39 / 51
庶民街の灯り9
しおりを挟む
レオニスさんはそのあと八百屋さんで足を止めた。
「リズ、アルド。店の方はどうだ」
「伯爵様!」
「ああ、硬い挨拶はいらない」
「はい。店の方はうちは大丈夫です。果物はちょっと売れ行きは悪いですけど、野菜は食べないわけにはいかないので、変わらず売れています」
「そうか。それは良かった。しかし果物は残るのか」
「野菜と比べるとどうしても」
そうだよな。果物はどうしても高いし、野菜と比べてどうしてもという食べ物でもない。
「そうか。それではレモンとオレンジをくれ」
「はい? 先ほどお屋敷には野菜をお届けにあがりましたが……」
「ああ、それとは別だ。私が欲しくなった。水はレモン水にすると美味しいし、私はオレンジが好きなのでな」
「はあ……」
八百屋のリズと呼ばれたおばさんとアルドと言われたおじさんは顔を見合わせている。うん、屋敷に持っていったのならそうだと思う。それでも、くれと言われたのに売らないわけにはいかないので、レモンを数個とオレンジを数個紙袋に入れてくれた。
「ありがとう。もし市場で困ったことがあったら私に言ってくれ。話くらいは聞く」
「そんな! 私たち庶民のために戦ってくれていることはわかっています。もう、それだけでも十分です」
「いや。暮らしが楽にならなくてはいけないのだ」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げる2人にレオニスさんは小さく笑っていった。
「これからも新鮮な野菜を頼む」
「もちろんです!」
アルドさんは頭をあげ、そう返事をした。肉屋や魚屋のような売れ行きが冷え込んでいるわけではない八百屋さんではレオニスさんの表情は柔らかい。
「これが、レモンとオレンジの代金だ」
そう言って金貨を出した。
「これでは貰いすぎです!」
「そんなのは気にするな。いつも新鮮な野菜を届けてくれる礼だ」
八百屋さんがそれ以上なにかを言いそうだったが、レオニスさんはそれだけ言って八百屋さんをあとにした。そして、その後も市場中を歩いて回った。そして街頭夫が街頭に灯りをともし始めたのをレオニスさんは見ていた。街中の建物にも灯りがひとつ、またひとつとついていく。薄暗かった街が明るくなっていく。
「この灯りをいつか増やそう」
レオニスさんはそう言ってしばらく街を見ていた。俺もなにも言わずにレオニスさんの隣に立って街を見る。そして、肉と魚を買ったけど、どちらから食べようかと悩んだ。肉は和食以外でも使えるからアベルさんに渡して、俺は鯵を焼くかな。そんなことを考えていると、帰ろうかと横から聞こえてきた。
「今日は視察に付き合って貰って悪かったな」
「いいえ。街への道も覚えたし、店主さんも何人か覚えたので、今度屋敷で足りない食材があったりしたら俺が買いにこれます」
「タクヤ。君は客人であって使用人ではないのだぞ」
「それでも、皆いつも忙しそうだから、暇な俺が動いた方がいいです」
俺の世話をやいてくれるクララさんもニコラスさんもいつも忙しそうにしている。それに、ここまでくれば目で見て買える。そう話してもレオニスさんは納得はしてくれない。それでも街への来かたを覚えて困ることはひとつもない。距離だって、歩いてこれそうな距離だったし。まぁ、ここで馬車には乗らないなんて言ったら大変そうだから言わないけれど。
それにしても、美味しそうな鯵を買えたから明日にでも焼かせて貰おうかな。さすがに今夜の料理はもうアベルさんが準備しているだろうから、明日なら大丈夫だろう。ルナも久しぶりに好物の鯵を食べられるから喜ぶだろう。
帰り道は静かだった。きっとレオニスさんは市場でのことを考えているのだろう。そう思って俺は黙って窓の外を見ていた。するとポツリとレオニスさんが言葉をこぼした。
「前回来たときよりも景気は悪そうだ」
そう言うレオニスさんは辛そうな表情をしている。それに俺はなんと言っていいのかわからなかったし、返事が欲しいというふうではなかったので俺は黙って聞いていた。
「やはり妥協案は飲んではいけないな。妥協案では庶民のくらしは少ししか楽にならない。せめて子供が腹いっぱいは無理だとしても腹を空かせることがないくらいには立て直してやりたい。それをするのは私の義務だ」
他の店の言葉も心にあるだろうけれど、やはりあのパン屋の少年のことが一番ショックだったのだろう。あれには俺もショックだった。
「頑張ってください。俺はなにもできないけど、今日のことは共有できるし、応援して和食を作ることくらいはできますから」
「ありがとう。今国会で通らなくても諦めないよ」
そう言うレオニスさんの目は前をしっかりと見据えていた。この優しい人の手助けをしたい。俺はそう思った。
「リズ、アルド。店の方はどうだ」
「伯爵様!」
「ああ、硬い挨拶はいらない」
「はい。店の方はうちは大丈夫です。果物はちょっと売れ行きは悪いですけど、野菜は食べないわけにはいかないので、変わらず売れています」
「そうか。それは良かった。しかし果物は残るのか」
「野菜と比べるとどうしても」
そうだよな。果物はどうしても高いし、野菜と比べてどうしてもという食べ物でもない。
「そうか。それではレモンとオレンジをくれ」
「はい? 先ほどお屋敷には野菜をお届けにあがりましたが……」
「ああ、それとは別だ。私が欲しくなった。水はレモン水にすると美味しいし、私はオレンジが好きなのでな」
「はあ……」
八百屋のリズと呼ばれたおばさんとアルドと言われたおじさんは顔を見合わせている。うん、屋敷に持っていったのならそうだと思う。それでも、くれと言われたのに売らないわけにはいかないので、レモンを数個とオレンジを数個紙袋に入れてくれた。
「ありがとう。もし市場で困ったことがあったら私に言ってくれ。話くらいは聞く」
「そんな! 私たち庶民のために戦ってくれていることはわかっています。もう、それだけでも十分です」
「いや。暮らしが楽にならなくてはいけないのだ」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げる2人にレオニスさんは小さく笑っていった。
「これからも新鮮な野菜を頼む」
「もちろんです!」
アルドさんは頭をあげ、そう返事をした。肉屋や魚屋のような売れ行きが冷え込んでいるわけではない八百屋さんではレオニスさんの表情は柔らかい。
「これが、レモンとオレンジの代金だ」
そう言って金貨を出した。
「これでは貰いすぎです!」
「そんなのは気にするな。いつも新鮮な野菜を届けてくれる礼だ」
八百屋さんがそれ以上なにかを言いそうだったが、レオニスさんはそれだけ言って八百屋さんをあとにした。そして、その後も市場中を歩いて回った。そして街頭夫が街頭に灯りをともし始めたのをレオニスさんは見ていた。街中の建物にも灯りがひとつ、またひとつとついていく。薄暗かった街が明るくなっていく。
「この灯りをいつか増やそう」
レオニスさんはそう言ってしばらく街を見ていた。俺もなにも言わずにレオニスさんの隣に立って街を見る。そして、肉と魚を買ったけど、どちらから食べようかと悩んだ。肉は和食以外でも使えるからアベルさんに渡して、俺は鯵を焼くかな。そんなことを考えていると、帰ろうかと横から聞こえてきた。
「今日は視察に付き合って貰って悪かったな」
「いいえ。街への道も覚えたし、店主さんも何人か覚えたので、今度屋敷で足りない食材があったりしたら俺が買いにこれます」
「タクヤ。君は客人であって使用人ではないのだぞ」
「それでも、皆いつも忙しそうだから、暇な俺が動いた方がいいです」
俺の世話をやいてくれるクララさんもニコラスさんもいつも忙しそうにしている。それに、ここまでくれば目で見て買える。そう話してもレオニスさんは納得はしてくれない。それでも街への来かたを覚えて困ることはひとつもない。距離だって、歩いてこれそうな距離だったし。まぁ、ここで馬車には乗らないなんて言ったら大変そうだから言わないけれど。
それにしても、美味しそうな鯵を買えたから明日にでも焼かせて貰おうかな。さすがに今夜の料理はもうアベルさんが準備しているだろうから、明日なら大丈夫だろう。ルナも久しぶりに好物の鯵を食べられるから喜ぶだろう。
帰り道は静かだった。きっとレオニスさんは市場でのことを考えているのだろう。そう思って俺は黙って窓の外を見ていた。するとポツリとレオニスさんが言葉をこぼした。
「前回来たときよりも景気は悪そうだ」
そう言うレオニスさんは辛そうな表情をしている。それに俺はなんと言っていいのかわからなかったし、返事が欲しいというふうではなかったので俺は黙って聞いていた。
「やはり妥協案は飲んではいけないな。妥協案では庶民のくらしは少ししか楽にならない。せめて子供が腹いっぱいは無理だとしても腹を空かせることがないくらいには立て直してやりたい。それをするのは私の義務だ」
他の店の言葉も心にあるだろうけれど、やはりあのパン屋の少年のことが一番ショックだったのだろう。あれには俺もショックだった。
「頑張ってください。俺はなにもできないけど、今日のことは共有できるし、応援して和食を作ることくらいはできますから」
「ありがとう。今国会で通らなくても諦めないよ」
そう言うレオニスさんの目は前をしっかりと見据えていた。この優しい人の手助けをしたい。俺はそう思った。
12
あなたにおすすめの小説
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
無能と呼ばれた婚約者は王を完成させる〜替え玉婚約者のはずが、強すぎる王太子に手放してもらえません〜
統子
BL
兄の身代わりとして王太子の婚約者になった伯爵家次男リュシー。
嘘の名を名乗ったはずが、冷静で誠実な王太子リオンは彼を「力の装置」としてではなく、対等な伴侶として扱おうとする。
本物になりたいと願う替え玉と、完成された王太子の静謐な王宮ロマンス。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
隠された令息は、護衛騎士と息をする。
木漏れ日の庭
BL
公爵家に生まれながらも、妾の子として蔑まれ、固有魔法すら使えない令息のユリシス。彼は足が悪く、うまく歩くことが難しい。そんな彼の元に、護衛騎士としてキースという美しい男が訪れる。始めはなんの関わりも持たない二人だが、ユリシスの静かな優しさが、キースの心を溶かしてゆく。
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
事なかれ主義の回廊
由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・
牙を以て牙を制す
makase
BL
王位継承権すら持てず、孤独に生きてきた王子は、ある日兄の罪を擦り付けられ、異国に貢物として献上されてしまう。ところが受け取りを拒否され、下働きを始めることに。一方、日夜執務に追われていた一人の男はは、夜食を求め食堂へと足を運んでいた――
神様は身バレに気づかない!
みわ
BL
異世界ファンタジーBL
「神様、身バレしてますよ?」
――暇を持て余した神様、現在お忍び異世界生活中。
貴族の令息として“普通”に暮らしているつもりのようですが、
その振る舞い、力、言動、すべてが神様クオリティ。
……気づかれていないと思っているのは、本人だけ。
けれど誰も問いただせません。
もし“正体がバレた”と気づかれたら――
神様は天へ帰ってしまうかもしれないから。
だから今日も皆、知らないふりを続けます。
そんな神様に、突然舞い込む婚約話。
お相手は、聡明で誠実……なのにシオンにだけは甘すぎる第一王子!?
「溺愛王子×お忍び(になってない)神様」
正体バレバレの異世界転生コメディ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる