猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼

文字の大きさ
10 / 51

居場所のはじまり2

しおりを挟む
 俺は昨夜なにも食べていないことがあって、食事に手をつけるとまるでルナのようになってしまった。サラダは粉チーズがふりかかっていてとても美味しいし、コンソメスープはいい味がするし、パンは焼きたてなのか外はパリっとしていて、中はふんわりしている。どれもが美味しい。

「もし足りなければパンとスープならおかわりがあるはずだが」

 俺ががっついて食べていたからだろう、レオニスさんにそう言われた。猫ががっついて食べるだけでなく、その飼い主までがっついて食べるってなんなんだよ。恥ずかしい。でも、昨日お昼に大学でランチを食べたっきりなんだ。

「……すいません」
「謝る必要はない。昨夜は食べていないのだし、そうやって美味しそうに食べてくれたら料理人も喜ぶ」
「ほんとに美味しいです」
「そうか。伝えておこう」

 そう言ってレオニスさんは優雅に食事を続ける。俺はすごい勢いでがっついて食べたので、早々に食べ終わった。下を見ると、ルナもミルクまで綺麗に飲み終わり、今は満足気に顔を洗っている。よほど美味しかったんだろうな。でも、人間は魚を食べていないから、きっとルナのためにわざわざ焼いてくれたのだろう。俺の食べたものも美味しかったから、きっとルナが食べた魚も美味しかったんだろうな。俺がそんなことを思ってルナを見ていると、レオニスさんに話しかけられた。

「食事も終わったし、少し話したいことがあるので、部屋で話せないだろうか」
「あ、はい」
「それなら書斎で話そう。ニコラス、書斎に紅茶を持って来てくれ。そして、その後は誰も近づくな」
「かしこまりました」
「じゃあタクヤ、行こう。あぁ、猫は一緒でも構わない」
「すいません」

 レオニスさんが席を立つと俺も慌てて席を立ち、ルナを抱き上げた。あ、後で足を拭かせて貰わなきゃ。
 俺はレオニスさんの後をついていく。2階の奥まったところが書斎になっていた。部屋の真ん中にマホガニーと思われる重厚なデスクと、その上に書類が重なって置かれ、部屋の壁には作り付けの本棚があり、ギッシリと本が置かれている。すごい本の量だな。そして、パソコンがないところを見ると、まだパソコンは普及していないのか、発明されていないのか。貴族のお屋敷にないんだから、恐らくはまだ発明されていないのだろう。
 俺たちが書斎に入ってすぐに執事のニコラスさんが紅茶を持って来てくれた。紅茶を置いたニコラスさんが出て行くと、部屋には俺とレオニスさんの2人だけになった。そして俺はレオニスさんの許可を得て、ルナを離してやった。するとルナは窓辺へと行き、香箱座りをして目を閉じた。食事もしたことだし、恐らく寝るのだろう。

「突然だがタクヤ。君はどうやってここへ来た?」

 2人になるとレオニスさんはおもむろに口を開いた。そうだろう。レオニスさんとしては気になると思う。

「魔法酔いとやらをしていたということは、魔法使いになにか魔法をかけられたのか?」

 魔法使い……。普通にその単語が出てくるということは、この世界には魔法使いがいるということなんだろう。でないと想像もつかないだろうから。

「魔法使いっていうのはいません。だから魔法をかけられたとか、そういうことはありません。ただ、ルナを追いかけて神社に入って、御神木の根に躓いて転んだら、あの遺跡にいたんです。なにか光が光ってたけど」
「神社とは?」

 あ、そうか。神社がわからない感じか。俺は神社の説明をした。

「宗教……。神のいるところならば、なにか理由があってここへ飛ばしたのかもしれないな。そうか……。稀に異世界人が来るというのは本で読んだことがあるのだが、そんなにあることではないから、私も初めてなのでな。それで訊いてみた」
「あの……。俺、どうやって来たのかわからないから、帰る方法もわからなくて……。だから、あの、ここに住み込みで働かせて貰えませんか? 厚かましいことを言っているってわかってるんですけど、どこにも行くところなくて……。すみません」

 ほんとに厚かましいことを言っているなってわかっているので、申し訳ない気持ちしかない。でも、どこにも行くところがない今は、そんなことを言っている場合じゃない。

「ここにいればいい。ああ、仕事などせずともよい」
「でも、それじゃあ申し訳ないです。と言っても俺ができるのなんて料理くらいですけど」
「料理ができるのか。異世界ではどんな料理を食べているんだ?」
「地球と言っても地域や、国によって違うけど、俺が住んでいた国では米が主食で和食と呼ばれるものを食べてました」
「米が主食か。ここでも米は食べるが、その和食とやらは食べてみたいな。今度、ぜひ作ってくれないだろうか」
「それは構いませんけど」
「そうしたら、たまに料理を作ってくれ。だけど、料理人として雇うわけではない」

 そっか。そう簡単に雇っては貰えないか。そこまで聞いて俺は落胆した。ここは王都って言ってたから、他にどこか仕事はあるだろう。後で外へ出て探してみよう。と、俺がそこまで考えていたところでレオニスさんは言葉を続けた。

「タクヤはあくまでも私の客人だ。帰る方法がわかるまで、いつまででもいればいい。君のような存在は、救世主だと言われている。だから、こちらこそ、ここにいて欲しい」

 そう言われて俺はびっくりした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

無能と呼ばれた婚約者は王を完成させる〜替え玉婚約者のはずが、強すぎる王太子に手放してもらえません〜

統子
BL
兄の身代わりとして王太子の婚約者になった伯爵家次男リュシー。 嘘の名を名乗ったはずが、冷静で誠実な王太子リオンは彼を「力の装置」としてではなく、対等な伴侶として扱おうとする。 本物になりたいと願う替え玉と、完成された王太子の静謐な王宮ロマンス。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

隠された令息は、護衛騎士と息をする。

木漏れ日の庭
BL
公爵家に生まれながらも、妾の子として蔑まれ、固有魔法すら使えない令息のユリシス。彼は足が悪く、うまく歩くことが難しい。そんな彼の元に、護衛騎士としてキースという美しい男が訪れる。始めはなんの関わりも持たない二人だが、ユリシスの静かな優しさが、キースの心を溶かしてゆく。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

牙を以て牙を制す

makase
BL
王位継承権すら持てず、孤独に生きてきた王子は、ある日兄の罪を擦り付けられ、異国に貢物として献上されてしまう。ところが受け取りを拒否され、下働きを始めることに。一方、日夜執務に追われていた一人の男はは、夜食を求め食堂へと足を運んでいた――

神様は身バレに気づかない!

みわ
BL
異世界ファンタジーBL 「神様、身バレしてますよ?」 ――暇を持て余した神様、現在お忍び異世界生活中。 貴族の令息として“普通”に暮らしているつもりのようですが、 その振る舞い、力、言動、すべてが神様クオリティ。 ……気づかれていないと思っているのは、本人だけ。 けれど誰も問いただせません。 もし“正体がバレた”と気づかれたら―― 神様は天へ帰ってしまうかもしれないから。 だから今日も皆、知らないふりを続けます。 そんな神様に、突然舞い込む婚約話。 お相手は、聡明で誠実……なのにシオンにだけは甘すぎる第一王子!? 「溺愛王子×お忍び(になってない)神様」 正体バレバレの異世界転生コメディ、ここに開幕!

処理中です...