まさか泊めるとはおもわなかったしな。この間湿布を補充したばかりで良かった。
そして先ほどと同じところに湿布を貼っていくけれど、ほんとに痛々しい。律くんとあの暴力を振るっていた彼がどんな関係なのかはわからないけれど、別々に暮らした方がいいんじゃないか、と思ってしまう。
けれど、今日会ったばかりで律くんのことも何も知らないで軽々しく口にできることではない。それに、俺が言わなくても律くんの友人などがとっくになにか言っているに違いない。
もしかしたら出ていきたいけれど出ていけない事情があるのかもしれない。それは出会ったばかりの俺が聞き出せるものでもないし、口を挟むものでもない。
ただ、体にはこれだけの痣があるのに顔には一つも痣がないところを見ると、きっとあえて顔は避けているんだろうな、とわかる。
「なんか2度もすいません。今度湿布代も持ってきます」
「そんなこと気にしなくていいよ。お節介なんだから」
「でも……」
そんなことを気にしてしまう律くんは真面目な良い子なんだろうな、と思う。湿布代なんて大したものじゃないし、たまたま居合わせてしまって見過ごせなかっただけのお節介なのだから、気にしなくてもいいのに。
それでも、なんだか律くんと出会えて良かったな、と思ってしまうのは不謹慎だろうか。でも、あの暴力を振るう彼が渡り廊下に蹴り出してくれなかったら出会うこともなかった。
俺が帰宅するのはいつも大体このくらいの時間だから、今まではもっと早い時間か遅い時間だったのだろう。
というか、俺は家が少し離れているけれど、隣の家の人は物音や声など聞こえないのだろうか。いや、聞こえていたとしたって知らない人相手になにか言うことなんてできないか。
あの彼とは兄弟なのか、それとも……恋人? その二択しかない気がする。もし友人だと言うのなら、暴力を振るう相手とは縁を切ろうとするだろう。でも、それをせずに一緒にいるということは兄弟か恋人かしか想像がつかない。
でも、自分のことを棚に上げて言うのもなんだけど、ゲイなんてそうそういるわけじゃない。こんなご近所さんにゲイカップルがいるとは思えなくて。
それでも、兄弟でなければそうとしか思えなくて。なんとなく律くんがそうならいいなぁ、なんて思ってしまう。
「直樹さん?」
「え? あ、ごめん。ちょっとぼんやりしちゃった」
まさか、君と彼の関係について考えてしまっていたなんて言えるはずがない。
「すいません。お疲れのところ。あの、俺、やっぱりネカフェかなにかに行きます。いえ、その分お金を借りなきゃいけないんですけど……」
「大丈夫だよ。疲れてはいるけど、もう週末だからね。明日なに作ろうかなって考えてただけだから」
「直樹さんって料理できるんですか?」
「一応ね。一人暮らし歴もそれなりにあるから。週終わりは作り置きなくなるからコンビニ弁当に頼っちゃうけど週頭は作り置きもあるんだよ」
「作り置きなんてしてるんですか。すごい! 俺、料理って苦手で作れるものなんて少ししかないです。だから、できる人を尊敬します。直樹さんすごいんですね。彼女が喜ぶでしょうね」
彼女、ね。生まれてこの方、一度も彼女なんて存在がいたことはないよ、とはさすがに言えない。いたのは彼氏だよ、なんて。
律くんのセクシャリティがわからないから、話を濁していく。俺はどちらかというとクローゼット派だ。
昔よりはマイノリティが声を出しやすくなったのかもしれないが、社会生活を営んでいく上で何らかの支障があるかもしれない、という危険を冒してまでオープンになろうとは思えないからだ。
「残念ながら彼女はいないなぁ」
「あ、別れたとかでですか? 直樹さん優しいしイケメンだからモテますよね。きっとすぐできますよ」
「そうかな? ありがとう」
まぁ、別れたのは彼氏で、次にできるのも彼氏だけども。と心の中で付け加えておく。
そんなふうに話をしているうちにピザが届いた。
玄関を開けるときに、律くんに暴力を振るっていた彼がいるかもしれない、と少し緊張して開けたが、帰ってくるなと言っていたからか玄関は閉まっていた。
「さぁ、熱いうちに食べよう。今、お皿持ってくるね」
2人分のお皿とフォークを持ってリビングに戻る。律くんの目は少しキラキラとしているような気がする。お腹が空いていたんじゃないだろうか。
「はい、お皿。さ、食べよう」
彼氏と別れてしまった俺は、今、絶賛独り身なのでピザなんてなかなか食べられないので、ピザを食べるのなんてほんとに久しぶりで、俺の目の方がキラキラしているかもしれない。
とろりと溶けたチーズはカロリーを考えると怖い。もう30歳を超えている身としてはだらしない体型になるのが怖いから普段は気をつけているけれど、たまにのチーズはご褒美とする。大体ピザと言い出したのは俺だ。
食べっぷりを見ていると律くんもお腹を空かせていたようだ。食事もとらずにあんな暴力を振るわれていたのかと思うと可哀想になる。
腹ッペかしが2人だったせいかMサイズのピザはあっという間になくなってしまった。
「ピザなんて久しぶりに食べました」
「ほんと? 俺も久しぶりに食べたよ。ちょっと禁断の味だけど美味しかったよね」
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そう言って笑う律くんから俺は目を離すことができなかった。
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